上 下
10 / 25

10 出ようと思えば出られる

しおりを挟む

 幸い俺は最強の魔法使いだと聞いている。手枷が壊せないなら、両手を斬り落としてしまえばいいんじゃないか。
 魔法さえ使えたらどうとでもなる、記憶にはないのにそんな気持ちが止められない。

 アイリーンが無事でさえいればいいと穏やかな気持ちでいたのに、まだまだ熱い気持ちがあったようだ。若いのは肉体だけで、精神は枯れているのかと思っていたが、そうではなかった。

「ダールはここを出られたらどうしたい」

「あ? うちは小さな国だが、海の上なら帝国海軍にも負けなかった。これでも大将だったから、俺が海賊扱いされてここに送られたせいで困ってるだろうな。陸上じゃなきゃ俺だってあんなに簡単に捕まったりしなかったのに、嵌められたんだ。出たら速攻で卑怯な帝国のヤロウ共を全員魚の餌にしてやる」

 帝国は俺のいた国だ。この監獄の持ち主が帝国なのだから、帝国に恨みのある人間が集まっていることになる。

 ……こんなところに俺を送るなんて馬鹿だろうか。魔力が戻るにつれて記憶や思考力も戻ってきている。俺は自分に能力があることを思い出してきた。
 生まれつき魔力の高い俺は魔法兵団入りが決まっていて、指揮者としての教育を受けている。公爵家を継がない代わりに軍の幹部入りが決まっていたのだ。

 魔力を抑える手枷があっても、完全に封じきれていない上、魔力の媒体となる髪も伸ばしっぱなしだ。投獄されてしばらくは食事の世話をする者がいたけれど、ダールが来るようになってからは姿を見なくなった。職務放棄か、ダールに何かされたのか。独房の鍵もダールが持っていて、食事も持ってきてくれる。

 ダールは粗暴そうな外見と裏腹に、繊細でマメな男だ。そんなところも良い奴だと思ってしまっているものだから、どうしようもない。
 まあとっくに身体から始まる気持ちがあってもいいか、と開き直っているんだが。

 しかし魔力と同時に記憶を封じられてみて、自分の本質がこれほど脳天気だとは知らなかった。
 もっと真剣に国の未来とか考えていたはずだが、いまはダールとする行為のほうが楽しい。真面目に突っ走って無意識に禁欲しすぎていたのだろうか。

 せっかく楽しいことを覚えたところだが、ダールを正しい舞台に送り出してやりたい気持ちのほうが大きくなってしまった。

「ダール、この手枷がなければ私は最強の魔法使いなんだ」

「ふーん」

「手枷を外す手段がないから腕を切り落としてくれれば、ダールを祖国スャイハーラまで送ると誓おう。転移魔法が使えるんだ。ほかに連れて行きたい者がいるならその者も」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

悪役令息に誘拐されるなんて聞いてない!

晴森 詩悠
BL
ハヴィことハヴィエスは若くして第二騎士団の副団長をしていた。 今日はこの国王太子と幼馴染である親友の婚約式。 従兄弟のオルトと共に警備をしていたが、どうやら婚約式での会場の様子がおかしい。 不穏な空気を感じつつ会場に入ると、そこにはアンセルが無理やり床に押し付けられていたーー。 物語は完結済みで、毎日10時更新で最後まで読めます。(全29話+閉話) (1話が大体3000字↑あります。なるべく2000文字で抑えたい所ではありますが、あんこたっぷりのあんぱんみたいな感じなので、短い章が好きな人には先に謝っておきます、ゴメンネ。) ここでは初投稿になりますので、気になったり苦手な部分がありましたら速やかにソッ閉じの方向で!(土下座 性的描写はありませんが、嗜好描写があります。その時は▷がついてそうな感じです。 好き勝手描きたいので、作品の内容の苦情や批判は受け付けておりませんので、ご了承下されば幸いです。

貴方へ愛を伝え続けてきましたが、もう限界です。

あおい
恋愛
貴方に愛を伝えてもほぼ無意味だと私は気づきました。婚約相手は学園に入ってから、ずっと沢山の女性と遊んでばかり。それに加えて、私に沢山の暴言を仰った。政略婚約は母を見て大変だと知っていたので、愛のある結婚をしようと努力したつもりでしたが、貴方には届きませんでしたね。もう、諦めますわ。 貴方の為に着飾る事も、髪を伸ばす事も、止めます。私も自由にしたいので貴方も好きにおやりになって。 …あの、今更謝るなんてどういうつもりなんです?

恋とはどんなものかしら

みおな
恋愛
レティシアは前世の記憶を持ったまま、公爵令嬢として生を受けた。 そこは、前世でプレイした乙女ゲームの世界。しかもヒロインである妹を苛める悪役令嬢として。 このままでは断罪されてしまう。 そして、悪役令嬢は運命に抗っていく。 ***** 読んでくださってる方々、ありがとうございます。 完結はしましたが、番外編を書く可能性のため、完結表示は少し延期します。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

どうやら私は竜騎士様の運命の番みたいです!!

ハルン
恋愛
私、月宮真琴は小さい頃に児童養護施設の前に捨てられていた所を拾われた。それ以来、施設の皆んなと助け合いながら暮らしていた。 だが、18歳の誕生日を迎えたら不思議な声が聞こえて突然異世界にやって来てしまった! 「…此処どこ?」 どうやら私は元々、この世界の住人だったらしい。原因は分からないが、地球に飛ばされた私は18歳になり再び元の世界に戻って来たようだ。 「ようやく会えた。俺の番」 何より、この世界には私の運命の相手がいたのだ。

処理中です...