【完結】君が消えた仮想世界と僕が願った並行世界

１３話 仮想世界の並行世界へ

ロンドンへ

「それじゃ、そろそろ行こうか？」
「行くってどこへよ？」
「お父さんの身体を取り戻しにロンドンへ」

　すみれは得意げにそう平然と言ってのけた。

「すみれ？　ごめんなんだけど……そのお父さんていうやつ……やめてくれる？」
「いいじゃない別に減るもんじゃないし、この呼び方が一番しっくりくるのよ」

　そして、すみれは信人の身体に入った二つの並行世界の界人の意識と李依と自分をロンドン本社前に転移させた。


「すみれ、何よコレ！？　一体どういうこと！？」

　ツインタワーの敷地内にはメイド服を着たすみれが無数に立ち並んでいた。微動だにせず。まるで動力源を失ったアンドロイドのように。


「李依、あなた今まで不思議には思わなかったの？　時速６０キロ以上で走る自転車と並走できる女子高生なんているわけないじゃない」
「すみれ、あなた何を言っているの？」
「あっ、そうか、あのポイントには李依は登場してないのか」

　ぽかんと口を開けたまま、すみれの顔をじっと見つめる李依。

「それじゃ、断崖絶壁から落下する身体を激走する車のボンネットの上でキャッチできる人間なんていると思う？」

　エントランスの中央で左腕が肩から千切れ、身体が粉々に崩れ落ちたメイド服姿のすみれと目の前のすみれを交互に見比べる李依。

「そうよ、それと私は同じ存在よ。アシスタント型警備兵試作品アンドロイド１号機、それが私の身体」
「そんなの嘘よ！　だって小学校の時あなた自転車で転んで骨折してたじゃない」
「それは、この身体と入れ替わる前の私ね。たぶん」
「たぶんて何よ？」

「その直後から高校２年の夏に李依と再会するまでの間、私はこの世界に存在していなかったから」
「えっ！？　でも、氷漬けのマンモスが洞爺湖の畔で発見された！　みたいな話してなかったっけ？」
「それは、私がちょっと寄り道しただけよ」

「小学生のコスプレしたヤバいお姉さん？　あれは夢じゃなかったのね」
「うるさいわね――、ちゃんとやり直したじゃない」
「でも、世界に存在してなかったってどういうことよ！」

――リレーの選手になりたいなぁ……

「嘘でしょ！？　まさか……」
「李依、それは考えすぎだろ」

　界人は慌てて李依の思考を遮った。

「それで？　私の身体はどこにあるんだ？」
「おそらく、地下のコールドスリープカプセルで丁重に保管されているかと……」
「すみれさん、それじゃ、そこまで転移頼めるかい？　それから、界人おじさん、黙っててごめん。実は僕も界人なんだ」