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おっさんと3人の冒険者

ビギニング

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 こうして、新米冒険者パーティ・ビギニングのダンジョン攻略は無事に終了した。

「本当にありがとうございました! ジオさんがアドバイスをくださらなかったら、今ごろ僕たちは……」
「いやいや、年長者としてできることをやっただけですから。それに、ボスを倒したとはいえまだ五層です。家に帰るまでが遠足……とか言うんですよね?」
「……はい!」

 もっと大人っぽい表現ができればよかったんだが、なにぶん人間社会にいた時期が時期なだけに、このフレーズしか思い浮かばなかった。

「ジオさ~ん! 見てくださいこれ! これがボスを倒した証になるんですよ!」

 股間特攻魔術師、もといトアが手に持っている物体を見せてくれる。

「どれどれ……立派なブツ――ツノですね」

 ボスの頭部に雄々しく生えていた二本のツノ。
 確かに、こんな立派なツノを持つ魔物はそうはいないだろうし、証になるのも納得だ。

「ありがとうございました……ジオ……様」
「より怖がられてない!?」

 年は離れているが、冒険に同行するうちに打ち解けられたと思っていたのだが、ネンテンだけは俺に対して距離を置こうとする。

「も、もっと普通に呼んでくれませんか?」
「……怖いので……後ろの方も…………怖いですし」
「後ろの方?」

 振り返ると、いつのまにか透明化だか背景同化だかを解除をしていたルーエが、やけに熱っぽい視線を俺を見ているのに気がついた。

「……どうした?」
「いや、なんだ……お前が真面目に言葉をかける姿がその……凛々しくてな。ちょっと興奮してしまったというか……」
「大丈夫ですよネンテンくん。私は全然怖くないですし、後ろのやつはただのアホなんです」
「スルーしないでもらおうか!? 二人で見つめ合ってキスをする流れだったよな!?」

 そんな流れなどない。

「めぼしい素材は全て回収できたので、報告に帰りましょうか」

 ネガティブ気味なネンテンの誤解を解いている間に素材収集が終わったらしく、俺たちは最奥の部屋を後にする。
 ボスを倒したからといって、彼らは油断することもなく、なんの危なげもなく平原のダンジョンの入り口へと戻って来れた。
 空は暗くなりつつあった。マルノーチへの帰り道は夕飯の話をし、今日の探索の話をし、日常の話をし、またダンジョンの話に戻るというローテーションで盛り上がる。

「いやぁ、それにしても私たち、良いパーティじゃない!? 二人がミノタウロスの足に突進した時は痺れたよ!」
「ジオさんの鶴の一声があったからだよ。僕はずっと、どうやってあの防御を突破しようか考えていただけだったし」
「それでも即座に連携が取れるビギニングの方々が凄いんですよ」

 過去に戦った盗賊団……魔王率いる軍団は統率が取れていたが、それは絶対的な上位者が支配しているからこそのものだった。
 部下は思考せず、ただ強者の指示に従うのみ。
 それに比べて、3人は役割こそ違うものの対等な立ち位置にいるため、どうしても状況判断に差異が生じてしまう。
 しかし、ビギニングはまるで一つの生き物かのように息のあった連携をとっていた。
 冒険者のランクだけで見るとまだ未熟だが、今後どんどん強くなっていくのが容易に想像できる。

「あの、一ついいですか?」
「はい?」

 脳内で彼らに賛辞を送っていると、言いたいことがあるような雰囲気でビギンが話を振ってくる。

「よかったらなんですが、僕たちにも砕けた口調で会話していただけませんか?」
「……え? でも……」

 トアとネンテンへ視線を向けると、二人とも頷いている。
 ……ネンテンは恐怖から首を縦に振っているように見えるが。

「僕にとって、僕たちビギニングにとって今日は忘れられない日になりました。そして、ジオさんはいわば僕たちの先生のような方なんです」
「先生……か」

 山で育てていた子の中にも、俺を先生と呼んでくれる子がいたことを思い出した。
 彼らの役に立てたかは不明だが、その目に尊敬の意が込められていることは理解できる。

「それじゃあ、改めてよろしく。ビギニングのみんな、今日はお疲れ様」

 三つの元気の良い返事が、互いの心の距離が縮まったのを教えてくれた。

 ……だが、のちにメキメキと頭角を表していくビギニングが「恩師」として世界各地で俺の話をするせいで、平和な暮らしから余計に遠のいてしまうとは、この時の俺はまだ知る由もなかった。
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