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おっさん、戦う

vsバジリスク

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 キャスの言う通り、コカトリスはバジリスクの進化した姿である。
 そこからさらに研鑽を積むことで、コカトリスは特殊な能力を持ったドラゴンへと進化を遂げるとされているが、そこまで生き永らえる個体は世紀単位で見てもほぼ存在しない。
 弱肉強食への適応ゆえか、いつの頃からかバジリスクはコカトリスへの進化を忘れ、石化能力を捨てて強靭な肉体を目指すようになった。
 すなわち、バジリスクはドラゴンへと姿を変えるのだ。
 だからといって、コカトリスの存在そのものが消えてしまったわけではない。
 数多の戦いを潜り抜け、自らの力に誇りを持った個体は華々しく肉体を昇華させる。
 夫の献身もあって、もはや伝承の存在ともいえる存在へと至ったのがクイーンコカトリスであった。
 一方、妻を進化まで守り抜いたキングバジリスクに関しても実力は計り知れない。
 コカトリスのように、吐息が毒になっていなくとも、その血液、さらに唾液などの体液でさえ猛毒。
 触れればたちまち身体が石に変化してしまうであろう。
 一般的な冒険者であれば触れることすら叶わず、A級の冒険者であっても、二分と持たないだろう。
 しかし、相手は人間を超越したS級冒険者と、段位こそ持たないものの、それと同格の人物。

「シャンデリア!」

 キャスが杖を構えて魔術の名を唱えると、バジリスクの頭上から美しく装飾された照明器具のような物体が落下し、激突する。
 ドラゴンには劣る五感のバジリスクは死角からの攻撃に驚き、魔術でシャンデリアの形を取っているそれの質量で地面へ落ちた。
 魔術の特性のみを口にして発動する、この世で数人といない高難度の技術。

「――このまま凍らせますか!」
「いや、体内まで完全に凍らせるには時間がかかる! スワンプ!」

 続けて放たれた魔術によって、バジリスクが接触している地面が溶けるように沼を形成する。

「これで沈めてからゆっくり凍らせるんすね! ――ってまじか!?」

 だが、沼はバジリスクの身体を飲み込むことはなく、反対に体表に触れて固まっていく。

「ここまで強力な石化能力だなんて。なら、アイスピラー!」

 今度はバジリスクを円形に包む形で氷の柱が出現するが、一足早く王蛇は羽ばたいて脱出する。

「だったら……これでどうすか!」

 ランドは建築の際に見せた木材を操る魔術を用い、周りにあった木をバジリスクに飛ばす。
 バジリスクは続けて放たれた氷の柱と共に軽快に木を避けていくが、そのうち一本が身体にねじ込まれた。

「シャオラァ!」

 苦悶に身を捩るバジリスク。
 しかし、先ほどの一撃は王蛇を死に至らしめるには足りず、怒りがランドに向けられる。

「うおお!? まだ戦えんのか!」

 接近して放たれる噛みつき攻撃。
 ランドは器用に回避するものの、近距離での打撃攻撃は、そのまま石化死につながる可能性があるため迂闊に手が出せない。

「キャスさん、援護お願いします!」
「まかせて!」

 キャスは氷の刃を飛ばし、ランドへ向いていないバジリスクの尾を切断する。
 切断面は凍り、石化を気にする心配もない。

「グルオォォォオォォ!」

 激昂したバジリスクは、自分の切れた尾を凄まじい勢いで地面に叩きつけた。
 その衝撃で氷は砕け、再びバジリスクの血液が漏れ出してくる。
 バジリスクは理解していた。
 ランドの近接攻撃は、相手に差し違える覚悟がなければ脅威にならない。
 木材の攻撃は厄介だが、一人であれば避けるのは容易い。
 つまり、今倒すべきなのはキャスだと。
 氷属性での攻撃さえどうにかしてしまえば、こちらの方が圧倒的に有利。
 バジリスクは半回転して勢いをつけ、キャスへと尾を向ける。
 一見すると意味のない行為。
 だが、この魔物にとっては例外である。

「――キャスさん! 血が飛んでいきます!」

 石化効果のある血液を飛ばしていた。
 人間ならば、少量でも触れれば全身が動かなくなってしまう。
 バジリスクはそれを知っていて、肉眼で捉えにくい血液を飛ばすという方法を使ったのだ。

「大丈夫! ウインドボーテックス」

 しかし、バジリスクの血はキャスに付着することはなかった。
 その直前に、湧き上がる風の渦に巻き込まれて消え去ったのだ。
 読みの当たりと、自信に頬を緩ませるキャス。
 ――だが。

「――逃げてください!」

 焦りの叫び。
 キャスの眼前には、迫り来るバジリスクの顔。
 王蛇は、相手が血液を防御すると分かっていて、奇策を攻略をして油断したその瞬間こそを狙っていた。

「……え?」

 巨大な口が開かれ、鋭い牙が鈍く光っていた。
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