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おっさん、村へ行く
vsホワイトウルフ
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ホワイトウルフの武器は鋭い牙で、これは木の盾くらいならば簡単に貫いてしまうらしい。
さらに厄介なのが俊敏さで、高速で距離を詰めてきて飛びかかり、強靭な筋肉によって獣の自由を奪うのだ。
群れで狩りを行うことが多いホワイトウルフは、数体が獲物の動きを抑え、残りでとどめを刺すという戦略を得意としていた。
目の前にいるのが中年男性だからといって、彼らは少しの油断もしていなかった。
――しかし、相手は書の守護者であり洞察賢者のジオ・プライム。
彼の行動はホワイトウルフの予測を大きく上回っている。
「あんまり減らしすぎても生態系に影響を与えかねないし、何より肉質が良いから美味しそうだな。ちょっと違う戦い方をしてみようかな」
ジオはそう言って、手のひらに球状の物体を召喚する。
おそらく魔術によって生み出されたであろう土色のそれがジオによって地面に叩きつけられると、周囲に土煙が広がった。
ホワイトウルフたちは発光体であたりを照らしてみるが、深い闇の中に落とされたかのように何も見えない。
その状態は1分ほど続き、やがて風の流れによって視界が晴れる。
すると、先ほどまでジオがいた場所には影も形もなくなっていた。
「――!」
周囲を見回していたホワイトウルフの一匹が、大岩の上で胡座をかいているジオを発見し、仲間知らせるために吠える。
彼らはたちまち陣形を立て直し、孤立無縁の状態にいる獲物に飛びかかろうとしていた。
しかし、実際にジオの元まで辿り着けたのは半分にも満たない。
ある個体は岩と岩の間に張られた鋭い糸のようなものに足を破壊され、またある個体は巧妙に隠された落とし穴に落下する。
「――ま、まさかこの短時間の間に罠を作ったというのか!?」
エドガーが驚くのも無理はない。
冒険者が行うトラップとは、入念に準備した道具を持参して設置するものであり、ジオのように即席で行うことはまず不可能。
だが、長年自然の中で命懸けの生活を続けてきた彼にとっては、どこにいようと全てが素材になり得るのだ。
もちろん、罠にかかって散っていった同胞を見て、ホワイトウルフたちは警戒を新たにした。
足元に細心の注意を払いつつ、小癪な策を弄した男に喰らいつくが――。
「毛が鋭そうだし、石で殴る方が効きそうだ――ねっと!」
ジオは自らが追い詰められた結果、策を張り巡らせたわけではない。
もとよりホワイトウルフなど敵ではなく、撃破方法にバリエーションを持たせたいがための、いわば「遊び」なのだ。
当然、接近戦になればジオの圧勝。
洞察賢者の名は伊達ではなく、高速で動く的を相手に、しっかりと有効な方法でダメージを与えていた。
一匹、また一匹と数を減らすホワイトウルフ。
「ふぅ。髪に土がついちゃったから水浴びしたいなぁ」
持っていた石を放り投げる。
とうとう最後の一匹が倒れ、勝敗は決した――ように思われた。
「――ん?」
ホワイトウルフにも仲間への想いがあったのだろうか。
せめて一矢報いたいと思ったのだろうか。
仲間の亡骸に身を隠し、ジオが油断するのを待っていた最後の一匹が、渾身のスピードで彼に襲いかかった。
「おい、危ないぞ!」
エドガーが叫んだ時には、もうホワイトウルフは目と鼻の先にいた。
しかし、ジオは素手で鋭い体毛を難なく掴み、絶命に足るギリギリの強さで地面に叩きつける。
その手には一点の傷もなく、逆に針のような体毛が折れていた……。
「……あんた、本当に人間か?」
「えっ?」
命を奪った魔物に手を合わせているジオに対し、エドガーはそう問いかけた。
「まさか、俺の想像していた『強い主人公』を遥かに超えてくるとはな。ここまで驚いたのは生まれて初めてだよ」
世辞だと思ったのか、ジオは愛想笑いを浮かべている。
