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おっさんと終焉
希望
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小屋を飛び出して周囲の様子を確認する。
ざっと目に入るだけでも、30体以上の魔物が俺たちを睨みつけていた。
「こ、こいつらが爺さんの言ってた魔物なのか!?」
老人の家にあった鋼の剣を構えながら、ハナオカは問いかける。
怯える少女を自分の背後に隠すと、老人は頷く。
「……そうです。しかし、いままでより数も増え、見た目も凶悪になっています」
「やはり、この世界の最後の生き残りであるお二人を狙っているのでしょう」
「そうみたいだね。俺たちで2人を守ろう」
魔物たちを見据える。
どの個体も見たことのない、大きな口を持った食虫植物のような姿をしていた。
どうして不毛の地にこのような魔物が出現するのか、土地との関連性が気になったが、今はそれどころではない。
モンスターの軍団は俺たちを囲み、ゆっくりと距離を詰めてくる。
俺は、小手調べとばかりに地面を蹴り、魔物の懐に入り込む。
食虫――大きさから言って食人とも言える――植物は、未だ俺に気付いていない。
右の拳を握り、思い切り突き出した。
「いけません、ジオさん! 奴らは強靭な皮膚を持っていて、人間の拳では――」
魔物は勢いよく殴り飛ばされ、すぐに命を散らす。
死骸は残らず、すぐに溶けるようにして地面に消えた。
「こ、これは……」
こちらの攻撃が通じることがわかり、続けて三体を屠る。
俺の手には傷ひとつついていない。
振り返ると、ミヤが紙札を駆使して食人植物を近付けないようにしているのが見えた。
前線にこそ出ていないが、ハナオカもがむしゃらに剣を振るって老人たちを守っている。
魔物は一定間隔で地面から湧き出ていたが、100体ほど倒したところでパッタリと止んだ。
・
「……まさかジオさんがこれほど強いとは思ってませんでした……どうして教えてくださらなかったのですか?」
小屋に戻り、ひとまず危機が去ったことに安心した俺たち。
少女は安心して眠りについている。
俺もそろそろ寝ようと思い、準備をしていると、老人が口を開いた。
「いくらお館様が強くとも、現状は変わらないからです」
「余計な期待を抱かせないための配慮……ということですか」
俺の意図を代弁してくれたミヤだが、その言葉端には悔しさが滲んでいるようだった。
同じように、もしかすると老人は怒っているのではないかと思い、彼の方を見てみると、予想を裏切られることになった。
老人の目は、決意に満ちていた。
この数日間で見たことのない、まるで死地に赴く戦士のような眼差し。
「……過去に戻れるとしたら、天降石を破壊してくださいますか?」
「過去に戻れるだぁ!?」
突然の耳を疑うような、神に祈るかのような問い。
ハナオカは聞き返したあと、少女を目覚めさせないように自らの口を抑えた。
「過去に戻れるってどういうことですか? 私たちを過去に送り込むなら、それはあまり推奨できません」
言いはしたが、すぐに自分の質問が見当違いだと理解した。
そもそも、過去に戻りたいのなら、当時存在していない老人たちが適任なのだ。
少なくとも、俺たち現代の人間が行くよりも安全だろう、
人々に天降石の話を信じてもらえるかという点だけが不安だが。
「その通りです。私の祖父が拾ったらしい本には、確かに過去の世界に行くことのできる魔術が記されていました」
「では、あなたは一体何を……?」
「世界が粉々に破壊された後、祖父はある研究を始めました。どうすれば、危険性をなくして過去に戻ることができるのか。そして、私の代になって、その方法が見つかったのです」
過去に行く方法が見つかった、それも、危険性をなくしている?
「……その方法とは」
にわかには信じがたい老人の言葉だが、俺の考えを見越しているように、彼は続けた。
「――あなた方の精神のみを、過去の自分に重ねることです」
ざっと目に入るだけでも、30体以上の魔物が俺たちを睨みつけていた。
「こ、こいつらが爺さんの言ってた魔物なのか!?」
老人の家にあった鋼の剣を構えながら、ハナオカは問いかける。
怯える少女を自分の背後に隠すと、老人は頷く。
「……そうです。しかし、いままでより数も増え、見た目も凶悪になっています」
「やはり、この世界の最後の生き残りであるお二人を狙っているのでしょう」
「そうみたいだね。俺たちで2人を守ろう」
魔物たちを見据える。
どの個体も見たことのない、大きな口を持った食虫植物のような姿をしていた。
どうして不毛の地にこのような魔物が出現するのか、土地との関連性が気になったが、今はそれどころではない。
モンスターの軍団は俺たちを囲み、ゆっくりと距離を詰めてくる。
俺は、小手調べとばかりに地面を蹴り、魔物の懐に入り込む。
食虫――大きさから言って食人とも言える――植物は、未だ俺に気付いていない。
右の拳を握り、思い切り突き出した。
「いけません、ジオさん! 奴らは強靭な皮膚を持っていて、人間の拳では――」
魔物は勢いよく殴り飛ばされ、すぐに命を散らす。
死骸は残らず、すぐに溶けるようにして地面に消えた。
「こ、これは……」
こちらの攻撃が通じることがわかり、続けて三体を屠る。
俺の手には傷ひとつついていない。
振り返ると、ミヤが紙札を駆使して食人植物を近付けないようにしているのが見えた。
前線にこそ出ていないが、ハナオカもがむしゃらに剣を振るって老人たちを守っている。
魔物は一定間隔で地面から湧き出ていたが、100体ほど倒したところでパッタリと止んだ。
・
「……まさかジオさんがこれほど強いとは思ってませんでした……どうして教えてくださらなかったのですか?」
小屋に戻り、ひとまず危機が去ったことに安心した俺たち。
少女は安心して眠りについている。
俺もそろそろ寝ようと思い、準備をしていると、老人が口を開いた。
「いくらお館様が強くとも、現状は変わらないからです」
「余計な期待を抱かせないための配慮……ということですか」
俺の意図を代弁してくれたミヤだが、その言葉端には悔しさが滲んでいるようだった。
同じように、もしかすると老人は怒っているのではないかと思い、彼の方を見てみると、予想を裏切られることになった。
老人の目は、決意に満ちていた。
この数日間で見たことのない、まるで死地に赴く戦士のような眼差し。
「……過去に戻れるとしたら、天降石を破壊してくださいますか?」
「過去に戻れるだぁ!?」
突然の耳を疑うような、神に祈るかのような問い。
ハナオカは聞き返したあと、少女を目覚めさせないように自らの口を抑えた。
「過去に戻れるってどういうことですか? 私たちを過去に送り込むなら、それはあまり推奨できません」
言いはしたが、すぐに自分の質問が見当違いだと理解した。
そもそも、過去に戻りたいのなら、当時存在していない老人たちが適任なのだ。
少なくとも、俺たち現代の人間が行くよりも安全だろう、
人々に天降石の話を信じてもらえるかという点だけが不安だが。
「その通りです。私の祖父が拾ったらしい本には、確かに過去の世界に行くことのできる魔術が記されていました」
「では、あなたは一体何を……?」
「世界が粉々に破壊された後、祖父はある研究を始めました。どうすれば、危険性をなくして過去に戻ることができるのか。そして、私の代になって、その方法が見つかったのです」
過去に行く方法が見つかった、それも、危険性をなくしている?
「……その方法とは」
にわかには信じがたい老人の言葉だが、俺の考えを見越しているように、彼は続けた。
「――あなた方の精神のみを、過去の自分に重ねることです」
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