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60 久しぶりすぎた弊害
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ああ素敵なものを見せてもらった、あの入浴剤はどこで手に入れたの、という話をしながら部屋に入って飲み物を楽しんだ。
手を差し出されたので飲みきったグラスを渡すと、『部屋のカップ片付けてくれたんだよな。ありがとう』とお礼を言われてしまった。
僕、君を疑ってたんですよ。何かを掘るつもりで僕はあそこに。なんて、急にお昼のメロドラマに出てくる気の強い女の人みたいに話題を切り込めるわけもなく、無難にどういたしまして、と返事をした。
というか、それしか口に出せなかった。キスが始まり、押し倒されて、ただでさえ僕より元気な人が、たっぷり眠って余計に元気になって帰ってきたのだ。お腹もいっぱい。お風呂も入った。そりゃ、やる事といったらひとつだろう。
前髪を横に流されて、優しいがねちっこいキスをされ。明らかに僕のことだけに集中している彼を見ていると胸が詰まってしまい、なんだかやけに緊張する。胸のドキドキが強くなってくる。
気がついたら着ていたものはすでにどこかに消えていて、いつもながら早業だな、と思いながら彼の温かい肌を味わった。
何度も口づけしている間に、僅かな魔力交換が行われる。その魔力と強い興奮のせいで、いやらしい現象が僕の身体に起こり始める。オルフェくんが僕の脚の間に触れたとき、ヌルヌルと滑りのよい何かが、音も立てずに湧き出してくるのだ。
そこに指を入れられるとすぐに決壊し、彼の指先にまとわりつき糸を引き、食べろ食べろと黙って誘う。それは僕の本音が生み出したもののようであり、こっそり蜜を溜めていることに気づかれるたび、恥ずかしい気持ちに襲われる。
こうなるともう、丁寧な愛撫が少々憎くなってくる。挿れてほしいってわかってるくせに、僕はもう限界だって、わかってるくせに、なんて。
しかしここからがいつもと違った。『あれ……?』とか、『なんで』という声が上から小さく降ってくる。どうしたんだろう、なにも気を遣わなくていいから早くそこに、と僕はとっくに溶けきってドロドロの頭を無理やり使って思考していた。
「カイ、なんかちょっといつもより……もし痛かったら絶対言ってくれよ」
「……えっ、いたい? ううん、そんなことなっ…………ん~~!! まっ……まって!! まって!!」
「きっ……きっついな……!! なんでこんな……!! 全然入ってないのに……あ、やば、イキそう」
「んん~~……!! うっ……!! や、やだああ、まってっていってるでしょ!? おっきすぎるんだよ!! それちっちゃくして!!」
「無理だ、カイが狭すぎるんだって……! もっと緩めてくれ……!」
「あ、あ、だめ、だめえ……! はいらないよ……! はいらないよぉぉ」
「あのさ……、無理やり挿れたくなるからちょっと静かにしてくれ……」
「むり! むりぃ!! 挿れてぇ、はやく、はやく擦ってええ!!」
オルフェくんが『どっちなんだよ』と小さく言っている気がするが、興奮しきった頭はろくな台詞を生成してくれない。支離滅裂なことを言っていることだけは自分でわかる。それだけだった。
拒んでいるわけじゃない。早く繋がりたい。でも身体がなぜか言うことを聞かず、泣き言を言いながらも『おかしいな、なんでだ』と汗をかいて困惑しきった彼の顔を僕はひたすら見つめていた。
心音がドクドクと鳴り止まず、期待をいっぱいに膨らませているのにあまりに焦らされ、焦らされすぎて、僕は『キレた』と表現される感情の爆発を起こした。多分そんな言い方で合っていると思う。
「オルフェくんが、オルフェくんが僕をこんなにほっとくから!! 入んなくなっちゃったんだ!! 絶対そうだよ!!」
「…………ごめん」
「オルフェくんが、だ、抱いてくれないと!! できなくなっちゃうんだよ、そうでしょ?? 僕はしたいのに!! 君と!! 他の人じゃ嫌なの!! 君がいいの!! 君に触りたいし、触ってほしいの!! 君とエッチなことがしたいの──!!」
僕のこのときの状態を漫画に起こすと、『うわーん』という効果音が背後に書かれてしかりだっただろう。
彼はよく萎えなかったなあと思う。脚をジタバタさせて、わんわん泣きわめく年上の男を目の前にして。そうだよ、僕はおにいさんなのに。年上の威厳はどこへやら。
「……よし。わかった。したいんだな? ここにコレを挿れていいんだよな? 拒んでるとかじゃないんだよな?」
「いっ、いいって、言ってるでしょ、ムズムズして辛いよぉ、はやく、はやっ……んう…………」
あまりピンとは来ないだろうが、魔力というものをこの世界の人は持っている。なぜかそれは僕にも存在していて、今日も知らぬ間に体内回路を巡り続け、身体機能を整えてくれているらしい。
それを他者の体内に注いて混ぜると、ある変化が起こることがある。通常は特別な教育を受けた治療魔術師が、患者を相手に治療を施す過程で必要になることがあるもの。
それは僕の感覚で言うと、電気を流し込むのに近いこと。なんだか怖い表現だが、みんなの共通認識もそうなので、わざと注ぐようなことは普通やらないそうだ。
初めてのときは例外だ。刺激するためにほんの僅かに流したりする。それはある魔術薬を使うときに限ってくる。魔力伝導率が高い薬なので、効果が相乗的に高まるから。本来は治療目的で開発されたはずの薬にである。
それを彼は僕にやった。薬の類は使っていないが、ずっと避けていた最終手段を使ったのだ。なぜ避けていたか。大変なことになるから。お互いに。次の日は、どちらもろくに動けなくなることが前提だ。
「オルフェくっ……、ん、おるふぇくん、もう、もうらめ、あたまクラクラする……!」
「汗びっしょりだな。全身濡れててすげえエロい」
「はっ……!! はあっ、はあっ、はっ……!! いや……!! 入っちゃう、入っちゃう、やだあぁ……!!」
「だから、どっちなんだよって。俺だって久しぶりなんだ、もう止めてやれないぞ……」
不穏なことをつぶやいたオルフェくんはそこから急に黙り込み、僅かに柔くなったらしい僕の孔へと一気に欲望を突っ込んだ。
僕は一瞬気絶したようだが、すぐ目を覚ました。何度も達しては現実へ連れ戻され、また達しては強引に連れ戻され。恥と外聞という服を引っ剥がされ釦も全部飛ばされて、拾い集める時間もろくに与えられず、あとは声を上げるしか僕にできることはなかった。
なにが彼をそうさせるのか、さっきから何度も首筋を噛まれている。ギリギリ跡がつくかつかないか程度のヒヤリとする強さがある。獣の形をした彼の歯による圧迫を感じるたび、背筋に甘い痺れが走ってゆく。
胸の突起に触れられるたび、これ以上はないほど中心が立ち上がる。それを大きな手に握り込まれ、元々跳ねている心臓をさらにドキリと跳ねさせ、今からされるであろうことに激しく期待する。
何度もぬるいものを先端からびしゃびしゃと吐き出して、肌と肌との摩擦を感じないほどになっていても、彼が触ると身体が反応してしまう。勝手にくっつく磁石のように、そっちの方向に意識は強く向かってゆき、彼と彼の肉体を探し求めてしまう。
少しでも離れると不安になった。抜かないで、なんて懇願していたような気がする。そうするとまた尻の肉を掴まれ、あからさまに広げられ、願ったとおりの熱くて固いものに奥まで遠慮なく貫かれ、激しく引っ掻き回されて、あられもない声が喉の奥から勝手に吐き出される。その繰り返し。
一体、いつまで抱かれていたのかわからない。喉は乾き、声は掠れ、彼が自重を支えきれず腕を震わせたのをきっかけに、この夜は静かに閉じていった。
明かりがちょっと眩しいな、消したいけど今は消せないなんて思っていたが、単に空が白み始めていただけだった。妙に明るいな、とは思っていたのだが。
僕のここは、こういうものを挿れる場所なんかじゃなかったはずだ。しないのが当たり前だったはず。でももう、彼にこうしてもらい、何度も突いて、何度も擦ってもらわないと、全然満足できなくなった。
性に奔放になったわけじゃない。だって僕は自分で言うのもなんだが、ここではしょっちゅう誘われてしまう側なのだ。付き合って。結婚して。俺と、私と。卵を産んで、なんて言われたこともある。
でもその気にまったくなれなかった。むしろ怖いな、とすら感じることも今まで複数あった。
この行為は、一番弱いところを見せ合って、持ち寄って、お互いを傷つけないよう注意深く擦り合わせること。生命と生命をこれ以上は不可能なほどに近づける行為だと思う。
人はひとりじゃ絶対生きられない。そのための願望ではあるのだろう。それは種を保存せねばという本能も勿論あるのだろうが、元はひとつだった生命が、辛いこともたくさんある地上で安らぎを求めた結果、神様の手の中にいたときに似た状況を欲しがっているからではないか。
胎内回帰願望。もしかしたら、そんな単純なことかもしれない。この世で一番安心できる、あの海の中に還りたい。一度還ることで英気が養われ、また明日から元気に生きられる。戦いに赴き、帰って来られる。
それは、物理的に繫げるだけじゃ駄目なのだ。それはただの肩揉みに近いことだと思う。深く満たされようと願うなら、その物理的な接続部の奥に存在する、生命への接続部分を互いに晒さないと絶対にできないことだ。
僕が彼と寝たい、と思うのはそういうことなんじゃないかと、おぼろげに思っている。もし彼にそれを話してしまうと『難しいことを考えるんだな』という返事が最初に返ってきて、『体位はこれがいい、とかあるのか。例えば椅子で──』なんて、また明け透けなことを真面目な顔して言うのだろう。
ここの人はみんなそうなのだ。僕は恥ずかしがり屋さん、という扱いだ。だってそんなの、返事に困ってしまうじゃないか。なんでみんな平気なんだよ。
手を差し出されたので飲みきったグラスを渡すと、『部屋のカップ片付けてくれたんだよな。ありがとう』とお礼を言われてしまった。
僕、君を疑ってたんですよ。何かを掘るつもりで僕はあそこに。なんて、急にお昼のメロドラマに出てくる気の強い女の人みたいに話題を切り込めるわけもなく、無難にどういたしまして、と返事をした。
というか、それしか口に出せなかった。キスが始まり、押し倒されて、ただでさえ僕より元気な人が、たっぷり眠って余計に元気になって帰ってきたのだ。お腹もいっぱい。お風呂も入った。そりゃ、やる事といったらひとつだろう。
前髪を横に流されて、優しいがねちっこいキスをされ。明らかに僕のことだけに集中している彼を見ていると胸が詰まってしまい、なんだかやけに緊張する。胸のドキドキが強くなってくる。
気がついたら着ていたものはすでにどこかに消えていて、いつもながら早業だな、と思いながら彼の温かい肌を味わった。
何度も口づけしている間に、僅かな魔力交換が行われる。その魔力と強い興奮のせいで、いやらしい現象が僕の身体に起こり始める。オルフェくんが僕の脚の間に触れたとき、ヌルヌルと滑りのよい何かが、音も立てずに湧き出してくるのだ。
そこに指を入れられるとすぐに決壊し、彼の指先にまとわりつき糸を引き、食べろ食べろと黙って誘う。それは僕の本音が生み出したもののようであり、こっそり蜜を溜めていることに気づかれるたび、恥ずかしい気持ちに襲われる。
こうなるともう、丁寧な愛撫が少々憎くなってくる。挿れてほしいってわかってるくせに、僕はもう限界だって、わかってるくせに、なんて。
しかしここからがいつもと違った。『あれ……?』とか、『なんで』という声が上から小さく降ってくる。どうしたんだろう、なにも気を遣わなくていいから早くそこに、と僕はとっくに溶けきってドロドロの頭を無理やり使って思考していた。
「カイ、なんかちょっといつもより……もし痛かったら絶対言ってくれよ」
「……えっ、いたい? ううん、そんなことなっ…………ん~~!! まっ……まって!! まって!!」
「きっ……きっついな……!! なんでこんな……!! 全然入ってないのに……あ、やば、イキそう」
「んん~~……!! うっ……!! や、やだああ、まってっていってるでしょ!? おっきすぎるんだよ!! それちっちゃくして!!」
「無理だ、カイが狭すぎるんだって……! もっと緩めてくれ……!」
「あ、あ、だめ、だめえ……! はいらないよ……! はいらないよぉぉ」
「あのさ……、無理やり挿れたくなるからちょっと静かにしてくれ……」
「むり! むりぃ!! 挿れてぇ、はやく、はやく擦ってええ!!」
オルフェくんが『どっちなんだよ』と小さく言っている気がするが、興奮しきった頭はろくな台詞を生成してくれない。支離滅裂なことを言っていることだけは自分でわかる。それだけだった。
拒んでいるわけじゃない。早く繋がりたい。でも身体がなぜか言うことを聞かず、泣き言を言いながらも『おかしいな、なんでだ』と汗をかいて困惑しきった彼の顔を僕はひたすら見つめていた。
心音がドクドクと鳴り止まず、期待をいっぱいに膨らませているのにあまりに焦らされ、焦らされすぎて、僕は『キレた』と表現される感情の爆発を起こした。多分そんな言い方で合っていると思う。
「オルフェくんが、オルフェくんが僕をこんなにほっとくから!! 入んなくなっちゃったんだ!! 絶対そうだよ!!」
「…………ごめん」
「オルフェくんが、だ、抱いてくれないと!! できなくなっちゃうんだよ、そうでしょ?? 僕はしたいのに!! 君と!! 他の人じゃ嫌なの!! 君がいいの!! 君に触りたいし、触ってほしいの!! 君とエッチなことがしたいの──!!」
僕のこのときの状態を漫画に起こすと、『うわーん』という効果音が背後に書かれてしかりだっただろう。
彼はよく萎えなかったなあと思う。脚をジタバタさせて、わんわん泣きわめく年上の男を目の前にして。そうだよ、僕はおにいさんなのに。年上の威厳はどこへやら。
「……よし。わかった。したいんだな? ここにコレを挿れていいんだよな? 拒んでるとかじゃないんだよな?」
「いっ、いいって、言ってるでしょ、ムズムズして辛いよぉ、はやく、はやっ……んう…………」
あまりピンとは来ないだろうが、魔力というものをこの世界の人は持っている。なぜかそれは僕にも存在していて、今日も知らぬ間に体内回路を巡り続け、身体機能を整えてくれているらしい。
それを他者の体内に注いて混ぜると、ある変化が起こることがある。通常は特別な教育を受けた治療魔術師が、患者を相手に治療を施す過程で必要になることがあるもの。
それは僕の感覚で言うと、電気を流し込むのに近いこと。なんだか怖い表現だが、みんなの共通認識もそうなので、わざと注ぐようなことは普通やらないそうだ。
初めてのときは例外だ。刺激するためにほんの僅かに流したりする。それはある魔術薬を使うときに限ってくる。魔力伝導率が高い薬なので、効果が相乗的に高まるから。本来は治療目的で開発されたはずの薬にである。
それを彼は僕にやった。薬の類は使っていないが、ずっと避けていた最終手段を使ったのだ。なぜ避けていたか。大変なことになるから。お互いに。次の日は、どちらもろくに動けなくなることが前提だ。
「オルフェくっ……、ん、おるふぇくん、もう、もうらめ、あたまクラクラする……!」
「汗びっしょりだな。全身濡れててすげえエロい」
「はっ……!! はあっ、はあっ、はっ……!! いや……!! 入っちゃう、入っちゃう、やだあぁ……!!」
「だから、どっちなんだよって。俺だって久しぶりなんだ、もう止めてやれないぞ……」
不穏なことをつぶやいたオルフェくんはそこから急に黙り込み、僅かに柔くなったらしい僕の孔へと一気に欲望を突っ込んだ。
僕は一瞬気絶したようだが、すぐ目を覚ました。何度も達しては現実へ連れ戻され、また達しては強引に連れ戻され。恥と外聞という服を引っ剥がされ釦も全部飛ばされて、拾い集める時間もろくに与えられず、あとは声を上げるしか僕にできることはなかった。
なにが彼をそうさせるのか、さっきから何度も首筋を噛まれている。ギリギリ跡がつくかつかないか程度のヒヤリとする強さがある。獣の形をした彼の歯による圧迫を感じるたび、背筋に甘い痺れが走ってゆく。
胸の突起に触れられるたび、これ以上はないほど中心が立ち上がる。それを大きな手に握り込まれ、元々跳ねている心臓をさらにドキリと跳ねさせ、今からされるであろうことに激しく期待する。
何度もぬるいものを先端からびしゃびしゃと吐き出して、肌と肌との摩擦を感じないほどになっていても、彼が触ると身体が反応してしまう。勝手にくっつく磁石のように、そっちの方向に意識は強く向かってゆき、彼と彼の肉体を探し求めてしまう。
少しでも離れると不安になった。抜かないで、なんて懇願していたような気がする。そうするとまた尻の肉を掴まれ、あからさまに広げられ、願ったとおりの熱くて固いものに奥まで遠慮なく貫かれ、激しく引っ掻き回されて、あられもない声が喉の奥から勝手に吐き出される。その繰り返し。
一体、いつまで抱かれていたのかわからない。喉は乾き、声は掠れ、彼が自重を支えきれず腕を震わせたのをきっかけに、この夜は静かに閉じていった。
明かりがちょっと眩しいな、消したいけど今は消せないなんて思っていたが、単に空が白み始めていただけだった。妙に明るいな、とは思っていたのだが。
僕のここは、こういうものを挿れる場所なんかじゃなかったはずだ。しないのが当たり前だったはず。でももう、彼にこうしてもらい、何度も突いて、何度も擦ってもらわないと、全然満足できなくなった。
性に奔放になったわけじゃない。だって僕は自分で言うのもなんだが、ここではしょっちゅう誘われてしまう側なのだ。付き合って。結婚して。俺と、私と。卵を産んで、なんて言われたこともある。
でもその気にまったくなれなかった。むしろ怖いな、とすら感じることも今まで複数あった。
この行為は、一番弱いところを見せ合って、持ち寄って、お互いを傷つけないよう注意深く擦り合わせること。生命と生命をこれ以上は不可能なほどに近づける行為だと思う。
人はひとりじゃ絶対生きられない。そのための願望ではあるのだろう。それは種を保存せねばという本能も勿論あるのだろうが、元はひとつだった生命が、辛いこともたくさんある地上で安らぎを求めた結果、神様の手の中にいたときに似た状況を欲しがっているからではないか。
胎内回帰願望。もしかしたら、そんな単純なことかもしれない。この世で一番安心できる、あの海の中に還りたい。一度還ることで英気が養われ、また明日から元気に生きられる。戦いに赴き、帰って来られる。
それは、物理的に繫げるだけじゃ駄目なのだ。それはただの肩揉みに近いことだと思う。深く満たされようと願うなら、その物理的な接続部の奥に存在する、生命への接続部分を互いに晒さないと絶対にできないことだ。
僕が彼と寝たい、と思うのはそういうことなんじゃないかと、おぼろげに思っている。もし彼にそれを話してしまうと『難しいことを考えるんだな』という返事が最初に返ってきて、『体位はこれがいい、とかあるのか。例えば椅子で──』なんて、また明け透けなことを真面目な顔して言うのだろう。
ここの人はみんなそうなのだ。僕は恥ずかしがり屋さん、という扱いだ。だってそんなの、返事に困ってしまうじゃないか。なんでみんな平気なんだよ。
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