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番外編
ある騎士の作戦
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「一体……」
騎士は、驚いた顔で道端に立ち尽くす村人に声をかけたが、相手がしばし思考していると見て、我に返るまで馬上で待っていた。
美しい栗毛の馬は身動きひとつとらない。
「一体、この村はどうしたのだ?」
ようやく騎士は声を発した。
それは低く重い声色だったが、心を痛めているような悲痛さが滲んでいた。
「わ、私たちの村は……ゴブリンに襲われたんです」
村人は背後を指差し、騎士はそれを目で追う。
彼が確認していたのは、村の被害ではない。
この後、自分と共に戦うことのできる者がどれほどいるかだ。
だが、ゴブリンとまともに戦えそうな体格を有する成人男性は、誰もが傷ついていた。
顔にも生気がなく、いつ自分たちが死んでしまうのか、そして、家族を守れないまま死ぬことに絶望しているようだ。
村人は俯きながら「あの」と小さく発した。
しかし、すぐに自分が意図せず声をかけてしまったことに気付き、「気にしないでください」と、会話を終わらせた。
「貴女の言いたいことは分かっている。私では役に立たないかもしれないが、見てしまった以上、見捨てることはできない」
思わぬ言葉に、村人はパッと顔を上げた。
果たして、目の前の鈍重そうな騎士が、自分の想像している通りの意味の言葉を口にしたのかと、判断しかねている。
馬に跨ってこそいるが、体型は騎士というにはふくよかで、腹部のプレートが盛り上がっていた。
目の前の人物が役に立つのか?
「考えていることも分かる。今夜の襲撃へは、私が出る。だから、武器を提供してもらっても良いだろうか?」
・
「……剣が3本と、槍が2本。私が持っているものと合わせれば……心許ないが、やるしかない」
放浪騎士がゴブリン退治を引き受けたという話は、瞬く間に村人たちに広まった。
本来であれば、戦いの訓練を受けているであろう騎士であろうと、一人で魔物の群れに挑むというのは自殺行為であり、人々もそれを理解している。
だからこそ、止めるべきなのだろうが、彼らも絶体絶命の状況にある。縋るしかないのだ。
そして、自分たちにできるせめてもの手助けということで、村中にある武器をかき集めてきた。
時刻は夕方、襲撃まであと二時間といったところだろう。
「失礼なのは承知の上ですが、本当にこれだけの装備で、お一人で戦われるのですか?」
「あぁ、でなければ、貴方がたは明日の月を眺めることができないだろう。とはいえ、私としても、もうひとつふたつ策が欲しいところだな」
騎士は周囲を見回した。
かろうじて入れ物の体を保ってはいるもののボロボロの家々、荒らされた畑、水などの生活に必要な液体が入れられた壺、今にも消えてしまいそうな松明の明かり。
正直に言って、役に立ちそうなものはなにもない。
「良ければ、各々の家を見せてもらっても良いだろうか?」
これが、単なる家庭訪問でないことくらい村人たちも理解していた。
誰もが頷き、騎士は一人一人の家屋を覗いていく。
一つ目の家で目についたのは、大きなカーペットだった。
どこか別の国からもたらされたであろう、赤と青が目を惹くデザイン。
二つ目の家には何もなかった。
ただ、外には2頭の馬が繋がれていた。
三つ目の家には、家畜の餌が大量に置いてある。
飼い葉に触れて頷く騎士を見て、村人たちは首を傾げていた。
その後も、いくつかの特徴的な物を確認しつつ、作戦を練っていく。
「……よし、これなら可能性はあるかもしれない」
騎士は頷くと、いくつかの道具を手に取って村の中心に出ていき、村人の力を借りて仕掛けを施した。
ゴブリンの一隊が到着したのは、準備の完了からすぐのことだった。
騎士は、驚いた顔で道端に立ち尽くす村人に声をかけたが、相手がしばし思考していると見て、我に返るまで馬上で待っていた。
美しい栗毛の馬は身動きひとつとらない。
「一体、この村はどうしたのだ?」
ようやく騎士は声を発した。
それは低く重い声色だったが、心を痛めているような悲痛さが滲んでいた。
「わ、私たちの村は……ゴブリンに襲われたんです」
村人は背後を指差し、騎士はそれを目で追う。
彼が確認していたのは、村の被害ではない。
この後、自分と共に戦うことのできる者がどれほどいるかだ。
だが、ゴブリンとまともに戦えそうな体格を有する成人男性は、誰もが傷ついていた。
顔にも生気がなく、いつ自分たちが死んでしまうのか、そして、家族を守れないまま死ぬことに絶望しているようだ。
村人は俯きながら「あの」と小さく発した。
しかし、すぐに自分が意図せず声をかけてしまったことに気付き、「気にしないでください」と、会話を終わらせた。
「貴女の言いたいことは分かっている。私では役に立たないかもしれないが、見てしまった以上、見捨てることはできない」
思わぬ言葉に、村人はパッと顔を上げた。
果たして、目の前の鈍重そうな騎士が、自分の想像している通りの意味の言葉を口にしたのかと、判断しかねている。
馬に跨ってこそいるが、体型は騎士というにはふくよかで、腹部のプレートが盛り上がっていた。
目の前の人物が役に立つのか?
「考えていることも分かる。今夜の襲撃へは、私が出る。だから、武器を提供してもらっても良いだろうか?」
・
「……剣が3本と、槍が2本。私が持っているものと合わせれば……心許ないが、やるしかない」
放浪騎士がゴブリン退治を引き受けたという話は、瞬く間に村人たちに広まった。
本来であれば、戦いの訓練を受けているであろう騎士であろうと、一人で魔物の群れに挑むというのは自殺行為であり、人々もそれを理解している。
だからこそ、止めるべきなのだろうが、彼らも絶体絶命の状況にある。縋るしかないのだ。
そして、自分たちにできるせめてもの手助けということで、村中にある武器をかき集めてきた。
時刻は夕方、襲撃まであと二時間といったところだろう。
「失礼なのは承知の上ですが、本当にこれだけの装備で、お一人で戦われるのですか?」
「あぁ、でなければ、貴方がたは明日の月を眺めることができないだろう。とはいえ、私としても、もうひとつふたつ策が欲しいところだな」
騎士は周囲を見回した。
かろうじて入れ物の体を保ってはいるもののボロボロの家々、荒らされた畑、水などの生活に必要な液体が入れられた壺、今にも消えてしまいそうな松明の明かり。
正直に言って、役に立ちそうなものはなにもない。
「良ければ、各々の家を見せてもらっても良いだろうか?」
これが、単なる家庭訪問でないことくらい村人たちも理解していた。
誰もが頷き、騎士は一人一人の家屋を覗いていく。
一つ目の家で目についたのは、大きなカーペットだった。
どこか別の国からもたらされたであろう、赤と青が目を惹くデザイン。
二つ目の家には何もなかった。
ただ、外には2頭の馬が繋がれていた。
三つ目の家には、家畜の餌が大量に置いてある。
飼い葉に触れて頷く騎士を見て、村人たちは首を傾げていた。
その後も、いくつかの特徴的な物を確認しつつ、作戦を練っていく。
「……よし、これなら可能性はあるかもしれない」
騎士は頷くと、いくつかの道具を手に取って村の中心に出ていき、村人の力を借りて仕掛けを施した。
ゴブリンの一隊が到着したのは、準備の完了からすぐのことだった。
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