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記念SS

コミカライズ記念SS side マテリオ

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遅くなりましたがコミカライズ記念SSです!

Twitterと近況ボードでアンケートの結果、またマテリオが1番でした! アンケートに強い男ですね。

しかし、彼1人では荷が重いので1巻に出るキャラをメインにし、コミカライズでこられた方でもネタバレしない範囲で登場させます。
まだ全話読まれていない方は、なぜ彼の視点? と思われるかもしれません……
しかし、分からなくても良い様に書いております!

本編では出てこない場面を書いてみました。





神樹が花開き、神子様が降臨された。私達は神殿でその知らせを受け、皆が歓喜に湧いていた。
お世話をするのは誰なのか……話題はそれで持ち切りだった。

そんな時、私は大司教様に呼び出された。皆の視線が痛かったが、別件の可能性もあると思いながら大司教様の部屋に赴いた。
しかし、用件はやはり神子のお世話をせよとの命だった。他にも数人お世話に付くが、筆頭は私で皆を纏めるように、と指示された。

私が神子様へ挨拶に行くと、小柄で愛らしい少年だった。黒髪に黒瞳……我々が夢にまで見た色を持つお方だ。私は感激のあまり動けず、言葉も出なかった。
そんな私の方に、神子様の方から近寄って来てくださった。

「神官のマテリオさんだよね! 僕、歩夢です! 会えて嬉しいな」

私が名乗る前に、神子は私をまっすぐに見て名前を呼んでくださった。
担当者の名を事前に知らせてはいたが、同僚も一緒いるというのに何故わかったのだろう。これも神子の聖なるお力かもしれない。

「私のことはマテリオと呼び捨てになさってください。神子のために、全力でお仕えいたします」
「わかったよ。マテリオ、この世界のこと教えてね。アリアーシュもよろしく」

その場には魔導士のアリアーシュ殿もいらっしゃった。
彼の魔力は並々ならぬものがあり、神子のお傍にいるに相応しい人物だ。

「神子様は何故私の名前をご存知だったのですか?」
「あ、それはね……えっと、予知、みたいなものかな。僕はみんなのこと、会う前から知ってるんだ!」
「なんと……神子の神秘ですね」

私の言葉に、何故かアリアーシュ殿まで誇らしげにしていた。

「やはり神子は特別なんだ。しかもこんなに愛らしい……! その聖なる神子のお役に立てるなんて、我らは幸運じゃないか?」
「そうですね」

私は会話が苦手なので不安だったが、アリアーシュ殿が神子を楽しませてくれるので大丈夫だろう。

「神子様、もしや何もかもご存知なのですか?」
「多分……。でも、できれば改めて確認したいな~」

私達は王国に発生した瘴気と国内の現状を詳しくご説明した。

「なるほど……ゲームより少し前の次元にきたのかな?」
「げぇむ、ですか?」
「あ、気にしないで! ええっと、じゃあ、すぐ浄化をしたほうがいいのかなぁ」

各地の汚染は進んでいる。神官は対応で日々疲弊しているし、民も心配だ。だから私は一刻も早い浄化を願っていた。

「そうですね、できれば……」
「まぁ待て、神官殿」

私を押しのけてアリアーシュ殿が割って入ってくる。……押しの強い方は苦手だ。

「アユム様はまだ王宮内のこともろくに知らない。巡行の準備もあるし、その間迷子にならないように王宮内をご案内して差し上げようじゃないか。貴殿も王宮へは滅多に来られないから迷子になりたくないだろう? 一緒にどうだ?」
「あ、それ助かるなぁ。僕の知らないところ見たい! それに……ふふふふ……あの人とかあの人! 会えるかなぁ~!」

神子様が望んでいるし、確かに一介の神官である私が王宮に来ることはない。ありがたく案内してもらう。神子様は装飾を眺め楽しんでいるようだ。

散策していると中庭があり、そちらに立ち寄ると色とりどりの花が咲き美しい。しかし、多少草木が伐採されている箇所もあった。おそらく瘴気の影響だろう。

「わぁぁ~! すっごくキレイ。そっか……ここがあのスチルの中庭なんだぁ~」
「すちる、ですか?」

聞き慣れない言葉にアリアーシュ殿が反応した。

「あ、なんでもない! スルーして~」

彼らの会話を聞いていたが、神子様は私達の知らない単語をよく使う。中庭を散策していると、ふと周囲に空気が変わった。

「神子、ここにいたのか」

声に振り向けば国王陛下だった。私達は慌てて跪く。

「あ、陛下」
「執務室から見えたのでな。美しい庭だろう? だが、本当はもっと花が咲き乱れているはずなのだ。王都にも穢れがあるせいで、本来の姿を見せられず残念だ。だが、神子が降臨したし安心だな。そなたの浄化を楽しみにしているぞ」
「はい! 頑張ります!」

神子様は溌剌と答え、にっこりと陛下に微笑んだ。その瞬間だった。

「ああ~! やはり執務などより神子の傍にいたい! 今日の書類仕事は終いだ」

そう言って陛下は神子様を抱きしめた。
いくら国王陛下でも、清廉であるべき神子に不用意に触れていいのだろうか? 気のせいか、神子様もお困りのように見える。
しかし、私には何も言えない。

「え? でも、お仕事大丈夫ですか?」
「エリアスに任せれば良い。さぁ、神子、美味しいお菓子があるぞ」
「わぁ、嬉しいです! でも陛下。僕、迷子にならないように案内してもらってるんです。王宮も見たいし、その後でもいいですか? ごめんなさい……」
「おお、気にするでない。そうだ、私も一緒に……」
「陛下っ!!」

陛下が「一緒に行きたい」と言いかけた背後から金髪を揺らし、眩いまでの美貌をした麗しい方が駆け込んできた。

「っ!? エリアス……何用だ」
「何用だ、ではありません。まだ目を通していただかなくてはならぬ書類がございます」
「宰相に任せてあるし、あとはそなたが代理をすれば良いではないか」
「私では通らぬものもございます。あの方に丸投げするのはおやめください」

――これは聞いてしまっていいのだろうか。

お二人の口論が終わるのを、我々は黙って待つ。
この場から去るべきだろうが、挨拶もなく陛下の御前から下がれない……。誰もが冷や汗を流していた。

「もう~、陛下! エリアス様と喧嘩しないで! 一周したら陛下のところに行くから、お仕事頑張って下さいね」

そんな緊迫した空気を変えてくれたのは神子様だった。

「ぐっ……必ず顔を見せてくれるな?」
「はい!」

陛下は背後に控えた補佐に引きずられるように戻って行き、エリアス殿下だけが残った。

「神子よ、父上が邪魔をしたのではないか? 嫌な思いはしていないだろうか」
「気にしないでください! それに、お陰でエリアス様に会えて嬉しいです」
「神子は寛容だな」

神子の殿下にお会いして心底嬉しいという笑顔に、その場にいた誰もが釣られて笑顔になる。なんと素晴らしいお方なのだろう。

「神子は新しい生活に困っていないか? 侍従に伝えれば整えさせる故、遠慮は無用だ」
「すごく良くしてもらってます。大丈夫です」
「そうか、では私もまだ執務が残っているので戻るとしよう」
「もう行っちゃうんですか?」

エリアス殿下を見上げてしゅんとする神子様を見ると、それだけでこちらも辛くなってしまうのは何故だろう。

「執務が立て込んでいるのだ。だが、手が空いた時に話をしよう」
「はい!」

その後、殿下はその場に控えた我々に向かい合った。

「私がいない時は、皆で神子を支えてくれ」
「「「はい!!」」」

殿下の背中を見守る神子様は、両手を合わせ握りしめていた。その姿が見えなくなると、ほう……と大きくため息をつかれた。

「ふぁぁ~~!! 最初の出会いキターー!! ああ、ここで発生するスチルをスクショしたかったぁ~! それに、あっちのフラグ折ってくれて本っ当によかった。あのままだとヤバかったよぉ~!」

小声でよく聞こえないが、何か大変な事態だったのか?

「神子様、大丈夫ですか?」
「あ、アリアーシュ……心配させてごめんね。大丈夫だよ」

神子様は心配そうに顔を覗き込んだ彼に微笑んだ。私達の知らない何かをご存知で不安なのかもしれない。

「あ、ねぇ! 二人とも、ここに立ってみて欲しいんだ」
「私もですか?」

何故か私とアリアーシュ殿をとある薔薇の前に立たせた。しかも位置をきっちりと指定された。
そして、神子様は少し距離をとり、指で四角形を作ってこちらを覗いた。

「うん! これこれ! ――スチルは心の中に保存しよう。それにしてもツーショット、美しいなぁ……」

また「すちる」だ。なんなのだろう……

「僕ならできる。絶対できる。好感度ゲージが見えたらいいのにな。でも、ここまででエリアス様にアリアーシュとマテリオに会えたし! みんなキラキラしててリアル最高すぎでしょ……。あとはダリウス様と交流してあのシーンを集めよう。あ、あの人もこっちにきてくれるかな。頑張ろう! うん、せっかくここにきたんだから全部集めなきゃゲーマーとして失格でしょ。とりあえずおっさんフラグはへし折りたいよね、いやマジでおっさんエンド断固拒否……」

小声なうえ早口で何を言っているのか全くわからなかった。
しかし、神子様が楽しく過ごせるのなら良いだろう。とりあえず、息継ぎはなさったほうがいいのでは? と少し心配だった。

「アリアーシュ殿。慣れない地でご不便をかけないよう、私も手を尽くすのであなたもご協力をお願いします」
「当然だ。あんなに愛らしい神子様をお守りできるなんて名誉なことだな」
「あ、二人とも~~! 次はあっちに行きたいな!」
「「はい」」

ニコニコと駆け出す神子様は元気いっぱいだ。アリアーシュ殿が慌てて追いかけた。もう一人召喚された男の存在は気になるが、神子に害が無ければ良い。陛下の寵愛が激しすぎるのも心配だ。

浄化の旅は長期に渡り、きっと神子様には負担がかかる。それならば、王都に滞在中は精一杯楽しんでもらおう。
屈託なく笑う神子の笑顔を絶対に守り抜くと決め、駆け足で二人の背中を追った。
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