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中庸の地で暮らし始めたトーカは、勉強に運動に精を出していた。最初は知識が断片でしかなかったけれど、断片が繋がって形を成すようになると、途端に面白くなってのめり込んだ。
放っておくと書物庫で時間を忘れるトーカを、サラリは上手に外に誘導して運動もさせている。おかげで、たった数ヶ月でトーカの身体には筋肉がつき、豪華な食事もあるために背もぐんぐん伸びている。
トーカの運動にはリナサナヒメトが付き合うこともあった。サラリはネズミのような外見から変化できないため、人型の影を使って組み手をしていたらリナサナヒメトが乱入したのだ。影に感情はなくとも、トーカに触れる者がいることが許せなかったのもある。
夜は二人の時間だった。時には猫の姿になったヒメサマをトーカが膝に乗せ、ブラッシングしながら話をする。
「ヒメサマ、神格がないと生身で中庸の地で生きるのが難しいって話だけど、それだけ?」
「年も取る。トーカはいま十五だろうが、二十年もすれば衰えはじめるだろう。神格を得れば寿命の尽きる直前まで衰えを知らぬ身体でいられる」
「ヒメサマも年を取るんじゃないの?」
若いトーカは衰えるという感覚がよくわからなかった。勉強して身体を動かして疲れても、美味しいものを食べて眠れば翌日には元気いっぱいだからだ。村にいる間に見送った年寄りは、トーカの記憶にある限り最初から死にかけといって差し支えない状態だった。途中経過がわからないから、人がどうやって衰えるか見当もつかない。
「俺は変わらない。トーカに合わせて姿を変えることはできるから、ここに飽きたら地上でともに暮らそう」
「神様はここにいなきゃいけないんじゃないの?」
「ここはどこでもなく、どこでもある場所だから、天上も地上も地中も、神ならばいつでも来られる」
「門番の鹿はとかは、どうなの?」
「ああ。あれらは獣の姿をしているが精霊に近い生き物だ。中途半端な存在だから中庸の地でしか生きられない、特殊な者たちだ」
「いろんな生き物がいるんだ」
「面白いだろう? 俺の夫になって良かっただろう?」
揺れる尻尾と重ねられた言葉に小さな不安を感じて、トーカは微笑んだ。そんなに心配しなくてもいいのにと。
「何もなくてもヒメサマと一緒にいられれば、おれは楽しい」
「なんて愛おしいんだ、トーカ」
膝から下りたヒメサマが、あっという間に人型に変わる。トーカはいつも変化直後のリナサナヒメトが服を着ていることが不思議だった。猫は服を着ていないはずなのに。トーカはとてもリナサナヒメトの裸を見たかった。
先日は気になりすぎて夢に見たほどだった。互いに裸で抱きしめあって、なんだかとても興奮したところで目が覚めて、下着を濡らしていることに気が付いた。
「え? なにこれ。どうしよう、病気かな」
「トーカ、落ち着け。病気じゃない。トーカの身体が大人になったということだ」
「大人……粗相するのが大人なの?」
大人とはあまりにも情けない生き物ではないかと、トーカが半泣きになる。中庸の地に来てから、精力的に勉強をしていたが、性教育までは進んでいなかった。
「そうじゃない。ここから、排泄物でないもの……子種が出るようになるんだ。女の場合はこれを受け入れて腹で子を育てられるようになる」
「おれ、べつに子ども欲しくないよ。ヒメサマがいればいい」
「子種が出るのは人間の男の身体の仕組みだから、仕方がないんだ。そして若いうちは特に、子種が作り続けられるから、処理したほうがいい」
「処理……どうするの?」
「これを、擦ってやると硬くなるから、子種が出るまで擦り続けるんだ」
汚れたそれを、リナサナヒメトが躊躇いもなく手に取って、大きな手を上下させる。濡れているせいで粘性の音が響いて、トーカは恥ずかしさあまり真っ赤になった。
頭に上った血とは別に、リナサナヒメトが擦る部位にも今までにない、ぞわぞわとする感覚が起こりはじめる。
「ヒ、ヒメサマ、なんか、あ、ん……っ、変、だ」
「トーカ、硬くなってる。自分でも触ってごらん」
「え、なにこれ……ん、あ、やだ、止められない……ん、ん……っあ」
リナサナヒメトに自分のものを握らされ、上から動かし方を教えるように擦られて、背中を駆け上がる何かに怯える間もなく止められなくなった。
「や、あ、あ、だめ、でる、なんか……っ、あああっ!」
ビクビクと体を震わせてから、初めての感覚の余韻にトーカはぐったりとリナサナヒメトに身体を預けた。
「可愛かった、トーカ」
言葉とともに、頸にリナサナヒメトの唇を感じて、まだ絶頂の余韻のある身体がふるえる。
「可愛くない。こんな、我慢できないなんて、みっともないよ」
「俺を愛しているから触れられて感じたんだ。これが嫌いなやつならこうはならない。だから、可愛いんだ」
「そう、なんだ? ヒメサマもおれが触ったらこうなる」
「俺は神だから」
「ならないの?」
「……なる」
途端に、トーカは己の身体の変化よりも、リナサナヒメトの肉体が気になりはじめた。初めての感覚は恐ろしくもあり、気持ちよくもあった。異常なことではないのなら、またしたいと思えるほどだ。
ならば、愛しいリナサナヒメトにも同じようになってもらいたかった。
「だけど、ダメなんだ。トーカ、俺はきっと我慢ができない。トーカにひどいことをしてしまうだろう」
「ひどいこと? ヒメサマにおれをどうにかするなんて無理だよ」
「そうだ。でも、理性をなくしたらどうなるかわからない。神といえど、俺は不完全を是とする生き方をしている。万が一を考えたらダメなんだ」
「そんなに……」
トーカはリナサナヒメトが苦悩している様子に胸が絞られるようだった。同時に、リナサナヒメトの性器に触れたら何が起きるのだろうという好奇心も湧いてしまう。
触れたら手が溶けるとか、出したものが猛毒とか、それなら、何か良い方法がないか調べようと。
放っておくと書物庫で時間を忘れるトーカを、サラリは上手に外に誘導して運動もさせている。おかげで、たった数ヶ月でトーカの身体には筋肉がつき、豪華な食事もあるために背もぐんぐん伸びている。
トーカの運動にはリナサナヒメトが付き合うこともあった。サラリはネズミのような外見から変化できないため、人型の影を使って組み手をしていたらリナサナヒメトが乱入したのだ。影に感情はなくとも、トーカに触れる者がいることが許せなかったのもある。
夜は二人の時間だった。時には猫の姿になったヒメサマをトーカが膝に乗せ、ブラッシングしながら話をする。
「ヒメサマ、神格がないと生身で中庸の地で生きるのが難しいって話だけど、それだけ?」
「年も取る。トーカはいま十五だろうが、二十年もすれば衰えはじめるだろう。神格を得れば寿命の尽きる直前まで衰えを知らぬ身体でいられる」
「ヒメサマも年を取るんじゃないの?」
若いトーカは衰えるという感覚がよくわからなかった。勉強して身体を動かして疲れても、美味しいものを食べて眠れば翌日には元気いっぱいだからだ。村にいる間に見送った年寄りは、トーカの記憶にある限り最初から死にかけといって差し支えない状態だった。途中経過がわからないから、人がどうやって衰えるか見当もつかない。
「俺は変わらない。トーカに合わせて姿を変えることはできるから、ここに飽きたら地上でともに暮らそう」
「神様はここにいなきゃいけないんじゃないの?」
「ここはどこでもなく、どこでもある場所だから、天上も地上も地中も、神ならばいつでも来られる」
「門番の鹿はとかは、どうなの?」
「ああ。あれらは獣の姿をしているが精霊に近い生き物だ。中途半端な存在だから中庸の地でしか生きられない、特殊な者たちだ」
「いろんな生き物がいるんだ」
「面白いだろう? 俺の夫になって良かっただろう?」
揺れる尻尾と重ねられた言葉に小さな不安を感じて、トーカは微笑んだ。そんなに心配しなくてもいいのにと。
「何もなくてもヒメサマと一緒にいられれば、おれは楽しい」
「なんて愛おしいんだ、トーカ」
膝から下りたヒメサマが、あっという間に人型に変わる。トーカはいつも変化直後のリナサナヒメトが服を着ていることが不思議だった。猫は服を着ていないはずなのに。トーカはとてもリナサナヒメトの裸を見たかった。
先日は気になりすぎて夢に見たほどだった。互いに裸で抱きしめあって、なんだかとても興奮したところで目が覚めて、下着を濡らしていることに気が付いた。
「え? なにこれ。どうしよう、病気かな」
「トーカ、落ち着け。病気じゃない。トーカの身体が大人になったということだ」
「大人……粗相するのが大人なの?」
大人とはあまりにも情けない生き物ではないかと、トーカが半泣きになる。中庸の地に来てから、精力的に勉強をしていたが、性教育までは進んでいなかった。
「そうじゃない。ここから、排泄物でないもの……子種が出るようになるんだ。女の場合はこれを受け入れて腹で子を育てられるようになる」
「おれ、べつに子ども欲しくないよ。ヒメサマがいればいい」
「子種が出るのは人間の男の身体の仕組みだから、仕方がないんだ。そして若いうちは特に、子種が作り続けられるから、処理したほうがいい」
「処理……どうするの?」
「これを、擦ってやると硬くなるから、子種が出るまで擦り続けるんだ」
汚れたそれを、リナサナヒメトが躊躇いもなく手に取って、大きな手を上下させる。濡れているせいで粘性の音が響いて、トーカは恥ずかしさあまり真っ赤になった。
頭に上った血とは別に、リナサナヒメトが擦る部位にも今までにない、ぞわぞわとする感覚が起こりはじめる。
「ヒ、ヒメサマ、なんか、あ、ん……っ、変、だ」
「トーカ、硬くなってる。自分でも触ってごらん」
「え、なにこれ……ん、あ、やだ、止められない……ん、ん……っあ」
リナサナヒメトに自分のものを握らされ、上から動かし方を教えるように擦られて、背中を駆け上がる何かに怯える間もなく止められなくなった。
「や、あ、あ、だめ、でる、なんか……っ、あああっ!」
ビクビクと体を震わせてから、初めての感覚の余韻にトーカはぐったりとリナサナヒメトに身体を預けた。
「可愛かった、トーカ」
言葉とともに、頸にリナサナヒメトの唇を感じて、まだ絶頂の余韻のある身体がふるえる。
「可愛くない。こんな、我慢できないなんて、みっともないよ」
「俺を愛しているから触れられて感じたんだ。これが嫌いなやつならこうはならない。だから、可愛いんだ」
「そう、なんだ? ヒメサマもおれが触ったらこうなる」
「俺は神だから」
「ならないの?」
「……なる」
途端に、トーカは己の身体の変化よりも、リナサナヒメトの肉体が気になりはじめた。初めての感覚は恐ろしくもあり、気持ちよくもあった。異常なことではないのなら、またしたいと思えるほどだ。
ならば、愛しいリナサナヒメトにも同じようになってもらいたかった。
「だけど、ダメなんだ。トーカ、俺はきっと我慢ができない。トーカにひどいことをしてしまうだろう」
「ひどいこと? ヒメサマにおれをどうにかするなんて無理だよ」
「そうだ。でも、理性をなくしたらどうなるかわからない。神といえど、俺は不完全を是とする生き方をしている。万が一を考えたらダメなんだ」
「そんなに……」
トーカはリナサナヒメトが苦悩している様子に胸が絞られるようだった。同時に、リナサナヒメトの性器に触れたら何が起きるのだろうという好奇心も湧いてしまう。
触れたら手が溶けるとか、出したものが猛毒とか、それなら、何か良い方法がないか調べようと。
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