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12 ウェルズリー家の話
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コージモ君を爽やかに見送るサンダーの背中を、私は座ったままで眺めていた。
収まるまで立てやしない。私は学園で習った戦術パターンを端から思い出し、精神統一を図っていた。収まれ、収まるんだ。勤務中だ。
猥褻犯が戻ってきたと思ったら、二の腕を掴まれた。奥へ奥へと連行される。おい、まさか。
「おい…………おい!! 仕事!!」
「ちょっとだけ。こっち来て。どうにかしなきゃソレ」
サンダーが目線を下に向けた。犯人はお前だろうが。だめだこいつ。捕縛しないと。
「そっち手ぇついて。……後ろからがいいんだよね?」
「う…………」
帽子を剥ぎ取られ、目の前にバサッと落とされた。支給品を雑に扱うなって!
支給品の心配をする暇もなく、首筋を喰まれたことに意識がゆく。熱い舌で舐められ、悪寒のようなものが背筋から首の付け根に向かってゾクゾクと上がってゆく。
「んー……、めんどくせぇなコレ」
「ひっ、冷たっ」
服の裾を引っ張られ冷えた手が侵入し、すぐに弱いところを探り当てられる。
職場だし、炊事場だぞここ。またここでお茶淹れたりすんだぞ。気まずい。思い出すじゃないか。
腕が震えてきた。とても自重を支えられず前のめりになってしまったところを後ろから覆い被さられ、執拗に耳を食まれた。
耳の穴に舌を入れられた途端、覚えのある甘ったるい痺れが全身を襲った。背中が反ってしまう。こいつ、魔力を流してきやがった。
体内にまでこいつに手を突っ込まれ、蹂躙されているような性感と一緒に涙が込み上げてくる。
「やめっ……!! ちょっと、ちょっとだけって、いったっ……!!」
「ん?……あー……、言ったかもね……」
脚が立たない。膝がガクガクしてきたところを脚の間に片足を割り入れられ、支えるように押し付け股間を僅かに刺激される。
「ん、あっ!!………あっ………!!」
「あっしまった」
最悪だ。最悪。着替えあったっけ…。
「はいマリちゃん、これ取ってきたよー。着替えこれでいい? サイズ合ってる? あ、名前書いてあった。下着俺のでいいよね? 洗濯してるから平気平気! はい脱いで!」
「いい……自分でできる……」
「そお? 俺洗濯するからこの籠入れてね。そろそろあの人帰ってくるだろうからシャワー使えないし、とりあえずこのタオルで拭いて! 温めてあるから気持ちいいよ!」
「お前それ……どうすんの、そのまま前出るのかよ」
奴は自分の収まり切っていない股間を見下ろし、サッと退出し、またサッと戻ってきた。何なんだ。
「ほらね。寒いときはこの素敵なアイテムがあるから。似合う?」
──だるい。物理的にも心理的にもだるい。
「お前の股間カバーじゃねーよ」
「はー? 何言ってんのマリちゃん? このための支給品じゃないか!」
──違ぇよ。防寒だよ!!
炊事場のテーブルに突っ伏しうとうとしていると、夕食を食べてきた先輩が帰ってきて具合でも悪いのか、喧嘩でもしたのかと心配された。優しい。
今はお茶を淹れてくれている。優しい。
リーヴァイさん。年功序列を無視して上司になってしまった無邪気すぎる後輩と、可愛げのない後輩の私を広い心で見守ってくれる先輩だ。
正直年下が上司だなんて嫌なんじゃないかと思っていたが、『ああいう子だから気にしてない。捕縛率凄いし、上司でいいよ。さもありなん。君の方が大変でしょ色々と』と、自ら言っていた通り、普通に仲間として尊重してくれる。
いい人だ。まともな人は好きだ。……色々ってなんだろう。何を察してくれたんだろう。
「君たちっていいコンビだよね。あっちこっちに気をやる元気なあいつと、あいつがとっ散らかしたものを片付けられる冷静な君とで。上もその辺を見ての人選でしょ」
「あー、そうなんですかね。私はてっきり、あいつの家の力が働いたんだと思ってたんですけど。家格を戻してやるって打診がずっとあるそうですし、本人がまだ王宮に誘われてますし。今も引き抜き人がたまーに来てますよね」
「あいつの家……ウェルズリー家ね。あの家って確か王家に近い家によく嫁いだりしてるよな。魔力ってもんが認知された当初からある家らしいし。だから親戚のポカが発覚するまでずっと家格は高かった。今でも魔力イコール家の力になるとこあるから」
「そうなんですよ。衛兵を束ねてる大元は国で、王家じゃないですか。古くからの付き合いなら、人選の口利きくらいできるかなって」
そもそもサンダーの魔力量すらよく知らないのだ。結構ある、というのは嫌でも体感でわかっている。それが学園の魔術科に入れる一定水準以上なのか以下なのかはわからない。個人情報だからだ。秘匿されるのが常である。
「なあ俺、ちょっと知ってることがあって。あくまで噂だから信じ込まないで欲しいんだけど……」
リーヴァイ先輩は突然顔を近づけて声を落とした。入り口の方をチラッと見る。私は頷いた。なんだろう。
「ウェルズリー家ってさ。家系図の先がある時期から辿れないらしい。奥さんはポッと出だなんてよくあるから、父系の方。ある日突然、そこに邸が現れたような登場の仕方をしてるらしい。記録が焼失したのかもしれないけど、誰に聞いてもある日突然、有り得ない、みたいな証言の記録だけが残ってる」
──突然のお家ミステリー。ちょっと好奇心が騒ぐ。
「美形が多いだろ。あの家。まあ力のある家にはよくあることだけど。それも遠い血と交わったからだと言われてる。うちの国はずっと力こそ正義の価値観だから、とにかく強い血は大歓迎だし、王家はもう盤石だから問題ないけど、魔力を利用し始めた人間の始祖は王家説と、ウェルズリー家説で実は分かれている」
『だから人選への口出しはあったかもねって話』と締めくくり、リーヴァイ先輩は紙煙草に火をつけた。知っていることはこれで全てらしい。
虫は空から来た説ってのもあったなあ。地上の生き物の進化としては異端すぎるとか。
そうか、サンダーは超進化人類の末裔か。なら人間語が通じないときがあっても仕方ない……
いや待て待て。現在、あいつの家のスパイが家格の高い家のあちこちに散らばってるような状況だってことだ。この国のどこに勤めようがきっと、ウェルズリー家の者に突き当たる可能性が高い。
退路はとっくに絶たれていたのでは。
そこまで考えて、私はまたテーブルに突っ伏した。『仕事振られるまで休んどきな』と、リーヴァイ先輩が気遣ってくれた。優しい。
収まるまで立てやしない。私は学園で習った戦術パターンを端から思い出し、精神統一を図っていた。収まれ、収まるんだ。勤務中だ。
猥褻犯が戻ってきたと思ったら、二の腕を掴まれた。奥へ奥へと連行される。おい、まさか。
「おい…………おい!! 仕事!!」
「ちょっとだけ。こっち来て。どうにかしなきゃソレ」
サンダーが目線を下に向けた。犯人はお前だろうが。だめだこいつ。捕縛しないと。
「そっち手ぇついて。……後ろからがいいんだよね?」
「う…………」
帽子を剥ぎ取られ、目の前にバサッと落とされた。支給品を雑に扱うなって!
支給品の心配をする暇もなく、首筋を喰まれたことに意識がゆく。熱い舌で舐められ、悪寒のようなものが背筋から首の付け根に向かってゾクゾクと上がってゆく。
「んー……、めんどくせぇなコレ」
「ひっ、冷たっ」
服の裾を引っ張られ冷えた手が侵入し、すぐに弱いところを探り当てられる。
職場だし、炊事場だぞここ。またここでお茶淹れたりすんだぞ。気まずい。思い出すじゃないか。
腕が震えてきた。とても自重を支えられず前のめりになってしまったところを後ろから覆い被さられ、執拗に耳を食まれた。
耳の穴に舌を入れられた途端、覚えのある甘ったるい痺れが全身を襲った。背中が反ってしまう。こいつ、魔力を流してきやがった。
体内にまでこいつに手を突っ込まれ、蹂躙されているような性感と一緒に涙が込み上げてくる。
「やめっ……!! ちょっと、ちょっとだけって、いったっ……!!」
「ん?……あー……、言ったかもね……」
脚が立たない。膝がガクガクしてきたところを脚の間に片足を割り入れられ、支えるように押し付け股間を僅かに刺激される。
「ん、あっ!!………あっ………!!」
「あっしまった」
最悪だ。最悪。着替えあったっけ…。
「はいマリちゃん、これ取ってきたよー。着替えこれでいい? サイズ合ってる? あ、名前書いてあった。下着俺のでいいよね? 洗濯してるから平気平気! はい脱いで!」
「いい……自分でできる……」
「そお? 俺洗濯するからこの籠入れてね。そろそろあの人帰ってくるだろうからシャワー使えないし、とりあえずこのタオルで拭いて! 温めてあるから気持ちいいよ!」
「お前それ……どうすんの、そのまま前出るのかよ」
奴は自分の収まり切っていない股間を見下ろし、サッと退出し、またサッと戻ってきた。何なんだ。
「ほらね。寒いときはこの素敵なアイテムがあるから。似合う?」
──だるい。物理的にも心理的にもだるい。
「お前の股間カバーじゃねーよ」
「はー? 何言ってんのマリちゃん? このための支給品じゃないか!」
──違ぇよ。防寒だよ!!
炊事場のテーブルに突っ伏しうとうとしていると、夕食を食べてきた先輩が帰ってきて具合でも悪いのか、喧嘩でもしたのかと心配された。優しい。
今はお茶を淹れてくれている。優しい。
リーヴァイさん。年功序列を無視して上司になってしまった無邪気すぎる後輩と、可愛げのない後輩の私を広い心で見守ってくれる先輩だ。
正直年下が上司だなんて嫌なんじゃないかと思っていたが、『ああいう子だから気にしてない。捕縛率凄いし、上司でいいよ。さもありなん。君の方が大変でしょ色々と』と、自ら言っていた通り、普通に仲間として尊重してくれる。
いい人だ。まともな人は好きだ。……色々ってなんだろう。何を察してくれたんだろう。
「君たちっていいコンビだよね。あっちこっちに気をやる元気なあいつと、あいつがとっ散らかしたものを片付けられる冷静な君とで。上もその辺を見ての人選でしょ」
「あー、そうなんですかね。私はてっきり、あいつの家の力が働いたんだと思ってたんですけど。家格を戻してやるって打診がずっとあるそうですし、本人がまだ王宮に誘われてますし。今も引き抜き人がたまーに来てますよね」
「あいつの家……ウェルズリー家ね。あの家って確か王家に近い家によく嫁いだりしてるよな。魔力ってもんが認知された当初からある家らしいし。だから親戚のポカが発覚するまでずっと家格は高かった。今でも魔力イコール家の力になるとこあるから」
「そうなんですよ。衛兵を束ねてる大元は国で、王家じゃないですか。古くからの付き合いなら、人選の口利きくらいできるかなって」
そもそもサンダーの魔力量すらよく知らないのだ。結構ある、というのは嫌でも体感でわかっている。それが学園の魔術科に入れる一定水準以上なのか以下なのかはわからない。個人情報だからだ。秘匿されるのが常である。
「なあ俺、ちょっと知ってることがあって。あくまで噂だから信じ込まないで欲しいんだけど……」
リーヴァイ先輩は突然顔を近づけて声を落とした。入り口の方をチラッと見る。私は頷いた。なんだろう。
「ウェルズリー家ってさ。家系図の先がある時期から辿れないらしい。奥さんはポッと出だなんてよくあるから、父系の方。ある日突然、そこに邸が現れたような登場の仕方をしてるらしい。記録が焼失したのかもしれないけど、誰に聞いてもある日突然、有り得ない、みたいな証言の記録だけが残ってる」
──突然のお家ミステリー。ちょっと好奇心が騒ぐ。
「美形が多いだろ。あの家。まあ力のある家にはよくあることだけど。それも遠い血と交わったからだと言われてる。うちの国はずっと力こそ正義の価値観だから、とにかく強い血は大歓迎だし、王家はもう盤石だから問題ないけど、魔力を利用し始めた人間の始祖は王家説と、ウェルズリー家説で実は分かれている」
『だから人選への口出しはあったかもねって話』と締めくくり、リーヴァイ先輩は紙煙草に火をつけた。知っていることはこれで全てらしい。
虫は空から来た説ってのもあったなあ。地上の生き物の進化としては異端すぎるとか。
そうか、サンダーは超進化人類の末裔か。なら人間語が通じないときがあっても仕方ない……
いや待て待て。現在、あいつの家のスパイが家格の高い家のあちこちに散らばってるような状況だってことだ。この国のどこに勤めようがきっと、ウェルズリー家の者に突き当たる可能性が高い。
退路はとっくに絶たれていたのでは。
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