【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚

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番外編

ある騎士の冒険

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 ジオ・プライムは、この世界に並ぶ者のいない、まさしく最強と評するのが相応しい男である。
 年々、身体の衰えを感じていて、目下の悩みは腰痛であるが、それでも彼に敵はいない。
 天降石という未曾有の天災を、一人ではないとはいえ防いでしまったのだから疑いようもない。
 彼自身は、自らの力が抜きん出ているものだと気付き始めているようだが、だからと言って、その力で世界征服を企むだとか、冒険者になって一財産築こうだとか、俗的な欲望を持ち合わせていなかった。
 むしろ、できる限り目立たないように、今回の功績が誰にも知られなければ良いとさえ思っていた。
 現実には、このニュースは世界中に広まっているのだが。
 しかしながら、広い世界の中には、ほとんど外界からの情報が入ってこない集落も存在している。
 そこにはギルドはなく、冒険者もいない。
 当然ながら、近くに魔物は出現して、日々、人々を脅かしている。
 撃退しようにも、そう簡単にはいかない。
 本来、魔物は手強いものなのだ。
 書の守護者だったり、洒落の伝道師だったり、月の神の再来だったり、伝説の登場人物と見紛うほどの強さがあれば、魔物など取るに足らない存在だが、一般市民にとっては違う。
 彼らにとっては、ゴブリンの一匹ですら強敵となり得るのだ。

 その村は、ゴブリンの大群に襲われていた。
 大群といっても、その数は15匹くらいである。
 ゴブリンは小柄の魔物で、人間に似た体躯をしている。
 皮膚の色は未成熟の豆の皮のような緑色で、醜い顔つき。
 とがった耳や鼻、鋭い牙を持っている。
 村人は20人ほどだが、その中で成人男性は半分、10人ほどしかいない。
 体格は人間の方が優っていて、知能も劣っていることがほとんどだが、ゴブリンは卑劣だ。
 自分の利益のためならば、殺しや窃盗など、なんでも行う。
 最も、それは人間の掟に定めるから許されないことであって、自然界としては極めて当然の狩りである。
 ともかく、ゴブリンは貧弱な体格を、集団で行動することで補っていた。
 さらに、奇襲を仕掛けることで、より優位に立とうとするのだ。
 棍棒や短剣、弓矢といった簡素な武器は、獣相手なら致命傷になり得ないが、皮膚の薄い人間になら効いてしまう。
 村人は、死者こそ出なかったものの、幾人もが怪我を負ってしまい、次の襲撃に耐えられそうもなかった。
 近くに助けを求められる街もなく、怪我人の看病をするのが精一杯。
 そうしている間にも、村の近くの森に陣地を敷いているゴブリンたちは、次の夜に向けての準備を進めていた。
 人間が魔物を駆逐して社会を形成したように、魔物が人間を駆逐するだけ。
 俯瞰的な視点で見れば、悲しくもない、日常の1ページ。
 その村に、一人の騎士が訪れた。

 村はひどく疲弊していた。
 周辺の柵に傷は付いていなかったが、内部の家々は、いくつかが焼け落ちていた。
 ゴブリンはすばしっこい生き物だ。
 おそらく、柵を乗り越えて村に侵入し、家に火を放ったのだ。
 そうして隠れる場所をなくし、数の暴力でもって勝利を収めるつもりだったのだろう。
 すでに定住の地がある人間たちは、いまさらこの場所を捨てて出ていくわけにもいかない。
 となれば、攻撃と撤退を繰り返して、効率的に体勢を整えられるゴブリン側が圧倒的に有利。
 入り口の時点で、かなり多くの情報を読み取ることができる。
 ここままでは村に未来がないことも、たかが一般の騎士が一人増えたところで、勝ち目がないことも理解していた。
 しかし、金属の板で各部位を覆うように作られている、プレートアーマで身を固めた騎士は、村に入って行った。
 左の腰のあたりには一本の剣が携えられていて、背中には槍がくくりつけられている。
 頭部を保護する兜には、視界を確保するための覗き窓があり、そこからは活気のある太い眉と、脂肪が乗って細い目が見え隠れしていた。
 
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