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第2章 夏と奉仕
作戦
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「先輩、連れてきましたよ」
作戦決行の一日前。
ふんぞりかえって教場で待っていると、作戦を成功させるために使いにやった七緒が帰ってきた。
「瑠凪くんおひさ。どしたの?」
「悪いな夕莉、突然呼び出して」
バサバサの付けまつげにグレーの大きなカラコン。相変わらずギラギラしたメイクだ。
身に纏っているのもオフショルダーのトップスにショートパンツと、ギャルのど真ん中を突っ走っている。
むしろ、典型的なギャルすぎて、今では逆に異色なのかもしれない。
「ううん。こっちこそ遅れてごめん。ヤス君のこと?」
「あぁ、実は――」
単刀直入に話を始めようとすると、目の前に七緒がスライドして入ってきた。
「……待ってください。先輩、昨日私をおいて帰ったくせに何もなしですか?」
「あ、ごめん。どうりで快適に帰れたわけだ」
何か忘れている気がしていたが、七緒をおいて帰っていたのか。
「報告がなかったけど、何か進展は?」
「特には。じゃなくて、ひどくないですか? 寂しかったんですけど……?」
人を殺しそうなくらい睨んでいるし、少し機嫌をとっておくか。
「申し訳ない。ほら、撫でてやるからこっちきな」
「……は? 流石にそんなんじゃ許しませんよ? 先輩らぶだからって、何でもかんでも許されると思ったら大間違いです。とりあえず撫でてください」
言葉では裏腹に、嬉しそうに寄ってきた七緒の頭に手を置く。
相変わらずサラサラしていて触り心地の良い髪だ。
ダルそうな態度とは大違いである。
「先輩が考えてることわかりますからね? まぁ、今は不問にしてあげます」
よっしゃチョロいな。
さて、無駄な時間はこのくらいにしておこう。
この後の予定もあるし、本題に入らねば。
頭においていた手を離して夕莉の方へ向き直り、目を見つめて話す。
「明日、夕莉の彼氏……櫂康晴の真実がわかる。一緒に来てくれるか?」
「ちょっ、ちょっと待って、明日? いきなりすぎない?」
確かに、彼女にとっては突然のことだ。
「流石に心の準備が……」
安田に負けると分かっていても、いざそれを突き付けられるのは辛いのだろう。弱々しく肩を落としている。
「唐突だとは思う。でも、明日が一番良いんだ」
彼女の瞳は不安に揺れていた。
だが、段々と揺れは収まり、やがては一点を、俺の目を見つめ返してくる。
「…………わかった」
きっと、本当はまだ決心はついていない。
それでも彼女は前に進むべく、深く頷いた。
「安田先輩は来ないの?」
「もちろん呼ぶつもり。でも、あの人は今日やることがあるんだってさ。それに、多分ダメージ少ないと思うから」
「あーね」
一歳の違い、365日の違いでも、得られる経験値は大幅に違う。
上を見据える人間なら尚更、日々莫大な糧を得ている。
だから彼女は、少なくとも泣き喚いたりはしない。
一方で、夕莉はおそらく泣いてしまうだろう。
そう思ったから、先に心の準備をさせておいたのだ。
「あのー……。い、いま、大丈夫ですか?」
ドアノブが回され、ひっそりと女子生徒が入ってくる。
「静香ちゃん、おはよう」
「古庵先輩、おはようございます」
訪ねてきたのは静香だ。
もちろん彼女は俺が呼び出した。
「伝えておいたことはやってもらえた?」
「はい! ばっちりだと思います!」
自身ありげな返答。
手はず通りにやってくれたようで安心した。
「でも、あんなことして一体なんの意味が?」
俺の意図が理解できないという風に、恐る恐る聞いてくる。
「まぁ、それは明日わかるよ。何かあったら全部俺のせいにしといていいからね」
「わかりました! 先輩に全責任を押し付けたいと思います!」
今日一番の返事を俺に喰らわせると、静香はサークル活動のため去っていった。
「……あ、紫先輩。こんにちは!」
講義が終わり、サークルへ向かおうとした紫の元に静香がやってきた。
基本的にはスタジオやサークル棟での現地集合だが、今日はたまたま紫のいる教場の近くを通ったため、一緒にサークルに行こうと待っていたらしい。
そして、飲み物を買いたいと言う静香と共に自販機に寄り、のんびりサークル棟へ向かっていた。
「紫先輩、最近あんまり元気なくないですか?」
「……そんなことないよ。ちょっと悲しいことはあったけど、大丈夫」
あまり感情を表に出さない紫だが、静香には彼女が落ち込んでいると理解できた。
「なら、KLに依頼に行ったらどうですか!? 私もついて行きますし!」
突然の提案に苦笑したあと、静香の頭を優しく撫でる。
「ありがと。でも、KLじゃ解決できないことだから。古庵君に迷惑かけたくないしね」
「……そう、ですか。そういえば、さっき古庵先輩に会ったんですけど、手首に巻いてた包帯を切らしちゃったって言ってましたね」
「包帯?」
「はい。今日は早めに帰るって言ってたけど、心配ですよね。……あ、ごめんなさい、ちょっと電話がかかってきちゃいました! すぐ戻ってきます! あと、今日一緒に帰りましょー!」
耳にスマホを当てながら静香が走っていく。
紫はその背中を見つめていたが、考え事をしている間に見失ってしまった。
それと入れ替わりのように現れた、ペットボトルを持つ生徒の集団に背を向けながら――。
