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魔法学園のモブに転生、した? 5
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寮は狭いとはいえ個室だ。学生は全て平等という理念から、王子も寮に入る以上個室になった。内装は自由にできるという逃げ道を作ることで、建前を守っている。
高位貴族は従者と隣同士で二室をキープし、壁をぶち抜いて従者の部屋をさらに狭くして主人の部屋を広く保つ。
俺は従者もいないしそう金持ちではないから、部屋も至ってノーマルだ。部屋の鍵をポケットから取り出されて、さっさと簡素な寝台に下された。
ディアヴが自分のネクタイを俺に渡す。伯爵家の紋章が端に入っている。
これは婚約中の女生徒に、この子は自分のものだから手を出すなというアピールだ。俺は女生徒じゃない。
「つけていろ。命令だ」
ウッ、叔父に対して命令口調……。前世の俺はムカッ腹を立てているが、今世の俺は素直にこうべを垂れている。だってこの世界や身分は絶対だ。
このネクタイの刺繍は微妙に見える場所に入れられているから、地味な俺の家の刺繍とは違う派手なハイクォーリ家の紋章が入ればバレバレだ。
俺がディアヴのお手つきになったと宣伝して回るような。俺の返事を待たずにディアヴは部屋を出ていく。命令し慣れているお貴族様め。
きっとこれは悪い夢だ。
前世の記憶が蘇って、姉の腐った本と現実が混ざってしまっただけだろう。目が覚めたらいつも通り。ネクタイもいつも通りのはずだ……。
なーんて希望はあえなく潰えた。
目覚めたらいくぶん軽くなった身体と、着替えなかったからグシャグシャの制服、そして派手な刺繍の入ったネクタイという現実が待っていた。
「まじか……ケホッ」
死ぬほど悩んで、俺はいつものタイをつけて部屋を出た。朝食の時間には間に合わなかったから、部屋に常備していたビスケットと水をとりあえず腹に入れる。
そういえば、いつも朝催す便意がなかった。昨日散々やられたから感覚がなくて漏らしたりしてないと思うんだが、大丈夫だろうか。ちょっと不安だ。
そーっと廊下を覗いて、誰もいないのを確認してからゆっくりと授業に向かった。走って行きたかったけれど、腰と足がガクガクしてとても走れる体調じゃなかった。
「すいません、遅刻しました。失礼、します……」
授業の始まっている教師の後ろの扉から、そーっと入ると教室中の視線が集まった。
ディアヴがさっと立ち上がって、俺の近くに来る。目が、目が怖い!!
「今日は休んでいい。ネクタイはどうした」
「え、いや……その……」
同級生のヒソヒソと囁き合う声が広がり始める。注目されるのは慣れていないし、あらぬ誤解を受けていそうで冷や汗がダラダラと流れ出す。
「すごい汗だ。具合が悪いんじゃないか? ディアヴ、お前の叔父だろう。寮まで送ってやれよ」
「え、叔父?」
「叔父さん?」
「殿下、わかりました。先生、よろしいですか」
「もちろんだ。ビチュード、治ってから課題を与える」
自分が王子に認知されていたなんて思いもよらなかった。王子とディアヴは友人だから、ありえなくもない。
最悪のタイミングでディアヴとの関係をクラス中に知られてしまった気がする。刺さる視線に大きなダメージを受けて、すごすごとディアヴに付き添われて教室をあとにした。
その日は何事もなく一日を寝て過ごし、翌日はかなり回復して授業に向かった。
ディアヴが部屋に来た時に侍従(侍従も生徒だ)に命じて、俺のネクタイを全部回収させた。全てハイクォーリ家の刺繍入りネクタイに替えていったから、選択の余地はない。
高位貴族は従者と隣同士で二室をキープし、壁をぶち抜いて従者の部屋をさらに狭くして主人の部屋を広く保つ。
俺は従者もいないしそう金持ちではないから、部屋も至ってノーマルだ。部屋の鍵をポケットから取り出されて、さっさと簡素な寝台に下された。
ディアヴが自分のネクタイを俺に渡す。伯爵家の紋章が端に入っている。
これは婚約中の女生徒に、この子は自分のものだから手を出すなというアピールだ。俺は女生徒じゃない。
「つけていろ。命令だ」
ウッ、叔父に対して命令口調……。前世の俺はムカッ腹を立てているが、今世の俺は素直にこうべを垂れている。だってこの世界や身分は絶対だ。
このネクタイの刺繍は微妙に見える場所に入れられているから、地味な俺の家の刺繍とは違う派手なハイクォーリ家の紋章が入ればバレバレだ。
俺がディアヴのお手つきになったと宣伝して回るような。俺の返事を待たずにディアヴは部屋を出ていく。命令し慣れているお貴族様め。
きっとこれは悪い夢だ。
前世の記憶が蘇って、姉の腐った本と現実が混ざってしまっただけだろう。目が覚めたらいつも通り。ネクタイもいつも通りのはずだ……。
なーんて希望はあえなく潰えた。
目覚めたらいくぶん軽くなった身体と、着替えなかったからグシャグシャの制服、そして派手な刺繍の入ったネクタイという現実が待っていた。
「まじか……ケホッ」
死ぬほど悩んで、俺はいつものタイをつけて部屋を出た。朝食の時間には間に合わなかったから、部屋に常備していたビスケットと水をとりあえず腹に入れる。
そういえば、いつも朝催す便意がなかった。昨日散々やられたから感覚がなくて漏らしたりしてないと思うんだが、大丈夫だろうか。ちょっと不安だ。
そーっと廊下を覗いて、誰もいないのを確認してからゆっくりと授業に向かった。走って行きたかったけれど、腰と足がガクガクしてとても走れる体調じゃなかった。
「すいません、遅刻しました。失礼、します……」
授業の始まっている教師の後ろの扉から、そーっと入ると教室中の視線が集まった。
ディアヴがさっと立ち上がって、俺の近くに来る。目が、目が怖い!!
「今日は休んでいい。ネクタイはどうした」
「え、いや……その……」
同級生のヒソヒソと囁き合う声が広がり始める。注目されるのは慣れていないし、あらぬ誤解を受けていそうで冷や汗がダラダラと流れ出す。
「すごい汗だ。具合が悪いんじゃないか? ディアヴ、お前の叔父だろう。寮まで送ってやれよ」
「え、叔父?」
「叔父さん?」
「殿下、わかりました。先生、よろしいですか」
「もちろんだ。ビチュード、治ってから課題を与える」
自分が王子に認知されていたなんて思いもよらなかった。王子とディアヴは友人だから、ありえなくもない。
最悪のタイミングでディアヴとの関係をクラス中に知られてしまった気がする。刺さる視線に大きなダメージを受けて、すごすごとディアヴに付き添われて教室をあとにした。
その日は何事もなく一日を寝て過ごし、翌日はかなり回復して授業に向かった。
ディアヴが部屋に来た時に侍従(侍従も生徒だ)に命じて、俺のネクタイを全部回収させた。全てハイクォーリ家の刺繍入りネクタイに替えていったから、選択の余地はない。
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