【完結】君が消えた仮想世界と僕が願った並行世界

１２話 並行世界の仮想世界から

深く深く

　眼前が白い。背中に重力を感じ、それが天井だと初めて気付く。首を左右に動かしても色彩に変化はない。間近に視線を移す。それでも白い。

――これはシーツか？　それから身に着けている衣服も……

　ようやく聴覚も活動を開始する

――軋む音？

　どうやら私は、病院のベッドで目を覚ましたようだ。

「界人――――――――！！」

　少しずつ機能を取り戻すつもりだった私の耳につんざくような騒音が鳴り響いた。とてもきれいな女性がベッドの傍らで涙を流して泣いているのである。

「こんなシチュエーション前にもあったな。ああ、あの時は息子だと思っていたのか。どちらにせよ遥が自分にとって、かけがえのない存在であることは間違えではなかったか。それにしても、本当に心臓にナイフを突き立てられていたとはな。李依のセリフなんかより何百倍も痛かったよ」

　不敵な笑みを浮かべて目を覚ます界人。遥の発見が早く一命は取り止めていた。

「界人？　あなた、大丈夫！？　何を訳の分からないことを言ってるのよ！」
「ごめんごめん、そうだよな。どこから話すべきなのか？　いや時系列なんてもはや関係がないか？　過去、現在、未来が同時に存在しているとはよく言ったものだな」
「私の頭でも分かるようにお願い」
「少し長い話になるが付き合ってもらえるか？」

　界人はサイドボードに置かれたフルーツセットからリンゴを一つ手に取ると、それを果物ナイフで器用に剥きながら、自分が見てきた全てを遥に打ち明けた。

「分かった。スマホは私が一旦預かるわね」

　スマホを受け取る遥。果物ナイフを柄の部分を遥に向けて手渡す界人。そして、遥は界人の心臓にナイフを深く深く突き立てた。