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おっさん、村へ行く
創作
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「ちらほら家屋が見えてきましたね。フォックスデンに到着です」
四、五時間の道程ののち、俺たちはフォックスデンへと辿り着いた。
ケンフォード王国へ向かう時にも思ったが、一つの国と言っても地域によってかなり貧富の差が出るようだ。
貴族は家の紹介はしていたが、長男が「仕事」に就いているとは聞かなかったし、次男以降であっても社交パーティに招待されることはあるらしい。
それに比べてフォックスデンの人々は自ら鍬を持って畑を耕し、汗水垂らしている。
「同じ国でもかなり違うんだねぇ。俺はこっちの方が好きだな」
「私もです。城下にいて足りないものはありませんが、やはり肩肘を張ってしまいますからね」
「そうそう。自慢できることじゃないけど、マナーとかよく分からなくてね」
料理によってカトラリーを使い分けるなんて最近初めて知ったし。
「城下との違いといえば、あちらも特徴的だと思いますよ」
シャーロットの示す方を見てみると、木造の背の高い建物があった。
「あれは?」
「教会です」
「私たちが見てきたものと全く違うな。月とスライムだ」
ルーエのいう通り、観光の時の訪れた教会と比べて大きさや建材など、すべての面が異なっていた。
もちろん、神様に祈りを捧げる場所だし大切なのは想いだろう。
だが、そうなると外観にこだわる理由は何かと疑問に感じる。
「……が…………じゃ……か?」
「いや…………で……」
そのままゆっくり進んでいると、教会の方から話し声が聞こえてきた。
何やら言い争いのような雰囲気だったし、申し訳ないが聴覚を強化して聞かせてもらう。
「私たちも戦い方を学ぶべきなんじゃないでしょうか!? 最近は魔物も増えてきたと聞きますし、いざという時は私たちも……」
「いやいや、そうは言うけどね君ィ。我々牧師は……君は副牧師だけどね……とにかく牧師は信者の悩みを聞いて解決するのが仕事なんだよ? 戦うなんて言うめんど……物騒なことは神に失礼だと思わんかね?」
「……ですが、魔物に襲われれば人々の願いは助命になります。教会が破壊されでもしたら、信者の方々の心の拠り所が――」
「しつこいな君ィ! これ以上は聞いていられないよ!」
足音が遠ざかっていく。
言い合いというより、一人は現実的な脅威に対する対抗策を訴え、もう一人は牧師とやらの仕事を優先しているようだ。
「……先生、どうかされましたか?」
「い、いや、なんでもないよ」
当然、シャーロットは教会での会話など聞いていない。
彼女に詳しい事情を聞いてみても良かったのだが、盗み聞きした身でそれはいかがなものかと思ってやめた。
「そういえば、小説家のエドガーさんってどんな人なの?」
フォックスデンの村長への挨拶に向かう途中、ふと気になって聞いてみた。
しかし、質問を受けたシャーロットは困ったような顔をしている。
「それが……私にもわからないのです」
「分からない?」
「彼は小説家として彗星のごとく現れ、現在までに三本の長編小説を執筆しています。そのどれもが城下では大人気で、貴族の新作を待つ声も多く……」
「へぇ、すごい文才がある人なんだね」
なぜかシャーロットの歯切れが悪い。
「ですが、人々にウケているのにはもう一つ理由があってですね。どの作品も王国をモデルにしているのですが、革命だったり貴族と農民の恋だったり、現実には起こり得ない事を描いているんです」
「……起こり得ない?」
ルーエが訝しげな反応をしている。
「貴族と農民の恋に関しては分からないこともないが、革命の火種は常にある。それを貴族が面白がっているのはおかしくないか?」
「確かに、現実の可能性としては常に存在しています。しかし、産まれた時から絶対的な力を持つと教えられている彼らにとっては、不思議な夢物語なんですよ」
そういえば、昔読んだ本に書いてあった気がする。
戦争は恐ろしいものだが、平和な世が続くとそれに魅力を感じ出す人がいるらしい。
貴族も自らの平穏を確信しているから、地位が脅かされるような興奮を楽しんでいるのだ。
