鳶と刈安

松沢ナツオ

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 その日の練習後、普段なら自主練習をするのだが、珍しく鳶と二人で連れ立って寮への廊下を歩いていた。

「練習の後、部屋に遊びに行って良いかな?」
「狭いですよ?」
「友達に寮生の子いるから知ってる。気にならないよ~」
「それなら良いですけど」

 こんなやりとりがあり、当たり前のように隣を歩く鳶に刈安は翻弄されるばかりだ。
 鳶はというと、誰が見ても分かる浮かれっぷりで、同級生が惚気にうんざりするほどだったのだ。
 室内に入ると、刈安らしい質素でシンプルな室を、鳶はほんの少し切ない思いで見回した。

(こんなに我慢をして暮らしてきたのか。いや、本人は我慢している自覚はなさそうだけど……)

「あの、余計なものを置かないので何にもなくて。熱いお茶なら出せます。冷たい方がよかったですか?」
「ううん。熱いのが良いな」
「よかった。椅子は一つしかないので、こっちに座ってください」

 刈安はそう言って、勉強机とセットの椅子を勧めた。寮は家具も作りつけのもので、ベットに持ち込みの布団をセットしただけで暮らせるようになっている。
 本棚には教科書以外に、柔道の本、トレーニングの本、栄養学の本が並ぶ。その一部は図書館のシールが付いている。

「うん、ありがとう。でも、隣に座りたいから僕もベッドに座って良い?」

 緑茶を出してきた刈安にそういうと、ほんの少し頬を染めて頷いてくれた。
 お茶もペットボトルなら簡単だが、節約のために茶葉にしているらしい。恥じらう刈安の表情に、鳶の心臓は少しずつ早くなっていく。
 お茶を飲みながら栄養学や料理の本のついて聞くと、幼い頃から自炊をしているからだという。

(——僕のお嫁さんにぴったりじゃないか)

 飲み終えたお茶を机に置いて、隣に座る刈安の手を握った。するとビクンと体が震えてかわいい、と鳶は愛しさでいっぱいになる。
 それに、刈安は真っ赤になりながらも手を振り払ったりしない。

(嫌がってない、よね?)

「刈安、僕がずっと君を見ていたことは話しただろう?土曜日にうちに来てくれたとき、本当は帰したくなかったんだ」
「でも、外泊届けを出してなかったし……」
「うん、それでも、そう思ったんだ。なぜか分かる?」

 じっと見つめてくる鳶の瞳に射抜かれた刈安は、微動だにできずにその瞳を見つめていた。
 ——なぜか。刈安は答えを聞くのが少し怖かった。でも、あのときの先輩は俺に触れたがっていた……

「わかり、ません」

 少し卑怯な答えだと分かっている。自分で言葉にするのが怖い。鳶の本心を聞きたい。ただ、その一心だった。
 そんな刈安の心を見透かすように、鳶はうっすらと笑った。

「本当は分かってるんじゃない? 僕はあの時言ったよね? 僕の物にするって」
「本気で俺を抱く気なんですね?」
「あれ? 本気だって通じてなかったかな? それなら、分らせてあげなくちゃ」
 
 鳶はそう言って刈安を引き寄せてキスをした。

「んっ! ふっ……と、び、せんぱ……」
「鼻で息をするんだよ? さ、もう一回。いっぱい練習しないとね」
「れ、んむっ、んう……は、はぁ……」

 隙をつきキスをされて驚いたが、あと日と同様に嫌ではなかった。むしろ、もっと……

(どうしよう! 俺、勃っちゃった!)

「んあっ! せっ、先輩! ダメッ!」
「なにがダメ? かわいい。僕のキスで気持ちよくなった? 擦ってあげるね? 自分でもスる事ある?」
「あっ!? あっ、ダメ! ダ、あっ!」

 ズボンの上からすりすりと撫でられ、初めて他人に触れられた刺激に敏感に反応してしまう。

「ここ、パツパツで苦しいよね?」
「ふあっ?!」

 ファスナーを下げられ、勢いよく飛び出してきた雄を鳶は優しく握った。

「刈安のここ、キレイだね。弄って欲しくて濡れてるよ?」
「あっ、あ……そんなところ、触っちゃダメ、です……」

 言葉では拒否をしているものの、先走りを塗り込めながらゆるゆると上下に擦られて、快感にたまらず吐息が漏れる。

(かわいい。僕の刈安。僕の番だ——バースなんか関係ない。僕がずっと求めていた番なんだ。)
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