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10 出ようと思えば出られる
しおりを挟む幸い俺は最強の魔法使いだと聞いている。手枷が壊せないなら、両手を斬り落としてしまえばいいんじゃないか。
魔法さえ使えたらどうとでもなる、記憶にはないのにそんな気持ちが止められない。
アイリーンが無事でさえいればいいと穏やかな気持ちでいたのに、まだまだ熱い気持ちがあったようだ。若いのは肉体だけで、精神は枯れているのかと思っていたが、そうではなかった。
「ダールはここを出られたらどうしたい」
「あ? うちは小さな国だが、海の上なら帝国海軍にも負けなかった。これでも大将だったから、俺が海賊扱いされてここに送られたせいで困ってるだろうな。陸上じゃなきゃ俺だってあんなに簡単に捕まったりしなかったのに、嵌められたんだ。出たら速攻で卑怯な帝国のヤロウ共を全員魚の餌にしてやる」
帝国は俺のいた国だ。この監獄の持ち主が帝国なのだから、帝国に恨みのある人間が集まっていることになる。
……こんなところに俺を送るなんて馬鹿だろうか。魔力が戻るにつれて記憶や思考力も戻ってきている。俺は自分に能力があることを思い出してきた。
生まれつき魔力の高い俺は魔法兵団入りが決まっていて、指揮者としての教育を受けている。公爵家を継がない代わりに軍の幹部入りが決まっていたのだ。
魔力を抑える手枷があっても、完全に封じきれていない上、魔力の媒体となる髪も伸ばしっぱなしだ。投獄されてしばらくは食事の世話をする者がいたけれど、ダールが来るようになってからは姿を見なくなった。職務放棄か、ダールに何かされたのか。独房の鍵もダールが持っていて、食事も持ってきてくれる。
ダールは粗暴そうな外見と裏腹に、繊細でマメな男だ。そんなところも良い奴だと思ってしまっているものだから、どうしようもない。
まあとっくに身体から始まる気持ちがあってもいいか、と開き直っているんだが。
しかし魔力と同時に記憶を封じられてみて、自分の本質がこれほど脳天気だとは知らなかった。
もっと真剣に国の未来とか考えていたはずだが、いまはダールとする行為のほうが楽しい。真面目に突っ走って無意識に禁欲しすぎていたのだろうか。
せっかく楽しいことを覚えたところだが、ダールを正しい舞台に送り出してやりたい気持ちのほうが大きくなってしまった。
「ダール、この手枷がなければ私は最強の魔法使いなんだ」
「ふーん」
「手枷を外す手段がないから腕を切り落としてくれれば、ダールを祖国スャイハーラまで送ると誓おう。転移魔法が使えるんだ。ほかに連れて行きたい者がいるならその者も」
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