123 / 154
おっさんと終焉
束の間
しおりを挟む「……危うくジオが、100年もの間、帰ってこないところだったということか?」
再会を祝して腕を固めたあと、ルーエに事の仔細を伝えた。
もちろんちゃんとハグもしたが、気持ち悪い笑みを浮かべていたので、もう一度関節を軋ませておいた。
ルーエは、最初のうちは冗談だと思って聞き流していたが、俺の真剣さに居住まいを正して話を受け入れてくれる。
実際に体験しなければ、常人ならば思考が追いつかないだろうが、腐っても彼女は魔王。
あり得ないような事柄でも、事実として素直に飲み込む。
「未来の私がどんな気分だったかはわからないが、自分を犠牲にしてまで天降石とやらを食い止めたのは流石だな。これもまた、ジオへの愛が成せる技……か」
「は、はは……」
こういう時、なんで返せばいいんだ。
俺のために、かどうかはさておき、彼女が世界を救ってくれたのは事実だが、それにしては反応が薄すぎるというか、キザというか。
自分の死すらも決断の範疇内だと言っているような潔さ。
「だが、私一人では力不足だったというのは癪だな。これでも、お前を除けば世界最強の自信があるんだが……」
「しょうがないよ。見たことはないけど、そもそも一人の力でどうにかできるものじゃないだろうし」
「……その言い方だと、二人ならどうにかなると言っているようだが?」
「それは……まぁ。できることも増えるし、俺以外にもミヤがいる」
おそらくだが、ルーエの得意な消滅魔術は天降石との相性が悪いのだ。
魔術で生成した物体が触れた部分を消滅させるというのは強力だが、対象が巨大すぎるとあまり意味をなさない。
むしろ、削ったことで天降石が割れ、被害が広がってしまう可能性もある。
未来の彼女もそれを考えて、破壊するのは程々に、残りの魔力を全て使って防御に徹したのだろう。
「やるだけやってみるしかないよね。あの人たちのためにも」
「あぁ、私も一応は魔族の長だし、できればみんなを守ってやりたい」
「ミヤもお二方に同意です。頑張りましょう」
気付くと真横にミヤがいた。
いつの間に、と驚きが口から漏れる。
「こちらは村の方々に詳細を説明し、信じてくださらなかったので脅し……失礼、必死な説得の末、協力してくれることになりました」
「今、脅したって言ってなかった?」
「言っておりません」
「今、脅したって言ってたぞ?」
「言っておりません」
すまし顔で恐ろしいことを言う子だ。
思えば、一緒に暮らしていた頃も同じようなことが何回か……いや、思い出すのは後でいい。
「これから対策を話し合うつもりなのですが、お館さまはどうされますか? テレポートで誰かに助けを求めに行くというのも良いかと」
「それも考えたんだけど、魔力を温存したいから。ルーエと一緒に対策会議に参加するよ」
俺の教え子の中で再会したのはキャス、ランド、シャーロットの3人。
正直、一人でも駆けつけてくれたら心強いのだが、手紙を出している時間はない。
また、キャスとランドに関しては、前者は名うての冒険者として、後者は建築業者として世界中を飛び回っている。
だから現在の居場所が特定できず、徒労に終わる可能性が高い。
反対に、シャーロットはケンフォード王国の騎士団長ということで、不在だとは考えにくい。
とはいえ、最近、王の命を狙う刺客が現れたばかりだし、警備を手薄にさせるのは得策ではない。
つまり、援軍は偶然に頼るしかないのだ。
そうそう上手くことが運ぶわけもないし、俺も俺で、莫大に魔力を使う算段がある。
天降石については、俺とルーエ、ミヤ、そしてカグヤノムラの人々で対処するしかないだろう。
「承知いたしました。それでは参りましょう」
早足で宿を出て、村の広場に向かっている時、ルーエがふと呟いた。
「……根本的な話だが、どうして天降石が降ってくるんだ?」
0
お気に入りに追加
917
あなたにおすすめの小説
墓守の荷物持ち 遺体を回収したら世界が変わりました
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアレア・バリスタ
ポーターとしてパーティーメンバーと一緒にダンジョンに潜っていた
いつも通りの階層まで潜るといつもとは違う魔物とあってしまう
その魔物は僕らでは勝てない魔物、逃げるために必死に走った
だけど仲間に裏切られてしまった
生き残るのに必死なのはわかるけど、僕をおとりにするなんてひどい
そんな僕は何とか生き残ってあることに気づくこととなりました
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!
IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。
無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。
一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。
甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。
しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--
これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話
複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています
神眼のカードマスター 〜パーティーを追放されてから人生の大逆転が始まった件。今さら戻って来いと言われてももう遅い〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「いいかい? 君と僕じゃ最初から住む世界が違うんだよ。これからは惨めな人生を送って一生後悔しながら過ごすんだね」
Fランク冒険者のアルディンは領主の息子であるザネリにそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
父親から譲り受けた大切なカードも奪われ、アルディンは失意のどん底に。
しばらくは冒険者稼業をやめて田舎でのんびり暮らそうと街を離れることにしたアルディンは、その道中、メイド姉妹が賊に襲われている光景を目撃する。
彼女たちを救い出す最中、突如として【神眼】が覚醒してしまう。
それはこのカード世界における掟すらもぶち壊してしまうほどの才能だった。
無事にメイド姉妹を助けたアルディンは、大きな屋敷で彼女たちと一緒に楽しく暮らすようになる。
【神眼】を使って楽々とカードを集めてまわり、召喚獣の万能スライムとも仲良くなって、やがて天災級ドラゴンを討伐するまでに成長し、アルディンはどんどん強くなっていく。
一方その頃、ザネリのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
ダンジョン攻略も思うようにいかなくなり、ザネリはそこでようやくアルディンの重要さに気づく。
なんとか引き戻したいザネリは、アルディンにパーティーへ戻って来るように頼み込むのだったが……。
これは、かつてFランク冒険者だった青年が、チート能力を駆使してカード無双で成り上がり、やがて神話級改変者〈ルールブレイカー〉と呼ばれるようになるまでの人生逆転譚である。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様
岡崎 剛柔
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです
【あらすじ】
カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。
聖女の名前はアメリア・フィンドラル。
国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。
「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」
そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。
婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。
ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。
そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。
これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。
やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。
〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。
一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。
普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。
だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。
カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。
些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。
初めての異世界転生
藤井 サトル
ファンタジー
その日、幸村 大地(ゆきむら だいち)は女神に選ばれた。
女神とのやり取りの末、大地は女神の手によって異世界へと転生する。その身には女神にいくつもの能力を授かって。
まさにファンタジーの世界へ来た大地は聖女を始めにいろんな人に出会い、出会い金を稼いだり、稼いだ金が直ぐに消えたり、路上で寝たり、チート能力を振るったりと、たぶん楽しく世界を謳歌する。
このお話は【転生者】大地と【聖女】リリア。そこに女神成分をひとつまみが合わさった異世界騒動物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる