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おっさん、パーティに行く

スーツ選び

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「……それで、どうしてエドガーさんもいらっしゃるんですか?」
「なんだ、俺がいるとくつろげないか? あんたが社交パーティに行くと聞いて、ちょうどいいし俺もついていこうと思ったんだよ。小説にはリアリティが必要だと言ったろう? 普段はフォックスデンにこもっているから、時々下品……華やかな場所に行かないと忘れてしまうのさ」

 ジオが貴族たちからどのような視線を向けられるのか。
 そこに期待を寄せるエドガーは、一の質問に対して十で返す。
 並々ならぬ熱意と連続で繰り出される言葉にジオは頷くことしかできない。

「ま、まぁ……出発しますか……」
「あぁ、久しぶりだなマロン。おまけの滑らかな毛が恋しかった……」

 困ったような顔のシャーロット、茶色い馬に語りかけるルーエ。
 様々な反応を見せながら、彼らは城下へ向かった。



 城下に辿り着いてから、一行はすぐに仕立て屋に向かった。
 国内随一の人気店は、あまり値が張らず納期も短い店だ。
 それに比べて彼らが訪れたのは知る人ぞ知る名店。
 納期は一般的だが、出来上がりの質が段違い。
 その店は大通りから一本裏に入ったところにポツンと立っている。

「とんでもなく入りにくいね……」

 ジオが笑顔を引き攣らせる。
 店の外観はシンプルで、落ち着いているが高貴さを感じさせるブラウンと貝殻のような白で構成されている。
 そして、扉の横から出っ張るようにしてガラス張りになっていて、シングルのスーツが二着飾られていた。
 素材の豪華さや値段という部分に価値を出すのではなく、着る人間にあった服を仕立てるというコンセプトが伝わってくる。
 彼の言う通り、一見の客には入りにくいだろう。
 しかし、ジオ以外の3人はこともなげに入店していく。

「え……え!? そんなに躊躇なくいくものなの!?」

 置いていかれないよう、ジオもヤケクソ気味に店に入った。

「いらっしゃいませ……おや、シャーロット様ではないですか」
「お久しぶりです。ついにこの時がやってきました」

 やはり王直属の騎士団長ともなれば高級な店を利用するのだろう。
 シャーロットは店の主人と思わしき老人と言葉を交わす。

「ど、どうも……」

 ジオが緊張しながら老人に声をかける。

「おや、貴方がシャーロット様が言っていた……いえ、野暮でしたね。お初にお目にかかります。私はこの店の主人で、ロバートと申します」
「ロバートさんですね。ジオといいます」

 二人は握手を交わす。

「今日は先生……ジオ殿の社交パーティ用のスーツを仕立ててもらいたいのです」
「承知いたしました。何かご希望のデザインはありますかな?」
「えっと……先生、どうですか?」
「え?」

 デザインと言われても、ジオは幼い頃から華やかさとは無縁の生活をしていた。
 彼が知っている服といえば、拾った書籍で学んだ極東の国のものくらい。
 スーツのデザインと言われても、剣士に魔術の使い方を聞くくらい知識がないのである。

「ふむ、それではまずは店内を見ていただけますかな?」

 目の前の男が戸惑っていることに気付いたロバートは、彼に店内を見るように促す。
 店には様々なスーツが並んでいて、生地の質感、色、模様までなんでも揃っていた。

「えーっと……」

 ジオは店内をぐるりと二周し、ゆっくりと足をとめた。

「これ、とか……?」

 彼が手に取ったのは、シンプルな黒いスーツ。
 だが、シングルではなくダブルブレストのものだった。

「……! 良いですね、先生によくお似合いだと思います」
「そうだな。間違いなく似合うと思うぞ」
「あんた、意外とファッションセンスがあるんだな。意外性のあるやつは主人公に向いてるんだよ」

 三者三様の言葉をかけていたが、どれもジオを称賛するものだった。
 彼は感覚で選んだようだったが、思いがけない評価を得て恥ずかしそうに頬をかく。

「私もジオ様にお似合いだと思いますよ。それでは、上下このようなスタイルで……パーティということでタイは赤にしましょう。採寸を行いますので、試着室へどうぞ」
「あ、ありがとうございます!」

 人生初の採寸に高鳴る心臓。
 ロバートに促され、ジオは試着室へ入った。
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