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ハネムーン編
ハネムーン編 3 ダリウス
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ピィッ! ピピッ!
鳥のさえずりが聞こえる。
あったかい……大きな手が撫でてくれてる……
「ん……おはよう……」
隣には真っ赤な髪を解いてリラックスしたダリウスが、片肘をついて俺を見下ろしていた。
「おはよう。体は大丈夫か?」
「大丈夫。手加減してくれただろう?」
「手加減とはちょっと違うな。ただ、セックスは回数じゃねぇってわかったんだよ。——おまえが気持ちよさそうにイクと、最高に幸せで俺もイッちまうんだ。それで満足出来る」
「ダリウス……」
か~わ~い~い!!
何それ?! ときめくんですけど?!
「お、俺は、ダリウスが俺で気持ち良くなると、すごく幸せだ……」
「ジュンヤッ!!」
ガバッと腕の中に抱き込まれ、貪るようにキスをされ……
(もう一回、スる……?)
そんな気持ちになってしまう。だって、まだ裸だし……ちょうど良いよね?
コンコンッ!!
エロモードの俺はノックでビクッとしてしまい、ダリウスに笑われてしまった。
「ダリウス坊ちゃん、ジュンヤ様、お目覚めですか?」
ドアがノックされ、リンドさんの声が聞こえた。
「ちぇっ……もう一回戦と思ったのによぉ。リンド!! 起きてる! 入って良いぞ」
「えっ? は、入ってくるの?」
「これからは慣れてくれ。使用人は支度のために入ってくるからな? だが、彼らは慣れているから反応しない。安心しろ」
エッチ後の姿を見られちゃうんだ~?! 貴族のメンタル強いな!? 確かにティアの時もソウガさんたちは平気な顔をしてた~。無反応もプロとして極めているから、だよな。
ダリウスは恥ずかしがる俺を抱きしめて、リンドさんや使用人に見られないようにしてくれた。
「坊ちゃん、ジュンヤ様、おはようございます。お着替えと……お食事はお部屋にお持ちしましょうか?」
「ああ、そうしてくれ。——ジュンヤは、まだ見知らぬ者に肌を晒すのが恥ずかしいんだ。だから、無理強いはしないでくれ。今日は俺がやる」
「坊ちゃんがっ?! ええ、ええ、それはもう!! 新婚でございますからね。お美しい新妻を見せたくありませんよねぇ……坊ちゃん、私、もう思い残すことはございません」
「おいおい。リンドにはまだ元気でいてもらわないと困るぞ」
「もったいないお言葉です。では、お食事を運ばせます。坊ちゃんのお着替えはいかがしますか?」
「一人でいい。——騎士団ではなんでも一人でしているんだぞ?」
ダリウスがちょっと拗ねている。リンドさんにとっては大事な主人の子息で、いつまで子供に見えているんだろうな。ニコニコと嬉しそうに俺たちを見ていた。
「よく存じ上げております。ですが、またこうして坊ちゃんのお世話ができて、この爺は嬉しくて仕方がないのでございます。どうぞお許しを」
「——そうか。これまで悪かったな。これからは、俺もバルバロイ家の務めを遵守する。手を貸してくれ」
「坊ちゃんは謝罪などしてはいけません! 私はバルバロイ家に仕えられて、誠に幸せ者ですよ。坊ちゃん、結婚披露宴が楽しみですね。では、一度下がります」
リンドさんは満面の笑みで食事の準備をしに下がっていった。二人になった俺たちはお互いに手を貸しながら着替えをして、その合間に何度もキスをして戯れていた。
「今日は、ザンド叔父上の率いる騎士団に行く。そこで、正式に一族に連なった顔見せを行う。と言っても、堅苦しく考えなくていい。もうおまえを知っているやつもいるが、まだ顔を見ていない奴らもいるから簡単にあいさつをしてくれ」
「うん。ザンド団長に会うの久しぶりだなぁ~」
ファルボド様と話をして、二人は間違いなく兄弟だと感じた。ザンド団長は髪を伸ばしてるけどね。それから俺たちは食事を済ませ、騎士団へと向かった。
◇
「おおっ!! ジュンヤッ!! 元気そうで何よりだ! あ、もう家族だからジュンヤでいいよな? うん」
のしのし、ずず~んと擬音が聞こえそうな筋肉の圧が目の前にいた。赤髪を揺らし、ザンド団長が自ら出迎えてくれたんだ。
「お久しぶりです、ザンド団長」
「おいおい~、水くさいな。もう家族なんだから、ザンドお・じ・さ・ま、って呼べよ~!! ハハハッ!」
まごうことなきフォルボド様のご兄弟……二人に会ってしみじみ実感しますね!
