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おっさんと過去
仄かな願い
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「なに、親に会いたいだと?」
俺の言葉を聞いて、エドガーさんは興味深そうな反応をする。
「はい、エドガーさんに貸していただいた本に書いてあるじゃないですか。血が濃く繋がっている相手、つまり親や子供なら簡単に降ろすことができるって」
本を借りて一日。霊に対する理解を深められるというだけでなく、降霊術やその他の手法や特徴について学ぶことができた。
そして、降霊術本来の――先日パフォーマンスで見たような――目的であれば、技術的に優れていなくとも比較的簡単に行えるらしい。
人に意識を乗せなくとも、眠っている時に見る夢のような感じで、精神世界での対話ができるらしい。
それが本当に本人との会話なのか、それとも自分の脳が作り出している幻影に過ぎないのか。
証明するのは難しいだろうが、信じたい。
「ジオが出会えるとして、おそらく強く記憶に残っている母親の方だろうな」
「そういえば、ジオの父は、お前が物心つく前に事故で亡くなってしまってしまったんだったな」
降霊術という言葉にも少しばかり怯えているルーエが、布団の中から確認してくる。
「そうだよ。本当は父さんとも話してみたいけど、母さんと話せるだけでも嬉しいなって。この本には、失敗して誰も来てくれない可能性もあるって書いてありますけど、チャンスがあるなら挑戦してみたいんです」
きっと、同じような考えるのは俺だけではないはず。
死ぬ前に「ごめんね」と言っていた母。俺が元気に生きていることを彼女に伝えたいのだ。
欲を言えば、関節痛に苦しむ年齢ではなく、もっと若い間に会いたかったが、無理な話。
おそらく、今の俺と生前の母は同じくらいの年齢……小恥ずかしくもあるな。
親と身体の衰え話で盛り上がったら嫌だ。いや、話せるだけで嬉しいな。
「出会ったばかりのジオであれば、そんなことは言わなかっただろうな」
「そ、そうかな?」
ルーエはふっと笑う。
「あぁ。きっと、『大丈夫です。私はここにいます』と、つまらない洒落を絡めながら断っていたはずだ。これが成長というやつだな」
「つまらない洒落は心外だけど、確かにそうかもね」
ルーエやエドガーさん、教え子たち。他にも多くの人々と交流してきた。
異なる文化、風習、価値観。どれもが新鮮だった。
今を生きる人にとっては、俺の経験など微々たるものに見えるだろうが、それでも多くの刺激を受けたのだ。
その経験が俺の精神面に良い影響を及ぼしたのだとしたら、山から出てよかったのかもしれない。
「だが、誰に降霊術を頼むんだ? 残念ながら俺にはできないぞ」
「わ、私も無理だからな! その他のことはなんでもしてやれるが、こ、これだけは無理だ!」
「まぁ、そうだよねぇ……」
ルーエは仕方ないとして、エドガーさんにもできないだろう。
降霊術に限らず、超自然的な現象を起こすには触媒として魔力が必要らしい。
カルティアの人々は魔力とはまた違う呼び方をしていて、厳密には別の要素らしいが、高位の術でなければ魔力でも代用は効く。
しかし、エドガーさんは小説家だ。
これまでの人生で魔物と戦った経験などほぼなく、魔力を練ったこともない。
「ギョタールさんも忙しそうだからなぁ。協力してくれる人がいるといいんだけど……」
そもそも、人を襲う霊が出ているというのに呑気な話とも言える。
調べものがあると言っていたし、俺のわがままに時間を使わせるのは忍びない。
「しかし、そうなると協力してくれる人はいないんじゃないか? やる以上は失敗したくないし、少しでも経験のある術者を雇った方がいい気がするな」
「かもですね……。でも、降霊術絡みの事件が起きたばかりだし、やってくれる人なんていますかね」
「残念だが、少しばかり時間を空ける必要がありそ――」
「心当たりならあるが?」
俺とエドガーさんが振り返る。
くるまったシーツから顔だけを出しているルーエが、見た目に反した自信ありげな声で言った。
俺の言葉を聞いて、エドガーさんは興味深そうな反応をする。
「はい、エドガーさんに貸していただいた本に書いてあるじゃないですか。血が濃く繋がっている相手、つまり親や子供なら簡単に降ろすことができるって」
本を借りて一日。霊に対する理解を深められるというだけでなく、降霊術やその他の手法や特徴について学ぶことができた。
そして、降霊術本来の――先日パフォーマンスで見たような――目的であれば、技術的に優れていなくとも比較的簡単に行えるらしい。
人に意識を乗せなくとも、眠っている時に見る夢のような感じで、精神世界での対話ができるらしい。
それが本当に本人との会話なのか、それとも自分の脳が作り出している幻影に過ぎないのか。
証明するのは難しいだろうが、信じたい。
「ジオが出会えるとして、おそらく強く記憶に残っている母親の方だろうな」
「そういえば、ジオの父は、お前が物心つく前に事故で亡くなってしまってしまったんだったな」
降霊術という言葉にも少しばかり怯えているルーエが、布団の中から確認してくる。
「そうだよ。本当は父さんとも話してみたいけど、母さんと話せるだけでも嬉しいなって。この本には、失敗して誰も来てくれない可能性もあるって書いてありますけど、チャンスがあるなら挑戦してみたいんです」
きっと、同じような考えるのは俺だけではないはず。
死ぬ前に「ごめんね」と言っていた母。俺が元気に生きていることを彼女に伝えたいのだ。
欲を言えば、関節痛に苦しむ年齢ではなく、もっと若い間に会いたかったが、無理な話。
おそらく、今の俺と生前の母は同じくらいの年齢……小恥ずかしくもあるな。
親と身体の衰え話で盛り上がったら嫌だ。いや、話せるだけで嬉しいな。
「出会ったばかりのジオであれば、そんなことは言わなかっただろうな」
「そ、そうかな?」
ルーエはふっと笑う。
「あぁ。きっと、『大丈夫です。私はここにいます』と、つまらない洒落を絡めながら断っていたはずだ。これが成長というやつだな」
「つまらない洒落は心外だけど、確かにそうかもね」
ルーエやエドガーさん、教え子たち。他にも多くの人々と交流してきた。
異なる文化、風習、価値観。どれもが新鮮だった。
今を生きる人にとっては、俺の経験など微々たるものに見えるだろうが、それでも多くの刺激を受けたのだ。
その経験が俺の精神面に良い影響を及ぼしたのだとしたら、山から出てよかったのかもしれない。
「だが、誰に降霊術を頼むんだ? 残念ながら俺にはできないぞ」
「わ、私も無理だからな! その他のことはなんでもしてやれるが、こ、これだけは無理だ!」
「まぁ、そうだよねぇ……」
ルーエは仕方ないとして、エドガーさんにもできないだろう。
降霊術に限らず、超自然的な現象を起こすには触媒として魔力が必要らしい。
カルティアの人々は魔力とはまた違う呼び方をしていて、厳密には別の要素らしいが、高位の術でなければ魔力でも代用は効く。
しかし、エドガーさんは小説家だ。
これまでの人生で魔物と戦った経験などほぼなく、魔力を練ったこともない。
「ギョタールさんも忙しそうだからなぁ。協力してくれる人がいるといいんだけど……」
そもそも、人を襲う霊が出ているというのに呑気な話とも言える。
調べものがあると言っていたし、俺のわがままに時間を使わせるのは忍びない。
「しかし、そうなると協力してくれる人はいないんじゃないか? やる以上は失敗したくないし、少しでも経験のある術者を雇った方がいい気がするな」
「かもですね……。でも、降霊術絡みの事件が起きたばかりだし、やってくれる人なんていますかね」
「残念だが、少しばかり時間を空ける必要がありそ――」
「心当たりならあるが?」
俺とエドガーさんが振り返る。
くるまったシーツから顔だけを出しているルーエが、見た目に反した自信ありげな声で言った。
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