「……ふん。夢物語だといいがな」
吐き捨てるようにルーエが言った。
四、五時間の道程ののち、俺たちはフォックスデンへと辿り着いた。
ケンフォード王国へ向かう時にも思ったが、一つの国と言っても地域によってかなり貧富の差が出るようだ。
貴族は家の紹介はしていたが、長男が「仕事」に就いているとは聞かなかったし、次男以降であっても社交パーティに招待されることはあるらしい。
それに比べてフォックスデンの人々は自ら鍬を持って畑を耕し、汗水垂らしている。
「同じ国でもかなり違うんだねぇ。俺はこっちの方が好きだな」
「私もです。城下にいて足りないものはありませんが、やはり肩肘を張ってしまいますからね」
「そうそう。自慢できることじゃないけど、マナーとかよく分からなくてね」
料理によってカトラリーを使い分けるなんて最近初めて知ったし。
「城下との違いといえば、あちらも特徴的だと思いますよ」
シャーロットの示す方を見てみると、木造の背の高い建物があった。
「あれは?」
「教会です」
「私たちが見てきたものと全く違うな。月とスライムだ」
ルーエのいう通り、観光の時の訪れた教会と比べて大きさや建材など、すべての面が異なっていた。
もちろん、神様に祈りを捧げる場所だし大切なのは想いだろう。
だが、そうなると外観にこだわる理由は何かと疑問に感じる。
「……が…………じゃ……か?」
「いや…………で……」
そのままゆっくり進んでいると、教会の方から話し声が聞こえてきた。
何やら言い争いのような雰囲気だったし、申し訳ないが聴覚を強化して聞かせてもらう。
「私たちも戦い方を学ぶべきなんじゃないでしょうか!? 最近は魔物も増えてきたと聞きますし、いざという時は私たちも……」
「いやいや、そうは言うけどね君ィ。我々牧師は……君は副牧師だけどね……とにかく牧師は信者の悩みを聞いて解決するのが仕事なんだよ? 戦うなんて言うめんど……物騒なことは神に失礼だと思わんかね?」
「……ですが、魔物に襲われれば人々の願いは助命になります。教会が破壊されでもしたら、信者の方々の心の拠り所が――」
「しつこいな君ィ! これ以上は聞いていられないよ!」
足音が遠ざかっていく。
言い合いというより、一人は現実的な脅威に対する対抗策を訴え、もう一人は牧師とやらの仕事を優先しているようだ。
「……先生、どうかされましたか?」
「い、いや、なんでもないよ」
当然、シャーロットは教会での会話など聞いていない。
彼女に詳しい事情を聞いてみても良かったのだが、盗み聞きした身でそれはいかがなものかと思ってやめた。
「そういえば、小説家のエドガーさんってどんな人なの?」
フォックスデンの村長への挨拶に向かう途中、ふと気になって聞いてみた。
しかし、質問を受けたシャーロットは困ったような顔をしている。
「それが……私にもわからないのです」
「分からない?」
「彼は小説家として彗星のごとく現れ、現在までに三本の長編小説を執筆しています。そのどれもが城下では大人気で、貴族の新作を待つ声も多く……」
「へぇ、すごい文才がある人なんだね」
なぜかシャーロットの歯切れが悪い。
「ですが、人々にウケているのにはもう一つ理由があってですね。どの作品も王国をモデルにしているのですが、革命だったり貴族と農民の恋だったり、現実には起こり得ない事を描いているんです」
「……起こり得ない?」
ルーエが訝しげな反応をしている。
「貴族と農民の恋に関しては分からないこともないが、革命の火種は常にある。それを貴族が面白がっているのはおかしくないか?」
「確かに、現実の可能性としては常に存在しています。しかし、産まれた時から絶対的な力を持つと教えられている彼らにとっては、不思議な夢物語なんですよ」
そういえば、昔読んだ本に書いてあった気がする。
戦争は恐ろしいものだが、平和な世が続くとそれに魅力を感じ出す人がいるらしい。
貴族も自らの平穏を確信しているから、地位が脅かされるような興奮を楽しんでいるのだ。
「……ふん。夢物語だといいがな」
吐き捨てるようにルーエが言った。
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