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三上さんとメモ帳
エピローグ
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「……というわけで、これが私からのお土産です」
「え! お土産なんて買ってきてくれたの!?」
三上が机の上に置いたのは、薄い長方形の紙袋だ。
先日二人で行ったショッピングモールにて、渋谷に何か買っていってやりたいと彼女が言うので、一人一つ、贈り物を購入していたのだった。
ちなみに、彼女が何を買ったのかは俺も知らない。
「ありがとう~! ……早速開けていい?」
「もちろんです」
「やったー!」と両手を天に突き上げ、意気揚々と紙袋を手に取る。
贈り物をした側は、それを喜んでもらえるかと固唾を飲んで見守っていた。
緊張せずとも、渋谷ならどんなものでも喜んでくれそうな気がするが。
彼女は紙袋に手を入れ、ゆっくりとそれを取り出す。
「あ! これって!」
「はい。前にメモ帳が欲しいって言ってたから、私とお揃いのを買ってきました」
メモ帳か。普段対して板書もしていない渋谷がメモをとる場面が想像つかないが、とにかく良い贈り物だ。
「澪……すっごく嬉しい! ありがとう!」
熊のような大ぶりなモーションで三上に抱きつき、右へ左へと揺れている。
学内人気トップの2人がじゃれているとあって、その癒し効果は、アロマやらキャンドルやらを遥かに超えているだろう。
「嬉しいよ~大切に保管しておくね!」
「ちゃんと使ってください~」
「冗談冗談! 絶対使い切るから!」
しかし、俺の心に関しては、蝋燭のように……むしろ焚き火のように、メラメラと燃え上がっていた。
……羨ましい。
三上にまんざらでもなさそうな笑みを浮かべさせていることも羨ましいし、お揃いのメモ帳を貰っていることも羨ましい。
もちろん真面目な嫉妬ではないのだが。
……さて、次は俺の番だな。
「仲良しのところを邪魔して悪いけど、これが俺のお土産だ」
俺はトートバッグから、三上の渡した紙袋よりさらに薄い、厚紙のカードを取り出す。
「なおちゃんも買ってきてくれたの!? 気がきくじゃ~ん!」
「……やっぱり返してもらっていいか?」
「うそ! ごめん! 感謝してます!」
俺が手を引っ込めるより先に、目にも止まらぬ速さでカードを奪い取られてしまった。
「それで、これって何?」
「その厚紙を開いてみてくれ。ぶったまげるぞ」
「わかった……って、なにこれ……?」
彼女が厚紙を開くと、そこには一枚の、キラキラ煌めくシールが。
「これは妖怪君シールだ。ほら、最近流行りの。しかも、ちゃんと妖怪君を引き当てたんだぞ?」
妖怪君。近頃老若男女に人気の、妖怪をモチーフにした冒険アニメだ。
主人公は人間を夢見る妖怪で、彼が人間の少年と共に各地で悪さをする妖怪を退治する……というものなのだが、これがまた面白い。
一見すると子供向けの作品に思えるが、その裏側には差別やアイデンティティの確立など、現代社会に深く通ずるテーマがあるのだ。
ちなみに俺は、ゲーム版もプレイ済みだ。
「……ねぇ、これ流行ってたのって、私たちが高校生になりたての頃だよ……?」
「そんなはずないだろ? そんな昔の作品だったら、もう店に置いてない。渋谷、エイプリルフールはとっくに終わったぞ」
ちなみに、嘘をついていいのは午前中だけらしい。
「いや、そこまでボケてないから……このシール、一体どこで買ったわけ?」
「駄菓子屋の前に置いてあったステッカーのガチャガチャ」
「それ昔のやつかアメリカのシールしか置いてないやつじゃん!」
俺は現在進行形で、ナウなヤングに流行っている作品だと思っていたのだが、どうやら世間の認識では既に「妖怪君」は終わってしまっているらしい。
こうやって人間から徐々に忘れ去られていって、彼らは身近なものから得体の知れない過去の遺物へと変化していくんだな。
流行の波が激しい、人間の世の儚さよ……。
「まぁでも、全然可愛いしありがと! 良い感じの貼る場所見つけたら報告する!」
「そうしてくれ。スマホの裏とかいいんじゃないか?」
「それはまぁ……うん、考えとくよ……」
なんだ、スマホの裏は嫌なのか。
こんなに可愛いのに勿体無いな、妖怪君。
