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 背中に熱を感じてリリアナは目を醒ました。横向きで寝ているはずなのにどうして背中が熱いのだろう、と不思議に思う。
 けれど、熱いのは背中だけではなかった。
 背中全体と、胸元と、腰の辺りに自分のものではない熱がある。

「うひゃっ!?」

 慌てて振り向こうとしたが、胸元の手とがっしりとした脚に身体を固定されて動けない。

「あ、起きた」

 耳元で囁く声。この声の主が今リリアナを拘束、ではなく抱きしめているのは明らかだった。
 昨日の出来事が夢でないのなら、この人は。

「……イノセンシオ、様?」
「俺以外に誰がいるの」

 イノセンシオの声には微かな笑いが含まれている。リリアナを嗤うのではなく愛おしんでくれているような響きがあまりにも幸せすぎて思わず目を閉じてしまう。

「まだ寝ぼけてるみたいだから起こしてあげる」

 リリアナの胸元に置かれたイノセンシオの手が動き、豊かな膨らみを揺らしながら揉みしだく。突然のことにリリアナは面食らって目を見開いた。

「ちょ、え、イノセンシオ様っ」
「昨日いいって言ってくれたのに」
「な、んで」

 なんで覚えてるんですか、とうろたえるリリアナの耳にイノセンシオの声が届く。

「全部覚えてるよ。リリアナが俺のこと好きって言ってくれたことも、俺がリリアナに愛してるとか結婚してとかおっぱい触らせてって言ったことも、全部」

 どうしてこうなった!? 薬の効果切れてるはずなのにこの発言って、鋼の自制心はどこへ行っちゃったの!?

「それとも、昨日の話は全部なかったことにしたほうがいい?」

 イノセンシオの声が少し憂いを帯びた。リリアナは慌てて首を横に振って否定の意を示す。

「リリアナ」

 イノセンシオの腕と脚が緩み、リリアナの身体を転がすようにして向かい合わせにさせる。困ったような、寂しがるような表情のイノセンシオと目が合った。

「すごく大事な話だったから、できれば自白薬なしでリリアナと話したかったな」

 ――気づかれていた。

「あの薬、普通のより弱かったからなんとか覚えていられたけど。普通の薬使われてたらたぶん無理だった」

 薬そのものの効果を弱め、香りで増幅させるという今回の作戦では、イノセンシオの鋼の自制心は見事に飛ばしても記憶を飛ばすことはできなかったらしい。

「……ごめんなさい」

 リリアナは謝ることしかできなかった。イノセンシオはリリアナが正面切って尋ねたとしても誠実に答えてくれただろう。自分の気持ちを隠したまま、卑怯なやり方でイノセンシオを試したことがとても恥ずかしく思えた。

「やったことはどうにもできないから。これからはちゃんと、聞きたいことは聞いて」
「……はい」
「俺が隠し事してるとか嘘ついてるって思った時は自白薬使ってくれていいから。……俺、もうリリアナを不安にさせたくない」

 たぶん普段言ってることか昨日と同じようなことしか言わないと思うけど、と小声で付け足してイノセンシオが笑う。
 昨日と同じようなこと。嬉しいことだろうか。それとも、恋愛小説で多少耐性のついているリリアナでも少し頬を引き攣らせるようなあからさまな発言のことだろうか。
 考えこむリリアナを抱きしめ、イノセンシオが面白がるような声で問いかけてくる。

「昨日言ってなかったこと、聞かせてあげようか?」

 リリアナは黙って頷く。今まで話し足りなかった分どんな形であってもイノセンシオの言葉をたくさん聞きたいと思った。

「リリアナの中、俺でいっぱいにしたいな」
「え」
「中に俺の全部挿れて、奥に全部出して。リリアナの空っぽのところ、全部俺のでいっぱいにしたい」

 言いながらイノセンシオがリリアナの腰に手を回して下半身を引き寄せ、昨日と同じくらいの硬度になったそれを押しつけてくる。

「なんで、こんな」

 ほんの少し胸を触っただけなのに、と聞きたかったがさすがに憚られた。リリアナの疑問を察したらしいイノセンシオが解説してくれる。

「昨日これからって思った瞬間意識飛ばして、朝起きたらリリアナが俺におっぱい押し付けながら隣で寝てて。これで勃たないわけない」

 確かに昨日と同じような発言だ、とリリアナは変なところで感心してしまう。

「リリアナ、できるだけ痛くないようにするから最後までしよう? 今日俺もリリアナも予定ないからいっぱい時間かけて慣らしてあげられるし、このままお預けはさすがにキツい。お願いだから」

 鋼の自制心、改め、絶対に今日したいという鋼の意志を持つ男となったイノセンシオがリリアナに怒涛の勢いで訴えかけてくる。

 どうしてこうなった。

 もう何度目かわからなくなった疑問をリリアナは心の中で呟く。

 四年間片思いをしてきたけどイノセンシオ様がこんな方だったなんて思ってもみなかった。
 一見まともそうに見えるのに実はおっぱい星人で、ちょっと、じゃなくてかなり品がない言い方でわたしを欲しがって、わたしを愛していると言ってくれる変わり者だったなんて。
 この人の相手が務まるのはきっと――頭空っぽにして受け入れられるわたしだけだ。
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