依頼と戦闘取材が終わった一行は、早速ホワイトウルフを食すためにフォックスデンへと帰還した。
さらに厄介なのが俊敏さで、高速で距離を詰めてきて飛びかかり、強靭な筋肉によって獣の自由を奪うのだ。
群れで狩りを行うことが多いホワイトウルフは、数体が獲物の動きを抑え、残りでとどめを刺すという戦略を得意としていた。
目の前にいるのが中年男性だからといって、彼らは少しの油断もしていなかった。
――しかし、相手は書の守護者であり洞察賢者のジオ・プライム。
彼の行動はホワイトウルフの予測を大きく上回っている。
「あんまり減らしすぎても生態系に影響を与えかねないし、何より肉質が良いから美味しそうだな。ちょっと違う戦い方をしてみようかな」
ジオはそう言って、手のひらに球状の物体を召喚する。
おそらく魔術によって生み出されたであろう土色のそれがジオによって地面に叩きつけられると、周囲に土煙が広がった。
ホワイトウルフたちは発光体であたりを照らしてみるが、深い闇の中に落とされたかのように何も見えない。
その状態は1分ほど続き、やがて風の流れによって視界が晴れる。
すると、先ほどまでジオがいた場所には影も形もなくなっていた。
「――!」
周囲を見回していたホワイトウルフの一匹が、大岩の上で胡座をかいているジオを発見し、仲間知らせるために吠える。
彼らはたちまち陣形を立て直し、孤立無縁の状態にいる獲物に飛びかかろうとしていた。
しかし、実際にジオの元まで辿り着けたのは半分にも満たない。
ある個体は岩と岩の間に張られた鋭い糸のようなものに足を破壊され、またある個体は巧妙に隠された落とし穴に落下する。
「――ま、まさかこの短時間の間に罠を作ったというのか!?」
エドガーが驚くのも無理はない。
冒険者が行うトラップとは、入念に準備した道具を持参して設置するものであり、ジオのように即席で行うことはまず不可能。
だが、長年自然の中で命懸けの生活を続けてきた彼にとっては、どこにいようと全てが素材になり得るのだ。
もちろん、罠にかかって散っていった同胞を見て、ホワイトウルフたちは警戒を新たにした。
足元に細心の注意を払いつつ、小癪な策を弄した男に喰らいつくが――。
「毛が鋭そうだし、石で殴る方が効きそうだ――ねっと!」
ジオは自らが追い詰められた結果、策を張り巡らせたわけではない。
もとよりホワイトウルフなど敵ではなく、撃破方法にバリエーションを持たせたいがための、いわば「遊び」なのだ。
当然、接近戦になればジオの圧勝。
洞察賢者の名は伊達ではなく、高速で動く的を相手に、しっかりと有効な方法でダメージを与えていた。
一匹、また一匹と数を減らすホワイトウルフ。
「ふぅ。髪に土がついちゃったから水浴びしたいなぁ」
持っていた石を放り投げる。
とうとう最後の一匹が倒れ、勝敗は決した――ように思われた。
「――ん?」
ホワイトウルフにも仲間への想いがあったのだろうか。
せめて一矢報いたいと思ったのだろうか。
仲間の亡骸に身を隠し、ジオが油断するのを待っていた最後の一匹が、渾身のスピードで彼に襲いかかった。
「おい、危ないぞ!」
エドガーが叫んだ時には、もうホワイトウルフは目と鼻の先にいた。
しかし、ジオは素手で鋭い体毛を難なく掴み、絶命に足るギリギリの強さで地面に叩きつける。
その手には一点の傷もなく、逆に針のような体毛が折れていた……。
「……あんた、本当に人間か?」
「えっ?」
命を奪った魔物に手を合わせているジオに対し、エドガーはそう問いかけた。
「まさか、俺の想像していた『強い主人公』を遥かに超えてくるとはな。ここまで驚いたのは生まれて初めてだよ」
世辞だと思ったのか、ジオは愛想笑いを浮かべている。
依頼と戦闘取材が終わった一行は、早速ホワイトウルフを食すためにフォックスデンへと帰還した。
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