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2話 どうしても伝えられなかったその言葉
ゴッドアイ
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――さっきのあれは一体何だったのかしら。信人の演技? ってことはさすがにないわよね。てか、お互い泣きながら男女が抱き合うってどういう状況よ。まぁ――さっきのはノーカンということで……
「あの角を曲がればもう僕の家なんですけど……」
いきなり口を開いた信人に、また心の声を聞かれてしまったのではないかとびくつく李依。
「へ――だから何なのよ!」
「だから――その――もう一人で歩けるというか……」
突然、歯切れが悪くなる信人。
「いいじゃない別にこのままで」
「それが――その――李依に危険が及ぶというか……僕のママがちょっと……」
「あなたのお母さんが何なのよ!」
その声の先にはすでに信人はいなかった。いつの間にか、彼は李依の5メートル先を自転車を引いて歩いていた。
「ただいま――」
「お帰りなさ――いって、信人が彼女を連れて帰ってきた――!!」
初登場からテンションMAXな信人の母である。
「ママ、違っ、この人は……」
「彼女ってことは結婚……結婚ってことは……私捨てられるのね。そして、一人寂しく……」
堪らず、口を挟む李依。
「お母さん、落ち着いて下さい」
「あなたに、お母さんと呼ばれる筋合いはない!」
テンションが下がる気配すら見せない信人の母。
「信人君とは、友達と言うか今日知り合ったばかりと言うか、そう、ただの知り合いです」
恋人ごっこタイムはいつの間にか終了していたらしい。
「高梨さん、ひどっ! 友達で良くないですか? せめてクラスメイトでお願いします」
「な――んだ、お知り合いね。だだのお知り合いさんが、何でうちの敷居を跨いでいるのかしら……」
「ママ、言い方!」
「だって……」
信人は李依の手を取り、その場から逃げ出すように自分の部屋へとかけ込んだ。
「あなたのお母さん、何て言うか、凄いわね」
「ごめん。ママ、ムスコンだから」
「ママって、あなたも充分マザコンじゃない」
「だって、ママがママって呼んで欲しいってママの心の声が」
「だって、ママ、ママって、それがマザコンなのよ!」
李依は容赦ない軽蔑のまなざしを信人に浴びせた。
「それじゃ――、そろそろ始めよっか」
「始めるって何をよ」
「作戦会議! 議題はこれからの二人について」
――二人についてって……何? まさか、この人、私のこと……
「好きです」
真剣な表情を保てず吹き出す信人。
「って、信人のそれ、フェアじゃないわよ!」
「ごめん、嘘、嘘、そうじゃなくて、本日の議題はその能力についてさ」
「一方的にこちらの声だけ聞かれてしまうって言う、そのアンフェアなやつ?」
李依は皮肉たっぷりに食ってかかった。
「そう、そう、その僕の能力と李依の願いの力があれば、二人は神にも悪魔にもなれるって話さ」
「神……悪魔……って、すごいわね! で、どんなことができるのかしら? 詳しく聞かせて!」
珍しく前のめりな姿勢を取る李依。
「それをこれから考える作戦会議だよ」
「ノープランか――い!」
振り付きでツッコミを入れる李依。
「まず、そのアンフェアだけど」
「僕の能力の名称はそれで決定ですか?」
信人の質問には無反応で話を続ける李依。
「それ、私には気安く使わないで!」
「了解、了解。なるべく気を付けるよ」
信頼性の欠片もない返事をする信人。
「それで、君の能力についてだけど……」
「うん、神の眼ね!」
――さらっと自分の能力名だけカッコ良く付けた――しかもフリガナ付きで!!
「その神の眼ってどうなのかなって」
「どうって?」
「定義というか、何ができて何ができないのか、まずはそれを試してみようってこと。とにかく適当に神の眼ってみてよ」
「それって動詞にもなるのね」
「あ――喉が乾いたな――、オレンジジュースでも飲みたいな――、それからイチゴのショートケーキとかあったら最高なんだけどな――」
まるで一人芝居でも始めたような李依。予想に反してノリがいい。
「トン、トン」
突然のノックに顔を見合わせる二人。そこに、噂の信人ママが再び登場した。
「信人、ケーキ食べるでしょ。あと、ついでに、お知り合いさんも」
トレイには二人分の飲み物とイチゴのショートケーキが載っている。
「オレンジジュースでよかったかしら」
――お知り合いさんって、まだ言うか!! んっ、もう!! そんなジュースこぼれてしまえ!!
「きゃっ! ごめんなさい、お知り合いさん」
頭からジュースをまともにかぶる李依。
「お母さん、あの――、私、高梨です。お知り合いさんって! いい加減にそれ止めてもらえます? もう、友達でもいいですから!」
「高梨さんね、わかったわ。でも……あなたのお母さんではないですけどね!!」
李依もさすがに信人ママのハイテンションに慣れてきた。
「この二人怖っ! しつこっ! てか、僕が一番傷つくんですけど……」
思わぬ角度から傷を負わされる信人。
――こぼれたジュースが元通りコップに戻りますように……
李依は魔法少女が呪文でも唱えるように声に出して神の眼ってしまった。
「高梨さんって、頭も痛い子だったのね」
「『も』ってなんですか! 『も』って!」
李依は、突然、一番叶いそうにないことを願っていた。
――お母さんと仲良くなれますように……
「頭の痛い子に悪い子はいないわ。高梨さんとは仲良くなれそうね。よろしくお願いします」
固い握手を交わす二人。
――まさか――!! 仲良くなれた――!!
その瞬間、李依と信人の心の声が完全にリンクした。
「あの角を曲がればもう僕の家なんですけど……」
いきなり口を開いた信人に、また心の声を聞かれてしまったのではないかとびくつく李依。
「へ――だから何なのよ!」
「だから――その――もう一人で歩けるというか……」
突然、歯切れが悪くなる信人。
「いいじゃない別にこのままで」
「それが――その――李依に危険が及ぶというか……僕のママがちょっと……」
「あなたのお母さんが何なのよ!」
その声の先にはすでに信人はいなかった。いつの間にか、彼は李依の5メートル先を自転車を引いて歩いていた。
「ただいま――」
「お帰りなさ――いって、信人が彼女を連れて帰ってきた――!!」
初登場からテンションMAXな信人の母である。
「ママ、違っ、この人は……」
「彼女ってことは結婚……結婚ってことは……私捨てられるのね。そして、一人寂しく……」
堪らず、口を挟む李依。
「お母さん、落ち着いて下さい」
「あなたに、お母さんと呼ばれる筋合いはない!」
テンションが下がる気配すら見せない信人の母。
「信人君とは、友達と言うか今日知り合ったばかりと言うか、そう、ただの知り合いです」
恋人ごっこタイムはいつの間にか終了していたらしい。
「高梨さん、ひどっ! 友達で良くないですか? せめてクラスメイトでお願いします」
「な――んだ、お知り合いね。だだのお知り合いさんが、何でうちの敷居を跨いでいるのかしら……」
「ママ、言い方!」
「だって……」
信人は李依の手を取り、その場から逃げ出すように自分の部屋へとかけ込んだ。
「あなたのお母さん、何て言うか、凄いわね」
「ごめん。ママ、ムスコンだから」
「ママって、あなたも充分マザコンじゃない」
「だって、ママがママって呼んで欲しいってママの心の声が」
「だって、ママ、ママって、それがマザコンなのよ!」
李依は容赦ない軽蔑のまなざしを信人に浴びせた。
「それじゃ――、そろそろ始めよっか」
「始めるって何をよ」
「作戦会議! 議題はこれからの二人について」
――二人についてって……何? まさか、この人、私のこと……
「好きです」
真剣な表情を保てず吹き出す信人。
「って、信人のそれ、フェアじゃないわよ!」
「ごめん、嘘、嘘、そうじゃなくて、本日の議題はその能力についてさ」
「一方的にこちらの声だけ聞かれてしまうって言う、そのアンフェアなやつ?」
李依は皮肉たっぷりに食ってかかった。
「そう、そう、その僕の能力と李依の願いの力があれば、二人は神にも悪魔にもなれるって話さ」
「神……悪魔……って、すごいわね! で、どんなことができるのかしら? 詳しく聞かせて!」
珍しく前のめりな姿勢を取る李依。
「それをこれから考える作戦会議だよ」
「ノープランか――い!」
振り付きでツッコミを入れる李依。
「まず、そのアンフェアだけど」
「僕の能力の名称はそれで決定ですか?」
信人の質問には無反応で話を続ける李依。
「それ、私には気安く使わないで!」
「了解、了解。なるべく気を付けるよ」
信頼性の欠片もない返事をする信人。
「それで、君の能力についてだけど……」
「うん、神の眼ね!」
――さらっと自分の能力名だけカッコ良く付けた――しかもフリガナ付きで!!
「その神の眼ってどうなのかなって」
「どうって?」
「定義というか、何ができて何ができないのか、まずはそれを試してみようってこと。とにかく適当に神の眼ってみてよ」
「それって動詞にもなるのね」
「あ――喉が乾いたな――、オレンジジュースでも飲みたいな――、それからイチゴのショートケーキとかあったら最高なんだけどな――」
まるで一人芝居でも始めたような李依。予想に反してノリがいい。
「トン、トン」
突然のノックに顔を見合わせる二人。そこに、噂の信人ママが再び登場した。
「信人、ケーキ食べるでしょ。あと、ついでに、お知り合いさんも」
トレイには二人分の飲み物とイチゴのショートケーキが載っている。
「オレンジジュースでよかったかしら」
――お知り合いさんって、まだ言うか!! んっ、もう!! そんなジュースこぼれてしまえ!!
「きゃっ! ごめんなさい、お知り合いさん」
頭からジュースをまともにかぶる李依。
「お母さん、あの――、私、高梨です。お知り合いさんって! いい加減にそれ止めてもらえます? もう、友達でもいいですから!」
「高梨さんね、わかったわ。でも……あなたのお母さんではないですけどね!!」
李依もさすがに信人ママのハイテンションに慣れてきた。
「この二人怖っ! しつこっ! てか、僕が一番傷つくんですけど……」
思わぬ角度から傷を負わされる信人。
――こぼれたジュースが元通りコップに戻りますように……
李依は魔法少女が呪文でも唱えるように声に出して神の眼ってしまった。
「高梨さんって、頭も痛い子だったのね」
「『も』ってなんですか! 『も』って!」
李依は、突然、一番叶いそうにないことを願っていた。
――お母さんと仲良くなれますように……
「頭の痛い子に悪い子はいないわ。高梨さんとは仲良くなれそうね。よろしくお願いします」
固い握手を交わす二人。
――まさか――!! 仲良くなれた――!!
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