「ザンド叔父様、これから、よろしくご指導お願いします」
「おう!! いやぁ、ほんっと~に、ディーが嫁をもらう日が来るなんてなぁ~めでたいもんだ」
「ちょっ!? 手加減してください! ジュンヤの首がもげます!」
俺は頭をわっしわっしと撫でられて首を痛めそうだった! ザンド団長の手の中でまるでリンゴでも持つようにすっぽり包まれて……手のデカさにも驚いた。
「叔父上、俺たちと違いジュンヤはか弱いので、そーっと触ってください!! そーっと!!」
「優しくしたつもりだがなぁ~。ちっこいと難しいな。まぁ、そのうち加減を覚えるさ。ジュンヤも痛い時は遠慮なく教えてくれよ。よし、当番以外は鍛錬場に集まってるから、二人であいさつを頼むぞ」
「はい」
案内されて鍛錬場についた——感想を言ってもいいですか? 全員ではないらしいけど、王都なみの人数です。しかも、あちらよりゴリゴリマッチョ度が高くて、なんとなく怖いです!!
わかりやすく説明すると、王都は洗練された騎士。ユーフォーンは最前線の騎士だな。王都の騎士だって戦いの経験はあるそうだが、ここと比べると……みんな華奢に見えてしまう。
ザンド団長は全員の前に立ち、俺たちもその横に並ぶ。
「ユーフォーンの精鋭たちよ!! 先日、当家のダリウスと神子ジュンヤは王都で無事に婚儀を終えた。皆も知っている通り、ジュンヤはエリアス殿下の伴侶でもあり、バルバロイ家と王家の絆も深まった。何より、ヒルダーヌやダリウスを導いてくれた神子に敬意を払いたい。バルバロイ領の憂いを晴らしてくれた神子ジュンヤに、改めて感謝を示そう。捧げ!! 剣!!」
一斉に騎士が剣を抜き天に突き上げてから胸元に構えた。栄誉礼というものだ。事前に聞いていたが、大勢の屈強な騎士が剣を捧げる姿に感動してしまう。
「俺についてこい」
ダリウスに言われ、二人並んで彼らの前を歩く。その中にはグラントの姿もある。騎士たちの前を歩き、もう一度正面に戻ると、合図で一斉に剣を下ろし鞘に納める。——まるで映画のワンシーンだった。
「ジュンヤ。これからは、バルバロイ家の一員として領民に尽くしてほしい。ダリウスと二人で幸せになってくれ」
「ザンド団長、ありがとうございます」
「叔父上、感謝します」
「ふっ……まったく、めでたい話だねぇ。よし、おまえら!! ここからは堅苦しい話はなしだ! バルバロイの騎士らしく祝ってやれ。食堂に祝いの食事も用意してある! 大いに呑んで騒げ!!」
ザンド団長の解禁の合図でわっと歓声が上がり、ダリウスと仲が良かった騎士たちがダリウスの背中をバシバシたたいたりと、荒っぽい歓迎が始まり、みんなで移動をした。
「豪快な料理だ……!!」
食堂には、ハーブを詰めた鳥の丸焼きや果物、大量の酒が用意されていた。真昼間からの大宴会! 丸焼きを掴んではかぶりつく野獣……もとい騎士たちの迫力と言ったら、とても言葉では言い表せない!!
だが、俺の教えたスープもちゃんと並んでいた。喜んで食べている彼らを見て、受け入れられているんだとすごく嬉しくなった。
テーブルの上に並べてビュッフェ形式でみんなが取っていく。俺の分をダリウスがせっせと取り分けてくれる。自分でやろうとしたが、新妻の世話を焼きたいんだからやらせろと言われた。見せびらかして甘やかしたいんだってさ!!
「ジュンヤ、この辺なら比較的柔らかい部位だ。食べられそうか?」
ダリウスが大きな肉の一部をカットしてくれた。それをさらに小さくカットして口に放り込むと、ちょっと硬いけど俺でも食べられるくらいで安心した。スパイスも効いていて美味しい。
「美味しいよ! ありがとう」
「そうか。エールも飲むか? それと、野菜も持ってきてやったぞ」
「ヘヘヘ……ありがとう、旦那様」
「……旦那様って、良いな——ヘヘヘ」
(ん……チューしたいけど、我慢)
「ああ~! めちゃくちゃ甘いなぁ! 蜜漬けより甘い!! そう思わないか? グラント」
向かい側に座るザンド団長がニヤニヤしながら見ている。俺だってさ、こんなバカップル丸出しなのは恥ずかしいけど、ダリウスがしたいようにさせるって決めてるんで!!
「その通りですね。ダリウスがここまで世話を焼きたがるとは……同じ顔をした別人のような気がします」
「うるさいなっ! や~っと独り占めできるんだから、デロデロに甘やかすって決めてんだよ!!」
俺を抱き寄せ、髪にキスしまくるダリウスはめちゃくちゃ甘い旦那様だ。
「えっと、ザンド叔父様、グラント。俺、まだ知らないことがたくさんあって、バルバロイ家にふさしくないと言われるかもしれない。でも! ダリウスにふさわしい男になるから、いろいろ教えて欲しいです」
俺が二人にそう頼むと、二人ともカチンと固まった。
「——そんな風に言えるところが、ジュンヤのいいところなんだろうなぁ」
「ええ。普通は知ったかぶりをしたり、調子に乗って上から目線になる場面ですよね」
「自分をいびったコイツも受け入れるし、まったく面白い男だ。ジュンヤはバルバロイにふさわしいと思ってるぜ」
「——俺、一生そのことを言われるんでしょうねぇ」
「まぁな。だが、その理由も分かったしなぁ~!」
「えっ?」
「グラントが俺をいびったのはバルバロイ家が大事だから、だよな?」
「——ええ」
今の間はなんだ?
「クックック……こいつなぁ~、俺に惚れてたんだとよ」
「ザンドだん、——叔父様にですか?!」
「そうそう~! 俺はもう嫁が二人いるからよ、遠慮して黙ってたらしいんだよなぁ。で、俺に似てるダリウスを可愛がってたってことだ」
「~~っ! 違います! ほんっとう~にやめてください!」
なるほど……手が届かない人に片思いをしてたんだなぁ。否定してるけど、真っ赤だよ、グラント。でも、ダリウスが代わりってひどくないか? ダリウスは傷ついていないかな?
「はぁ、安心したぜ……で、叔父上はグラントを引き受けるのか?」
(あれ? 意外と平気?)
ダリウスは気分を害するかと思ったが、平気な顔でエールを飲んでいる。
「どうした?」
「いや、代わりにされて嫌じゃないかな? って思ったんだ」
「ないない! 知ってたからな~」
「待て、ダリウス! 俺はそんな話をしたことはないぞっ!?」
「飛んでる時、叔父上の名を呼んでた。だが、この話はジュンヤがいるからしたくない」
「っ?! えっ? 俺、呼んでたっ!?」
「おう。叔父上には浄化で来た時に話したぞ~」
グラントは口をパクパクさせてから石化した。うん、固まるよね~。つまり、ダリウスとシてる時の話で……過去の話だけど、ダリウスが俺に気を使ってくれたんだな。
「ダリウス、俺は気にしないよ?」
「——でも、嫌なんだ。おまえに嫌われたら……俺……」
俺にベタ惚れの大男が愛しくて、無意識に抱きしめてキスしていた。
「んっ、んん……ジュンヤ……」
「大丈夫。俺のために二度も命を賭けた男を嫌う訳がないだろ? 愛してるよ」
「ジュンヤ、俺も愛してる……血の一滴までおまえに捧げる」
「でも、死ぬのはなしだぞ?」
もう一度キスをしてダリウスの腕の中すっぽり収まった。
「あっちぃねぇ。それにこの香り……おまえたちはそんなところから繋がってるんだなぁ。こりゃあ、飲まなきゃやってられんな!! 飲むぞ~!!」
周囲からも散々に冷やかされた。照れくさいけど、俺たちは政略結婚じゃないってはっきりさせたかった。だが、やりすぎたらしくみんなが酒を煽りはじめた。特に、グラントが。つられて俺も飲む羽目になっていた。
◇
「ジュンヤしゃまが~、おれりゃの~じょーかをしたとき~! ほんとうは、もっとかんしゃをしたかったけろ……いえにゃくて~あやまりぇなくて……! ディックのことも、しゅみません~でひた!!」
「おりぇだって、いじになって、いじわりゅした……ごみぇんなぁ~」
俺はグラントと、本当の和解をした!! そうか、あんたは素直になれなかっただけなんだな? わかるぞ……わかりすぎる! 俺もちょっと酷いやつだった……ジュンヤ反省。
向かいあった俺たちは手を握り合い、これからは友達だ!! と頷き合った。
「あ~あ……おまえの嫁、酒に弱いなぁ。グラントも今日は飲みすぎだ」
「ジュンヤはそこが可愛いんですよ。ジュンヤ、いつまでグラントとくっついてるんだ? 俺を放ったらかしにする気かよ」
「わしゅれてないよ!」
「じゃあ、こっちな」
ふわっと体が浮いて、ダリウスの膝に乗せられていた。
「わっ?! ……らっこ?」
「いやか?」
「やじゃない。しゅき」
「本当は、この後で城下町に出ようと思ってたんだがなぁ」
「じょうかまち、行きたい」
「いや、酔ってるだろう? 明後日は兄上の結婚式とお披露目だから、明日にしよう」
「ん……じゃあ、あした」
予定が狂ったのかな。悪いことしたな。でも、こうしてダリウスと堂々とイチャイチャ出来て嬉しい。チラチラ見られてるのは気がついてる。
(だ~め! ダリウスは俺のだから!! あげないからなっ!!)
あっちもこっちもライバルに見える!! 俺は! 伴侶なんだからな!! もう結婚式をしたんだから~!
「その代わり、兄上の結婚式で剣舞を披露するから練習をする。見ててくれるか?」
「みりゅ。だりうしゅのかっこいいところ、みたい」
「そうか。惚れ直してもしらねぇぞ?」
「——もっとしゅきになりゅ?」
「……あ~、ベッドに行こうか?」
「れんしゅぅ、見たい」
かっこいいダリウス好きだなぁ~! 剣舞ってどんな感じだろう?
「嫁さんが見たいってんなら見せてやれよ。そうだ、俺と軽く手合わせするかぁ?」
「叔父上と? いや、今日は」
「「「団長とダリウス様の試合だってよ~!!」」」
近くにいた騎士が何人か騒ぎ出すと、あっという間に広まってやいのやいのと大騒ぎだ。賭けを始めたやつもいる。
「はぁ~。仕方ない。ジュンヤは結界のある場所で見てるか?」
「みりゅ!!」
「よっしゃ! ジュンヤ、俺が勝つからな!」
「おうおう、言ってくれるねぇ」
楽しそうに睨み合い二人や取り巻く騎士たちと一緒に、ダリウスに抱かれて鍛錬場へと向かった。
ーーーー
グラントについては、また後ほど……リクエストも盛り込んで進みます。
それと、書いてたら長くなりそうです!6話くらいかな~!クマ一族のお話を書きたいです!パパも登場させたいのですよ。
鳥のさえずりが聞こえる。
あったかい……大きな手が撫でてくれてる……
「ん……おはよう……」
隣には真っ赤な髪を解いてリラックスしたダリウスが、片肘をついて俺を見下ろしていた。
「おはよう。体は大丈夫か?」
「大丈夫。手加減してくれただろう?」
「手加減とはちょっと違うな。ただ、セックスは回数じゃねぇってわかったんだよ。——おまえが気持ちよさそうにイクと、最高に幸せで俺もイッちまうんだ。それで満足出来る」
「ダリウス……」
か~わ~い~い!!
