鳶と刈安

松沢ナツオ

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 鳶と刈安が恋人になった日。家に泊まってほしいと言われた刈安だが、外泊届けを出していなかった。だから、その日は寮へ車で送って貰い、来週鳶の家に泊まりに行く事になった。素直に受けた刈安だったが、後になって男同士の恋人の付き合い方が分からず、頭を悩ませていた。

(ど、どうしよう! キス!! キスしちゃった!! それに、良いですよなんて返事したけど……いくら番が現れるまでの間とはいえ、冷静に考えたらまずいんじゃないか?)

 刈安は、ずっと鳶を『あいつ』と呼び、ライバル心を剥き出しにしていたのは、自身の中にある昏い欲望を隠す為だった、と気がついた。鳶から受けたあのキスで、その事実から目を背けていただけだったと認めた刈安だった。

(えっと……思わず泊まりに行くって返事をしたけど、ただ泊まるだけ?それとも、またキ、キスしたりするのかな?男同士って、なんとなく後ろを使うのは知ってるけど、どうしたら良いんだ?)

 あの時、鳶の手が尻の狭間に触れた。それは、つまり……

(先輩が俺の尻に……? そんな事は考えてなかった!! 先輩はどう思っているんだろう。パッと見、鳶先輩の方が華奢に見えるけど、実際はとんでもない作り込まれた体をしているもんな……)

 グルドヴィード学園の柔道部に入部して、初めて見た鳶の裸体は凄まじかった。ある日、刈安は練習後の着替えで無防備に胴着を脱いでパンツ一丁になった体を見てしまったのだ。汗をかいて光る鍛え上げられた筋肉はしなやかに隆起し、全身が芸術品のようだった。
 その裸体に下半身がわずかに疼いてしまったのが恥ずかしく、それ以来刈安は自主練習をして同じ時間に着替えないようにした。

(先輩は俺を可愛いっていうけど、どうしたいんだろう?)

 自室で悶々としていた刈安は、通話とメッセージアプリしか使わないスマホを握りしめた。寮内は無料Wi-Fiが使えるため、料金を気にしなくて良い。

(男同士、セッ、セックス……で良いのかな?)

 セックス。そんな文字を一度も打ち込んだ事がない刈安は、一人部屋だというのに、ついつい周囲を気にしながら打ち込む。
 そこにはさまざまなサイトの名前が並び、どれが安全なサイトなのかも分からない。

(アダルトな動画サイトは怖いし、ホームページっぽいのも怖いなぁ。あ、この人、ゲイの人なんだ?えっと、有名なブログサイトだよな。それくらいは知ってる)

安易にタップしてみたら有料サイト、などという事になったら最悪だ。悩みながらスクロールをして行くと、一つのブログに辿り着いた。ブログを書いている友人もいるので、ブログのサイト名くらいは知っていた。その記事の一つがヒットしていたのだ。

(――安全なアナルセックス?ううっ、怖いけど……先輩が望んでいるかもしれないから、勉強した方が……っ!?うわっ!?)

 手にしたスマホを放り投げそうになりながら、必死で耐えた。

(動画?! いきなりっ? うわっ! わっ!?)

 横目でチラッともう一度見てから、視線に入るように持ち替えた。そこには、外国人のカップルが絡み合い、延々と腰を振っていたり、キスをし合う動画がいくつも掲載されていた。
 それは動画ではなくGIFなのだが、そんな事を知らない刈安は停止ボタンがないか必死で探した結果、激しく腰を打ち付ける様子が脳裏に焼き付けられる事になった。

(αとΩは男同士でも子供が出来るってバースの授業で言ってた。きっと、こういう事をしてるんだ。でも、俺はβだから子供は出来ないよ、先輩……俺が、Ωだったら……)

 そこまで考えて、無意識に自分が抱かれる想像をしていたと気がついた。

(俺に何を望んでるか分からないけど、両方勉強しておけば良いか。って、ヤバイ!勃ってる!)

 恥ずかしい。でも、今日は鳶にファーストキスを捧げた。

「……っ、ふっ、ふぅ、と、び、せんぱ……!」

 耐えきれずズボンから勃ち上がった陰茎を取り出し、ヌルヌルと滑る先走りを塗り付け擦り上げた。そして、鳶の唇が触れた自分の唇に触れる。鳶の温かな舌が刈安の口腔を蹂躙し、あちこちを舐め回された。その熱がまだ残っているかのようだ。
 蘇る、微かに香る鳶の爽やかな香り。βの刈安にはそれが体臭なのかフェロモンなのかは定かではない。
 ——ただ、抱きしめられた時に鼻腔をくすぐった香りは、試合で組み合っている時の鳶と同じ香りがした。

「先輩っ!鳶先輩っ!!」

 無意識にその名を呼び、激しく上下に刺激する。

「あっ……!はぁっ、はぁっ、——っ!!」

 びゅるっと勢いよく白濁が飛ぶ。鳶を想像してこんな行為をしたのは、実は初めてではない。だが、これまでで一番快感を感じた。

(先輩が、俺のモノに触るんだろうか? あのキレイな人が、こんな欲望に塗れたいやらしいモノに触れる?)

 疾しさと、その先にあるほのかな期待を押し殺す。

「もう、寝よう」

 気まずさをごまかすようにわざと声に出しそう言って、手を洗いベッドに潜り込む。だが、また抱きしめられた事を思い出しその手は下半身に伸びていく。
 その日の刈安は、これまでにないほどの淫らな妄想に苦しみながら、もう一度精を吐き出して眠りについた。


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