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5.望み
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口づけを終える瞬間、イノセンシオがリリアナの下唇をぺろ、と舐めた。予想外のことにぴくりと身体を震わせたリリアナの身体にもう一度腕が回される。顔は、相変わらず胸に埋められたままだ。
……こういう男性は、東の国の恋愛小説では『おっぱい星人』というのだと書かれていたわね。
「……あー、どうしよ」
イノセンシオの呟きに、リリアナの意識が引き戻される。
「おっぱい触りたくなってきた」
「え」
リリアナは絶句した。さっきまでの甘い雰囲気がぶち壊しだ。どうしてこうなった、と言う思いが頭の中をぐるぐる回るが、そもそもこうなったのは全部リリアナのせいだと思い至ったので何も言えない。
イノセンシオの鋼の自制心は薬と、おそらくはリリアナの胸の柔らかさのせいで完全にどろんどろんにとろけてしまっているらしい。
「お願いリリアナ。ちょっと、じゃなくてしっかりめに触るだけだから。おっぱいで俺の挟んで扱いてほしいとかできれば挿れさせてほしいとか思ってるけどそれは我慢するからせめて触らせて」
どろんどろんにとろけた声とは正反対の、さっきからリリアナの太もものあたりに押しつけられている硬い何か。それの正体は恋愛小説で学習済だし、それがこの状態ということはイノセンシオの準備はほぼできあがっているということを示しているので――リリアナの胸を触るだけで終わるはずがないということもリリアナは知識としては知っている。
そして、リリアナはイノセンシオとそうなることをこの四年間ずっと望んでいたわけで。
リリアナは腕を動かしてイノセンシオの頭を抱いた。イノセンシオがリリアナを抱く腕にも力がこもる。
イノセンシオ様がわたしとしたいこと、全部。
「……いいですよ」
リリアナがそっと囁いたその瞬間、急に部屋が暗くなった。慌てて脇机に目を向けるが当然そちらも暗い。蝋燭が燃え尽きたのだ。
ということは、薬の効果ももうおしまい。
「消えちゃいましたね」
身じろぎひとつしないイノセンシオにリリアナは声をかけた。なんだかイノセンシオの頭が重くなったような気がするが、まさか。
どうしよう、窒息させちゃったかも!?
以前読んだ小説にそういう描写があった。そのときの男性は窒息しそうと言いながらとても悦んでいたはずなので、イノセンシオなら同じような反応をしてくれると思ったのに。
「イノセンシオ様?」
リリアナはゆさゆさとイノセンシオの身体を揺さぶる。リリアナを抱いていた腕から力が抜け、顔が少し見えるようになる。
イノセンシオはとても幸せそうな表情で寝息を立てていた。
どうしてこうなった!?
本日三度目のリリアナの心の叫びが、頭の中に響き渡る。
普通これからって時に寝る? それに、こういうのって女性が寝てしまって男性が『お預け』されるのがお約束って決まってるでしょう?
……せっかくイノセンシオ様とできる、って思ったのに。
唇を尖らせるリリアナの頭の中に、作戦会議中に魔女から聞かされた話が唐突に蘇ってきた。
『リリアナ様、自白薬は心身への負担が大きいため使われた者は大抵意識を失うようにして眠り、目覚めた時には何も覚えていないことが多いです。イノセンシオ様が急に倒れたり次の日に何も覚えていなかったとしても驚いてはいけませんよ』
思い出すうちに冷静さが戻ってきた。確か今日は軍の演習で疲れて帰ってくる日で、だからこそ決行日に選んだのだ。疲れているのに思い込みで変なことをして迷惑をかけてしまったことに今になって罪悪感を覚える。
「……ごめんなさい」
そう呟いてリリアナはイノセンシオの髪を撫でた。
せめて、ゆっくり寝かせてあげないと。
よいしょ、と声を出しながらリリアナは大きくて重いイノセンシオの身体を寝台の上に転がす。寝所から出ようかと思って身体を起こしたところで、そもそも目的を達成した後どうやって部屋から出るかの打ち合わせをしていなかったことに気づいて青ざめる。下手に出ようとして誰かに見咎められたら大変だ。
……これはもう、フラビアとニコラスに頑張ってもらうしかない。
リリアナが戻らなければフラビアとニコラスは不測の事態が起きたことを察してくれる。あの兄妹はどちらも主を大切にしているから、リリアナとイノセンシオの名誉が傷つかないような立ち回りをしてくれるはずだった。
リリアナはイノセンシオの傍にころりと横たわり、できるだけ隙間がないように身体を近づける。
「イノセンシオ様、おやすみなさい」
囁くように挨拶をするとイノセンシオの口元が少し緩んだように見えた。