何それ?! ときめくんですけど?!
「お、俺は、ダリウスが俺で気持ち良くなると、すごく幸せだ……」
「ジュンヤッ!!」
ガバッと腕の中に抱き込まれ、貪るようにキスをされ……
(もう一回、スる……?)
そんな気持ちになってしまう。だって、まだ裸だし……ちょうど良いよね?
コンコンッ!!
エロモードの俺はノックでビクッとしてしまい、ダリウスに笑われてしまった。
「ダリウス坊ちゃん、ジュンヤ様、お目覚めですか?」
ドアがノックされ、リンドさんの声が聞こえた。
「ちぇっ……もう一回戦と思ったのによぉ。リンド!! 起きてる! 入って良いぞ」
「えっ? は、入ってくるの?」
「これからは慣れてくれ。使用人は支度のために入ってくるからな? だが、彼らは慣れているから反応しない。安心しろ」
エッチ後の姿を見られちゃうんだ~?! 貴族のメンタル強いな!? 確かにティアの時もソウガさんたちは平気な顔をしてた~。無反応もプロとして極めているから、だよな。
ダリウスは恥ずかしがる俺を抱きしめて、リンドさんや使用人に見られないようにしてくれた。
「坊ちゃん、ジュンヤ様、おはようございます。お着替えと……お食事はお部屋にお持ちしましょうか?」
「ああ、そうしてくれ。——ジュンヤは、まだ見知らぬ者に肌を晒すのが恥ずかしいんだ。だから、無理強いはしないでくれ。今日は俺がやる」
「坊ちゃんがっ?! ええ、ええ、それはもう!! 新婚でございますからね。お美しい新妻を見せたくありませんよねぇ……坊ちゃん、私、もう思い残すことはございません」
「おいおい。リンドにはまだ元気でいてもらわないと困るぞ」
「もったいないお言葉です。では、お食事を運ばせます。坊ちゃんのお着替えはいかがしますか?」
「一人でいい。——騎士団ではなんでも一人でしているんだぞ?」
ダリウスがちょっと拗ねている。リンドさんにとっては大事な主人の子息で、いつまで子供に見えているんだろうな。ニコニコと嬉しそうに俺たちを見ていた。
「よく存じ上げております。ですが、またこうして坊ちゃんのお世話ができて、この爺は嬉しくて仕方がないのでございます。どうぞお許しを」
「——そうか。これまで悪かったな。これからは、俺もバルバロイ家の務めを遵守する。手を貸してくれ」
「坊ちゃんは謝罪などしてはいけません! 私はバルバロイ家に仕えられて、誠に幸せ者ですよ。坊ちゃん、結婚披露宴が楽しみですね。では、一度下がります」
リンドさんは満面の笑みで食事の準備をしに下がっていった。二人になった俺たちはお互いに手を貸しながら着替えをして、その合間に何度もキスをして戯れていた。
「今日は、ザンド叔父上の率いる騎士団に行く。そこで、正式に一族に連なった顔見せを行う。と言っても、堅苦しく考えなくていい。もうおまえを知っているやつもいるが、まだ顔を見ていない奴らもいるから簡単にあいさつをしてくれ」
「うん。ザンド団長に会うの久しぶりだなぁ~」
ファルボド様と話をして、二人は間違いなく兄弟だと感じた。ザンド団長は髪を伸ばしてるけどね。それから俺たちは食事を済ませ、騎士団へと向かった。
◇
「おおっ!! ジュンヤッ!! 元気そうで何よりだ! あ、もう家族だからジュンヤでいいよな? うん」
のしのし、ずず~んと擬音が聞こえそうな筋肉の圧が目の前にいた。赤髪を揺らし、ザンド団長が自ら出迎えてくれたんだ。
「お久しぶりです、ザンド団長」
「おいおい~、水くさいな。もう家族なんだから、ザンドお・じ・さ・ま、って呼べよ~!! ハハハッ!」
まごうことなきフォルボド様のご兄弟……二人に会ってしみじみ実感しますね!
