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おっさんと終焉
蛇
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空を覆い尽くしていた天降石も、今や大部分が塵と化していた。
たとえ、この状況で対処をやめてしまったとしても、被害こそあれど、百年後の未来のような惨状は起こらない。
だが、ジオは最後まで事態の面倒を見るつもりで、ルーエとミヤの二人から分けられた魔力を、再び土の鎧として身にまとった。
先ほどよりも幾分か細身でな鎧。
背中には二本の筒が取り付けられていたが、今回はミヤの紙札は必要ない。
彼女もかなり疲弊しているし、なにより、ジオはもう魔力を温存しなくて良いからだ。
ケンフォード王国で手合わせしたかつての教え子であるシャーロットの鎧を彷彿とさせる構造によって、ジオは空へと舞い上がった。
高速で空中を駆け、拳で破片を砕いていく姿を見て、カグヤノムラの人々は口を開けているしかなかった。
噴射された炎が残像のように視界に残り、それはまるで、八岐大蛇だけでなく、光の蛇が力を貸してくれているよう。
無事に掃除を終えたジオが、カグヤノムラの英雄として讃えられることになるのは当然のことだった。
・
窓から差し込む柔らかい光が、優しく瞼を暖めて、アカネは目を覚ました。
小鳥の囀りが、まだ早い時間だということを教えてくれる。
アカネはゆっくりと身体を起こすと、布団をたたみ、朝食を作っている母親に声をかけにいく。
父は既に仕事に出てしまっていて、朝食は母と二人だ。
不満はないが、少し寂しい。
こんな時、祖父や祖母がいてくれたらと思うことがあるが、今日はその限りではない。
なぜなら、今日は月に一度、祖父がアカネを外へ連れ出してくれる日だからだ。
「いってきまーす!」
しかし、その前に行くべき場所がある。
アカネは母の作った昼食と、何冊かの教材を持って、元気よく家を飛び出した。
・
「それじゃあ、今日はこの街に伝わる昔話をしましょうか」
参考書を閉じて、教師はそう言った。
普段なら、もう10分ほど授業が続くはずだったが、教える方にも飽きが来るのか、半ば自由時間のような雰囲気。
アカネを含む生徒たちは喜び、すぐにざわつくが、教師のいう「昔話」があまりにも興味を引く内容で、すぐに静まり返った。
なぜなら、日頃、住民たちが信仰を寄せている三柱の神。
そのうちの一柱である「ジオ」という存在についての話だったからだ。
「ジオ様はいまから約百年前、まだ村だったカグヤチョウを襲った天災を退けたくれた恩人なのです。そして、その存在を讃えるために、私たちは神様として彼を崇めることにしたんですよ。あの像は、皆さんも毎日見ていますよね?」
あの像、といって教師が指さしたのは、町の中心にある木像だった。
優しそうな顔立ちの男が立っていて、その足元に八つの蛇の頭が巻き付くようにしている。
生徒たちは「そんなすごい人なのに、どうして顔に覇気がないのか」と疑問に思ったが、おそらく製作者の技量的な問題だろうと、または経年劣化によるものだろうと考えた。
経年劣化によるもの、という考えはある意味正しいのだが、この時代を生きる人々にとっては知る由もない。
「とにかく、日常で何か良いことがあった時は、きっとジオ様のご加護のお陰です。ちゃんと像の方へ向いて感謝するんですよ」
はい、とアカネは元気よく返事をして、今日の授業は終わった。
たとえ、この状況で対処をやめてしまったとしても、被害こそあれど、百年後の未来のような惨状は起こらない。
だが、ジオは最後まで事態の面倒を見るつもりで、ルーエとミヤの二人から分けられた魔力を、再び土の鎧として身にまとった。
先ほどよりも幾分か細身でな鎧。
背中には二本の筒が取り付けられていたが、今回はミヤの紙札は必要ない。
彼女もかなり疲弊しているし、なにより、ジオはもう魔力を温存しなくて良いからだ。
ケンフォード王国で手合わせしたかつての教え子であるシャーロットの鎧を彷彿とさせる構造によって、ジオは空へと舞い上がった。
高速で空中を駆け、拳で破片を砕いていく姿を見て、カグヤノムラの人々は口を開けているしかなかった。
噴射された炎が残像のように視界に残り、それはまるで、八岐大蛇だけでなく、光の蛇が力を貸してくれているよう。
無事に掃除を終えたジオが、カグヤノムラの英雄として讃えられることになるのは当然のことだった。
・
窓から差し込む柔らかい光が、優しく瞼を暖めて、アカネは目を覚ました。
小鳥の囀りが、まだ早い時間だということを教えてくれる。
アカネはゆっくりと身体を起こすと、布団をたたみ、朝食を作っている母親に声をかけにいく。
父は既に仕事に出てしまっていて、朝食は母と二人だ。
不満はないが、少し寂しい。
こんな時、祖父や祖母がいてくれたらと思うことがあるが、今日はその限りではない。
なぜなら、今日は月に一度、祖父がアカネを外へ連れ出してくれる日だからだ。
「いってきまーす!」
しかし、その前に行くべき場所がある。
アカネは母の作った昼食と、何冊かの教材を持って、元気よく家を飛び出した。
・
「それじゃあ、今日はこの街に伝わる昔話をしましょうか」
参考書を閉じて、教師はそう言った。
普段なら、もう10分ほど授業が続くはずだったが、教える方にも飽きが来るのか、半ば自由時間のような雰囲気。
アカネを含む生徒たちは喜び、すぐにざわつくが、教師のいう「昔話」があまりにも興味を引く内容で、すぐに静まり返った。
なぜなら、日頃、住民たちが信仰を寄せている三柱の神。
そのうちの一柱である「ジオ」という存在についての話だったからだ。
「ジオ様はいまから約百年前、まだ村だったカグヤチョウを襲った天災を退けたくれた恩人なのです。そして、その存在を讃えるために、私たちは神様として彼を崇めることにしたんですよ。あの像は、皆さんも毎日見ていますよね?」
あの像、といって教師が指さしたのは、町の中心にある木像だった。
優しそうな顔立ちの男が立っていて、その足元に八つの蛇の頭が巻き付くようにしている。
生徒たちは「そんなすごい人なのに、どうして顔に覇気がないのか」と疑問に思ったが、おそらく製作者の技量的な問題だろうと、または経年劣化によるものだろうと考えた。
経年劣化によるもの、という考えはある意味正しいのだが、この時代を生きる人々にとっては知る由もない。
「とにかく、日常で何か良いことがあった時は、きっとジオ様のご加護のお陰です。ちゃんと像の方へ向いて感謝するんですよ」
はい、とアカネは元気よく返事をして、今日の授業は終わった。
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