「……大丈夫かな。古庵君」
そう呟いた。
作戦決行の一日前。
ふんぞりかえって教場で待っていると、作戦を成功させるために使いにやった七緒が帰ってきた。
「瑠凪くんおひさ。どしたの?」
「悪いな夕莉、突然呼び出して」
バサバサの付けまつげにグレーの大きなカラコン。相変わらずギラギラしたメイクだ。
身に纏っているのもオフショルダーのトップスにショートパンツと、ギャルのど真ん中を突っ走っている。
むしろ、典型的なギャルすぎて、今では逆に異色なのかもしれない。
「ううん。こっちこそ遅れてごめん。ヤス君のこと?」
「あぁ、実は――」
単刀直入に話を始めようとすると、目の前に七緒がスライドして入ってきた。
「……待ってください。先輩、昨日私をおいて帰ったくせに何もなしですか?」
「あ、ごめん。どうりで快適に帰れたわけだ」
何か忘れている気がしていたが、七緒をおいて帰っていたのか。
「報告がなかったけど、何か進展は?」
「特には。じゃなくて、ひどくないですか? 寂しかったんですけど……?」
人を殺しそうなくらい睨んでいるし、少し機嫌をとっておくか。
「申し訳ない。ほら、撫でてやるからこっちきな」
「……は? 流石にそんなんじゃ許しませんよ? 先輩らぶだからって、何でもかんでも許されると思ったら大間違いです。とりあえず撫でてください」
言葉では裏腹に、嬉しそうに寄ってきた七緒の頭に手を置く。
相変わらずサラサラしていて触り心地の良い髪だ。
ダルそうな態度とは大違いである。
「先輩が考えてることわかりますからね? まぁ、今は不問にしてあげます」
よっしゃチョロいな。
さて、無駄な時間はこのくらいにしておこう。
この後の予定もあるし、本題に入らねば。
頭においていた手を離して夕莉の方へ向き直り、目を見つめて話す。
「明日、夕莉の彼氏……櫂康晴の真実がわかる。一緒に来てくれるか?」
「ちょっ、ちょっと待って、明日? いきなりすぎない?」
確かに、彼女にとっては突然のことだ。
「流石に心の準備が……」
安田に負けると分かっていても、いざそれを突き付けられるのは辛いのだろう。弱々しく肩を落としている。
「唐突だとは思う。でも、明日が一番良いんだ」
彼女の瞳は不安に揺れていた。
だが、段々と揺れは収まり、やがては一点を、俺の目を見つめ返してくる。
「…………わかった」
きっと、本当はまだ決心はついていない。
それでも彼女は前に進むべく、深く頷いた。
「安田先輩は来ないの?」
「もちろん呼ぶつもり。でも、あの人は今日やることがあるんだってさ。それに、多分ダメージ少ないと思うから」
「あーね」
一歳の違い、365日の違いでも、得られる経験値は大幅に違う。
上を見据える人間なら尚更、日々莫大な糧を得ている。
だから彼女は、少なくとも泣き喚いたりはしない。
一方で、夕莉はおそらく泣いてしまうだろう。
そう思ったから、先に心の準備をさせておいたのだ。
「あのー……。い、いま、大丈夫ですか?」
ドアノブが回され、ひっそりと女子生徒が入ってくる。
「静香ちゃん、おはよう」
「古庵先輩、おはようございます」
訪ねてきたのは静香だ。
もちろん彼女は俺が呼び出した。
「伝えておいたことはやってもらえた?」
「はい! ばっちりだと思います!」
自身ありげな返答。
手はず通りにやってくれたようで安心した。
「でも、あんなことして一体なんの意味が?」
俺の意図が理解できないという風に、恐る恐る聞いてくる。
「まぁ、それは明日わかるよ。何かあったら全部俺のせいにしといていいからね」
「わかりました! 先輩に全責任を押し付けたいと思います!」
今日一番の返事を俺に喰らわせると、静香はサークル活動のため去っていった。
「……あ、紫先輩。こんにちは!」
講義が終わり、サークルへ向かおうとした紫の元に静香がやってきた。
基本的にはスタジオやサークル棟での現地集合だが、今日はたまたま紫のいる教場の近くを通ったため、一緒にサークルに行こうと待っていたらしい。
そして、飲み物を買いたいと言う静香と共に自販機に寄り、のんびりサークル棟へ向かっていた。
「紫先輩、最近あんまり元気なくないですか?」
「……そんなことないよ。ちょっと悲しいことはあったけど、大丈夫」
あまり感情を表に出さない紫だが、静香には彼女が落ち込んでいると理解できた。
「なら、KLに依頼に行ったらどうですか!? 私もついて行きますし!」
突然の提案に苦笑したあと、静香の頭を優しく撫でる。
「ありがと。でも、KLじゃ解決できないことだから。古庵君に迷惑かけたくないしね」
「……そう、ですか。そういえば、さっき古庵先輩に会ったんですけど、手首に巻いてた包帯を切らしちゃったって言ってましたね」
「包帯?」
「はい。今日は早めに帰るって言ってたけど、心配ですよね。……あ、ごめんなさい、ちょっと電話がかかってきちゃいました! すぐ戻ってきます! あと、今日一緒に帰りましょー!」
耳にスマホを当てながら静香が走っていく。
紫はその背中を見つめていたが、考え事をしている間に見失ってしまった。
それと入れ替わりのように現れた、ペットボトルを持つ生徒の集団に背を向けながら――。
「……大丈夫かな。古庵君」
そう呟いた。
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