32 / 37
33 調子に乗った者の末路5
しおりを挟む
あれ以来、ルカディが俺に近づくことはなかった。
こっそりと家宅捜索のようなものは入ったようだが、やはり何も出て来なかったらしい。今でも普通に学園に通っているのを見かける。
というか、俺を見かけると慌てて視線を逸らしたり、そそくさと逃げるようになった。ははん、さてはブルーノ先輩に何か釘を刺されたな。阿呆め、先輩の恐ろしさに今頃気がつくなんて。
惚れた腫れたに疎めの俺は、奴が俺のことを本当に好きだったのかは全然分からない、とブルーノ先輩に言ったら、『恋した奴のやることではないかな。どっちかというと性欲。あと私利私欲』と言っていた。
俺はモテてるー、とただ浮かれポンチになっていただけだが、俺の声、いや歌声って本当に色っぽい感じになるらしい。
「高くて少年っぽいのに、甘ったるくて少し掠れて大人びてるから年齢不詳の魅力があって。あのときの声みたいになる」
ええ……。前にそういうこと言われた記憶があるけど、からかいの意味合いが強いと思ってた。これからはちょっと歌いにくい。
間違えないよう必死になって声出してるけど、それもベッドで追い詰められてるみたいでエロいらしい。ベッドで…。追い詰め……。
実技試験のときはしょうがないけど、そこらで乱用するのはやめておこう。
真面目に呪文を暗記する特訓もしよう。
あと、私利私欲というもの。やはり先輩が詰めてたらしく、刑吏役を勤めた先輩の話によると、ルカディは俺が多量に持っている魔力を得たいというのが一番の目的だったとか。
治療魔術に使う薬や道具。あれを生産するには、物凄く大量の魔力を使うそうなのだ。
治療魔道具が高いのは、生産用の魔力を買うだけでコストがかかっているから。そこを値上げとかされちゃうと生産が追いつかなくなってしまう。魔道具関係の界隈ではよくある話だそうだ。
ルカディは長男だ。おそらく跡継ぎであろう彼は、俺をどうにかしてでも伴侶にして、生産のために俺を使い、自分のとこの独占製品を大量に販売したかった。
奇しくも俺の婚約者は商売敵の息子。俺を得られればライバルは苦しむし、自分達は儲けられるし、一挙両得。お家のためとはいえ、俺の意思を完全に無視した、まさに私利私欲。
「魔力は金の成る木。あればあるほど重宝される。僕がネオくんの防犯に力を入れる理由が分かったかな? 気を付けるんだよ。まあ、僕が絶対守るけどね」
先輩が特別俺の守りを固めてくれるのは、俺に対する愛情だけじゃなくて、俺の身を本当に心配してくれているから。
学園の防犯対策がガチガチなのは、ご子息ご令嬢を親の代わりに守るだけでなく、誘拐防止のためでもあるから。
一定水準から、それを超える魔力を持つ者を、平民だろうが何だろうが纏めて学園にブチ込むのは、貴重な人材育成だけではなく、当人の個人情報を把握して、悪用したりされたりするのを防ぐためでもあるから。
学園の外にいくときは、制服を着ないこと。申請を出すこと。一人行動は慎むこと。
防犯魔道具は必ず身につけること。
万が一異常を検知すればそれを目印にして、警備兵が魔獣で空を飛び駆けつけるため、絶対に外さないこと。
うちの学園にはこんな規則が存在する。一例だ。他にもまだまだある。中での行動が自由なわりに、外に出るときは逆に厳しい。
案外自由だけど過保護なとこもあるなー、なんて呑気に思っていた俺ら。知らないうちに国と沢山の大人達に守られていたのだ。
「ねえ先輩? 馬鹿なことを聞くようだけど、俺の魔力を、先輩の家の────」
「本当に馬鹿なこと聞くねえ君は。そんなこと一回も考えたことないよ。そんな余裕はなかったよ。好きだから。愛してるよイレネオ」
ブルーノ先輩は俺の鼻を摘まんで、そう答えた。超照れた。
────────
ところで、俺にはちょっとした野望がある。
前にブルーノ先輩がブッ倒れたとき、魔力を流しまくってなんとかしたという実績が俺にはある。
その後病室でイチャコラしてたとき、全然動けない先輩の上からチューしたり、手を押さえたりを、やらせてもらったときの優越感が忘れられない。
またやってみたい。
多分、いや絶対アレを突っ込むのはさすがにやらせてもらえないだろうから諦めるとして、口から魔力をドバドバ流してヘロヘロにさせたい。いつも一方的に流されてばっかりで対抗できたことがないんだもん。
あの強い先輩を。無敵な先輩を組み敷く。
ひょ──! 考えただけで楽しそ────!!
──────
「ということで、先日はどうもありがとうございました。本日はわたくしが上に乗らせて頂きます」
「ん? サービスしてくれるってこと?」
先輩は俺の野望も知らず、いいよ、とにっこり微笑み、おいで、と俺の腰を掴んで引き、ボスンと膝の上に対面で乗せてきた。
「違う違う! 先輩は動かないで欲しいの!」
「えー?」
こらこら! 首にチューしようとすんな!
「駄目だ、全然伝わってない。ねえ先輩、縛ってもいい?」
「えっ、う────ん…………いいよ」
随分熟考したな。
だが、言質は取ったぞ。
こっそりと家宅捜索のようなものは入ったようだが、やはり何も出て来なかったらしい。今でも普通に学園に通っているのを見かける。
というか、俺を見かけると慌てて視線を逸らしたり、そそくさと逃げるようになった。ははん、さてはブルーノ先輩に何か釘を刺されたな。阿呆め、先輩の恐ろしさに今頃気がつくなんて。
惚れた腫れたに疎めの俺は、奴が俺のことを本当に好きだったのかは全然分からない、とブルーノ先輩に言ったら、『恋した奴のやることではないかな。どっちかというと性欲。あと私利私欲』と言っていた。
俺はモテてるー、とただ浮かれポンチになっていただけだが、俺の声、いや歌声って本当に色っぽい感じになるらしい。
「高くて少年っぽいのに、甘ったるくて少し掠れて大人びてるから年齢不詳の魅力があって。あのときの声みたいになる」
ええ……。前にそういうこと言われた記憶があるけど、からかいの意味合いが強いと思ってた。これからはちょっと歌いにくい。
間違えないよう必死になって声出してるけど、それもベッドで追い詰められてるみたいでエロいらしい。ベッドで…。追い詰め……。
実技試験のときはしょうがないけど、そこらで乱用するのはやめておこう。
真面目に呪文を暗記する特訓もしよう。
あと、私利私欲というもの。やはり先輩が詰めてたらしく、刑吏役を勤めた先輩の話によると、ルカディは俺が多量に持っている魔力を得たいというのが一番の目的だったとか。
治療魔術に使う薬や道具。あれを生産するには、物凄く大量の魔力を使うそうなのだ。
治療魔道具が高いのは、生産用の魔力を買うだけでコストがかかっているから。そこを値上げとかされちゃうと生産が追いつかなくなってしまう。魔道具関係の界隈ではよくある話だそうだ。
ルカディは長男だ。おそらく跡継ぎであろう彼は、俺をどうにかしてでも伴侶にして、生産のために俺を使い、自分のとこの独占製品を大量に販売したかった。
奇しくも俺の婚約者は商売敵の息子。俺を得られればライバルは苦しむし、自分達は儲けられるし、一挙両得。お家のためとはいえ、俺の意思を完全に無視した、まさに私利私欲。
「魔力は金の成る木。あればあるほど重宝される。僕がネオくんの防犯に力を入れる理由が分かったかな? 気を付けるんだよ。まあ、僕が絶対守るけどね」
先輩が特別俺の守りを固めてくれるのは、俺に対する愛情だけじゃなくて、俺の身を本当に心配してくれているから。
学園の防犯対策がガチガチなのは、ご子息ご令嬢を親の代わりに守るだけでなく、誘拐防止のためでもあるから。
一定水準から、それを超える魔力を持つ者を、平民だろうが何だろうが纏めて学園にブチ込むのは、貴重な人材育成だけではなく、当人の個人情報を把握して、悪用したりされたりするのを防ぐためでもあるから。
学園の外にいくときは、制服を着ないこと。申請を出すこと。一人行動は慎むこと。
防犯魔道具は必ず身につけること。
万が一異常を検知すればそれを目印にして、警備兵が魔獣で空を飛び駆けつけるため、絶対に外さないこと。
うちの学園にはこんな規則が存在する。一例だ。他にもまだまだある。中での行動が自由なわりに、外に出るときは逆に厳しい。
案外自由だけど過保護なとこもあるなー、なんて呑気に思っていた俺ら。知らないうちに国と沢山の大人達に守られていたのだ。
「ねえ先輩? 馬鹿なことを聞くようだけど、俺の魔力を、先輩の家の────」
「本当に馬鹿なこと聞くねえ君は。そんなこと一回も考えたことないよ。そんな余裕はなかったよ。好きだから。愛してるよイレネオ」
ブルーノ先輩は俺の鼻を摘まんで、そう答えた。超照れた。
────────
ところで、俺にはちょっとした野望がある。
前にブルーノ先輩がブッ倒れたとき、魔力を流しまくってなんとかしたという実績が俺にはある。
その後病室でイチャコラしてたとき、全然動けない先輩の上からチューしたり、手を押さえたりを、やらせてもらったときの優越感が忘れられない。
またやってみたい。
多分、いや絶対アレを突っ込むのはさすがにやらせてもらえないだろうから諦めるとして、口から魔力をドバドバ流してヘロヘロにさせたい。いつも一方的に流されてばっかりで対抗できたことがないんだもん。
あの強い先輩を。無敵な先輩を組み敷く。
ひょ──! 考えただけで楽しそ────!!
──────
「ということで、先日はどうもありがとうございました。本日はわたくしが上に乗らせて頂きます」
「ん? サービスしてくれるってこと?」
先輩は俺の野望も知らず、いいよ、とにっこり微笑み、おいで、と俺の腰を掴んで引き、ボスンと膝の上に対面で乗せてきた。
「違う違う! 先輩は動かないで欲しいの!」
「えー?」
こらこら! 首にチューしようとすんな!
「駄目だ、全然伝わってない。ねえ先輩、縛ってもいい?」
「えっ、う────ん…………いいよ」
随分熟考したな。
だが、言質は取ったぞ。
0
お気に入りに追加
148
あなたにおすすめの小説
初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
儀式の夜
清田いい鳥
BL
神降ろしは本家長男の役目である。これがいつから始まったのかは不明らしいが、そういうことになっている。
某屋敷の長男である|蛍一郎《けいいちろう》は儀式の代表として、深夜の仏間にひとり残された。儀式というのは決まった時間に祝詞を奏上し、眠るだけという簡単なもの。
甘かった。誰もいないはずの廊下から、正体不明の足音がする。急いで布団に隠れたが、足音は何の迷いもなく仏間のほうへと確実に近づいてきた。
その何者かに触られ驚き、目蓋を開いてさらに驚いた。それは大学生時代のこと。好意を寄せていた友人がいた。その彼とそっくりそのまま、同じ姿をした者がそこにいたのだ。
序盤のサービスシーンを過ぎたあたりは薄暗いですが、|駿《しゅん》が出るまで頑張ってください。『鼠が出るまで頑張れ』と同じ意味です。
感想ください!「誰やねん駿」とかだけで良いです!
祝福という名の厄介なモノがあるんですけど
野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。
愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。
それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。
ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。
イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?!
□■
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
完結しました。
応援していただきありがとうございます!
□■
第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m
愛して、許して、一緒に堕ちて・オメガバース【完結】
華周夏
BL
Ωの身体を持ち、αの力も持っている『奏』生まれた時から研究所が彼の世界。ある『特殊な』能力を持つ。
そんな彼は何より賢く、美しかった。
財閥の御曹司とは名ばかりで、その特異な身体のため『ドクター』の庇護のもと、実験体のように扱われていた。
ある『仕事』のために寮つきの高校に編入する奏を待ち受けるものは?
花開かぬオメガの花嫁
朏猫(ミカヅキネコ)
BL
帝国には献上されたΩが住むΩ宮という建物がある。その中の蕾宮には、発情を迎えていない若いΩや皇帝のお渡りを受けていないΩが住んでいた。異国から来た金髪緑眼のΩ・キーシュも蕾宮に住む一人だ。三十になり皇帝のお渡りも望めないなか、あるαに下賜されることが決まる。しかしキーシュには密かに思う相手がいて……。※他サイトにも掲載
[高級官吏の息子α × 異国から来た金髪緑眼Ω / BL / R18]
虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)
美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる