18 / 25
18 ”俺”と”ヒューゴ”
しおりを挟む
手枷がごとん、と落ちた。
途端に冴えわたる五感……いや、第六感も冴えている。
封じられていた魔力が解放されて一気に広がろうとするのを、咄嗟に体内に押し込めた。やばいやばい、魔法を暴発させるところだった。
目の前で中年の魔道具師の男が腰を抜かしている。魔力が見えたのだろう。
「悪い。これでも暴発させたことはないから、大丈夫だ」
「あんた……やべぇな」
「だろう? 私は最強なんだ」
美しさも強さも最高だなんて、ダールはなんて幸せものだろう。ダールは俺に出会えたことに感謝するべきだ。毎日しっかり奉仕してもらわなくては。
完全になった自分が心地いいが、久々の魔力制御に少し手間取っていると、魔道具師が外したばかりの手枷を名残惜しそうに一つ差し出してきた。研究したいと言っていたににどういうことだ。
「これ片方だけでもつけておいたほうが楽なんじゃないか?」
目から鱗だ。貴族の家の長子として生まれた俺に、どれほど危険であっても魔力封じの魔道具をつけるなんて選択はなかった。特に帝国では魔力封じの魔道具は、犯罪を犯した魔法使いにしか使用してはならないとされていたからだ。
ダールやその父でも思ったが、スャイハーラはずいぶんと柔軟な考え方をしている。
「そういう手があるか。だが、それは美しくない」
魔道具師が、俺を一個人で認識し気遣ってきたことは喜ばしいが、俺は最強の魔法使いであることと同時に美しさも極まっていることを誇りにしている。
美しい俺に無骨な手枷は、そのミスマッチさを楽しむこともできるだろうが、やはり嫌だ。せっかくの美しさなのだから、さらに高めていきたい。
「自分で作るか?」
「作れるものなのか?」
「おれは魔力が少ないから、理論的に理解していても強い魔道具は作れない。こんな、魔法陣で増幅してやっとだ。だが、あんたなら」
この魔道具師は、どんな魔道具もその機能を見抜く力を持っていると、ダールの父親が自慢していた。相当目と腕がいいのだろう。俺の知らない知識を持っている。そうだ。
「弟子入りする」
「いいのか」
「ちょうどスャイハーラでの仕事をどうするか考えていたところだ」
「そりゃあいい。弟子たちにもいい刺激になるだろう」
「ふっ、私の美しさに気もそぞろにならねばいいな」
「あー……、露出は減らせ」
「嫌だ」
「襲われるぞ」
「この私に触れていいのはダールだけだ」
「……弟子入りしたきゃ服を着込め」
「くっ」
「ダールに新しい服を買わせればいいじゃないか」
「しかたない。そうする」
魔力が戻ってもせいぜい記憶が戻っただけで、人格が変わらなかったことにほっとした。いや、少しだけ露出を恥ずかしいと思い始めている。これは帝国のしっかり服を着込む習慣からの気持ちだろう。
だが、このスャイハーラでは女性も露出が激しい。もともと女性が好きだったというダールに、お前がいま愛しているのは男なのだと日々理解させてやらねばならない。……万が一にもダールがよそ見をしないように。
ダールとの家に近付くにつれて、落ち着かない気分になってくる。
俺は美しい、特別に美しいと言って差しさわりがないだろう。しかし、ダールにとってはそれだけだ。ガダクツク監獄で女性に乱暴をしないために、帝国貴族の犯罪者であるという俺で欲を解消しようとした、ある意味で女性に優しい男だ。身体の相性が良かったからお互いにハマった感じだったが、実はハマったのは俺だけで、ダールは……。
途端に冴えわたる五感……いや、第六感も冴えている。
封じられていた魔力が解放されて一気に広がろうとするのを、咄嗟に体内に押し込めた。やばいやばい、魔法を暴発させるところだった。
目の前で中年の魔道具師の男が腰を抜かしている。魔力が見えたのだろう。
「悪い。これでも暴発させたことはないから、大丈夫だ」
「あんた……やべぇな」
「だろう? 私は最強なんだ」
美しさも強さも最高だなんて、ダールはなんて幸せものだろう。ダールは俺に出会えたことに感謝するべきだ。毎日しっかり奉仕してもらわなくては。
完全になった自分が心地いいが、久々の魔力制御に少し手間取っていると、魔道具師が外したばかりの手枷を名残惜しそうに一つ差し出してきた。研究したいと言っていたににどういうことだ。
「これ片方だけでもつけておいたほうが楽なんじゃないか?」
目から鱗だ。貴族の家の長子として生まれた俺に、どれほど危険であっても魔力封じの魔道具をつけるなんて選択はなかった。特に帝国では魔力封じの魔道具は、犯罪を犯した魔法使いにしか使用してはならないとされていたからだ。
ダールやその父でも思ったが、スャイハーラはずいぶんと柔軟な考え方をしている。
「そういう手があるか。だが、それは美しくない」
魔道具師が、俺を一個人で認識し気遣ってきたことは喜ばしいが、俺は最強の魔法使いであることと同時に美しさも極まっていることを誇りにしている。
美しい俺に無骨な手枷は、そのミスマッチさを楽しむこともできるだろうが、やはり嫌だ。せっかくの美しさなのだから、さらに高めていきたい。
「自分で作るか?」
「作れるものなのか?」
「おれは魔力が少ないから、理論的に理解していても強い魔道具は作れない。こんな、魔法陣で増幅してやっとだ。だが、あんたなら」
この魔道具師は、どんな魔道具もその機能を見抜く力を持っていると、ダールの父親が自慢していた。相当目と腕がいいのだろう。俺の知らない知識を持っている。そうだ。
「弟子入りする」
「いいのか」
「ちょうどスャイハーラでの仕事をどうするか考えていたところだ」
「そりゃあいい。弟子たちにもいい刺激になるだろう」
「ふっ、私の美しさに気もそぞろにならねばいいな」
「あー……、露出は減らせ」
「嫌だ」
「襲われるぞ」
「この私に触れていいのはダールだけだ」
「……弟子入りしたきゃ服を着込め」
「くっ」
「ダールに新しい服を買わせればいいじゃないか」
「しかたない。そうする」
魔力が戻ってもせいぜい記憶が戻っただけで、人格が変わらなかったことにほっとした。いや、少しだけ露出を恥ずかしいと思い始めている。これは帝国のしっかり服を着込む習慣からの気持ちだろう。
だが、このスャイハーラでは女性も露出が激しい。もともと女性が好きだったというダールに、お前がいま愛しているのは男なのだと日々理解させてやらねばならない。……万が一にもダールがよそ見をしないように。
ダールとの家に近付くにつれて、落ち着かない気分になってくる。
俺は美しい、特別に美しいと言って差しさわりがないだろう。しかし、ダールにとってはそれだけだ。ガダクツク監獄で女性に乱暴をしないために、帝国貴族の犯罪者であるという俺で欲を解消しようとした、ある意味で女性に優しい男だ。身体の相性が良かったからお互いにハマった感じだったが、実はハマったのは俺だけで、ダールは……。
42
お気に入りに追加
228
あなたにおすすめの小説
メゴ ~追いやられた神子様と下男の俺~
てんつぶ
BL
ニホンから呼び寄せられた神子様は、おかしな言葉しか喋られない。
そのせいであばら家に追いやられて俺みたいな下男1人しかつけて貰えない。
だけどいつも楽しそうな神子様に俺はどんどん惹かれていくけれど、ある日同僚に襲われてーー
日本人神子(方言)×異世界平凡下男
旧題「メゴ」
水嶋タツキ名義で主催アンソロに掲載していたものです
方言監修してもらいましたがおかしい部分はお目こぼしください。
ゲーム世界の貴族A(=俺)
猫宮乾
BL
妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。
ゲームにはそんな設定無かっただろ!
猫宮乾
BL
大学生の俺は、【月の旋律 ~ 魔法の言葉 ~】というBLゲームのテストのバイトをしている。異世界の魔法学園が舞台で、女性がいない代わりにDomやSubといった性別がある設定のゲームだった。特にゲームが得意なわけでもなく、何周もしてスチルを回収した俺は、やっとその内容をまとめる事に決めたのだが、飲み物を取りに行こうとして階段から落下した。そして気づくと、転生していた。なんと、テストをしていたBLゲームの世界に……名もなき脇役というか、出てきたのかすら不明なモブとして。 ※という、異世界ファンタジー×BLゲーム転生×Dom/Subユニバースなお話です。D/Sユニバース設定には、独自要素がかなり含まれています、ご容赦願います。また、D/Sユニバースをご存じなくても、恐らく特に問題なくご覧頂けると思います。
妹を侮辱した馬鹿の兄を嫁に貰います
ひづき
BL
妹のべルティシアが馬鹿王子ラグナルに婚約破棄を言い渡された。
フェルベードが怒りを露わにすると、馬鹿王子の兄アンセルが命を持って償うと言う。
「よし。お前が俺に嫁げ」
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
王子様のご帰還です
小都
BL
目が覚めたらそこは、知らない国だった。
平凡に日々を過ごし無事高校3年間を終えた翌日、何もかもが違う場所で目が覚めた。
そして言われる。「おかえりなさい、王子」と・・・。
何も知らない僕に皆が強引に王子と言い、迎えに来た強引な婚約者は・・・男!?
異世界転移 王子×王子・・・?
こちらは個人サイトからの再録になります。
十年以上前の作品をそのまま移してますので変だったらすみません。
大魔法使いに生まれ変わったので森に引きこもります
かとらり。
BL
前世でやっていたRPGの中ボスの大魔法使いに生まれ変わった僕。
勇者に倒されるのは嫌なので、大人しくアイテムを渡して帰ってもらい、塔に引きこもってセカンドライフを楽しむことにした。
風の噂で勇者が魔王を倒したことを聞いて安心していたら、森の中に小さな男の子が転がり込んでくる。
どうやらその子どもは勇者の子供らしく…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる