鳶と刈安

松沢ナツオ

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 午前の授業が終わり、刈安は足早に食堂へと向かった。ソワソワと周囲を見回すと、友人と話しながらこちらへやってくる鳶が見えた。

(話の邪魔をしちゃいけないな)

 待とうと思っていたが、鳶は刈安を見つけて駆け寄ってきた。

「待たせちゃったかな? 授業が少し押してね」
「大丈夫です、俺も今きたところですよ」
「そっか。じゃあ、早速食べよう! お腹すいたなぁ~!」

 鳶はとんかつ定食、刈安はチキン南蛮定食だ。向かい合わせに座ると、正面からキラキラした鳶をみると急にドキドキと鼓動が早くなる。

(本当にキレイなんだよな)

「う~ん、僕もチキン南蛮でも良かったかなぁ? でも、とんかつも好物なんだよね!!」
「一切れ食べますか?」
「えっ? 良いの?」
「はい、一切れ取ってください」

 皿を少し押しやると、鳶は口をぱかんと開けた。

「先輩?」
「ほら、あ~んしてよ! あ~ん!」
「なっ、何いって……!?」
「刈安~。僕、いつまで口開けて待っていれば良いのかなぁ?」
「わ、分かりましたよ!」

 急いで一口大に肉を切り、待ち受ける口に放り込む。

「んんっ、おいひい。」

 鳶が嬉しそうにふわっと微笑んで、刈安は胸がキュンと苦しくなる。

「あ~、美味しい! 恋人に食べさせて貰うと余計に美味しいね」
「こっ! そ、それ、あまり言わない方が……」
「なんで? 僕は——」
「鳶先輩っ!! どうしてそいつといるんですかっ?」

 言いかけた鳶の会話を遮り大声をあげたのは、問題の三原だった。

「君、寮で謹慎じゃないの? どうして学校にいるのかな?」
「そっ、それは! 昼くらい食べにきても良いじゃないですかっ! それよりどうしてこいつと! 先輩にふさわしい人間だけ近くに置いてください!」
「普通、近々期間も部屋で食べるものだと思っていたけどね~。それに、刈安は僕の恋人になったんだ。だから一緒にいて当たり前なんだよ?」
「えっ?! 恋人って……そいつとっ?!」

 大声で叫んだので注目を浴びてしまい、刈安はいたたまれない気持ちだった。だが、鳶の方は飄々として受け流している。

「そうだよ。僕たちは付き合うことになったんだ。君が変な事をしたせいで遠回りしたよ」
「それはっ! そいつが!!」
「ねぇ。勝てないからっていじめは良くないよね? 僕、黙っていてあげるつもりだったけど、謹慎を破ってまで嫌がらせに来るなんて……自分がした事を分かってる? そう思うよね、風紀委員さん?」

三原の肩がビクッと震えた。寮生の三原は自室で謹慎をして、今後刈安への嫌がらせを止めれば、それ以上騒がれないはずだった。

「一年の三原だな? 謹慎の処置を無視して出てきたんだ。それなりの覚悟はあるな?」
「あっ!! すぐに戻ります! だからっ!!」
「話はあっちで聞く。では、失礼します。こっちは任せてください」
「うん、よろしく~」

 鳶はひらひらと手を振って、項垂れて連行される三原をチラッとだけ見て刈安に視線を戻した。

「大丈夫?」
「はい……」
「彼は自業自得だからね? 気にしちゃだめだよ」
「そうですね……」

 どうなるのか気にはかかるが、彼がしたことは許せない。反省してくれればいいな、と立ち去る後ろ姿を見つめていた。
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