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第2章 夏と奉仕
真似事
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個人的な作戦を立てた後、教場を出て単独行動を始めた。
やっているのは探偵の真似事だが、映画の登場人物になったようで気分が上がる。
まずは情報の整理から始めよう。
SNSアカウントに書いてあったが、櫂は俺と同じく法学部らしい。
そのため、学年が違うとはいえ講義が被っている可能性はあるのだが、残念ながら見かけた記憶はない。
同じ教場にいる顔の良い男は大体覚えているため、もしかすると、あまり大学に来ていないのかも。
……いや、違うな。
蓮にもらった情報を信用するなら、櫂に会うことは容易いはずだ。
講義と講義の間の10分間を狙って、生徒が多く通りそうな場所を張ってみる。
「………………あいつか」
同じ場所で3時間ほど待機していたところ、ついに櫂が姿を現した。
身長は俺と同じくらいで、茶髪をツンツンに尖らせている。
顔立ちは男らしく、キリッとした眉毛がさらにそれを増幅させていた。
夏が近いからか、インナーもなしに柄物の開襟シャツを着ている。
「いくかぁ……」
立ち上がると、腰がバキバキと音を鳴らす。
3時間も座って待っていたからな。
坐骨神経痛やらヘルニアやらにならないよう適度にストレッチするべきだった。
「すいません、櫂先輩ですよね!」
胸を張り、悠然と歩く櫂に駆け寄って声をかける。
「……あん? 誰だよお前」
立ち止まった櫂は、一度俺を上から下まで値踏みするように見た後、睨みながら応答した。
こいつ、見た目で自分が話すべき人間かどうか考えていたな。
どうやらそのチェックには合格できたようだが、気に食わない。
「俺、2年生の山本っていいます! 去年のミスターコンで先輩を見てカッコいいなって思って、今日たまたま見かけたから声かけちゃいました!」
今回は「櫂に憧れる下級生」を演じることにした。
古庵という苗字は珍しいし、それよりは数が多いであろう蓮の苗字を借りる。
相手が俺のことを知っているなら下策だが、おそらく男の顔や名前なんて覚えていないだろう。
うまく演じてマウントを取れる相手だと思わせればこっちの勝ちだ。
「マジで先輩カッコいいですね! 遠くから見ててもオーラ違いますもん!」
頬が緩み、腕を組み始める。
「……なんだ、俺のファンってことか。俺は忙しいんだ、男にかまけてる時間はないが……2分だけなら話をしてやるよ」
「ありがとうございます!」
ほら、食いついた。
櫂は取り出したスマホの画面で自分の髪型を確認し、口の端を吊り上げて笑っていた。
「先輩ってめちゃくちゃモテるんですよね!? この間友達が、先輩には彼女が二人いるって言ってましたよ!」
「お前それ、誰から聞いた?」
再び手元に厳しさが戻ってくる。
話すには早急かと思うが、時間が限られている以上仕方がない。
話を盛り上げて引き伸ばすこともできるにはできるが、そうまでして話したくもない。
「なんか、友達は3年の先輩から聞いたって言ってました。もしかしたら櫂先輩の友達なんじゃないですか?」
「ちっ、あいつら秘密にしとけって言ったんだけどな……」
やはり周りに言いふらすタイプだったか。
櫂は誰が漏らしたか思い当たるようだが、残念ながら犯人はそいつではない。
漏らす恐れのある相手にも話すあたり、自己顕示欲の高さが窺える。
「まぁいい、確かにモテるな」
「流石っす! ちなみに、ミスコンの人とギャルっぽい人、どっちが本命なんですか?」
「そこまで知ってんのか……。もちろんギャルとは遊びに決まってんだろ? まぁ、ミスコンの方もいずれ捨てるつもりだけどなぁ」
「そうなんですか!?」
「俺はもっと上に行く男だからな……。ミスターコンの肩書きを利用して這い上がって、いずれは女子アナをモノにして、最高の人生を送ってやるつもりだ」
……あまりにもチョロすぎる。
もう少し隠す気はないのだろうか……。
ここらで少し脅しをかけてみるとしよう。
「そんなホイホイ言っちゃっていいんですか? 例えば俺が先輩の言ってることを彼女さんたちにバラしたらヤバいと思うんですけど」
俺の言葉を聞くと櫂は吹き出すように笑った。
「なぁに言ってんだ! 例えお前があいつらに言ったところで、ちょっと俺が優しくしてやればイチコロよ。しかも、夕莉……ギャルの方なんかは真実を知ったらショックで耐えられなくなっちまうだろうなぁ。……お前に人の人生を潰す覚悟があんのか?」
「……いえ、ないです……」
力なく答えるふりをすると、調子に乗った態度がさらに顕著になる。
「そうだろうなぁ? じゃあやめとくに越したことはない。ま、お前も女の一人や二人手駒にできるように頑張れや。そうすれば俺に近づけるかもしれないぜ?」
「頑張ります。……ちなみに、その二人以外で今狙ってる子はいるんですか?」
「あぁ? 狙ってるとはちょっとちげぇけど、最近……まぁ、これはいいか。とにかく、髪遊びだけじゃなくて女遊びも頑張るんだな、白髪クン」
言葉を濁した後、俺の肩を軽く叩いて櫂は去っていった。
「…………なんだあいつ」
小さくなっていく櫂の背中を見ながら呟く。
あんなのと付き合うなんて二人が可哀想だ……いや、見る目がないだけだな。
予想以上に早く目的を達成してしまったので、教場に帰ることにした。
やっているのは探偵の真似事だが、映画の登場人物になったようで気分が上がる。
まずは情報の整理から始めよう。
SNSアカウントに書いてあったが、櫂は俺と同じく法学部らしい。
そのため、学年が違うとはいえ講義が被っている可能性はあるのだが、残念ながら見かけた記憶はない。
同じ教場にいる顔の良い男は大体覚えているため、もしかすると、あまり大学に来ていないのかも。
……いや、違うな。
蓮にもらった情報を信用するなら、櫂に会うことは容易いはずだ。
講義と講義の間の10分間を狙って、生徒が多く通りそうな場所を張ってみる。
「………………あいつか」
同じ場所で3時間ほど待機していたところ、ついに櫂が姿を現した。
身長は俺と同じくらいで、茶髪をツンツンに尖らせている。
顔立ちは男らしく、キリッとした眉毛がさらにそれを増幅させていた。
夏が近いからか、インナーもなしに柄物の開襟シャツを着ている。
「いくかぁ……」
立ち上がると、腰がバキバキと音を鳴らす。
3時間も座って待っていたからな。
坐骨神経痛やらヘルニアやらにならないよう適度にストレッチするべきだった。
「すいません、櫂先輩ですよね!」
胸を張り、悠然と歩く櫂に駆け寄って声をかける。
「……あん? 誰だよお前」
立ち止まった櫂は、一度俺を上から下まで値踏みするように見た後、睨みながら応答した。
こいつ、見た目で自分が話すべき人間かどうか考えていたな。
どうやらそのチェックには合格できたようだが、気に食わない。
「俺、2年生の山本っていいます! 去年のミスターコンで先輩を見てカッコいいなって思って、今日たまたま見かけたから声かけちゃいました!」
今回は「櫂に憧れる下級生」を演じることにした。
古庵という苗字は珍しいし、それよりは数が多いであろう蓮の苗字を借りる。
相手が俺のことを知っているなら下策だが、おそらく男の顔や名前なんて覚えていないだろう。
うまく演じてマウントを取れる相手だと思わせればこっちの勝ちだ。
「マジで先輩カッコいいですね! 遠くから見ててもオーラ違いますもん!」
頬が緩み、腕を組み始める。
「……なんだ、俺のファンってことか。俺は忙しいんだ、男にかまけてる時間はないが……2分だけなら話をしてやるよ」
「ありがとうございます!」
ほら、食いついた。
櫂は取り出したスマホの画面で自分の髪型を確認し、口の端を吊り上げて笑っていた。
「先輩ってめちゃくちゃモテるんですよね!? この間友達が、先輩には彼女が二人いるって言ってましたよ!」
「お前それ、誰から聞いた?」
再び手元に厳しさが戻ってくる。
話すには早急かと思うが、時間が限られている以上仕方がない。
話を盛り上げて引き伸ばすこともできるにはできるが、そうまでして話したくもない。
「なんか、友達は3年の先輩から聞いたって言ってました。もしかしたら櫂先輩の友達なんじゃないですか?」
「ちっ、あいつら秘密にしとけって言ったんだけどな……」
やはり周りに言いふらすタイプだったか。
櫂は誰が漏らしたか思い当たるようだが、残念ながら犯人はそいつではない。
漏らす恐れのある相手にも話すあたり、自己顕示欲の高さが窺える。
「まぁいい、確かにモテるな」
「流石っす! ちなみに、ミスコンの人とギャルっぽい人、どっちが本命なんですか?」
「そこまで知ってんのか……。もちろんギャルとは遊びに決まってんだろ? まぁ、ミスコンの方もいずれ捨てるつもりだけどなぁ」
「そうなんですか!?」
「俺はもっと上に行く男だからな……。ミスターコンの肩書きを利用して這い上がって、いずれは女子アナをモノにして、最高の人生を送ってやるつもりだ」
……あまりにもチョロすぎる。
もう少し隠す気はないのだろうか……。
ここらで少し脅しをかけてみるとしよう。
「そんなホイホイ言っちゃっていいんですか? 例えば俺が先輩の言ってることを彼女さんたちにバラしたらヤバいと思うんですけど」
俺の言葉を聞くと櫂は吹き出すように笑った。
「なぁに言ってんだ! 例えお前があいつらに言ったところで、ちょっと俺が優しくしてやればイチコロよ。しかも、夕莉……ギャルの方なんかは真実を知ったらショックで耐えられなくなっちまうだろうなぁ。……お前に人の人生を潰す覚悟があんのか?」
「……いえ、ないです……」
力なく答えるふりをすると、調子に乗った態度がさらに顕著になる。
「そうだろうなぁ? じゃあやめとくに越したことはない。ま、お前も女の一人や二人手駒にできるように頑張れや。そうすれば俺に近づけるかもしれないぜ?」
「頑張ります。……ちなみに、その二人以外で今狙ってる子はいるんですか?」
「あぁ? 狙ってるとはちょっとちげぇけど、最近……まぁ、これはいいか。とにかく、髪遊びだけじゃなくて女遊びも頑張るんだな、白髪クン」
言葉を濁した後、俺の肩を軽く叩いて櫂は去っていった。
「…………なんだあいつ」
小さくなっていく櫂の背中を見ながら呟く。
あんなのと付き合うなんて二人が可哀想だ……いや、見る目がないだけだな。
予想以上に早く目的を達成してしまったので、教場に帰ることにした。
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