35 / 154
おっさんと大群
宴
しおりを挟む
街のすぐ近くであっても、夜間の外出は危険である。
昼間よりも魔物の活動範囲が広がるからだ。
人間と同じような視界を持つ個体だけでなく、夜目が効くものも多い。
だが、今日ばかりはマルノーチの外では大きな宴会が行われていた。
「「「「「かんぱ~~~い!」」」」」
約百名にも及ぶ冒険者達が誇らしげに手に持ったコップを掲げる。
一度、二度はどうなるかと思われた魔物との死闘も、全ての冒険者が五体満足のまま終わることができた。
特に熾烈だったのは巨大なオークとの戦いだが、若い冒険者の言葉で心を一つにした彼らの前には敵ではなく、今では恐怖の塊だったオークは格好の食材と化している。
「ちょっと大味だけど、オークの肉って意外と美味しいんだなぁれ
「……うむ。ただ焼いただけのオーク肉が前の肉串に勝てるとは思っていなかったぞ」
「それはほら、みんなで外で食べるから美味しいんでしょ」
「確かにな。ならば、あちらで騒いでいる人間達はさらに良い心地だろうな」
「汗水垂らして倒した魔物だからね」
今回の影の功労者であるジオとルーエは目立つことを嫌い、集団から少し離れた場所で、振る舞われた食事を楽しんでいた。
幸いにも、今回の二人の働きは、視線の先で馬鹿騒ぎを繰り広げている冒険者達にはバレていない。
彼らは「たまたま近くに居合わせなかった凄い人」くらいの認識を持っていた。
「流石にあの時は助け舟として魔術の一つでも使おうかと思ったよ。そんな必要はなかったけどね」
ジオの言葉を聞いて、ルーエは真剣な眼差しを向ける。
「……それなんだが、私は少し見直したぞ」
「何を?」
「あの新米の冒険者パーティをだ。てっきり、ジオに教えられたことはもう忘れていると思っていた。だが、相手のためを思って発せられた言葉は心に残り、さらに伝播していくものなのだな」
嬉しそうにルーエは笑ったが、ジオは腑に落ちないように首を傾げている。
「ははは! わからないか! ……つまり私はお前に惚れ直したってことだよ」
「とりあえず褒められてるってことで良さそうだな。なぁ、食事の続きは家にしないか?」
「なんだ、腰の調子が悪いのか?」
図星を突かれたようで、ジオは苦笑いする。
「バレたか。帰ったらちょっとマッサージしてくれよ。だいぶマシになったけど、しばらくは安静にしてた方が良さそうだ」
「しょうがないな、人間の老いというやつは。ほら、肩を貸してやろう」
「悪いな。……よいしょっと……あー痛い」
ひっそりと会場を後にしたジオとルーエに気付いたのは、今日の出来事をまだ夢のように感じていたビギンだけだった。
彼は陽炎のようにゆらめきながら去っていく二人の姿を見て、尊敬の念に胸を膨らませる。
「……かっこいい…………」
「ビギン…………どうしたの……?」
「変な方向見て、もしかして討ち漏らした魔物でもいた?」
ビギンは首を振ると、満面の笑みで二人へ言った。
「僕、目標を見つけたんだ。こんな人になりたいって目標が!」
「おうおう誰かと思ったら威勢の良い新人じゃねぇか! よく生きてたな!」
「なに、目標とは随分生意気じゃねぇか。聞かせてみろよ、俺たち全員に!」
あまりに若々しく希望に満ちたビギンの声に、熟練の冒険者達が集い始める。
「そういや、例の書の守護者様だっけ? あの人は今回何をしてたんだろうな!」
「もちろん俺たちの力になってくださったのは間違いないけど、イカしたポーズで現れた時以来見かけなかったよなぁ」
「ま、いてくれるだけで心強かったけどな!」
「それよりも、洞察賢者って知ってるか? なんでも俺たちに助言をくれたお方はそう呼ばれてるらしいぜ」
自分から聞いておきながら、ビギンの話を聞こうとしていたことなど一瞬で忘れてしまった冒険者達。
彼らの耳に届くようにビギンは声をあげる。
「僕、その洞察賢者様の正体を知っていますよ!」
自らの決意表明に恩師の偉大さをアピールするチャンスだと気付いたビギンは、ダンジョンの攻略のことを含め、ジオについての物語を語り始めたのだった――。
昼間よりも魔物の活動範囲が広がるからだ。
人間と同じような視界を持つ個体だけでなく、夜目が効くものも多い。
だが、今日ばかりはマルノーチの外では大きな宴会が行われていた。
「「「「「かんぱ~~~い!」」」」」
約百名にも及ぶ冒険者達が誇らしげに手に持ったコップを掲げる。
一度、二度はどうなるかと思われた魔物との死闘も、全ての冒険者が五体満足のまま終わることができた。
特に熾烈だったのは巨大なオークとの戦いだが、若い冒険者の言葉で心を一つにした彼らの前には敵ではなく、今では恐怖の塊だったオークは格好の食材と化している。
「ちょっと大味だけど、オークの肉って意外と美味しいんだなぁれ
「……うむ。ただ焼いただけのオーク肉が前の肉串に勝てるとは思っていなかったぞ」
「それはほら、みんなで外で食べるから美味しいんでしょ」