「ザンド叔父様、これから、よろしくご指導お願いします」
「おう!! いやぁ、ほんっと~に、ディーが嫁をもらう日が来るなんてなぁ~めでたいもんだ」
「ちょっ!? 手加減してください! ジュンヤの首がもげます!」
俺は頭をわっしわっしと撫でられて首を痛めそうだった! ザンド団長の手の中でまるでリンゴでも持つようにすっぽり包まれて……手のデカさにも驚いた。
「叔父上、俺たちと違いジュンヤはか弱いので、そーっと触ってください!! そーっと!!」
「優しくしたつもりだがなぁ~。ちっこいと難しいな。まぁ、そのうち加減を覚えるさ。ジュンヤも痛い時は遠慮なく教えてくれよ。よし、当番以外は鍛錬場に集まってるから、二人であいさつを頼むぞ」
「はい」
案内されて鍛錬場についた——感想を言ってもいいですか? 全員ではないらしいけど、王都なみの人数です。しかも、あちらよりゴリゴリマッチョ度が高くて、なんとなく怖いです!!
わかりやすく説明すると、王都は洗練された騎士。ユーフォーンは最前線の騎士だな。王都の騎士だって戦いの経験はあるそうだが、ここと比べると……みんな華奢に見えてしまう。
ザンド団長は全員の前に立ち、俺たちもその横に並ぶ。
「ユーフォーンの精鋭たちよ!! 先日、当家のダリウスと神子ジュンヤは王都で無事に婚儀を終えた。皆も知っている通り、ジュンヤはエリアス殿下の伴侶でもあり、バルバロイ家と王家の絆も深まった。何より、ヒルダーヌやダリウスを導いてくれた神子に敬意を払いたい。バルバロイ領の憂いを晴らしてくれた神子ジュンヤに、改めて感謝を示そう。捧げ!! 剣!!」
一斉に騎士が剣を抜き天に突き上げてから胸元に構えた。栄誉礼というものだ。事前に聞いていたが、大勢の屈強な騎士が剣を捧げる姿に感動してしまう。
「俺についてこい」
ダリウスに言われ、二人並んで彼らの前を歩く。その中にはグラントの姿もある。騎士たちの前を歩き、もう一度正面に戻ると、合図で一斉に剣を下ろし鞘に納める。——まるで映画のワンシーンだった。
「ジュンヤ。これからは、バルバロイ家の一員として領民に尽くしてほしい。ダリウスと二人で幸せになってくれ」
「ザンド団長、ありがとうございます」
「叔父上、感謝します」
「ふっ……まったく、めでたい話だねぇ。よし、おまえら!! ここからは堅苦しい話はなしだ! バルバロイの騎士らしく祝ってやれ。食堂に祝いの食事も用意してある! 大いに呑んで騒げ!!」
ザンド団長の解禁の合図でわっと歓声が上がり、ダリウスと仲が良かった騎士たちがダリウスの背中をバシバシたたいたりと、荒っぽい歓迎が始まり、みんなで移動をした。
「豪快な料理だ……!!」
食堂には、ハーブを詰めた鳥の丸焼きや果物、大量の酒が用意されていた。真昼間からの大宴会! 丸焼きを掴んではかぶりつく野獣……もとい騎士たちの迫力と言ったら、とても言葉では言い表せない!!
だが、俺の教えたスープもちゃんと並んでいた。喜んで食べている彼らを見て、受け入れられているんだとすごく嬉しくなった。
テーブルの上に並べてビュッフェ形式でみんなが取っていく。俺の分をダリウスがせっせと取り分けてくれる。自分でやろうとしたが、新妻の世話を焼きたいんだからやらせろと言われた。見せびらかして甘やかしたいんだってさ!!
「ジュンヤ、この辺なら比較的柔らかい部位だ。食べられそうか?」
ダリウスが大きな肉の一部をカットしてくれた。それをさらに小さくカットして口に放り込むと、ちょっと硬いけど俺でも食べられるくらいで安心した。スパイスも効いていて美味しい。
「美味しいよ! ありがとう」
「そうか。エールも飲むか? それと、野菜も持ってきてやったぞ」
「ヘヘヘ……ありがとう、旦那様」
「……旦那様って、良いな——ヘヘヘ」
(ん……チューしたいけど、我慢)
「ああ~! めちゃくちゃ甘いなぁ! 蜜漬けより甘い!! そう思わないか? グラント」
向かい側に座るザンド団長がニヤニヤしながら見ている。俺だってさ、こんなバカップル丸出しなのは恥ずかしいけど、ダリウスがしたいようにさせるって決めてるんで!!
「その通りですね。ダリウスがここまで世話を焼きたがるとは……同じ顔をした別人のような気がします」
「うるさいなっ! や~っと独り占めできるんだから、デロデロに甘やかすって決めてんだよ!!」
俺を抱き寄せ、髪にキスしまくるダリウスはめちゃくちゃ甘い旦那様だ。
「えっと、ザンド叔父様、グラント。俺、まだ知らないことがたくさんあって、バルバロイ家にふさしくないと言われるかもしれない。でも! ダリウスにふさわしい男になるから、いろいろ教えて欲しいです」
俺が二人にそう頼むと、二人ともカチンと固まった。
「——そんな風に言えるところが、ジュンヤのいいところなんだろうなぁ」
「ええ。普通は知ったかぶりをしたり、調子に乗って上から目線になる場面ですよね」
「自分をいびったコイツも受け入れるし、まったく面白い男だ。ジュンヤはバルバロイにふさわしいと思ってるぜ」
「——俺、一生そのことを言われるんでしょうねぇ」
「まぁな。だが、その理由も分かったしなぁ~!」
「えっ?」
「グラントが俺をいびったのはバルバロイ家が大事だから、だよな?」
「——ええ」
今の間はなんだ?
「クックック……こいつなぁ~、俺に惚れてたんだとよ」
「ザンドだん、——叔父様にですか?!」
「そうそう~! 俺はもう嫁が二人いるからよ、遠慮して黙ってたらしいんだよなぁ。で、俺に似てるダリウスを可愛がってたってことだ」
「~~っ! 違います! ほんっとう~にやめてください!」
なるほど……手が届かない人に片思いをしてたんだなぁ。否定してるけど、真っ赤だよ、グラント。でも、ダリウスが代わりってひどくないか? ダリウスは傷ついていないかな?
「はぁ、安心したぜ……で、叔父上はグラントを引き受けるのか?」
(あれ? 意外と平気?)
ダリウスは気分を害するかと思ったが、平気な顔でエールを飲んでいる。
「どうした?」
「いや、代わりにされて嫌じゃないかな? って思ったんだ」
「ないない! 知ってたからな~」
「待て、ダリウス! 俺はそんな話をしたことはないぞっ!?」
「飛んでる時、叔父上の名を呼んでた。だが、この話はジュンヤがいるからしたくない」
「っ?! えっ? 俺、呼んでたっ!?」
「おう。叔父上には浄化で来た時に話したぞ~」
グラントは口をパクパクさせてから石化した。うん、固まるよね~。つまり、ダリウスとシてる時の話で……過去の話だけど、ダリウスが俺に気を使ってくれたんだな。
「ダリウス、俺は気にしないよ?」
「——でも、嫌なんだ。おまえに嫌われたら……俺……」
俺にベタ惚れの大男が愛しくて、無意識に抱きしめてキスしていた。
「んっ、んん……ジュンヤ……」
「大丈夫。俺のために二度も命を賭けた男を嫌う訳がないだろ? 愛してるよ」
「ジュンヤ、俺も愛してる……血の一滴までおまえに捧げる」
「でも、死ぬのはなしだぞ?」
もう一度キスをしてダリウスの腕の中すっぽり収まった。
「あっちぃねぇ。それにこの香り……おまえたちはそんなところから繋がってるんだなぁ。こりゃあ、飲まなきゃやってられんな!! 飲むぞ~!!」
周囲からも散々に冷やかされた。照れくさいけど、俺たちは政略結婚じゃないってはっきりさせたかった。だが、やりすぎたらしくみんなが酒を煽りはじめた。特に、グラントが。つられて俺も飲む羽目になっていた。
◇
「ジュンヤしゃまが~、おれりゃの~じょーかをしたとき~! ほんとうは、もっとかんしゃをしたかったけろ……いえにゃくて~あやまりぇなくて……! ディックのことも、しゅみません~でひた!!」
「おりぇだって、いじになって、いじわりゅした……ごみぇんなぁ~」
俺はグラントと、本当の和解をした!! そうか、あんたは素直になれなかっただけなんだな? わかるぞ……わかりすぎる! 俺もちょっと酷いやつだった……ジュンヤ反省。
向かいあった俺たちは手を握り合い、これからは友達だ!! と頷き合った。
「あ~あ……おまえの嫁、酒に弱いなぁ。グラントも今日は飲みすぎだ」
「ジュンヤはそこが可愛いんですよ。ジュンヤ、いつまでグラントとくっついてるんだ? 俺を放ったらかしにする気かよ」
「わしゅれてないよ!」
「じゃあ、こっちな」
ふわっと体が浮いて、ダリウスの膝に乗せられていた。
「わっ?! ……らっこ?」
「いやか?」
「やじゃない。しゅき」
「本当は、この後で城下町に出ようと思ってたんだがなぁ」
「じょうかまち、行きたい」
「いや、酔ってるだろう? 明後日は兄上の結婚式とお披露目だから、明日にしよう」
「ん……じゃあ、あした」
予定が狂ったのかな。悪いことしたな。でも、こうしてダリウスと堂々とイチャイチャ出来て嬉しい。チラチラ見られてるのは気がついてる。
(だ~め! ダリウスは俺のだから!! あげないからなっ!!)
あっちもこっちもライバルに見える!! 俺は! 伴侶なんだからな!! もう結婚式をしたんだから~!
「その代わり、兄上の結婚式で剣舞を披露するから練習をする。見ててくれるか?」
「みりゅ。だりうしゅのかっこいいところ、みたい」
「そうか。惚れ直してもしらねぇぞ?」
「——もっとしゅきになりゅ?」
「……あ~、ベッドに行こうか?」
「れんしゅぅ、見たい」
かっこいいダリウス好きだなぁ~! 剣舞ってどんな感じだろう?
「嫁さんが見たいってんなら見せてやれよ。そうだ、俺と軽く手合わせするかぁ?」
「叔父上と? いや、今日は」
「「「団長とダリウス様の試合だってよ~!!」」」
近くにいた騎士が何人か騒ぎ出すと、あっという間に広まってやいのやいのと大騒ぎだ。賭けを始めたやつもいる。
「はぁ~。仕方ない。ジュンヤは結界のある場所で見てるか?」
「みりゅ!!」
「よっしゃ! ジュンヤ、俺が勝つからな!」
「おうおう、言ってくれるねぇ」
楽しそうに睨み合い二人や取り巻く騎士たちと一緒に、ダリウスに抱かれて鍛錬場へと向かった。
ーーーー
グラントについては、また後ほど……リクエストも盛り込んで進みます。
それと、書いてたら長くなりそうです!6話くらいかな~!クマ一族のお話を書きたいです!パパも登場させたいのですよ。
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勇者パーティーに属していた魔術師が勇者との子を身篭ったので逃走を図り失敗に終わるお話。
頭よわよわハッピーエンド、執着溺愛勇者×気弱臆病魔術師。
誰もが妊娠できる世界、勇者パーティーは皆仲良し。
さくっと読める短編です。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
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初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃんでした。
実際に逢ってみたら、え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこいー伴侶がいますので!
おじいちゃんと孫じゃないよ!
大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜
7ズ
BL
異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。
攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。
そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。
しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。
彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。
どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。
ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。
異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。
果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──?
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狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛
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