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おっさんと模擬戦
vsシャーロット
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つい10分前に戦ったジャレッドは布の服を着用していたが、シャーロットはしっかりと鎧を着込んでいる。
模擬戦だし、おっさん相手にそんなに気合を入れる必要はないと思うのだが、彼女は木剣の手入れをし、身体を適度に動かして入念な準備をしていた。
「先生はもう準備はよろしいですか?」
「……大丈夫だよ。怪我させないように気をつけてね」
「もちろんです。先生の教え子として、成長したのが気持ちや見た目だけではないと証明してみせます」
「あぁ、うん……」
この返答、多分シャーロットは「俺は強いから怪我をしないように注意しろ」と捉えているのだ。
実際にはその逆で、怪我をする可能性があるのは俺の方なんだが。
「二人とも、準備はいいか?」
面白そうに俺の様子を見ていたルーエが審判として二人の真ん中に立った。
やはり俺とシャーロットの距離は十メートルほど。
どちらが先に動くのか、それに対してどのような行動を取るのか、互いの初動が重要そうだ。
「それでは、殺し合え!」
物騒な掛け声は無視して、俺はシャーロットに注視する。
彼女が身に纏っている鎧は見るからに重そうで、俊敏な動きはできないだろう。
ジャレッド戦と同じように気を引き、背後に回り込めば勝てるかもしれない。
だが、この考えが甘かったと俺は次の瞬間理解した。
「では……行きます!」
シャーロットが勢いよくこちらに駆け出した途端、彼女の鎧の背の部分から炎が噴射される。
「――はぁっ!?」
炎の推進力が彼女の身体を押し、凄まじいスピードでこちらへ突撃してくる。
右手には木剣、左手は硬く握られていている。
「お覚悟を!」
シャーロットは木剣で鋭い突きを繰り出し、俺は間一髪でそれを避ける。
「この一撃を躱すとは、さすがです!」
「あはは、ありがと――うっ!?」
避けたと思って完全に油断していた。
俺を通り過ぎたシャーロットは、肘から噴射された炎によって身体の向きをすばやく変え、再び攻撃を行う。
身体を逸らすことで辛うじて回避し、距離を取る。
「それ、めちゃくちゃかっこいいね!?」
「ありがとうございます! 私が考案した戦法です!」
「どんな生活をしたら炎を噴射する鎧とか思いつくんだろうね!」
「私が山を出る日に先生がかけてくださった『常識に縛られるな』という言葉が原点です!」
「すごいね昔の俺ッ!」
軽快に言葉は交わしているものの、シャーロットは一向に攻撃の手を緩めてはくれない。
距離をとっても炎によってすぐに詰められ、鍛錬の賜物であろう正確な木剣の一撃が飛んでくる。
そろそろ俺も反撃しないと彼女のためにならないだろう。
一連の動きを見ていて彼女の弱点も見えてきたところだ。
「――ふっ! これでどうですか!」
シャーロットは鎧の推進力を生かして宙を舞い、俺を飛び越す。
「背後からの攻撃か!」
後方からの縦斬り。
俺はそれを半身で避ける。
シャーロットの視点で右、つまり剣を握っている方に避けたことで、彼女は続けて横振りで俺を追うように腕を動かした。
だが、それを読んでいた俺は後方転回し、着地と同時にシャーロットの首元めがけて木剣を放つ。
「……っ」
「これで勝負ありかな」
ルーエも頷いているし、どうやら勝つことができたようだ。
剣を引くと、シャーロットは俺に一礼した。
「ありがとうございました!」
「こちらこそありがとう。かなり鍛錬を積んだんだね」
「はい……こんなにも簡単に敗北するとは思いませんでした」
彼女は悔しそうに両手を握りしめている。
「あぁ、些細なきっかけでシャーロットの弱点に気付けたんだよ」
「些細なきっかけ……?」
シャーロットは右手で剣を持っていたが、空いている左手は握りしめられていた。
これは、普段戦う時には左手でも何かを持っていることを意味している。
聞き手ではない方で使うなら、繊細な扱いが要求される武器ではなく、身を守るという一点に集中できる盾だろう。
ならば、今回の模擬戦に限ってはそこが付け入る隙になる。
訓練を積み、常に戦いに身を置いているであろう騎士という職業柄、戦闘方法は身に染み付いている。
であれば、剣での迎撃が間に合わない攻撃の場合、無意識のうちに盾で防ごうとするはずだ。
だが、その手に盾はない。
もちろんシャーロットもそれを承知していて、左側に相手を入れないように注意していた。
だからこそ、相手の攻撃を紙一重で交わすことで意識を割かせ、「普段通り」の行動を誘発したのだ。
「……お見それしました。その時々の状況に合わせた柔軟な勝ち方、見事としか言いようがありません」
説明すると、シャーロットはすぐに頷いて反省しているようだった。
今回はなんとか勝つことができたが、この戦いが彼女にとって良い経験になると嬉しい。
「……ねえ、ひとつ聞いていい?」
「はい、なんでしょうか?」
「模擬戦だから魔術を使っちゃいけないのはわかるけど、鎧から炎噴射するのっていいの?」
「…………そういえば……そうでした」
部下から恐れられる騎士団長様は、少し抜けているのだった。
模擬戦だし、おっさん相手にそんなに気合を入れる必要はないと思うのだが、彼女は木剣の手入れをし、身体を適度に動かして入念な準備をしていた。
「先生はもう準備はよろしいですか?」
「……大丈夫だよ。怪我させないように気をつけてね」
「もちろんです。先生の教え子として、成長したのが気持ちや見た目だけではないと証明してみせます」
「あぁ、うん……」
この返答、多分シャーロットは「俺は強いから怪我をしないように注意しろ」と捉えているのだ。
実際にはその逆で、怪我をする可能性があるのは俺の方なんだが。
「二人とも、準備はいいか?」
面白そうに俺の様子を見ていたルーエが審判として二人の真ん中に立った。
やはり俺とシャーロットの距離は十メートルほど。
どちらが先に動くのか、それに対してどのような行動を取るのか、互いの初動が重要そうだ。
「それでは、殺し合え!」
物騒な掛け声は無視して、俺はシャーロットに注視する。
彼女が身に纏っている鎧は見るからに重そうで、俊敏な動きはできないだろう。
ジャレッド戦と同じように気を引き、背後に回り込めば勝てるかもしれない。
だが、この考えが甘かったと俺は次の瞬間理解した。
「では……行きます!」
シャーロットが勢いよくこちらに駆け出した途端、彼女の鎧の背の部分から炎が噴射される。
「――はぁっ!?」
炎の推進力が彼女の身体を押し、凄まじいスピードでこちらへ突撃してくる。
右手には木剣、左手は硬く握られていている。
「お覚悟を!」
シャーロットは木剣で鋭い突きを繰り出し、俺は間一髪でそれを避ける。
「この一撃を躱すとは、さすがです!」
「あはは、ありがと――うっ!?」
避けたと思って完全に油断していた。
俺を通り過ぎたシャーロットは、肘から噴射された炎によって身体の向きをすばやく変え、再び攻撃を行う。
身体を逸らすことで辛うじて回避し、距離を取る。
「それ、めちゃくちゃかっこいいね!?」
「ありがとうございます! 私が考案した戦法です!」
「どんな生活をしたら炎を噴射する鎧とか思いつくんだろうね!」
「私が山を出る日に先生がかけてくださった『常識に縛られるな』という言葉が原点です!」
「すごいね昔の俺ッ!」
軽快に言葉は交わしているものの、シャーロットは一向に攻撃の手を緩めてはくれない。
距離をとっても炎によってすぐに詰められ、鍛錬の賜物であろう正確な木剣の一撃が飛んでくる。
そろそろ俺も反撃しないと彼女のためにならないだろう。
一連の動きを見ていて彼女の弱点も見えてきたところだ。
「――ふっ! これでどうですか!」
シャーロットは鎧の推進力を生かして宙を舞い、俺を飛び越す。
「背後からの攻撃か!」
後方からの縦斬り。
俺はそれを半身で避ける。
シャーロットの視点で右、つまり剣を握っている方に避けたことで、彼女は続けて横振りで俺を追うように腕を動かした。
だが、それを読んでいた俺は後方転回し、着地と同時にシャーロットの首元めがけて木剣を放つ。
「……っ」
「これで勝負ありかな」
ルーエも頷いているし、どうやら勝つことができたようだ。
剣を引くと、シャーロットは俺に一礼した。
「ありがとうございました!」
「こちらこそありがとう。かなり鍛錬を積んだんだね」
「はい……こんなにも簡単に敗北するとは思いませんでした」
彼女は悔しそうに両手を握りしめている。
「あぁ、些細なきっかけでシャーロットの弱点に気付けたんだよ」
「些細なきっかけ……?」
シャーロットは右手で剣を持っていたが、空いている左手は握りしめられていた。
これは、普段戦う時には左手でも何かを持っていることを意味している。
聞き手ではない方で使うなら、繊細な扱いが要求される武器ではなく、身を守るという一点に集中できる盾だろう。
ならば、今回の模擬戦に限ってはそこが付け入る隙になる。
訓練を積み、常に戦いに身を置いているであろう騎士という職業柄、戦闘方法は身に染み付いている。
であれば、剣での迎撃が間に合わない攻撃の場合、無意識のうちに盾で防ごうとするはずだ。
だが、その手に盾はない。
もちろんシャーロットもそれを承知していて、左側に相手を入れないように注意していた。
だからこそ、相手の攻撃を紙一重で交わすことで意識を割かせ、「普段通り」の行動を誘発したのだ。
「……お見それしました。その時々の状況に合わせた柔軟な勝ち方、見事としか言いようがありません」
説明すると、シャーロットはすぐに頷いて反省しているようだった。
今回はなんとか勝つことができたが、この戦いが彼女にとって良い経験になると嬉しい。
「……ねえ、ひとつ聞いていい?」
「はい、なんでしょうか?」
「模擬戦だから魔術を使っちゃいけないのはわかるけど、鎧から炎噴射するのっていいの?」
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部下から恐れられる騎士団長様は、少し抜けているのだった。
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