イノセンシオが忘れてしまったとしてもいい。
今夜見たこの表情を、交わした会話を自分だけは一生忘れないでおこうとリリアナは心に決めて目を閉じた。
……こういう男性は、東の国の恋愛小説では『おっぱい星人』というのだと書かれていたわね。
「……あー、どうしよ」
イノセンシオの呟きに、リリアナの意識が引き戻される。
「おっぱい触りたくなってきた」
「え」
リリアナは絶句した。さっきまでの甘い雰囲気がぶち壊しだ。どうしてこうなった、と言う思いが頭の中をぐるぐる回るが、そもそもこうなったのは全部リリアナのせいだと思い至ったので何も言えない。
イノセンシオの鋼の自制心は薬と、おそらくはリリアナの胸の柔らかさのせいで完全にどろんどろんにとろけてしまっているらしい。
「お願いリリアナ。ちょっと、じゃなくてしっかりめに触るだけだから。おっぱいで俺の挟んで扱いてほしいとかできれば挿れさせてほしいとか思ってるけどそれは我慢するからせめて触らせて」
どろんどろんにとろけた声とは正反対の、さっきからリリアナの太もものあたりに押しつけられている硬い何か。それの正体は恋愛小説で学習済だし、それがこの状態ということはイノセンシオの準備はほぼできあがっているということを示しているので――リリアナの胸を触るだけで終わるはずがないということもリリアナは知識としては知っている。
そして、リリアナはイノセンシオとそうなることをこの四年間ずっと望んでいたわけで。
リリアナは腕を動かしてイノセンシオの頭を抱いた。イノセンシオがリリアナを抱く腕にも力がこもる。
イノセンシオ様がわたしとしたいこと、全部。
「……いいですよ」
リリアナがそっと囁いたその瞬間、急に部屋が暗くなった。慌てて脇机に目を向けるが当然そちらも暗い。蝋燭が燃え尽きたのだ。
ということは、薬の効果ももうおしまい。
「消えちゃいましたね」
身じろぎひとつしないイノセンシオにリリアナは声をかけた。なんだかイノセンシオの頭が重くなったような気がするが、まさか。
どうしよう、窒息させちゃったかも!?
以前読んだ小説にそういう描写があった。そのときの男性は窒息しそうと言いながらとても悦んでいたはずなので、イノセンシオなら同じような反応をしてくれると思ったのに。
「イノセンシオ様?」
リリアナはゆさゆさとイノセンシオの身体を揺さぶる。リリアナを抱いていた腕から力が抜け、顔が少し見えるようになる。
イノセンシオはとても幸せそうな表情で寝息を立てていた。
どうしてこうなった!?
本日三度目のリリアナの心の叫びが、頭の中に響き渡る。
普通これからって時に寝る? それに、こういうのって女性が寝てしまって男性が『お預け』されるのがお約束って決まってるでしょう?
……せっかくイノセンシオ様とできる、って思ったのに。
唇を尖らせるリリアナの頭の中に、作戦会議中に魔女から聞かされた話が唐突に蘇ってきた。
『リリアナ様、自白薬は心身への負担が大きいため使われた者は大抵意識を失うようにして眠り、目覚めた時には何も覚えていないことが多いです。イノセンシオ様が急に倒れたり次の日に何も覚えていなかったとしても驚いてはいけませんよ』
思い出すうちに冷静さが戻ってきた。確か今日は軍の演習で疲れて帰ってくる日で、だからこそ決行日に選んだのだ。疲れているのに思い込みで変なことをして迷惑をかけてしまったことに今になって罪悪感を覚える。
「……ごめんなさい」
そう呟いてリリアナはイノセンシオの髪を撫でた。
せめて、ゆっくり寝かせてあげないと。
よいしょ、と声を出しながらリリアナは大きくて重いイノセンシオの身体を寝台の上に転がす。寝所から出ようかと思って身体を起こしたところで、そもそも目的を達成した後どうやって部屋から出るかの打ち合わせをしていなかったことに気づいて青ざめる。下手に出ようとして誰かに見咎められたら大変だ。
……これはもう、フラビアとニコラスに頑張ってもらうしかない。
リリアナが戻らなければフラビアとニコラスは不測の事態が起きたことを察してくれる。あの兄妹はどちらも主を大切にしているから、リリアナとイノセンシオの名誉が傷つかないような立ち回りをしてくれるはずだった。
リリアナはイノセンシオの傍にころりと横たわり、できるだけ隙間がないように身体を近づける。
「イノセンシオ様、おやすみなさい」
囁くように挨拶をするとイノセンシオの口元が少し緩んだように見えた。
イノセンシオが忘れてしまったとしてもいい。
今夜見たこの表情を、交わした会話を自分だけは一生忘れないでおこうとリリアナは心に決めて目を閉じた。
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