23 / 154
おっさんと3人の冒険者
3人の冒険者
しおりを挟む
翌日はレイセさんに呼ばれてギルドへ向かうことになった。
なんでも、実際に冒険者を連れて依頼に向かってほしいらしい。
「はぁ……若い子の助けになれるのは嬉しいけど、やっぱり気が重いよね……」
「まったくだ。依頼と言っても、昨日お前が戦ったとかいうネームドモンスターではなくもっと下級のものを相手にするのだろう? まだ武器なり宝石に魔力を込めている方が有意義というものだ」
ルーエが「毎日寝ているわけにもいくまい。なに、お前と一緒ならどこでもいいさ」とかキメ顔で言っていたのは5分前の話だ。
「面倒なら観光してて良いんだぞ。どうせルーエは戦わせられないし」
闇魔法を悠々と操る姿を見て変な噂を立てられても厄介だし、その噂はおそらく真実だろうし。
まだ知り合ったばかりのルーエだが、彼女がこれから退屈するのは手に取るようにわかった。
「いや、いい。観光はお前と行きたいからな。その、山ではやる事があまりなかっただろう? やっと恋人らしい事ができるとあって、楽しみにしているんだ」
「……恋人?」
俺の人生に恋人という枠ができた事がないんだが。
これが今流行りの肉食系女子というやつか?
「お前が何を考えているかはわかるが、その言葉はもう古い」
「え、そうなの!?」
通りでキャスやランドと雑談している時に苦笑いが多かったわけだ。
若者に会話を合わせるつもりで話を振っていたが、それでも時に追いついていなかったらしい。
「そもそもお前のジョークも……まぁいい。ともかく、今日は私は後方支援……見学させてもらうことにするよ。ジオが人に何かを教える姿が気になるしな」
「いや、はは……俺に教えられることなんてほとんどないと思うけどね」
腰を痛めた時の誤魔化し方とか、体調が悪い時はとりあえず深呼吸するとかくらいだ。
・
予定時刻の5分前に到着したが、すでにギルドの前でレイセさんが待っていた。
「おはようございます、レイセさん」
「おはようございます。お昼前に呼び出してしまって申し訳ありません」
「あぁ、まったくだ。せっかくの食事が――あたっ」
開口一番失礼なルーエを肘で小突いて黙らせる。
「大丈夫ですよ。歳をとると起きる時間が早くなって……むしろ私の方こそ、宿を用意していただいたのに申し訳ないです」
「お気になさらず! 宿屋の主人も安心で胸を撫で下ろしてましたから。サービスがお気に召さなかったら大変だって」
一体どんな凶暴な男だと思われているのだろう。
乾いた笑いを返すことしかできなかった。
「それで、今日は具体的には何を? 冒険者の依頼を手伝ってほしいとは聞いているのですが……」
「あぁ、ちょっと呼んできますね!」
そう言ってレイセさんはギルドに入っていったが、1分と経たないうちに再び姿を現す。
「連れてきました! ほら、みんな挨拶して」
小声で指示を出されて、彼女の後からついてきた3人の冒険者がそれぞれ口を開く。
「び、ビギンです! Dランク冒険者です! よろしくお願いします!」
ビギンと名乗った青年は、身長は175くらいで体格もそこそこ。
茶色い髪が眉の辺りまで下ろされていて優しい印象を受ける。
背中には片手剣を装備しているし、戦士職だろう。
「トアです! Dランク冒険者で、えっと……魔術師です! 今日はよろしくお願いします!」
トアは小柄な女の子だ。
長めの金髪の先端を縛っていて、珍しい髪型だというのが第一印象だった。
「……なんで根元で髪を縛らないんだ?」
「知らん。お洒落ってやつなんじゃないか?」
ルーエにも分からないようだ。
新しい武器を試す時は気分が上がるし、そういうメンタル作りの一環かもしれないな。
「……ネンテンです。殺さないでください……」
最後の一人はネンテン。
背が高くひょろっとした男の子だが、異様にネガティブな波動を感じる。
怯えきった目で俺を見ているし、怖がる必要はないと伝えなければ。
そうだ、このシチュエーションにぴったりなジョークがあった気がする。
「そんな怖がらないでください。朝食を食べられなくて超ショックだった……って顔してますよ」
「朝食……超……ショック……?」
これが素晴らしいジョークだと気付いたようで、ネンテンは一瞬顔を綻ばせたが、なぜかすぐに青ざめてしまう。
「な、なぁネンテン? やっぱりジオさんはお優しい方じゃないか」
「違う……僕たちのせいで朝食がとれなかったと暗に伝えているんだ…………殺されるんだ」
……あれ?
あんまり伝わってないかな?
「お前の参考にしてる本だがな、あれは有用だからじゃなくて、くだらなさすぎるから禁書になったんだぞ」
「またまた。まだ表面的な事が面白い年なんだろう」
ジョークもまた、芸術のように教養がなければ楽しめないものなのだろう。
彼らの場合は人生経験かな。
馬鹿にしているわけではなく、俺のように生活に飽きているわけではなく、きっと若者は毎日が未知なのだ。
だからこそ、言葉の裏に潜むユーモアを理解する余裕がない。
それでいい。世界への憧憬を持っているのは、それだけで幸せだからな。
……とはいえ、俺は芸術はわからないが。
なんでも、実際に冒険者を連れて依頼に向かってほしいらしい。
「はぁ……若い子の助けになれるのは嬉しいけど、やっぱり気が重いよね……」
「まったくだ。依頼と言っても、昨日お前が戦ったとかいうネームドモンスターではなくもっと下級のものを相手にするのだろう? まだ武器なり宝石に魔力を込めている方が有意義というものだ」
ルーエが「毎日寝ているわけにもいくまい。なに、お前と一緒ならどこでもいいさ」とかキメ顔で言っていたのは5分前の話だ。
「面倒なら観光してて良いんだぞ。どうせルーエは戦わせられないし」
闇魔法を悠々と操る姿を見て変な噂を立てられても厄介だし、その噂はおそらく真実だろうし。
まだ知り合ったばかりのルーエだが、彼女がこれから退屈するのは手に取るようにわかった。
「いや、いい。観光はお前と行きたいからな。その、山ではやる事があまりなかっただろう? やっと恋人らしい事ができるとあって、楽しみにしているんだ」
「……恋人?」
俺の人生に恋人という枠ができた事がないんだが。
これが今流行りの肉食系女子というやつか?
「お前が何を考えているかはわかるが、その言葉はもう古い」
「え、そうなの!?」
通りでキャスやランドと雑談している時に苦笑いが多かったわけだ。
若者に会話を合わせるつもりで話を振っていたが、それでも時に追いついていなかったらしい。
「そもそもお前のジョークも……まぁいい。ともかく、今日は私は後方支援……見学させてもらうことにするよ。ジオが人に何かを教える姿が気になるしな」
「いや、はは……俺に教えられることなんてほとんどないと思うけどね」
腰を痛めた時の誤魔化し方とか、体調が悪い時はとりあえず深呼吸するとかくらいだ。
・
予定時刻の5分前に到着したが、すでにギルドの前でレイセさんが待っていた。
「おはようございます、レイセさん」
「おはようございます。お昼前に呼び出してしまって申し訳ありません」
「あぁ、まったくだ。せっかくの食事が――あたっ」
開口一番失礼なルーエを肘で小突いて黙らせる。
「大丈夫ですよ。歳をとると起きる時間が早くなって……むしろ私の方こそ、宿を用意していただいたのに申し訳ないです」
「お気になさらず! 宿屋の主人も安心で胸を撫で下ろしてましたから。サービスがお気に召さなかったら大変だって」
一体どんな凶暴な男だと思われているのだろう。
乾いた笑いを返すことしかできなかった。
「それで、今日は具体的には何を? 冒険者の依頼を手伝ってほしいとは聞いているのですが……」
「あぁ、ちょっと呼んできますね!」
そう言ってレイセさんはギルドに入っていったが、1分と経たないうちに再び姿を現す。
「連れてきました! ほら、みんな挨拶して」
小声で指示を出されて、彼女の後からついてきた3人の冒険者がそれぞれ口を開く。
「び、ビギンです! Dランク冒険者です! よろしくお願いします!」
ビギンと名乗った青年は、身長は175くらいで体格もそこそこ。
茶色い髪が眉の辺りまで下ろされていて優しい印象を受ける。
背中には片手剣を装備しているし、戦士職だろう。
「トアです! Dランク冒険者で、えっと……魔術師です! 今日はよろしくお願いします!」
トアは小柄な女の子だ。
長めの金髪の先端を縛っていて、珍しい髪型だというのが第一印象だった。
「……なんで根元で髪を縛らないんだ?」
「知らん。お洒落ってやつなんじゃないか?」
ルーエにも分からないようだ。
新しい武器を試す時は気分が上がるし、そういうメンタル作りの一環かもしれないな。
「……ネンテンです。殺さないでください……」
最後の一人はネンテン。
背が高くひょろっとした男の子だが、異様にネガティブな波動を感じる。
怯えきった目で俺を見ているし、怖がる必要はないと伝えなければ。
そうだ、このシチュエーションにぴったりなジョークがあった気がする。
「そんな怖がらないでください。朝食を食べられなくて超ショックだった……って顔してますよ」
「朝食……超……ショック……?」
これが素晴らしいジョークだと気付いたようで、ネンテンは一瞬顔を綻ばせたが、なぜかすぐに青ざめてしまう。
「な、なぁネンテン? やっぱりジオさんはお優しい方じゃないか」
「違う……僕たちのせいで朝食がとれなかったと暗に伝えているんだ…………殺されるんだ」
……あれ?
あんまり伝わってないかな?
「お前の参考にしてる本だがな、あれは有用だからじゃなくて、くだらなさすぎるから禁書になったんだぞ」
「またまた。まだ表面的な事が面白い年なんだろう」
ジョークもまた、芸術のように教養がなければ楽しめないものなのだろう。
彼らの場合は人生経験かな。
馬鹿にしているわけではなく、俺のように生活に飽きているわけではなく、きっと若者は毎日が未知なのだ。
だからこそ、言葉の裏に潜むユーモアを理解する余裕がない。
それでいい。世界への憧憬を持っているのは、それだけで幸せだからな。
……とはいえ、俺は芸術はわからないが。
20
お気に入りに追加
917
あなたにおすすめの小説
墓守の荷物持ち 遺体を回収したら世界が変わりました
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアレア・バリスタ
ポーターとしてパーティーメンバーと一緒にダンジョンに潜っていた
いつも通りの階層まで潜るといつもとは違う魔物とあってしまう
その魔物は僕らでは勝てない魔物、逃げるために必死に走った
だけど仲間に裏切られてしまった
生き残るのに必死なのはわかるけど、僕をおとりにするなんてひどい
そんな僕は何とか生き残ってあることに気づくこととなりました
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!
IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。
無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。
一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。
甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。
しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--
これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話
複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています
神眼のカードマスター 〜パーティーを追放されてから人生の大逆転が始まった件。今さら戻って来いと言われてももう遅い〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「いいかい? 君と僕じゃ最初から住む世界が違うんだよ。これからは惨めな人生を送って一生後悔しながら過ごすんだね」
Fランク冒険者のアルディンは領主の息子であるザネリにそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
父親から譲り受けた大切なカードも奪われ、アルディンは失意のどん底に。
しばらくは冒険者稼業をやめて田舎でのんびり暮らそうと街を離れることにしたアルディンは、その道中、メイド姉妹が賊に襲われている光景を目撃する。
彼女たちを救い出す最中、突如として【神眼】が覚醒してしまう。
それはこのカード世界における掟すらもぶち壊してしまうほどの才能だった。
無事にメイド姉妹を助けたアルディンは、大きな屋敷で彼女たちと一緒に楽しく暮らすようになる。
【神眼】を使って楽々とカードを集めてまわり、召喚獣の万能スライムとも仲良くなって、やがて天災級ドラゴンを討伐するまでに成長し、アルディンはどんどん強くなっていく。
一方その頃、ザネリのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
ダンジョン攻略も思うようにいかなくなり、ザネリはそこでようやくアルディンの重要さに気づく。
なんとか引き戻したいザネリは、アルディンにパーティーへ戻って来るように頼み込むのだったが……。
これは、かつてFランク冒険者だった青年が、チート能力を駆使してカード無双で成り上がり、やがて神話級改変者〈ルールブレイカー〉と呼ばれるようになるまでの人生逆転譚である。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様
岡崎 剛柔
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです
【あらすじ】
カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。
聖女の名前はアメリア・フィンドラル。
国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。
「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」
そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。
婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。
ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。
そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。
これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。
やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。
〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。
一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。
普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。
だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。
カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。
些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。
初めての異世界転生
藤井 サトル
ファンタジー
その日、幸村 大地(ゆきむら だいち)は女神に選ばれた。
女神とのやり取りの末、大地は女神の手によって異世界へと転生する。その身には女神にいくつもの能力を授かって。
まさにファンタジーの世界へ来た大地は聖女を始めにいろんな人に出会い、出会い金を稼いだり、稼いだ金が直ぐに消えたり、路上で寝たり、チート能力を振るったりと、たぶん楽しく世界を謳歌する。
このお話は【転生者】大地と【聖女】リリア。そこに女神成分をひとつまみが合わさった異世界騒動物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる