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第2章 夏と奉仕
友達
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KLの教場に向かう道すがら、見知った顔を見つけた。
彼は派手な見た目の女子生徒と話していて、やがて手を振り合って別れる。
「もしかして、夕莉に紹介してもらったのか?」
「おぉ!? 瑠凪か、びっくりさせんなよな!」
死角から声をかけてやると、楽人は飛び上がって驚く。
「そうそう、この間一回飯行ったんだよ。それがもうめちゃくちゃ楽しくてさ、今日もお昼一緒に食べて……ついに春が来たのかもしれん」
「やったな。筋肉は役に立ってるか?」
「筋肉好きなんだってさ、あの子。今まで鍛えてきたのはこのためだったんだな……」
「ピチュランダのためだろ」
未だにピチュランダと筋肉の関係性がわからないが、スポーツには総じて屈強な肉体が必要なんだろう。
「あ、そうだ。今度ダブルデートするのはどうだ? 俺とあの子、瑠凪と七緒ちゃんでさ」
「却下。楽人と七緒が手を組んだら1対2対1になるからな。厄介この上ない」
「えぇ~、いいじゃんかよぉ~」
俺の周りを凄まじい速度で回りながら拝み倒してくるが、決意は変わらない。
「なんだなんだ、俺も入れてくれよ」
背後からの突然の声に振り返ると、そこには蓮の姿があった。
「お、蓮ちゃん!」
「確か、二階堂だったよな。あの時はありがとう」
相変わらずスポーティな服装の蓮。
楽人と二人で並んでいると、俺も運動系サークルに入っているような気になってくる。
「古庵も久しぶりだな。って言っても一週間ぶりくらいか?」
「そうだな。蓮はあれからどんな感じなんだ?」
「俺か、俺はな……」
軽い気持ちで質問したのだが、彼の表情が一気に真剣なものになる。
良からぬことが起こったのかもしれない。
「俺さ…………好きな人ができたかもしれない」
「「はぁ!?」」
二人して大声を出してしまった。
「いやお前、ちょっと早くない?」
楽人が最もなツッコミを入れる。
それもそうだ、まだ失恋してから一週間しか経ってないぞ?
しかし、俺の目に映る蓮の顔は明らかに赤く、恋に落ちたというのは本当のようだ。
「一体どこの誰なんだ? 出会いとか、教えてくれよ」
「出会いはその、俺がその子の落とし物を拾ってあげたんだけど……今回のは憧れとは違う感覚なんだよ。初対面なのに、落ち込んでる俺を励ましてくれてさ。なんていうか、守ってあげたいっていうか……」
「あぁ……」
言葉から察するに、紫に振られてからすぐ後の出来事だろう。
自分の気持ちにケジメをつけるためとは言え、長らく抱いていた想いを喪失するのは辛い。
そんな時に良い子に出会えば新たな恋も始まるというものだ。
……というか、紫に対しては憧れだったし、これが本当の恋の始まりなのか?
「だったら、頑張らなきゃな!」
楽人が蓮の背中を勢いよく叩く。
「ゲホッ! ……喝入れてくれてありがとな!」
「蓮、次は――」
「大丈夫だよ、古庵。俺、もう足踏みしないからさ」
「……突っ込み過ぎはやめろよ?」
「もちろん」と笑いながら頷く。
「それじゃあ俺、次の講義いくわ! またな!」
力強い足取りで蓮は去っていった。
その背中が見えなくなった頃、楽人も歩き出す。
「俺もそろそろ行かないとな。今日はこれから、全国大会に向けての作戦会議があるんだよ。今年は参加チームが増えたみたいで、しかもどこも強そうなんだわ。世界を目指すには綿密な作戦が必要だ……」
「へぇ、確かこの間は4チームって言ってたよな。何チームに増えたんだ?」
「6」
「それは……すごいのか?」
多分トーナメント方式だよな、表とかどうなってるんだろう。
「まぁ、頑張れよ。世界一になったら自慢するわ」
「あんがと! あぁ、サークル関係でめんどいことがあったらいつでも言ってくれ! やっとくから!」
「頼りになるよ。ありがとう」
「いいって、いつも参加できなくて悪いな!」
大学に提出する書類だったり、そういった諸々は楽人が引き受けてくれている。
「あ、もう一つ相談があるんだけど……時間平気か?」
「大丈夫だよ。どうした、トラブルか?」
俺は、おそらくこの後起こるであろう展開について、彼に意見を仰ぐことにした。
「……全然良いんじゃない?」
「えぇ……」
露骨に嫌そうな顔をしていたのだろう、楽人は俺を見て爆笑している。
「見てる分にはめちゃくちゃ面白いからな! それに、瑠凪だって一人じゃ手が回らない時があるだろ? だったらむしろ喜ばしいことじゃないかと思うぜ」
「いやまぁ、そうなんだけど……」
彼が肯定的な意見を持っているのは分かっていたことだったが、やはり納得いかない。
「……俺が刺されて死んでもいいのか?」
「そういうの気をつけるタイプだろ、お前。いざとなったら俺が病院まで担いでってやるからさ。それに、まだ決まったわけじゃないだろ? 七緒ちゃんが頑張って阻止してくれるかもしれないし」
「それもそれで困るんだよ……」
行動しても面倒だし、行動しなくても面倒。
どう転がっても厄介ということだ。
「まぁ、マジでやばくなったら言ってくれ。その時はブラジルから駆けつけてやるからさ」
「それは世界大会を優先してくれ」
「ははっ。それじゃ、行ってくるわ! ファイトー!」
猛牛のように勢いよく走り出す楽人。
学内には人が多いし、人を轢いてしまわないか心配である。
「……行かないとな」
この後の修羅場を想像すると目眩がしてくるが、先延ばしにすると事態が悪化するだろう。
自分の尻を叩いて気合いを入れ、俺も歩き出すことにした。
彼は派手な見た目の女子生徒と話していて、やがて手を振り合って別れる。
「もしかして、夕莉に紹介してもらったのか?」
「おぉ!? 瑠凪か、びっくりさせんなよな!」
死角から声をかけてやると、楽人は飛び上がって驚く。
「そうそう、この間一回飯行ったんだよ。それがもうめちゃくちゃ楽しくてさ、今日もお昼一緒に食べて……ついに春が来たのかもしれん」
「やったな。筋肉は役に立ってるか?」
「筋肉好きなんだってさ、あの子。今まで鍛えてきたのはこのためだったんだな……」
「ピチュランダのためだろ」
未だにピチュランダと筋肉の関係性がわからないが、スポーツには総じて屈強な肉体が必要なんだろう。
「あ、そうだ。今度ダブルデートするのはどうだ? 俺とあの子、瑠凪と七緒ちゃんでさ」
「却下。楽人と七緒が手を組んだら1対2対1になるからな。厄介この上ない」
「えぇ~、いいじゃんかよぉ~」
俺の周りを凄まじい速度で回りながら拝み倒してくるが、決意は変わらない。
「なんだなんだ、俺も入れてくれよ」
背後からの突然の声に振り返ると、そこには蓮の姿があった。
「お、蓮ちゃん!」
「確か、二階堂だったよな。あの時はありがとう」
相変わらずスポーティな服装の蓮。
楽人と二人で並んでいると、俺も運動系サークルに入っているような気になってくる。
「古庵も久しぶりだな。って言っても一週間ぶりくらいか?」
「そうだな。蓮はあれからどんな感じなんだ?」
「俺か、俺はな……」
軽い気持ちで質問したのだが、彼の表情が一気に真剣なものになる。
良からぬことが起こったのかもしれない。
「俺さ…………好きな人ができたかもしれない」
「「はぁ!?」」
二人して大声を出してしまった。
「いやお前、ちょっと早くない?」
楽人が最もなツッコミを入れる。
それもそうだ、まだ失恋してから一週間しか経ってないぞ?
