8 / 37
8
しおりを挟む
あらぬ所がジンジンするショックと、疲れのせいで1日寝込み、ブルーノ先輩は『僕のせいでごめんねー』と謝りながら食事を持ってきたり、なんなら食べさせようとしたり、本の読み聞かせまでし始めたり、とにかく俺の世話を焼いてくれた。
ほんとだよ。全ておめーのせいだわ。
流石に病気じゃないから治療室のお世話にはならなかった。
いつの間にか思いっきり歯型をつけられた首筋と、毒虫に襲撃されたような身体の痕を見せに行くわけにはいかない。社会的に死ぬ。
休日潰れちゃったなあと思いながら、いつも通り教室へ向かうといつもの友達がいた。
日常だ。癒される。もう君たちはそこにいるだけでいいよ。そこで笑ってるだけでいい。
しかしピカピカの一年生で初心者仲間であるお友達は、ただの魔力バカの俺とは違う。
彼の繊細なセンサーでいつもと違うものを感じると言う。
教室内に設置されている装置のおかげで魔術発動はせずとも、感知することだけはなんとなく出来るそうで、それを指摘されたとき、心臓がドゴンと跳ねた。
「イレネオ、知らない人の魔力をちょっと感じる気がするんだけど…?」
と、半信半疑な様子とはいえそう言われてしまった。
俺のバックに稲妻が落ちる絵面を想像してほしい。
いや、お友達はまだ知らないはずだ。学園で保健体育の授業みたいなもんが今後あるのかは知らないが、ブルーノ先輩の野郎が『上の先輩から聞いた』と言っていたので下品な先輩と付き合うようなことさえなければ大丈夫だろう。
俺の友達は上品だ。絶対大丈夫だ。多分。
気のせいじゃない?と内心冷や汗だらだら
で平静を装っていたが、だよねーと向こうから流してくれた。ホッとした。
お友達の1人はユハニくん。
蜂蜜色の髪と瞳。見るたびホットケーキが食べたくなる。
お友達のもう1人はアポロニアちゃん。
艶めく茶色の髪と桃色がかった薄茶の瞳。見るたびチョコレートが食べたくなる。
どちらも入学当初からのお友達だ。
その美味しそうなお友達が、今週末観劇に行かない?と誘ってくれた。
行く行く!とすぐに乗ったが、俺宿題がちょっと溜まり気味なんだよね。ブルーノ先輩野郎のせいで休日何も出来なかったし。
あと俺んちただの成金だから、貴族らしくしなきゃいけないときは前日軟禁されてビシバシ鞭打たれながら教え込まれてどうにか取り繕うって感じだったから、マナーとか忘れてないか不安なんだよ。
相変わらず学園で四苦八苦してあっという間にいざ当日。
馬車で迎えに来てくれてるのに、ここにきてやっぱ宿題が…マナーが…と弱腰になった俺を、『大丈夫だって』と蜂蜜ボーイが背中を物理的に押してくれ、チョコレートガールが『私達の真似すればいいのよ! 』と言って連れ出してくれた。いい子だ。
いや、もう、一言では言い尽くせない。
凄かった。この一言だ。一言で言えたじゃん。
俺ミュージカルとかダメだったはずなんだよ。なんで話の途中で突然歌って踊るの?って思ってた。その理由が解った気がする。
人の声だけどあれは声じゃない。歌だけど歌じゃない。なんていうかこう、慟哭とか。悲鳴とか。そういうものに聞こえた。
あの子死んじゃうんだよな。彼女と結婚するって約束してたのに。
昔の話らしく女の子同士だからって反対されて、頑張ってやっと両家に認めて貰えたのに。あー、俺むりだわそういうの。
親もこんなところで死なせるために育てたわけじゃないんだ。小さい頃は初めて笑った喋ったと成長を喜んで、これから彼女と幸せにねって旅立ちを祝福して。なのに。
感情って言葉になんないときあるよな。それを生々しく伝えるための歌であり楽器の音なんだ。
一音一節に物語を煮詰めて煮詰めて凝縮させてあるんだ。
ベソベソ泣く俺とアポロニアはユハニに背中をさすられながら、凄かったね、あそこの場面が主人公がと感想を語っていたところで、ふと俺の頭に学園の先生の言葉が浮かんできた。
『呪文は命。ただそこにあるものに命を吹き込む魂歌なのです』
俺は前世で古文が覚えられなかった。春はあけぼの。はい終了。
でもよく行ってたカラオケなんかではどうだった? 好きな曲はソラでも音がなくても歌えてた。
今世の記憶に押されてあちこち記憶が薄れてるくせに、あの曲この曲、今でも歌える。
────これだ。
呪文をメロディーに乗せる。
魂の歌に、俺が変えてみせるのだ。
ほんとだよ。全ておめーのせいだわ。
流石に病気じゃないから治療室のお世話にはならなかった。
いつの間にか思いっきり歯型をつけられた首筋と、毒虫に襲撃されたような身体の痕を見せに行くわけにはいかない。社会的に死ぬ。
休日潰れちゃったなあと思いながら、いつも通り教室へ向かうといつもの友達がいた。
日常だ。癒される。もう君たちはそこにいるだけでいいよ。そこで笑ってるだけでいい。
しかしピカピカの一年生で初心者仲間であるお友達は、ただの魔力バカの俺とは違う。
彼の繊細なセンサーでいつもと違うものを感じると言う。
教室内に設置されている装置のおかげで魔術発動はせずとも、感知することだけはなんとなく出来るそうで、それを指摘されたとき、心臓がドゴンと跳ねた。
「イレネオ、知らない人の魔力をちょっと感じる気がするんだけど…?」
と、半信半疑な様子とはいえそう言われてしまった。
俺のバックに稲妻が落ちる絵面を想像してほしい。
いや、お友達はまだ知らないはずだ。学園で保健体育の授業みたいなもんが今後あるのかは知らないが、ブルーノ先輩の野郎が『上の先輩から聞いた』と言っていたので下品な先輩と付き合うようなことさえなければ大丈夫だろう。
俺の友達は上品だ。絶対大丈夫だ。多分。
気のせいじゃない?と内心冷や汗だらだら
で平静を装っていたが、だよねーと向こうから流してくれた。ホッとした。
お友達の1人はユハニくん。
蜂蜜色の髪と瞳。見るたびホットケーキが食べたくなる。
お友達のもう1人はアポロニアちゃん。
艶めく茶色の髪と桃色がかった薄茶の瞳。見るたびチョコレートが食べたくなる。
どちらも入学当初からのお友達だ。
その美味しそうなお友達が、今週末観劇に行かない?と誘ってくれた。
行く行く!とすぐに乗ったが、俺宿題がちょっと溜まり気味なんだよね。ブルーノ先輩野郎のせいで休日何も出来なかったし。
あと俺んちただの成金だから、貴族らしくしなきゃいけないときは前日軟禁されてビシバシ鞭打たれながら教え込まれてどうにか取り繕うって感じだったから、マナーとか忘れてないか不安なんだよ。
相変わらず学園で四苦八苦してあっという間にいざ当日。
馬車で迎えに来てくれてるのに、ここにきてやっぱ宿題が…マナーが…と弱腰になった俺を、『大丈夫だって』と蜂蜜ボーイが背中を物理的に押してくれ、チョコレートガールが『私達の真似すればいいのよ! 』と言って連れ出してくれた。いい子だ。
いや、もう、一言では言い尽くせない。
凄かった。この一言だ。一言で言えたじゃん。
俺ミュージカルとかダメだったはずなんだよ。なんで話の途中で突然歌って踊るの?って思ってた。その理由が解った気がする。
人の声だけどあれは声じゃない。歌だけど歌じゃない。なんていうかこう、慟哭とか。悲鳴とか。そういうものに聞こえた。
あの子死んじゃうんだよな。彼女と結婚するって約束してたのに。
昔の話らしく女の子同士だからって反対されて、頑張ってやっと両家に認めて貰えたのに。あー、俺むりだわそういうの。
親もこんなところで死なせるために育てたわけじゃないんだ。小さい頃は初めて笑った喋ったと成長を喜んで、これから彼女と幸せにねって旅立ちを祝福して。なのに。
感情って言葉になんないときあるよな。それを生々しく伝えるための歌であり楽器の音なんだ。
一音一節に物語を煮詰めて煮詰めて凝縮させてあるんだ。
ベソベソ泣く俺とアポロニアはユハニに背中をさすられながら、凄かったね、あそこの場面が主人公がと感想を語っていたところで、ふと俺の頭に学園の先生の言葉が浮かんできた。
『呪文は命。ただそこにあるものに命を吹き込む魂歌なのです』
俺は前世で古文が覚えられなかった。春はあけぼの。はい終了。
でもよく行ってたカラオケなんかではどうだった? 好きな曲はソラでも音がなくても歌えてた。
今世の記憶に押されてあちこち記憶が薄れてるくせに、あの曲この曲、今でも歌える。
────これだ。
呪文をメロディーに乗せる。
魂の歌に、俺が変えてみせるのだ。
0
お気に入りに追加
149
あなたにおすすめの小説
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件
神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。
僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。
だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。
子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。
ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。
指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。
あれから10年近く。
ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。
だけど想いを隠すのは苦しくて――。
こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。
なのにどうして――。
『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』
えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
そこにワナがあればハマるのが礼儀でしょ!~ビッチ勇者とガチムチ戦士のエロ冒険譚~
天岸 あおい
BL
ビッチ勇者がワザと魔物に捕まってエッチされたがるので、頑張って戦士が庇って大変な目にあうエロコメディ。
※ビッチ勇者×ガチムチ戦士。同じ村に住んでいた幼馴染コンビ。
※魔物×戦士の描写も多め。戦士がエロい災難に遭いまくるお話。
※エッチな描写ありの話は話タイトルの前に印が入ります。勇者×戦士『○』。魔物×戦士『▼』。また勇者視点の時は『※』が入ります。
親友だと思ってた完璧幼馴染に執着されて監禁される平凡男子俺
toki
BL
エリート執着美形×平凡リーマン(幼馴染)
※監禁、無理矢理の要素があります。また、軽度ですが性的描写があります。
pixivでも同タイトルで投稿しています。
https://www.pixiv.net/users/3179376
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/98346398
魔王討伐後に勇者の子を身篭ったので、逃げたけど結局勇者に捕まった。
柴傘
BL
勇者パーティーに属していた魔術師が勇者との子を身篭ったので逃走を図り失敗に終わるお話。
頭よわよわハッピーエンド、執着溺愛勇者×気弱臆病魔術師。
誰もが妊娠できる世界、勇者パーティーは皆仲良し。
さくっと読める短編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる