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6話 主観と俯瞰(Aパート)
シスターズ
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私立坂の上高校2年A組。高梨李依と岡本信人と神坂すみれは同じクラスである。何かとてつもなく大変なことが起きていたような、それでも何も起こらなかったような、そんな肝試し大会から一夜明けた翌日、李依はいつものように誰よりも早く登校していた。窓際の一番後ろの席で、本を開きページをめくる。癖というのは怖いもので、朝のルーティーンの締めの言葉が頭に浮かんだ。
――誰も私に話しかけないで……
頭に浮かんで初めてもう必要ないと気付く。李依は改めてこう願った。
――私に話しかけたい人は、どうぞ、ご勝手に……
随分と控えめなお願いである。
「李依、おはよう」
教室のドアが壊れてしまうのではないかと心配するほどの勢いですみれが登校してきた。
「おはよう、すみれ。あなたドア壊す気?」
「何が? いつも通りだけど……」
すみれは当たり前のように、李依の一つ前の席に座った。
「あなた、何でそこに座るのよ! 自分の席に座りなさい!」
「ここが私の席ですけど……」
「えっ!? いつから!?」
――最近、席替えなんてあったかしら……
「1年の時からずっと同じ席ですけど……」
「高校に入学してからずっと私たち同じクラスってこと?」
驚くポイントがそこではないことに気付く李依。
「っていうか、あなた、これまでに席替えが何回あったと思ってるのよ!」
「ん――と、7回だったかな?」
「だから、回数を聞いてるんじゃないわよ! どうやったのかって聞いてるの!」
「どうやったって? そりゃ――、まぁ――、その――、土下座かな?」
なぜか、恥ずかしそうな素振りをみせるすみれ。
「どういうこと!?」
すみれは席替えの度に、窓際の後ろから二番目の席を引き当てた生徒に土下座をして席を譲ってもらっていたのだ。
「だって、李依の近くの席がよかったんだもん」
「よかったんだもんってあなたね――、普通そこまでする!?」
「李依だって、いつも窓際の一番後ろの席をゲットできていたじゃない?」
「あなた、まさか?」
「うん、李依の分も私が土下座しといた。一回するのも二回するのも同じだから」
「そんな、夕食を一人分作るのも二人分作るのも同じだからみたいな言い方でいわないで!」
「なによ、席替えのクジ引きの結果も確認せずに、わがもの顔でいつもの席に座ってたくせに」
「それは……」
席替えの件については、李依は勝手に能力のおかげだと思い込んでいたが、考えてみれば、特に願ってはいなかった。
「なんか面白そうな話になってるね」
遅れて登校してくる信人。
「僕も、おかしいと思ってたんだよね」
李依に誰も話しかけることができなかった要因の一つとして、土下座というすみれの奇行もかなりの割合で占めていたかと思うと信人は笑いを堪えきれなかった。
「それより何これ?」
李依の能力解除効果は絶大だった。信人が目配せした先には人だかりができていた。その列は、李依の席から始まり、教室の後ろのドアを跨いで廊下まで続いている。そして、先頭の女子生徒がまず、李依に声をかけてきた。
「高梨さん、おはよう」
李依は後ろを振り返り、女子生徒の声の向かう先を確認する。
「だから、このクラスに高梨さんは一人しかいないって!」
信人が堪らず、口を挟んだ。
「神坂さんとはお友達なの!? どんなジャンルの本が好きなの!? 今日一緒にお弁当食べない!? 髪、綺麗だね!! シャンプー何使ってるの!?」
矢継ぎ早に質問を繰り出してくる女子生徒に面を食らう李依。コミュ力に自信がある方ではない。すかさず、すみれに助けをこう視線を送る。
「そうそう、李依とは小学校からの友達なんだ。そうだね、お昼、3人で一緒に食べよっか? シャンプーはBOTANだったよね、それから、好きな本のジャンルは……」
「へ――そうなんだ」
女子生徒が李依の手元に目を向けると李依が本のページをめくる動作はまだ続いていた。本のタイトルを確認しようと目を細める女子生徒。そのとき、すみれはあることに気が付き、李依の手元を覆い隠す。
「あれ、高梨さん、その本、逆さま?」
今度は、すみれから李依に向けて助けをこう視線が送られる。
――李依、何か言い訳して! 「カバーが逆さまだった」とか何でもいいから……
「私、本の紙の匂いが好きなの」
――バカ、バカ、バカ、バカ、それは知的な読書家のセリフだから。本を逆さまに持ってバカみたいにページをペラペラめくっている人が言ったらただの変態だから。李依はもう黙ってて!
「それはそうと、すみれ、私が使ってるシャンプーがBOTANだって何で分かったの?」
うまく、話題を変えてピンチを脱する李依。
「何でって、そりゃ――、李依の髪の匂いを毎朝嗅いでいるからに決まってるじゃない!」
ピンチを脱するどころか、窓際変態女子生徒のレッテルを張られてしまった瞬間だった。
「はい、次の方――」
まるで面接官のように、次の生徒を呼び入れる信人。すみれ付き添いによる内気な李依の面接はホームルームが始まるまで永遠と続いた。
――誰も私に話しかけないで……
頭に浮かんで初めてもう必要ないと気付く。李依は改めてこう願った。
――私に話しかけたい人は、どうぞ、ご勝手に……
随分と控えめなお願いである。
「李依、おはよう」
教室のドアが壊れてしまうのではないかと心配するほどの勢いですみれが登校してきた。
「おはよう、すみれ。あなたドア壊す気?」
「何が? いつも通りだけど……」
すみれは当たり前のように、李依の一つ前の席に座った。
「あなた、何でそこに座るのよ! 自分の席に座りなさい!」
「ここが私の席ですけど……」
「えっ!? いつから!?」
――最近、席替えなんてあったかしら……
「1年の時からずっと同じ席ですけど……」
「高校に入学してからずっと私たち同じクラスってこと?」
驚くポイントがそこではないことに気付く李依。
「っていうか、あなた、これまでに席替えが何回あったと思ってるのよ!」
「ん――と、7回だったかな?」
「だから、回数を聞いてるんじゃないわよ! どうやったのかって聞いてるの!」
「どうやったって? そりゃ――、まぁ――、その――、土下座かな?」
なぜか、恥ずかしそうな素振りをみせるすみれ。
「どういうこと!?」
すみれは席替えの度に、窓際の後ろから二番目の席を引き当てた生徒に土下座をして席を譲ってもらっていたのだ。
「だって、李依の近くの席がよかったんだもん」
「よかったんだもんってあなたね――、普通そこまでする!?」
「李依だって、いつも窓際の一番後ろの席をゲットできていたじゃない?」
「あなた、まさか?」
「うん、李依の分も私が土下座しといた。一回するのも二回するのも同じだから」
「そんな、夕食を一人分作るのも二人分作るのも同じだからみたいな言い方でいわないで!」
「なによ、席替えのクジ引きの結果も確認せずに、わがもの顔でいつもの席に座ってたくせに」
「それは……」
席替えの件については、李依は勝手に能力のおかげだと思い込んでいたが、考えてみれば、特に願ってはいなかった。
「なんか面白そうな話になってるね」
遅れて登校してくる信人。
「僕も、おかしいと思ってたんだよね」
李依に誰も話しかけることができなかった要因の一つとして、土下座というすみれの奇行もかなりの割合で占めていたかと思うと信人は笑いを堪えきれなかった。
「それより何これ?」
李依の能力解除効果は絶大だった。信人が目配せした先には人だかりができていた。その列は、李依の席から始まり、教室の後ろのドアを跨いで廊下まで続いている。そして、先頭の女子生徒がまず、李依に声をかけてきた。
「高梨さん、おはよう」
李依は後ろを振り返り、女子生徒の声の向かう先を確認する。
「だから、このクラスに高梨さんは一人しかいないって!」
信人が堪らず、口を挟んだ。
「神坂さんとはお友達なの!? どんなジャンルの本が好きなの!? 今日一緒にお弁当食べない!? 髪、綺麗だね!! シャンプー何使ってるの!?」
矢継ぎ早に質問を繰り出してくる女子生徒に面を食らう李依。コミュ力に自信がある方ではない。すかさず、すみれに助けをこう視線を送る。
「そうそう、李依とは小学校からの友達なんだ。そうだね、お昼、3人で一緒に食べよっか? シャンプーはBOTANだったよね、それから、好きな本のジャンルは……」
「へ――そうなんだ」
女子生徒が李依の手元に目を向けると李依が本のページをめくる動作はまだ続いていた。本のタイトルを確認しようと目を細める女子生徒。そのとき、すみれはあることに気が付き、李依の手元を覆い隠す。
「あれ、高梨さん、その本、逆さま?」
今度は、すみれから李依に向けて助けをこう視線が送られる。
――李依、何か言い訳して! 「カバーが逆さまだった」とか何でもいいから……
「私、本の紙の匂いが好きなの」
――バカ、バカ、バカ、バカ、それは知的な読書家のセリフだから。本を逆さまに持ってバカみたいにページをペラペラめくっている人が言ったらただの変態だから。李依はもう黙ってて!
「それはそうと、すみれ、私が使ってるシャンプーがBOTANだって何で分かったの?」
うまく、話題を変えてピンチを脱する李依。
「何でって、そりゃ――、李依の髪の匂いを毎朝嗅いでいるからに決まってるじゃない!」
ピンチを脱するどころか、窓際変態女子生徒のレッテルを張られてしまった瞬間だった。
「はい、次の方――」
まるで面接官のように、次の生徒を呼び入れる信人。すみれ付き添いによる内気な李依の面接はホームルームが始まるまで永遠と続いた。
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