The war of searching

黒縁めがね

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コーラス遺跡都市防略

第30話コーラル防略、⑩/昼炎の故

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「あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"!」
「く"っ"………」
視界一杯に広がる緋い豪炎。
その炎の中には昼の青空に似た青が所々混じって見えた。そして凄まじい炎風がデイビッドとドーベルを包み込む。その豪炎の灼熱は空気すらも燃焼させ、包み込む者の呼吸すらも許さない。
(息が…吸えないっ………!)
デイビッドは心の中で苦しみに喘ぐ。
ドーベルの背中に乗っているから、炎が自身へ降りかかることはなくとも空気すらも焼く炎が自身へ直接降りかかる事こそないが、その片鱗を味わっていた。徐々にドーベルの鎧は融解し始めているが、きっとこのままの状態では鎧が溶けきる前に窒息死してしまうだろう。
さて、どうする?
「ぐううううウウウウウアア!」
「馬鹿なっ!」
ドーベルはその炎に焼かれながらも左拳を振り上げアメリナ団長に振おうとしていた。鎧も融解し、関節の動きが制限されても尚振おうとする。文字通りの火事場の馬鹿力。そして振おうとしたまさににその時。
___炎の中に一つの左腕が見えた。
その腕はグレイブらしきものを持っておりそれをドーベルの首へ突き立てた。
「がっばっ……」
ドーベルは口から血を吐きながら跪く。
アメリナは炎の噴射をやめた。周囲の人形が地に伏し、壁に張り付く物は地面へ倒れていった。
兵団員達の勝鬨が聞こえた。

そして、ドーベルにこびりつく炎の中から一つの影が現れる。それはデイビッドであった。
デイビッドは全身にひどい傷を負っており、左腕は鎧の革具がとれたのか鎧を何も付けておらず、痛々しい焼き爛れた皮膚が顕となる。おそらくグレイブを突き刺すために振り上げた左腕はアメリナの豪炎に焼かれてしまったのだろう。フラフラと朧げな足取りでアメリナと腹部の鎧を脱ぎ捨てたアルチンゲールへ近づいた。
「デイビッド、大丈夫か?!」
「少年!」
アルチンゲールはデイビッドへ近づき、デイビッドに肩を貸しながら支えた。
デイビッドはそんな2人の様子を見ると笑顔で2人に言った。


「やり…ました……」
「ありがとう。
すまないが少し横になってくれないかい?」
アルチンゲールはそうデイビッド言う。デイビッドは頷き支えられたまま地面へ座り、そのままゆっくりと横になった。
アルチンゲールは即座に鎧を脱がせて行く。
「アメリナ、上に行くためのロープを降ろさせて置いてくれないか?」
「了解した!」
アメリナは壁の方へ足を引き摺りながら歩いて行った。
アルチンゲールはデイビッドの鎧を全て脱がすと、左腕の袖を捲り上げた。左腕の火傷は凄まじく、赤く爛れ肘の前まで火傷していた。
さらに指先の肉はもはや無く、骨が見えるほどだった。
「ここまで酷いと完治はできないか…!」
アルチンゲールのギフトと言うのは単に治療・蘇生するギフト。もちろん得手不得手も治せない傷もある。酷すぎる傷や、目などの構造が複雑な部位や体の一部、感染症、そして酷すぎる火傷など。蘇生に関しては、体か精神に重度の疾患が残るという代償が付く。
デイビッドの場合は例外だが、それでもただの人間と同じで傷も負うし病気にも罹る。
傷に入った菌などで感染症などを発症する前に治さなくては___



~~~



床に倒れていた黒い装束を来た男は、目を覚ます。
「ここは…どこだ…?」
夕焼けのような炎が壁と天上のみに回った薄暗い密室らしき部屋。辺りには遺物が並べ置かれている。___遺物倉庫だった。
「クソ……」
頭にもやがかかり、何も思い出せないようだ。
男は当たりを見回す。すると、木箱の上に置かれた一つの黒いぼろぼろの箱に目が付く。それはアメリナ達が"聖書"と読んでいた遺物だった。男は立ち上がりそれを手に取る。
「プレイスタジオ4…?なんでこんな状態でここに…?そんなことよりも、炎が回りきる前にここから出なければ…」
男はそれを戻し出口を探すために再度辺りを見回していると、ある事に気がついた。
___息ができている。
どうでも良いようで、それは炎の異質さを示していた。火事の際、密室では時間が経つと空気が少なくなり息すらままならなくなる。
火が回りきったこの密室で、息が吸えると言う事実そのものが異常だった。
さらに言えば周囲の木箱や遺物に燃え移っていない。全てが異質・異常であったが同時に幸運でもあった。
そしてついに出口の燃え盛る大扉を見つける。
「ぐっ…!」
躊躇いながらも、金属製のドアノブに触れた。

___熱くない。

男はその事実に、「ほっ」と息を吐いた。
ドアを開ける。初めに見えた光景は、遺物倉庫の中に広がる夕焼けに似た炎と同じ炎が少し回っている石造りの逆T字路だった。
その逆T字路には多数の黒焦げになった死体が転がっていた。さらにその奥の壁には大きな穴が空いていた。
「何なんだこの光景は…!」
男は驚愕する。
ドアから身を出し通路の周囲を確認した。
中世的な石造りの通路、まるで中世にタイムスリップしてしまったような感覚。
「貴方…一体どうやってそこから……」
左から男に問いかける声が聞こえた。
振り向くと軽装備の女がこちらに長弓を引き絞り構えていた。
その背後には2人の顔がそっくりな重装備の鎧を着込んだ男がいる。その内の1人は左腕が無かった。
(ゆ、弓?しかも鎧まで…おかしい…)
男は3人に問いかけた。
「なぁ、君たち。今は西暦2880年の何月なんだ?」


~~~


「おや、その大怪我は?」
アンはサムライに問いかけた。
サムライはそれに相槌を打つとアンに言葉を紡ぎ渡す。
「ISSという連中ニ、やられましタ。」
「あぁ、あの金の亡者の…。
なるほど、あちらにISSがつきましたか。」
サムライはアンにとある球体を投げた。アンはそれを受け取る。その球体には中央に三つの線形の窪みな彫られており、球体の天辺には硝子でできた装飾らしき者が掘り込まれていた。
アンがそれをなぞるように触ると、その装飾は緑の光を発した。
「本物みたいですね、ありがとうございます。医療器具を取ってきますね。」
そう言い踵を返してテントの中に戻るアンをサムライは追いかけ、同じくテントの中へ入る。
中に置いてあった木箱から包帯や、ガーゼなどを取り出すアンにサムライは言う。
「なかなか小さい物でしたから探すのに一苦労しましたヨ。」
「うふふ、アピールしても支払う額は一桁も増えませんよ。」
アンはそう返した。
サムライはため息を残念そうに吐くと、別の話題を切り出した。
「遺物には、まだ動く物もあるのですネ。」
「ええ、ごく稀ですがね。」
サムライは首を傾げながらアンに問う。
「しかし、あんな埃臭い倉庫の中にある遺物の譲渡装置の存在を、なぜ知っていたのですカ?」
アンはその問いに答える。
「こちらに、少しそういうのが強い人がいるんですよ。」
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