「あ、そうそう。私も二人にお土産話があるんだよね」
「土産話?」
「わぁ、気になります」
口ぶりから暗い内容ではないとわかるし、おそらく仕事関係ではないだろうか。
メモ帳とステッカーに並ぶほどだ。さぞかし重大な内容なのだろう。
渋谷は両腕を組み、もったいつけたように口を開く。
「ふっふっふっ……実は私…………ドラマ出演が決まりそうです!」
「おぉ! すごいじゃないか!」
「おめでとうございます~!」
予想以上のビッグニュースに、思わず声を大きくしてしまった。
いやしかし、これは大いに喜ぶべきことである。
今まで雑誌が主な戦場だった渋谷が、ついにテレビへと進出するのだ。
静画が動画と言われれば、その偉大さがより伝わるだろう。
俺たち二人は、拍手と称賛の嵐を彼女にぶつける。
「と、友達にお祝いされるのって、思った以上に恥ずかしいな……」
「いやでも、本当にすごいと思うよ。おめでとう」
「こういう時だけ真面目な顔しないで! 照れるから!」
……俺は常に真面目なんだが。
「ドラマに出るってことは、毎週のように美奈ちゃんをテレビで見れるってことですか?」
「まぁ、詳しいことはまだ決まってないし、あんまり言えないんだけど……多分?」
「おぉ!」と、俺たちの間からさらに歓声が上がる。
今までの渋谷もそうだったが、ついに本格的に「芸能人」という感じだ。
もしかしたら、学内で彼女の周りにファンが集まり、ゲリラにして強制的なサイン会が、エブリデイ開かれるかもしれない。
きっと俺は、熱心なファンによって、半ば無理やり列の整備を担当させられるだろう。
その分渋谷に給料を貰わないといけない。
「毎週グループに感想を送らないとな」
「そうですね。スクショもたくさんしちゃいます」
「ハッシュタグもつけて投稿するか」
「そこまでしなくていいからね!? まぁ、また詳しいことが決まったら言うから、楽しみにしてて!」
まるで太陽が微笑んでいるかのような、そんな溌剌とした笑顔だ。
俺には芸能界のことはとんとわからないが、おそらくこれから渋谷は、さらに活躍の場を広げていくのだろう。
それは喜ばしいことであり、祝福すべきことである。
しかし、栄華を感じさせるドラマへの出演が、反対に彼女の身に危険を及ぼすことになると、俺たちはまだ知る由もなかった――。
「え! お土産なんて買ってきてくれたの!?」
三上が机の上に置いたのは、薄い長方形の紙袋だ。
先日二人で行ったショッピングモールにて、渋谷に何か買っていってやりたいと彼女が言うので、一人一つ、贈り物を購入していたのだった。
ちなみに、彼女が何を買ったのかは俺も知らない。
「ありがとう~! ……早速開けていい?」
「もちろんです」
「やったー!」と両手を天に突き上げ、意気揚々と紙袋を手に取る。
贈り物をした側は、それを喜んでもらえるかと固唾を飲んで見守っていた。
緊張せずとも、渋谷ならどんなものでも喜んでくれそうな気がするが。
彼女は紙袋に手を入れ、ゆっくりとそれを取り出す。
「あ! これって!」
「はい。前にメモ帳が欲しいって言ってたから、私とお揃いのを買ってきました」
メモ帳か。普段対して板書もしていない渋谷がメモをとる場面が想像つかないが、とにかく良い贈り物だ。
「澪……すっごく嬉しい! ありがとう!」
熊のような大ぶりなモーションで三上に抱きつき、右へ左へと揺れている。
学内人気トップの2人がじゃれているとあって、その癒し効果は、アロマやらキャンドルやらを遥かに超えているだろう。
「嬉しいよ~大切に保管しておくね!」
「ちゃんと使ってください~」
「冗談冗談! 絶対使い切るから!」
しかし、俺の心に関しては、蝋燭のように……むしろ焚き火のように、メラメラと燃え上がっていた。
……羨ましい。
三上にまんざらでもなさそうな笑みを浮かべさせていることも羨ましいし、お揃いのメモ帳を貰っていることも羨ましい。
もちろん真面目な嫉妬ではないのだが。
……さて、次は俺の番だな。
「仲良しのところを邪魔して悪いけど、これが俺のお土産だ」
俺はトートバッグから、三上の渡した紙袋よりさらに薄い、厚紙のカードを取り出す。
「なおちゃんも買ってきてくれたの!? 気がきくじゃ~ん!」
「……やっぱり返してもらっていいか?」
「うそ! ごめん! 感謝してます!」
俺が手を引っ込めるより先に、目にも止まらぬ速さでカードを奪い取られてしまった。
「それで、これって何?」
「その厚紙を開いてみてくれ。ぶったまげるぞ」
「わかった……って、なにこれ……?」
彼女が厚紙を開くと、そこには一枚の、キラキラ煌めくシールが。
「これは妖怪君シールだ。ほら、最近流行りの。しかも、ちゃんと妖怪君を引き当てたんだぞ?」
妖怪君。近頃老若男女に人気の、妖怪をモチーフにした冒険アニメだ。
主人公は人間を夢見る妖怪で、彼が人間の少年と共に各地で悪さをする妖怪を退治する……というものなのだが、これがまた面白い。
一見すると子供向けの作品に思えるが、その裏側には差別やアイデンティティの確立など、現代社会に深く通ずるテーマがあるのだ。
ちなみに俺は、ゲーム版もプレイ済みだ。
「……ねぇ、これ流行ってたのって、私たちが高校生になりたての頃だよ……?」
「そんなはずないだろ? そんな昔の作品だったら、もう店に置いてない。渋谷、エイプリルフールはとっくに終わったぞ」
ちなみに、嘘をついていいのは午前中だけらしい。
「いや、そこまでボケてないから……このシール、一体どこで買ったわけ?」
「駄菓子屋の前に置いてあったステッカーのガチャガチャ」
「それ昔のやつかアメリカのシールしか置いてないやつじゃん!」
俺は現在進行形で、ナウなヤングに流行っている作品だと思っていたのだが、どうやら世間の認識では既に「妖怪君」は終わってしまっているらしい。
こうやって人間から徐々に忘れ去られていって、彼らは身近なものから得体の知れない過去の遺物へと変化していくんだな。
流行の波が激しい、人間の世の儚さよ……。
「まぁでも、全然可愛いしありがと! 良い感じの貼る場所見つけたら報告する!」
「そうしてくれ。スマホの裏とかいいんじゃないか?」
「それはまぁ……うん、考えとくよ……」
なんだ、スマホの裏は嫌なのか。
こんなに可愛いのに勿体無いな、妖怪君。
「あ、そうそう。私も二人にお土産話があるんだよね」
「土産話?」
「わぁ、気になります」
口ぶりから暗い内容ではないとわかるし、おそらく仕事関係ではないだろうか。
メモ帳とステッカーに並ぶほどだ。さぞかし重大な内容なのだろう。
渋谷は両腕を組み、もったいつけたように口を開く。
「ふっふっふっ……実は私…………ドラマ出演が決まりそうです!」
「おぉ! すごいじゃないか!」
「おめでとうございます~!」
予想以上のビッグニュースに、思わず声を大きくしてしまった。
いやしかし、これは大いに喜ぶべきことである。
今まで雑誌が主な戦場だった渋谷が、ついにテレビへと進出するのだ。
静画が動画と言われれば、その偉大さがより伝わるだろう。
俺たち二人は、拍手と称賛の嵐を彼女にぶつける。
「と、友達にお祝いされるのって、思った以上に恥ずかしいな……」
「いやでも、本当にすごいと思うよ。おめでとう」
「こういう時だけ真面目な顔しないで! 照れるから!」
……俺は常に真面目なんだが。
「ドラマに出るってことは、毎週のように美奈ちゃんをテレビで見れるってことですか?」
「まぁ、詳しいことはまだ決まってないし、あんまり言えないんだけど……多分?」
「おぉ!」と、俺たちの間からさらに歓声が上がる。
今までの渋谷もそうだったが、ついに本格的に「芸能人」という感じだ。
もしかしたら、学内で彼女の周りにファンが集まり、ゲリラにして強制的なサイン会が、エブリデイ開かれるかもしれない。
きっと俺は、熱心なファンによって、半ば無理やり列の整備を担当させられるだろう。
その分渋谷に給料を貰わないといけない。
「毎週グループに感想を送らないとな」
「そうですね。スクショもたくさんしちゃいます」
「ハッシュタグもつけて投稿するか」
「そこまでしなくていいからね!? まぁ、また詳しいことが決まったら言うから、楽しみにしてて!」
まるで太陽が微笑んでいるかのような、そんな溌剌とした笑顔だ。
俺には芸能界のことはとんとわからないが、おそらくこれから渋谷は、さらに活躍の場を広げていくのだろう。
それは喜ばしいことであり、祝福すべきことである。
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