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4章

side エルビス 自制と欲望

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 レナッソーを後にした私達は、王都へと戻る為川沿いの町ハルトラに到着した。道中、ジュンヤ様は殿下とひとときを過ごした後、長い間甘美な香りを殿下と共有していて、その事実にツキリと胸が痛んだ。しかし、殿下のご苦労を思えば私の嫉妬など抑え込まねばならない。
 ジュンヤ様とは誰よりも長い時間を共にしているが、どうしても遠慮をしてしまい体を交わす時間は少ない。最近は浄化の後の苦しい交わりだけで、甘い時間を欲してしまう自分が獣の様に感じていた。全幅の信頼を込めて見つめてくる瞳に欲情する自分を悟られない様、日々お世話をしているが……
 我々一行が全員乗船出来る船は限られており、対応可能な船が対岸へ向ったばかりとありハルトラに宿泊する運びとなった。『町を見て周り、必要なら浄化をする。教会があるらしいから挨拶をしていこうと思う。』そう仰るジュンヤ様の供をして町へと出てきたのだが、町人の熱狂に少々危険さえ感じた。
 とは言えその熱狂は歓迎であり、ジュンヤ様の偉業を称え感謝を伝えるものであったので、ダリウスと目配せをしながら進んでいった。この場の護衛はいつも通りのメンバーで、何かあっても即時対処出来る筈だ。途中で買い物をさせる為にヴァインとノーマも連れて来ている。

「エルビス、ハルトラって名前、ユーフォーンの町の名前と似てるよな? あっちはアントラとサントラだっけ? ここはハルトラだし、意味があるのかな?」
「はい。トラは川沿いの町を意味しています。ですので、大概は対の名前になっていますね。対岸はイルトラですよ」
「ヘェ~、ちゃんと意味があるんだな」

 私に微笑み返してくれるジュンヤ様の純粋な笑顔に心が温かくなる。近くでその微笑みを見てしまった民が、うっとりと見つめているのが分かる。ご本人は全く気が付いておられないのだが。
 道中、気になったらしい者に声をかけて浄化をなさるので余計に注目を浴びる。その上、纏う香りとその美しさに誘われる様に性的な視線も絡みつく。
 しかし、浄化をなさる慈愛の微笑みと気品ある姿は、おいそれと触れてはならない神々しさも民に印象付けただろう。私はそんなジュンヤ様のお近くにいる事がとても誇らしかった。

「エルビスはハルトラに来た事はある? ここはどんな特徴があるのかなぁ」
「はい。殿下視察に同行しました。商人が必ず通る町なので、あちらの商店街は賑やかですよ。トラージェからの品物も良く見かけます。王都に真珠などが良く入って来ますね」

 トーラント領は殿下にとってあまりよろしくない土地だった。だからレナッソーは避けて農村の収穫の確認、などと言う名目で来た事はある。

「そうか、トラージェの物が!! でも、見たいけど浄化終わるまでお預けかな~」
「終わったらまた来ましょう。お供しても良いですか?」
「もちろん! エルビスのいない旅なんて有り得ないし」

 そんなにも私の存在を大きく思ってくださっている事に、またジン……としてしまう。この方は、自覚なく人を夢中にさせる天才だと思う。

「お~い、お前らばっかりイチャイチャすんなよ~」

 ダリウスがヤキモチを焼いて割り込んで来る。

「団長殿はしっかり警護をお願いします」 
「チッ」

 舌打ちを打つが、そうしたいのは私の方だ。そんな下品な真似はしないがな。周囲を民が囲んでいる為それなりの対応をしたが、せっかくの二人の会話を邪魔されて腹が立つ。そんな風に思っていた私の右手が、不意に温かい手に包まれた。

「エルビス。教会に挨拶をしたら、少しデートしよう。しばらく時間取れてなかったもんな?」

 まるで私の気持ちを見透かした様に微笑んでくれて、心臓が早鐘の様に鳴る。

 あなたという人は、何度惚れ直させる気ですか?