「確かにな。ならば、あちらで騒いでいる人間達はさらに良い心地だろうな」
「汗水垂らして倒した魔物だからね」
今回の影の功労者であるジオとルーエは目立つことを嫌い、集団から少し離れた場所で、振る舞われた食事を楽しんでいた。
幸いにも、今回の二人の働きは、視線の先で馬鹿騒ぎを繰り広げている冒険者達にはバレていない。
彼らは「たまたま近くに居合わせなかった凄い人」くらいの認識を持っていた。
「流石にあの時は助け舟として魔術の一つでも使おうかと思ったよ。そんな必要はなかったけどね」
ジオの言葉を聞いて、ルーエは真剣な眼差しを向ける。
「……それなんだが、私は少し見直したぞ」
「何を?」
「あの新米の冒険者パーティをだ。てっきり、ジオに教えられたことはもう忘れていると思っていた。だが、相手のためを思って発せられた言葉は心に残り、さらに伝播していくものなのだな」
嬉しそうにルーエは笑ったが、ジオは腑に落ちないように首を傾げている。
「ははは! わからないか! ……つまり私はお前に惚れ直したってことだよ」
「とりあえず褒められてるってことで良さそうだな。なぁ、食事の続きは家にしないか?」
「なんだ、腰の調子が悪いのか?」
図星を突かれたようで、ジオは苦笑いする。
「バレたか。帰ったらちょっとマッサージしてくれよ。だいぶマシになったけど、しばらくは安静にしてた方が良さそうだ」
「しょうがないな、人間の老いというやつは。ほら、肩を貸してやろう」
「悪いな。……よいしょっと……あー痛い」
ひっそりと会場を後にしたジオとルーエに気付いたのは、今日の出来事をまだ夢のように感じていたビギンだけだった。
彼は陽炎のようにゆらめきながら去っていく二人の姿を見て、尊敬の念に胸を膨らませる。
「……かっこいい…………」
「ビギン…………どうしたの……?」
「変な方向見て、もしかして討ち漏らした魔物でもいた?」
ビギンは首を振ると、満面の笑みで二人へ言った。
「僕、目標を見つけたんだ。こんな人になりたいって目標が!」
「おうおう誰かと思ったら威勢の良い新人じゃねぇか! よく生きてたな!」
「なに、目標とは随分生意気じゃねぇか。聞かせてみろよ、俺たち全員に!」
あまりに若々しく希望に満ちたビギンの声に、熟練の冒険者達が集い始める。
「そういや、例の書の守護者様だっけ? あの人は今回何をしてたんだろうな!」
「もちろん俺たちの力になってくださったのは間違いないけど、イカしたポーズで現れた時以来見かけなかったよなぁ」
「ま、いてくれるだけで心強かったけどな!」
「それよりも、洞察賢者って知ってるか? なんでも俺たちに助言をくれたお方はそう呼ばれてるらしいぜ」
自分から聞いておきながら、ビギンの話を聞こうとしていたことなど一瞬で忘れてしまった冒険者達。
彼らの耳に届くようにビギンは声をあげる。
「僕、その洞察賢者様の正体を知っていますよ!」
自らの決意表明に恩師の偉大さをアピールするチャンスだと気付いたビギンは、ダンジョンの攻略のことを含め、ジオについての物語を語り始めたのだった――。
10
お気に入りに追加
917
あなたにおすすめの小説
墓守の荷物持ち 遺体を回収したら世界が変わりました
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアレア・バリスタ
ポーターとしてパーティーメンバーと一緒にダンジョンに潜っていた
いつも通りの階層まで潜るといつもとは違う魔物とあってしまう
その魔物は僕らでは勝てない魔物、逃げるために必死に走った
だけど仲間に裏切られてしまった
生き残るのに必死なのはわかるけど、僕をおとりにするなんてひどい
そんな僕は何とか生き残ってあることに気づくこととなりました
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!
IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。
無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。
一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。
甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。
しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--
これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話
複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています
神眼のカードマスター 〜パーティーを追放されてから人生の大逆転が始まった件。今さら戻って来いと言われてももう遅い〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「いいかい? 君と僕じゃ最初から住む世界が違うんだよ。これからは惨めな人生を送って一生後悔しながら過ごすんだね」
Fランク冒険者のアルディンは領主の息子であるザネリにそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
父親から譲り受けた大切なカードも奪われ、アルディンは失意のどん底に。
しばらくは冒険者稼業をやめて田舎でのんびり暮らそうと街を離れることにしたアルディンは、その道中、メイド姉妹が賊に襲われている光景を目撃する。
彼女たちを救い出す最中、突如として【神眼】が覚醒してしまう。
それはこのカード世界における掟すらもぶち壊してしまうほどの才能だった。
無事にメイド姉妹を助けたアルディンは、大きな屋敷で彼女たちと一緒に楽しく暮らすようになる。
【神眼】を使って楽々とカードを集めてまわり、召喚獣の万能スライムとも仲良くなって、やがて天災級ドラゴンを討伐するまでに成長し、アルディンはどんどん強くなっていく。
一方その頃、ザネリのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
ダンジョン攻略も思うようにいかなくなり、ザネリはそこでようやくアルディンの重要さに気づく。
なんとか引き戻したいザネリは、アルディンにパーティーへ戻って来るように頼み込むのだったが……。
これは、かつてFランク冒険者だった青年が、チート能力を駆使してカード無双で成り上がり、やがて神話級改変者〈ルールブレイカー〉と呼ばれるようになるまでの人生逆転譚である。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様
岡崎 剛柔
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです
【あらすじ】
カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。
聖女の名前はアメリア・フィンドラル。
国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。
「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」
そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。
婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。
ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。
そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。
これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。
やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。
〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。
一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。
普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。
だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。
カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。
些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。
初めての異世界転生
藤井 サトル
ファンタジー
その日、幸村 大地(ゆきむら だいち)は女神に選ばれた。
女神とのやり取りの末、大地は女神の手によって異世界へと転生する。その身には女神にいくつもの能力を授かって。
まさにファンタジーの世界へ来た大地は聖女を始めにいろんな人に出会い、出会い金を稼いだり、稼いだ金が直ぐに消えたり、路上で寝たり、チート能力を振るったりと、たぶん楽しく世界を謳歌する。
このお話は【転生者】大地と【聖女】リリア。そこに女神成分をひとつまみが合わさった異世界騒動物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる