鳶と刈安

松沢ナツオ

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前話で学園の名前が修正されていない箇所がありました!
グルドヴィード学園です。




「やぁ、刈安」
 
 笑顔で迎えられたが、刈安は混乱していた。
 
(なんで、一人でいるんだ?!)
 
 いつも仲間に囲まれている鳶しか、刈安は知らなかった。
 
「また自主練してたのか?」
「っす。使わせて貰ってすみません。もう帰ります」
 
 入学して以来、二人で話すことはなかった。組み手や乱どりはしたことがあったが、実戦練習では毎回負けていた。
 
「時間内なら誰でも使えるんだから、僕にそんな風に言うことないよ? ところでさ、今までゆっくり話せなかったけど、大会ではよく対戦したよね。学校が同じになっても階級が同じなら対戦出来るのかなぁ?」
「……えっ? どう言う意味ですか?」
「ん? 僕は、君との対戦をいつも楽しみにしてたんだ。君程僕に喰らい付いてきたβはいなかったからね。うちに来ると聞いて楽しみだった」
 
(β、か)
 
 その言葉を苦い思いで噛み締める。それと同時に、自分を気にかけていたのだと言うことに、心が躍ってしまった。
 
(そこらへんの石ころだと扱いだと思い込んでいた)
 
「……鳶先輩は、練習しなくても強いから、俺なんかどうでも良いと思っていました」
「練習はしてるよ? 家の稽古場で、父と兄にめちゃくちゃしごかれてるよ~!!」
「稽古場?! 家にっ?!」
「うん、そう。家が代々武道を嗜んでいてね。おかげで大変だよ」
 
 そう言って鳶は華やかな笑顔を刈安に向け、その眩しさに刈安は目を逸らした。
 
(キレイな人だ。いつも対戦相手としか見てなかったけど、こんな風に笑うんだ)
 
「刈安はぁ、勉強も柔道も頑張ってるよね。でも、たまには遊んで気分転換をした方がいいよ?」
「規定の順位は保たないと、学費免除されなくなるので」
「ああ、うん。知ってるけどさ。練習が休みの日も出かけた事ないって? 何してるの?」
「練習と勉強です」
 
 生活費は母の仕送りだ。刈安は、それは母が懸命に働いたお金であり遊びに使うなんてとんでもないと思っている。
 
「ああ~、やっぱりね」
 
(何をしに来たんだろう。さっきの奴らはどうしたんだ?鳶先輩がいるなら、絶対に居残って話したがるはずなのに)
 
「なぁ、明日の土曜日、僕と遊びに行こう?」
「はあっ?!」
 
(鳶先輩と?!なんで?それより、この人めちゃくちゃ金持ちだ!私服を見たことあるけど、テレビで見る様な格好してた!!無理無理!!)
 
「いいえ!すみませんけど、俺は勉強します」
「え~っ?良いじゃん。行こうよ! 明日、十時に学園の門の前に迎えに来るからっ!!」
「いえ、無理ですって、あの! 待って下さい!!」
「じゃ、また明日~!」
 
 鳶は笑いながらさっさと去ってしまい。刈安は武道館にポツンと取り残された。
 
(嘘だろ?!なんで?!ってか、これ明日確定?何着て行けば良いんだ?!)
 
 刈安はパニックになりながら猛ダッシュで寮へ戻り、数少ない私服をこねくり回すことになった。
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