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おっさんと衝撃の事実

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 レイセさんは俺を迎えるのに数日かかると言い残すと、アロンのテレポートで帰って行った。

「なぁ、たぶんさっき必要だって言っていたのは定型文だぞ? お前を利用したいから出まかせで……」
 
 そうして室内に静寂が戻るや否や、アロンはそんなことを言い出す。

「そりゃあまぁ、わかってるよ」

 必要、だなんて。今日会ったばかりの人間に吐くには重すぎる言葉だ。
 何かあれば、きっとレイセさん……その周りの人間は俺を切り捨てようとするだろう。
 場所が変わろうと、時代が過ぎようと、人の本質は変わらない。

「……でも、それでも嬉しかったんだよ」

 たとえ嘘でも喜んでしまうのだ。
 自分の存在を他者に認められるというのは気持ちがいい。
 普通の人なら、たとえば親に、友達に、恋人に言葉をかけてもらえるだろうが、俺には久しくその感覚がないからな。
 子供のような存在はいたが、それとはまた違う、対等な立場な者からの求め。
 我ながら甘いとは思うが、俺の心は動いてしまった。

「……ふん。私がお前と出会えたことの、その喜びのようなものか」
「そうなの?」

 首を傾げると、アロンは愚問とばかりに笑った。

「かつては私に並ぶものなどいなかったからな。魔族の未来を担う重圧、それと孤独感があったよ。だから今、こうしてお前と言葉を交わせるのが嬉しい。……今では実力が違いすぎるようだがな」
「っていうかなんで性別変わってるの?」
「今結構感動的な話だったよなぁ!? なんでスルーしてるの!?」

 実力とかよく分からないしな。
 それよりも、俺が話した首領……じゃなかった。
 魔王はバリバリ男だったから、あまり再開の実感が湧かない。

「友達になりたいなら普通に男でよかったのに」
「元はと言えばお前のせいだがな!?」
「はぁ?」

 全く意味がわからない。
 俺のせいで性別が変わった?

「ほら、槍を投げただろ?」
「俺の力を奪うとかそういう槍だっけか」
「かつてはそうやって使われていたらしいが、私にはそんな気は毛頭なくてだな」

 時代の変化とともに慣習が形骸化してきたということだろうか。
 
「ただお前に、私の復活を知らせようと投げただけなんだが……その度に凄まじく正確に返ってきて身体に風穴が開いて、最終的にこうなった」
「因果関係が消滅してるぞ。なんにもわからん」

 欠けた肉体を埋めるたびに女性に変わっていったってことか?

「……男に戻してやろうか? たぶん、レイセさんのところに行くまでには術式が完成すると思うけど」
「え、そんなことできるの……こわ……」

 当たり前のことを言っただけなのに引かれてしまった。

「ありがたい申し出だが大丈夫だ。思ったよりこの身体が気に入っていてな。ほれ、美しいだろう?」

 アロンはくるりと一回転してみせた。
 彼女のいう通り、十人中十人が綺麗だと答えるであろう美貌。
 背丈は俺より少し低いくらいだが、女性の中では高い方なはずだ。

「それに、以前の私とは少しわけが違っているのさ」
「どういうことだ?」
「記憶だけは残っている。だが、それは書物を読んでいるような現実味のないものだ。過去の私とは、少し考え方も違っているし、感じ方もまた違う。ただ一つ、お前への想いだけは強く残っていたがな」
「想い?」

 アロンは肩をすくめた。

「やれやれ、察しが悪いな。前の私が死ぬ時に言ったろ? 自分にと友がいたら……と」
「あぁ、うん。それで?」
「だからお前と友になりにきた」
「はあぁっ!?」

 予想外の返答。
 俺と友達に? 魔王が?

「さっきも言ったろう……いや、途中でいなされたのか。驚くことはあるまいよ。一人の人間の身に余る力、理解できるのは私だけだと思わないか?」
「まぁ、確かに歳のせいで昔みたいに力仕事ができなくなってるけど……」
「そういう意味ではないのだが。と、とはいえ今回の身体では友というよりだな……その……」
「んあ?」

 会話が進むに連れて俺の理解度が下がっていっている。
 なんでこいつ、若干頬を染めているんだ。

「ええいなんでもない! とりあえず、あの小娘の村だか街だかに行くのだろう!? それまでに、人々から浮かない服でもこしらえておけ!」
「……これじゃダメなの?」
「だめに決まっているだろう!? 田舎者だと思われるぞ!」
「田舎者なんだけど……」

 いいと思うんだけどなぁ、この格好。
 むしろ俺がジンベイの伝承者になるべきかもしれない。
 とはいえ、レイセさんの街が異分子を積極的に排除するスタンスだと悲劇につながる可能性がある。
 小さい頃の知識を総動員して、それっぽい服を作ってみよう。

「……っていうかアロンも付いてくるの?」
「もちろんだろう。私たちは今日より共に並ぶ友、よろしく頼むぞ」
「いや――そうだな、よろしく」
「え、いいの?」
「自分から言い出しておいて意外そうな顔をするな」

 直前までは断ろうと思っていたし、事実喉元まで言葉が出てきていたが――彼女にユーモアの波動を感じた。
 共に並ぶ友とは上手く言ったものだ。
 もしかしたら、彼女と寝食を共にすればジョーク能力が上がるかもしれない。

「ただ、アロンって名前がな……」
「何か問題でも?」
「世間に知れ渡ってるかは分からないけど、魔王と同じ名前だったら警戒されそうじゃないか?」
「一理あるな」

 仮に人々が「アロン」という名前に恐怖を感じるなら、違う呼び名が必要なはずだ。

「ならジオよ。お前が私の名を決めてくれないか?」
「そう言われてもなぁ……」

 生まれてこの方、何かに名前を付けたことなんてない。
 脳内の知識を総動員してみる。

「……それじゃあ、ルーエ……なんてどうだ?」

 どこかの言葉で「安らぎ」という意味だった気がする。
 今回の生では敵同士でなく、味方として平和な日々を過ごしたいという思いを込めてみたのだが……。

「…………う、うん。それでいこう、それで」

 何度か頷いているが、なんともいえない反応。
 やっぱりセンスはないみたいだ。
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