しかし、俺の目に映る蓮の顔は明らかに赤く、恋に落ちたというのは本当のようだ。
「一体どこの誰なんだ? 出会いとか、教えてくれよ」
「出会いはその、俺がその子の落とし物を拾ってあげたんだけど……今回のは憧れとは違う感覚なんだよ。初対面なのに、落ち込んでる俺を励ましてくれてさ。なんていうか、守ってあげたいっていうか……」
「あぁ……」
言葉から察するに、紫に振られてからすぐ後の出来事だろう。
自分の気持ちにケジメをつけるためとは言え、長らく抱いていた想いを喪失するのは辛い。
そんな時に良い子に出会えば新たな恋も始まるというものだ。
……というか、紫に対しては憧れだったし、これが本当の恋の始まりなのか?
「だったら、頑張らなきゃな!」
楽人が蓮の背中を勢いよく叩く。
「ゲホッ! ……喝入れてくれてありがとな!」
「蓮、次は――」
「大丈夫だよ、古庵。俺、もう足踏みしないからさ」
「……突っ込み過ぎはやめろよ?」
「もちろん」と笑いながら頷く。
「それじゃあ俺、次の講義いくわ! またな!」
力強い足取りで蓮は去っていった。
その背中が見えなくなった頃、楽人も歩き出す。
「俺もそろそろ行かないとな。今日はこれから、全国大会に向けての作戦会議があるんだよ。今年は参加チームが増えたみたいで、しかもどこも強そうなんだわ。世界を目指すには綿密な作戦が必要だ……」
「へぇ、確かこの間は4チームって言ってたよな。何チームに増えたんだ?」
「6」
「それは……すごいのか?」
多分トーナメント方式だよな、表とかどうなってるんだろう。
「まぁ、頑張れよ。世界一になったら自慢するわ」
「あんがと! あぁ、サークル関係でめんどいことがあったらいつでも言ってくれ! やっとくから!」
「頼りになるよ。ありがとう」
「いいって、いつも参加できなくて悪いな!」
大学に提出する書類だったり、そういった諸々は楽人が引き受けてくれている。
「あ、もう一つ相談があるんだけど……時間平気か?」
「大丈夫だよ。どうした、トラブルか?」
俺は、おそらくこの後起こるであろう展開について、彼に意見を仰ぐことにした。
「……全然良いんじゃない?」
「えぇ……」
露骨に嫌そうな顔をしていたのだろう、楽人は俺を見て爆笑している。
「見てる分にはめちゃくちゃ面白いからな! それに、瑠凪だって一人じゃ手が回らない時があるだろ? だったらむしろ喜ばしいことじゃないかと思うぜ」
「いやまぁ、そうなんだけど……」
彼が肯定的な意見を持っているのは分かっていたことだったが、やはり納得いかない。
「……俺が刺されて死んでもいいのか?」
「そういうの気をつけるタイプだろ、お前。いざとなったら俺が病院まで担いでってやるからさ。それに、まだ決まったわけじゃないだろ? 七緒ちゃんが頑張って阻止してくれるかもしれないし」
「それもそれで困るんだよ……」
行動しても面倒だし、行動しなくても面倒。
どう転がっても厄介ということだ。
「まぁ、マジでやばくなったら言ってくれ。その時はブラジルから駆けつけてやるからさ」
「それは世界大会を優先してくれ」
「ははっ。それじゃ、行ってくるわ! ファイトー!」
猛牛のように勢いよく走り出す楽人。
学内には人が多いし、人を轢いてしまわないか心配である。
「……行かないとな」
この後の修羅場を想像すると目眩がしてくるが、先延ばしにすると事態が悪化するだろう。
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