 ときめき浮つく心を隠して微笑み返す。本当は今すぐ抱きしめてキスをして……褥に押しつけて……
 頭を軽く振り妄想を吹き飛ばす。そこでようやく教会に到着して、ほっとした。

「神子ジュンヤ様、こんな小さな教会へわざわざのお運び下さり、ありがとうございます」

 この教会を任されているのは初老の司教だ。以前来た時より白髪も増え顔のシワも深く刻まれていた。以前あったよりかなり老け込んでる事に驚いた。

「司教様、体調が良くないのでは? お手をよろしいですか?」

 ジュンヤ様が心配そうに手を差し伸べ浄化をする。何度見ても感動が変わる事はない。平民にも貴族にも迷いなく慈悲を与える姿は、見るもの全てを驚かせて来た。同じ様に教会の神官を浄化すれば、皆がすっかり心酔しジュンヤ様の為に働きたい、と願うのだ。

「よし! ここの人達も協力してくれるし、安心だな。ダリウス、悪いけど、俺エルビスと二人で話したいんだ。馬車の中ではどうしても侍従モードが切れないし、ただのデートしたい。埋め合わせはするから」
「はぁ~。まぁ、確かにな。生真面目すぎて押し倒す事も出来ないもんなぁ?」
「なっ!? なんて事をっ!」
「ほい、離れてるから行ってこい! 人目のあるところではエロい事すんなよ?」

 どんと背中を押されよろめいてしまう。なんて馬鹿力だ!

「お前じゃあるまいしするか!!」
「ふふふっ。じゃあ、行こうか!」

 そう言ってジュンヤ様が私の手を握り引っ張った。

「あっちに行こう!! 賑やかな店があるところに行きたいな」
「えっ?しかし、警護が離れていては危険ですよ?あのっ! ジュンヤ様っ!?」

 強く引かれた手を振り払う事も出来ず、引かれるままに歩く。

「ノーマ、ヴァイン、買い物を頼みますよ!」
「「はい!!」」

 二人には買う物を教えている為、任せても良いだろう。だが、二人で歩くなど大丈夫だろうかと心配していたが、見慣れた男達が私服で周辺にいるのが目に入った。
 ああ、町中ではこうする事にしたのか。確かにその方が良いかもしれないな。

「エルビスとゆっくりするの久しぶりだな。えっと、ユーフォーンでのデート以来?」

 そう言うと、あの日の大胆な出来事を思い出したのか頬が薔薇色に染まった。あの湖での情熱的な愛の語らいを思い出し、何度淫らな行為を行ったか分からない。その獣じみた想いをジュンヤ様にぶつけるのは怖かった。

「そうですね。その、素晴らしい思い出になりました」
「もっと色んな思い出作りたいな。写真が取れたら良いのに」
「シャシン?」
「ああ、話した事なかったかな? 映像の事は話したような気がするけど」
「エイゾウは殿下にお聞きしました。アナトリーに何やら指示していましたので」
「そうなんだ? で、それの動かない版。絵姿じゃなくて、見たままを残しておけるんだ」
「それは素晴らしいですね。」

 ジュンヤ様の笑顔、凛々しい勇姿、それから淫らに悶える艶姿……それを手元にいつでも残し、見る事が出来る?

「エルビス?」
「はっ?! も、申し訳ありません!」

 今日の私はおかしい。なぜこんなにも淫らな妄想が浮かんでくるのか。きっと、殿下と過ごした後のジュンヤ様の色香が余りにも艶かしいからだ。

「ごめん、つまんなかった?」
「そんな事はありません!」

 俯くジュンヤ様の顔を覗くとしょんぼりと悲しげな瞳で見つめて来た。

「俺は初めてだけど、エルビスは知ってる場所だもんな。観光的な楽しみはないよな」
「そうではないんです! 私は、私は……」

 欲望を言葉にしてしまったら、私への信頼が揺らいでしまうのではないか……私が一番恐ろしいのはそれだった。

「エルビス? 悩んでるなら話して欲しいな。いつも俺の悩みを聞いてくれるだろう?俺もエルビスの力になりたいな」

 その言葉がただ嬉しい。正直に話してしまっても良いのだろうか。

「……。その、ここでは」
「じゃあ、帰ってからにしようか。……今夜は一緒に寝よう?」
「は、はい! 喜んで」
「じゃあ、もう帰ろうか?」
「いいえ!もう少し見物しましょう。私のせいですみませんでした。あちらにジュンヤ様が気に入りそうな店がありますよ」

 せっかくの息抜きの時間に申し訳ない。私は工芸品の職人の店や商人が立ち寄る問屋などをお見せした。楽しそうに手に取り眺め、楽しそうな姿にほっとした。私のせいでつまらない思いをさせたくない。
 その後、少し早めに宿に戻り夕食を皆で取った後部屋に戻る。天幕や馬車では、私は言い出せなかった。遮音をしていても、すぐ側に誰かいる。そして、必ずその後のジュンヤ様の艶姿を見られてしまう。
 私がそうさせたのだと主張したくなる時もあった。どこかのバカダリウスの様にねだる事が出来たら…。

「お茶をお出ししましょうか」
「ううん、良いよ。お腹もいっぱいだし。エルビス、ここ座って」

 ベッドに座り隣をポンポンと叩き座る様に促され、私はおずおずと隣に座った。今は警護はドアの向こうで、人目を気にする必要はないせいで湧き上がる欲求を、必死に抑えた。

「エルビス?何を悩んでいるんだ?」

 覗き込む様に視線を合わされると、嘘が言えなくなってしまう。

「ジュンヤ様が呆れてしまうような事を——考えているのです」
「そんな事にはならないよ?だから言ってみてよ」

 優しく手を握って下さる。励ます為の触れ合いだと言うのに、私の中の獣欲が掻き立てられてしまう。

「わ、私は、ジュンヤ様の近くにいると、どうしてもいやらしい目で見てしまう時があるのです。恋人ではありますが、仕事中はそんな事があってはいけないと思っています。ですから、耐えているのですが……今日のジュンヤ様があまりにも色っぽく! どうしても、妄想が止まらず……」

 最後まではとても言えない。声もどんどん小さくなり、聞こえているかも分からない。

「エルビス、俺でエッチな妄想してるんだ?」
「そう、です」

 この場から消えてしまいたい……

「っ!? ジュンヤ様?」

 俯き目を瞑った私の頬をジュンヤ様の温かい手が包んでいた。

「嬉しい。馬車で二人きりになった時もそう言う事言わないから、飽きられたかと思って不安だった」
「飽きるなんて! 絶対そんな事ありません!!」

 突然大声を出したせいで、ジュンヤ様の目が驚きに瞬いていた。

「申し訳ありません! 驚かせてしま、んぅ!?」

 ジュンヤ様の唇が触れて、温かな舌が滑り込み私の舌に、絡みついて来た。思わず抱き寄せ、その甘く痺れる様な舌の感触を貪ってしまう。

「エルビス。えっと、俺もエッチな事はしたいんだよ?ただ、みんなにバレバレになるのは恥ずかしいだけでさ。分かってるだろ? っていうか、恋人ならエッチな事したいのは当たり前だし。」
「しても、良いのですか? ずっとあなたが辛い状況ばかりの中で触れていて、私も辛かったのです。あ、でも、お体が辛いのでは?」

 昨日は殿下に抱かれたのは、言葉にしなくても分かってしまう。ご負担を考えれば、続けて行為など出来ない。

「大丈夫。えっと、動けなくなる様なハードな事してなかったから、イチャイチャしよっか?」

 羞恥心に頬を染めながらも、私を誘うジュンヤ様を拒む理由は出来なかった。

「お慕いしています、ジュンヤ様……」
「エルビス、忘れないでくれ。俺達は神子の可能性や浄化の話が出るずっと前から、お互いが特別だった。なぁ、分かってる? 愛してるんだよ? っんん!?」

 耐えきれずにジュンヤ様の唇を奪い、隅々まで舌で堪能する。あなたはいつも私に勇気をくれる…。

「私も愛してます。あなたが欲しい」
「うん、抱いて」

 我を忘れジュンヤ様の上着のボタンを外す。私は、どうしても身分制に縛られて殿下やダリウスに譲っていた。だが、そんな事はこの方の前では無意味なのだ。

「私の欲望を知っても、嫌わないで下さい」

 蜜色の肌は吸い付く様に滑らかで、これから私にされるあれこれを予感してか、愛らしい胸の飾りは薔薇色に上気してツンと勃っていた。

「俺は、エルビスの物だよ?」

 抱きしめてくれるジュンヤ様にもう一度キスをすれば、思いの丈をぶつける恐怖は吹き飛んで行った。

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次回久しぶりのエルビスとのイチャイチャ&エルビス視点でのエッチです!
たまには攻め視点もお楽しみください。



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