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第1章 春と
災難
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「いてぇー……」
平日とはいえ、都会とは思えないような、人の少ない通りにある黒い外観の建物から、古庵瑠凪は出てきた。
まだ暦の上では春とはいえ、昼頃の突き刺さるような日差しが彼を襲う。
どうやら頭に怪我をしているようで、男子にしては白い手で頭を押さえていた。
「あー。まだ十四時か……」
黒いスラックスの右ポケットからスマホを取り出し、時間を確認した。
「予定がずれちゃったからなぁ。これからどうするか……」
二年生ともなると、大学生活にも慣れてきている頃だ。
しかし、かといって生活に余裕が生まれるわけでもなく、むしろゼミの受講やサークル内の地位の向上という面で、さらに忙しくなるだろう。
にも関わらず瑠凪は、既に今日は一、二限をなかったものとして扱い、己の欲を満たすための行為に勤しんでいた。
彼が大学生における典型的な、受験勉強や親の束縛からの解放による逸脱状態にいるのであれば、まだ更生の余地はある。
浮かれたテンションに現実、つまり自らのスペックが追いついていないからだ。
だが、長いまつ毛に気だるげな瞳、ピノキオもかくやという高い鼻、カッコいいや可愛いより美形と形容するのがふさわしい容姿の前に、一時的にでも騙されてしまう女子は少なくない。
適当に生きていても、なんとなく他人の力で生き抜けてしまう彼は、毎日を自由に過ごしていた。
「……そういえば、やることあるんだったな。しょうがない、行くか」
やるべきことを思い出した瑠凪は歩き出す。
坂道を降って大通りに出ると、自らの頭の傷を撫で、その後、パンツの左ポケットに入っている財布を上から軽く叩く。
「まぁ、今日は災難だったけど、良しとするか」
そして、地面に捨てられていた世界一周のチラシを横目で見ながら、人ごみの中に消えていった。
平日とはいえ、都会とは思えないような、人の少ない通りにある黒い外観の建物から、古庵瑠凪は出てきた。
まだ暦の上では春とはいえ、昼頃の突き刺さるような日差しが彼を襲う。
どうやら頭に怪我をしているようで、男子にしては白い手で頭を押さえていた。
「あー。まだ十四時か……」
黒いスラックスの右ポケットからスマホを取り出し、時間を確認した。
「予定がずれちゃったからなぁ。これからどうするか……」
二年生ともなると、大学生活にも慣れてきている頃だ。
しかし、かといって生活に余裕が生まれるわけでもなく、むしろゼミの受講やサークル内の地位の向上という面で、さらに忙しくなるだろう。
にも関わらず瑠凪は、既に今日は一、二限をなかったものとして扱い、己の欲を満たすための行為に勤しんでいた。
彼が大学生における典型的な、受験勉強や親の束縛からの解放による逸脱状態にいるのであれば、まだ更生の余地はある。
浮かれたテンションに現実、つまり自らのスペックが追いついていないからだ。
だが、長いまつ毛に気だるげな瞳、ピノキオもかくやという高い鼻、カッコいいや可愛いより美形と形容するのがふさわしい容姿の前に、一時的にでも騙されてしまう女子は少なくない。
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「……そういえば、やることあるんだったな。しょうがない、行くか」
やるべきことを思い出した瑠凪は歩き出す。
坂道を降って大通りに出ると、自らの頭の傷を撫で、その後、パンツの左ポケットに入っている財布を上から軽く叩く。
「まぁ、今日は災難だったけど、良しとするか」
そして、地面に捨てられていた世界一周のチラシを横目で見ながら、人ごみの中に消えていった。
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