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番外編
ある騎士の戦い
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「ゴブリン達よ、どうか退いてはもらえないだろうか!」
わらわらと集まってくるゴブリン達に、まず騎士が試みたのは対話だった。
相手が魔物であろうとなんだろうと、分かり合える可能性があるのではないかと、騎士はそう考えていた。
だが、その言葉の意味を理解しているのかどうか、モンスターは全く取り合おうとせず、武器を手に、ゆっくり歩いてくる。
「……そうか。ならば、仕方あるまい」
背後から、心配そうな視線を送る村の人々を見て、騎士は頷き、槍を構える。
先制攻撃と言わんばかりに槍を投げると、それは連なっていたゴブリン二体を串刺しにした。
たかが狩りの対象だと油断していた魔物達は、ただ一人の男だけは、対等な敵だと認識し、戦いのスイッチを入れる。
3方向に分かれて騎士を挟撃しようとするゴブリン。
騎士から見て左側の隊と、10メートルほどの距離になった時、彼は弓を放った。
大きくやまなりに放たれた矢は、分かりやすい軌道を描いたために、簡単にゴブリンに避けられてしまう。
しかし、彼が狙っていたのは、直接的な攻撃ではなかった。
矢に灯されていた火が、ゴブリン達の足元……飼い葉で隠されていた布に着火する。
油に浸しておいた布は、瞬く間に火を広がらせ、5体のゴブリンを火だるまにした。
「これで、あとは8体か……武器が持ってくれれば良いのだが」
残念ながら、限られた時間で練られた策は、もうなかった。
あとは、四本の剣と、二本の槍。
右舷から攻めてきたゴブリンと斬り合った騎士は錆びた剣の一本と、かろうじて切れ味を保っている一本を使い3体のゴブリンを始末する。
残りは5体。もう一度、槍を投擲して中央の一体を消す。
しかし――。
「……ぐっ、やはり戦い慣れているかッ!」
村を絶滅に追い込もうとしているゴブリン達は、おそらくは以前から同じような行為に及んでいるのだろう。
騎士に近づくや否や、その小柄な体格を活かして動き回り、攻撃を受けないよう翻弄してくる。
自分のふくよかな腹が邪魔で、騎士は上手く対応することができない。
鎧のおかげで傷こそないが、衝撃は貫通する。
彼の身体には無数のあざが刻まれ、ついには膝を折ってしまった。
「……ぐぬぅ!」
もはや、そこからは戦いと呼べるものではなかった。
4体のゴブリンに囲まれて袋叩きにされる騎士。
だが、そんな絶体絶命の彼の耳に声が届く。
「騎士様、頑張って!」
「早く逃げるんだ! 俺たちのことなんて気にしなくていい!」
「あんたに背負わせて申し訳ない、けど、俺たちを助けてくれ!」
「負けないで!」
ある者は騎士を心配して、またある者は自分たちの命を助けてくれと懇願する。
それは、人間の欲深さを表す言葉たちに他ならなかったが、騎士は、声援を受けて立ちあがろうとしていた。
「そ、そうだ……彼らは、私がいなければ、滅ぼされてしまう! こんな私でも、やらなければ!」
身体中が鈍器によって悲鳴をあげている。
今にも倒れそうな痛みの中、騎士は、片足ずつ、片腕ずつ上げていき、ついには武器を振り返した。
突然の反撃に反応できず、一体のゴブリンが腹を切り裂かれる。
「うおおぉぉぉぉぉぉおおぉぉお!」
相手を威嚇するためではなく、自らを鼓舞するための雄叫び。
攻撃を浴びせ、受け、殴り、殴られ、血を吐かせ、吐き、一体、また一体とゴブリンが減っていく。
武器が砕け、へし折れ、拳に血を滲ませながら戦っていた。
そうして、途方もない時間が過ぎたように感じるほどの、泥沼の戦いの末に、ついに騎士は勝利した。
最後に立っていたのは、今にも倒れてしまいそうな、ふらふらの、頼り甲斐のなさそうな騎士だった。
わらわらと集まってくるゴブリン達に、まず騎士が試みたのは対話だった。
相手が魔物であろうとなんだろうと、分かり合える可能性があるのではないかと、騎士はそう考えていた。
だが、その言葉の意味を理解しているのかどうか、モンスターは全く取り合おうとせず、武器を手に、ゆっくり歩いてくる。
「……そうか。ならば、仕方あるまい」
背後から、心配そうな視線を送る村の人々を見て、騎士は頷き、槍を構える。
先制攻撃と言わんばかりに槍を投げると、それは連なっていたゴブリン二体を串刺しにした。
たかが狩りの対象だと油断していた魔物達は、ただ一人の男だけは、対等な敵だと認識し、戦いのスイッチを入れる。
3方向に分かれて騎士を挟撃しようとするゴブリン。
騎士から見て左側の隊と、10メートルほどの距離になった時、彼は弓を放った。
大きくやまなりに放たれた矢は、分かりやすい軌道を描いたために、簡単にゴブリンに避けられてしまう。
しかし、彼が狙っていたのは、直接的な攻撃ではなかった。
矢に灯されていた火が、ゴブリン達の足元……飼い葉で隠されていた布に着火する。
油に浸しておいた布は、瞬く間に火を広がらせ、5体のゴブリンを火だるまにした。
「これで、あとは8体か……武器が持ってくれれば良いのだが」
残念ながら、限られた時間で練られた策は、もうなかった。
あとは、四本の剣と、二本の槍。
右舷から攻めてきたゴブリンと斬り合った騎士は錆びた剣の一本と、かろうじて切れ味を保っている一本を使い3体のゴブリンを始末する。
残りは5体。もう一度、槍を投擲して中央の一体を消す。
しかし――。
「……ぐっ、やはり戦い慣れているかッ!」
村を絶滅に追い込もうとしているゴブリン達は、おそらくは以前から同じような行為に及んでいるのだろう。
騎士に近づくや否や、その小柄な体格を活かして動き回り、攻撃を受けないよう翻弄してくる。
自分のふくよかな腹が邪魔で、騎士は上手く対応することができない。
鎧のおかげで傷こそないが、衝撃は貫通する。
彼の身体には無数のあざが刻まれ、ついには膝を折ってしまった。
「……ぐぬぅ!」
もはや、そこからは戦いと呼べるものではなかった。
4体のゴブリンに囲まれて袋叩きにされる騎士。
だが、そんな絶体絶命の彼の耳に声が届く。
「騎士様、頑張って!」
「早く逃げるんだ! 俺たちのことなんて気にしなくていい!」
「あんたに背負わせて申し訳ない、けど、俺たちを助けてくれ!」
「負けないで!」
ある者は騎士を心配して、またある者は自分たちの命を助けてくれと懇願する。
それは、人間の欲深さを表す言葉たちに他ならなかったが、騎士は、声援を受けて立ちあがろうとしていた。
「そ、そうだ……彼らは、私がいなければ、滅ぼされてしまう! こんな私でも、やらなければ!」
身体中が鈍器によって悲鳴をあげている。
今にも倒れそうな痛みの中、騎士は、片足ずつ、片腕ずつ上げていき、ついには武器を振り返した。
突然の反撃に反応できず、一体のゴブリンが腹を切り裂かれる。
「うおおぉぉぉぉぉぉおおぉぉお!」
相手を威嚇するためではなく、自らを鼓舞するための雄叫び。
攻撃を浴びせ、受け、殴り、殴られ、血を吐かせ、吐き、一体、また一体とゴブリンが減っていく。
武器が砕け、へし折れ、拳に血を滲ませながら戦っていた。
そうして、途方もない時間が過ぎたように感じるほどの、泥沼の戦いの末に、ついに騎士は勝利した。
最後に立っていたのは、今にも倒れてしまいそうな、ふらふらの、頼り甲斐のなさそうな騎士だった。
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