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三上さんとメモ帳
モバイルバッテリーを貸してほしい その2
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このゲームのホーム画面――待ち受けみたいなものだ――に表示されるキャラクターは、プレイヤー一人一人が自由に設定する事ができ、基本誰もが自分の推しをそこに据えるのだ。
毎晩帰ると最愛の妻がいるように、アプリを開けば推しに出迎えられるとあれば、プレイする気も増すというものだろう。
この機能は、最近のスマホゲームにはマストだとも言える。
そして、俺が設定しているのは、黒髪で猫の様に涼しげな目元をしているクール系の女の子。
つまり……三上そっくりなのだ。
もちろんこれはそういう事なんだが、だからこそ、彼女に見られるわけにはいかない。
三上に見られたが最後、自分を意識したキャラクターを推していると、ドン引きされて嫌われてしまうだろう。
『え……黒木君、気持ち悪いです。なんで私に似てる女の子を設定してるんですか? もしかして私のこと……今後は近付かないでもらえますか? 美奈ちゃんにも伝えておきますから」
という台詞が脳内で再生される。
不潔なものを見るような、俺を見下した冷めた瞳。
そこからはもう、なんの楽しみもない灰色の大学生活。
……ちょーっとだけ言われてみたいのは内緒だが、これはあくまで妄想上だから楽しめるもの。
とにかく、この醜態を彼女に晒すのだけは避けたいのだが……。
「どうしたんですか?」
興味ありげにこちらに身体を寄せてくる三上が可愛すぎて、とてもじゃないがスマホを守り通せそうにない。
たまにこうやって甘えるみたいに近づいて来るのが、本当に猫の様だ。
猫を飼っている人なら分かると思う。
可愛らしく首をかしげる仕草を見てしまうと、それがたとえ狙ってのものだとしても、何でもしてやりたくなってしまうのだ。
昔友人の家で飼われている猫と遊んだ時、心底実感した。
「あ……だめだったら大丈夫です。気にしないでください」
あぁ……外見上は何も気にしていないふうだが、明らかにシュンとしている。
三上のことが嫌なんじゃない……しょうがない、もうどうにでもなれだ。
決心して、スマホの電源を入れる。
そしてアプリを開くと、いつも通り儚げな俺の推しが出迎えてくれた。
「……ほら、こういうゲームだ」
心の中で俺の煌めく大学生活に別れを告げると、ゆっくりと三上の方にスマホを傾けた。
「わぁ。可愛い女の子ですね」
「そ、そうだろ? なんていうか一応、推しっていうか……」
「……そうなんですね。すごく可愛いと思います」
テンパって余計な情報まで教えてしまったが、どうやら引かれてはいない……のか?
一瞬妙な間があった気がするが、きっと俺の勘違いだ。そうであってくれ。
てっきり、話はこれでおしまいかと思ったが、三上は予想以上にこのアプリに興味を持ってるようで、細くしなやかな指をスマホに向ける。
「この子はなんて名前なんですか?」
「えっとだな、ミャオちゃんだ……」
「……そうなんですね。……ミャオちゃん……」
やばい、名前まで似ているのを忘れていた。
澪にミャオちゃんは、これはもう製作者が三上のファンだとしか思えない。
あれか、もしかしてもう一人の俺的な存在がこのゲームを作ったのか?
製作過程はともかく、この状況は本当にまずい。
誰か、俺を助けてくれる救世主は――。
『ねぇ君、私が君を幸せにしてあげるよ。だから、目移りしちゃ……ダメだよ?』
スマホからはミャオちゃんの、抑揚が少ないながらも重い愛を感じさせるセリフが発せられていた。
――終わった。
普段はニヤニヤしながら画面をタップするところだが、俺の指は、全身が凍ってしまったかのように動かない。
いっそ、このまま時が止まってしまえばいいのにと、少女漫画の主人公のような言葉が脳裏に浮かぶ。
ミャオちゃんよ。その申し出はありがたいけどね、今はちょっと待ってほしかったな。
『そんなこと言って、本当は私のこと大好きなんでしょ? この髪だって、服だって、全部君の好みだもんね?』
なんの奇跡か、誰も画面をタップしていないにも関わらず、ミャオちゃんは俺に語りかけた。
好みだけどね?
でも、今じゃないんだよ……せめて帰るまで待っていてほしかった……。
毎晩帰ると最愛の妻がいるように、アプリを開けば推しに出迎えられるとあれば、プレイする気も増すというものだろう。
この機能は、最近のスマホゲームにはマストだとも言える。
そして、俺が設定しているのは、黒髪で猫の様に涼しげな目元をしているクール系の女の子。
つまり……三上そっくりなのだ。
もちろんこれはそういう事なんだが、だからこそ、彼女に見られるわけにはいかない。
三上に見られたが最後、自分を意識したキャラクターを推していると、ドン引きされて嫌われてしまうだろう。
『え……黒木君、気持ち悪いです。なんで私に似てる女の子を設定してるんですか? もしかして私のこと……今後は近付かないでもらえますか? 美奈ちゃんにも伝えておきますから」
という台詞が脳内で再生される。
不潔なものを見るような、俺を見下した冷めた瞳。
そこからはもう、なんの楽しみもない灰色の大学生活。
……ちょーっとだけ言われてみたいのは内緒だが、これはあくまで妄想上だから楽しめるもの。
とにかく、この醜態を彼女に晒すのだけは避けたいのだが……。
「どうしたんですか?」
興味ありげにこちらに身体を寄せてくる三上が可愛すぎて、とてもじゃないがスマホを守り通せそうにない。
たまにこうやって甘えるみたいに近づいて来るのが、本当に猫の様だ。
猫を飼っている人なら分かると思う。
可愛らしく首をかしげる仕草を見てしまうと、それがたとえ狙ってのものだとしても、何でもしてやりたくなってしまうのだ。
昔友人の家で飼われている猫と遊んだ時、心底実感した。
「あ……だめだったら大丈夫です。気にしないでください」
あぁ……外見上は何も気にしていないふうだが、明らかにシュンとしている。
三上のことが嫌なんじゃない……しょうがない、もうどうにでもなれだ。
決心して、スマホの電源を入れる。
そしてアプリを開くと、いつも通り儚げな俺の推しが出迎えてくれた。
「……ほら、こういうゲームだ」
心の中で俺の煌めく大学生活に別れを告げると、ゆっくりと三上の方にスマホを傾けた。
「わぁ。可愛い女の子ですね」
「そ、そうだろ? なんていうか一応、推しっていうか……」
「……そうなんですね。すごく可愛いと思います」
テンパって余計な情報まで教えてしまったが、どうやら引かれてはいない……のか?
一瞬妙な間があった気がするが、きっと俺の勘違いだ。そうであってくれ。
てっきり、話はこれでおしまいかと思ったが、三上は予想以上にこのアプリに興味を持ってるようで、細くしなやかな指をスマホに向ける。
「この子はなんて名前なんですか?」
「えっとだな、ミャオちゃんだ……」
「……そうなんですね。……ミャオちゃん……」
やばい、名前まで似ているのを忘れていた。
澪にミャオちゃんは、これはもう製作者が三上のファンだとしか思えない。
あれか、もしかしてもう一人の俺的な存在がこのゲームを作ったのか?
製作過程はともかく、この状況は本当にまずい。
誰か、俺を助けてくれる救世主は――。
『ねぇ君、私が君を幸せにしてあげるよ。だから、目移りしちゃ……ダメだよ?』
スマホからはミャオちゃんの、抑揚が少ないながらも重い愛を感じさせるセリフが発せられていた。
――終わった。
普段はニヤニヤしながら画面をタップするところだが、俺の指は、全身が凍ってしまったかのように動かない。
いっそ、このまま時が止まってしまえばいいのにと、少女漫画の主人公のような言葉が脳裏に浮かぶ。
ミャオちゃんよ。その申し出はありがたいけどね、今はちょっと待ってほしかったな。
『そんなこと言って、本当は私のこと大好きなんでしょ? この髪だって、服だって、全部君の好みだもんね?』
なんの奇跡か、誰も画面をタップしていないにも関わらず、ミャオちゃんは俺に語りかけた。
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