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おっさん、戦う
vsコカトリス
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「――なーんてね」
勝利のために開かれていたバジリスクの口は、驚きに変換されることになる。
キャスは、バジリスクの血液を吹き飛ばした後の小さな竜巻を下半身に纏わせ、ほんの少しだけ後ろに下がったのだ。
「ネームドモンスターがこのくらいで倒せると思ってないからね。……これを狙ってたんだよ?」
妖精の微笑みのような儚い氷の息吹。
細くか弱いそれは、吸い込まれるようにバジリスクの体内に入る。
そして……。
「内側からなら一瞬で凍る、でしょ?」
瞬きのうちにバジリスクは凍りつき。
「うおぉらぁぁぁぁあ!」
間髪入れないハンマーの一撃によって粉々に砕かれた。
・
「おぉ……頑張ってるなぁ」
二人がバジリスクを撃破する様子を眺めていたジオ。
対するコカトリスは、自分が相手にされていないという屈辱に怒り狂っているが、その攻撃のことごとくは弾かれ、避けられ、放たれる前に潰されてしまう。
そもそも、ジオに対してコカトリスの石化能力は通用しない。
彼が身に纏っている防御魔術の他に、彼は山で生き抜く過程であらゆる毒を摂取していたからだ。
もちろん、彼は生きるために仕方なく食事をしていたに過ぎない。
だが、それに毒があるのかを判別できない彼は、一食一食を命懸けで行っていた。
生き抜くという本能と、圧倒的な試行回数。そして適応。
それは強靭な抗体を作り、コカトリスが勝る点など一つもなかったのだ。
「とはいえ……どうするか」
山の魔物と張るレベルには強いといえるものの、撃破は容易い。
だが、あまりにも簡単に倒してしまえば、どこからか噂が立ち、望まぬ期待を受けるかもしれない。
あくまでもギリギリに……というか運で勝てたように見せたいというのがジオの思考であった。
「使えるのは中位程度の魔術だな。弱点を探るとするか」
彼は注意深くコカトリスを観察する。
・
「ふむ……」
まずはコカトリスの石化能力について考えていくか。
あの能力は俺には効かないが、そこそこ強い物だと考えていいだろう。
その証拠に、オークの亡骸は凄まじい速さでカチカチになっていた。
だがどうだろう、奴の息は全てに対して有効というわけではないようだ。
なぜなら、オークの転がっていた草原。
草は全く石化する様子がなく、悠々としているからだ。
「コカトリスは基本的には草食なのか? だとすれば、餌となる草が石化しないのにも頷けるね」
というか、草に石化を防ぐ要素があるからこそコカトリスの主食になっているのかもしれない。
流石に石を食べることはないようだし、草のない地域では生きることができないから数が減った可能性もある。
別の街からこちらへ移動してきたというのも、コカトリスが誕生したのは最近で、腹を満たすために森が近いマルノーチ付近に来たのかも。
だが、ここでもう一つ疑問が生まれた。
「……コカトリスの石化耐性はどの程度なんだ?」
息に力があるということは、少なくとも外皮は石化に耐性を持っているはず。
自分の呼吸で石化するなど笑い話だ。
だが、体内はどうだろう。
コカトリスに変化したばかりという推測が正しければ、まだ体内は完全な石化耐性を得ていないはず。
石化の息がどの器官で生成されているかと言うのも考えたい。
「まぁ、とりあえずやってみるかな」
巨大な足で踏み潰そうとしてくるコカトリスから距離を取る。
次の瞬間、コカトリスの腹部に大きなバツ印の傷が現れた。
「中位魔術だよ。極限まで鋭くした風を飛ばしたから、流石に切れるでしょ」
言った通り、鋭く外皮を貫くことだけを狙った一撃。
致命傷ではないが、肉の深いところまで傷が達しているはずだ。
「それじゃあ、仕上げといこうか」
先ほどからの独り言には目的がある。
山には言葉に反応する魔物もいたし、思考をまとめるためであっても、基本的に戦闘中の無駄話は厳禁。
なら、どうして呟くのか。
「……君にはプライドがありそうだ。言葉は理解できなくても、俺が余裕そうなのは理解できるよね?」
怒りは戦いを力強く、しかし単調にする。
翼から生み出される推進力を存分に利用して距離を詰めるコカトリス。
なかなかの速度。だが、隙もまた大きい。
口元に手をかざして石化耐性のある透明の管を作り出し、それを相手の傷口に突き刺した。
意に介さず放たれる一撃、二撃を半身で避け、後ろに下がると、怒りに支配されていたコカトリスの足がぴたりと止まる。
やっぱりだ。
先ほど、腹部につけた傷の役目は、最も重要な臓器への道筋。
石化に耐性がある器官もあるようだが、心臓が石になったら動けない。
「――石像いっちょあがり、だね」
俺の戦いを眺めていたキャスとランドは口をあんぐりと開けている。
きっと、俺が知恵でコカトリスを攻略したことに驚いているのだろう。
あわよくば、俺がそんなに強くないとみんなに広めてくれるとありがたいな。
勝利のために開かれていたバジリスクの口は、驚きに変換されることになる。
キャスは、バジリスクの血液を吹き飛ばした後の小さな竜巻を下半身に纏わせ、ほんの少しだけ後ろに下がったのだ。
「ネームドモンスターがこのくらいで倒せると思ってないからね。……これを狙ってたんだよ?」
妖精の微笑みのような儚い氷の息吹。
細くか弱いそれは、吸い込まれるようにバジリスクの体内に入る。
そして……。
「内側からなら一瞬で凍る、でしょ?」
瞬きのうちにバジリスクは凍りつき。
「うおぉらぁぁぁぁあ!」
間髪入れないハンマーの一撃によって粉々に砕かれた。
・
「おぉ……頑張ってるなぁ」
二人がバジリスクを撃破する様子を眺めていたジオ。
対するコカトリスは、自分が相手にされていないという屈辱に怒り狂っているが、その攻撃のことごとくは弾かれ、避けられ、放たれる前に潰されてしまう。
そもそも、ジオに対してコカトリスの石化能力は通用しない。
彼が身に纏っている防御魔術の他に、彼は山で生き抜く過程であらゆる毒を摂取していたからだ。
もちろん、彼は生きるために仕方なく食事をしていたに過ぎない。
だが、それに毒があるのかを判別できない彼は、一食一食を命懸けで行っていた。
生き抜くという本能と、圧倒的な試行回数。そして適応。
それは強靭な抗体を作り、コカトリスが勝る点など一つもなかったのだ。
「とはいえ……どうするか」
山の魔物と張るレベルには強いといえるものの、撃破は容易い。
だが、あまりにも簡単に倒してしまえば、どこからか噂が立ち、望まぬ期待を受けるかもしれない。
あくまでもギリギリに……というか運で勝てたように見せたいというのがジオの思考であった。
「使えるのは中位程度の魔術だな。弱点を探るとするか」
彼は注意深くコカトリスを観察する。
・
「ふむ……」
まずはコカトリスの石化能力について考えていくか。
あの能力は俺には効かないが、そこそこ強い物だと考えていいだろう。
その証拠に、オークの亡骸は凄まじい速さでカチカチになっていた。
だがどうだろう、奴の息は全てに対して有効というわけではないようだ。
なぜなら、オークの転がっていた草原。
草は全く石化する様子がなく、悠々としているからだ。
「コカトリスは基本的には草食なのか? だとすれば、餌となる草が石化しないのにも頷けるね」
というか、草に石化を防ぐ要素があるからこそコカトリスの主食になっているのかもしれない。
流石に石を食べることはないようだし、草のない地域では生きることができないから数が減った可能性もある。
別の街からこちらへ移動してきたというのも、コカトリスが誕生したのは最近で、腹を満たすために森が近いマルノーチ付近に来たのかも。
だが、ここでもう一つ疑問が生まれた。
「……コカトリスの石化耐性はどの程度なんだ?」
息に力があるということは、少なくとも外皮は石化に耐性を持っているはず。
自分の呼吸で石化するなど笑い話だ。
だが、体内はどうだろう。
コカトリスに変化したばかりという推測が正しければ、まだ体内は完全な石化耐性を得ていないはず。
石化の息がどの器官で生成されているかと言うのも考えたい。
「まぁ、とりあえずやってみるかな」
巨大な足で踏み潰そうとしてくるコカトリスから距離を取る。
次の瞬間、コカトリスの腹部に大きなバツ印の傷が現れた。
「中位魔術だよ。極限まで鋭くした風を飛ばしたから、流石に切れるでしょ」
言った通り、鋭く外皮を貫くことだけを狙った一撃。
致命傷ではないが、肉の深いところまで傷が達しているはずだ。
「それじゃあ、仕上げといこうか」
先ほどからの独り言には目的がある。
山には言葉に反応する魔物もいたし、思考をまとめるためであっても、基本的に戦闘中の無駄話は厳禁。
なら、どうして呟くのか。
「……君にはプライドがありそうだ。言葉は理解できなくても、俺が余裕そうなのは理解できるよね?」
怒りは戦いを力強く、しかし単調にする。
翼から生み出される推進力を存分に利用して距離を詰めるコカトリス。
なかなかの速度。だが、隙もまた大きい。
口元に手をかざして石化耐性のある透明の管を作り出し、それを相手の傷口に突き刺した。
意に介さず放たれる一撃、二撃を半身で避け、後ろに下がると、怒りに支配されていたコカトリスの足がぴたりと止まる。
やっぱりだ。
先ほど、腹部につけた傷の役目は、最も重要な臓器への道筋。
石化に耐性がある器官もあるようだが、心臓が石になったら動けない。
「――石像いっちょあがり、だね」
俺の戦いを眺めていたキャスとランドは口をあんぐりと開けている。
きっと、俺が知恵でコカトリスを攻略したことに驚いているのだろう。
あわよくば、俺がそんなに強くないとみんなに広めてくれるとありがたいな。
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