34 / 68
34 赤ちゃん飛馬
しおりを挟む
オルフェくんを誘い、ライちゃんさんと三人で厩の端を覗くと、飛馬をミニチュアにした形の赤ちゃんがミュウミュウというよりピュウピュウと鳴いていた。ミニチュアとはいっても大きい飛馬の子供なので、既に子馬くらいのサイズである。その横ではお母さんのスペーク号がくったりと寝そべっていた。
全身が白く、背中にはグレーのうり坊みたいなシマシマ模様。全てが羽毛で包まれていて、まだ翼の羽根や尾羽根は生えていないようだ。今はお母さんに構ってほしいのか、凄い音量で鳴いている。
『お母さん疲れたからちょっと…ちょっと横にならせて…頼むわ…あーあ、ひとりでゆっくり飛びたいわあ…めちゃくちゃポリンとか食べたい…ポリン…フレーフの実でも可』
「お母さん、ひとりで空飛びたいって言ってます…あと、ポリンかフレーフの実? が食べたいって」
「あら、大分お疲れのようねー。ちょっとひとっ走り調達してくるわ! もしお母さんがいいって言うなら赤ちゃんと遊んであげて! 遊び道具はこっちの小屋に入ってるから! じゃね!」
『ちょっと小一時間眠らせて…この子超元気…いやさ、元気なのはいいけどさ、元気すぎるんだって…ピーロちゃんの子はもっと大人しい子だったのにさあ、父親のせいかしらねえー』
『ままー! ままー! あしょぼー!』
──あ、子供の声も聞こえる。随分退屈しているようだ。
「スペークさん、あのー、僕が連れ出すから、…うん、わかるよ、じゃあちょっと連れて行くね。ポリンとフレーフの実はあとで届けるから、大丈夫だよ、うん」
「…大丈夫か? 俺、鳥の世話ってしたことないから自信ないな」
「鳥の遊びは僕が大体わかるけど、馬の遊びが楽しいかもしれないよね。とにかく脱走だけには気を付けなきゃ」
しかし鳥の遊びといってもこのサイズである。子馬サイズはそこそこでかい。体高が1mを超えているのだ。指を渡らせるなんて到底できない。撫でて宥めながら子供用の手綱を着けて、素直に遊び道具のある小屋を覗いてみることにした。
「このぶっとい縄ってなんだろう。引っ張り合いっこするのかなあ。それはちょっと無理だから……あ、フライングキャッチャーらしきもの」
「なんだそれ。餌皿か?」
『ぽーいしてー。ぽーいしよー』
「いいよ、じゃあこれにしよっか」
これにしよっか、と軽くは言ったものの、ミニ飛馬の体力は半端なかった。大人の飛馬がへばるのだ、相当なものである。体力メーターが大人飛馬の倍近くあるんじゃないか。
もう何度投げたことだろう。腕が上がらなくなってきた。ちょっとでいいから横になりたい。あのお母さん飛馬の気持ちが今ならとってもよくわかる。しかし僕は絶賛休憩中のスペーク号と約束したのだ。あと三十分は頑張ってみせる。
あと何故かオルフェくんがキャッチする側として参戦している。なぜだ。君はこっちだろうに。一応人間側だろう。楽しく駆け回りながら、まだ飛べない赤ちゃんとキャッチの高さを競っている。
オルフェくんのお馬さんっぷりは耳だけではなかった。ラグーさんに攻撃したときの華麗な回し蹴りを思い出す。脚力が半端ないのだ。赤ちゃんとはいえ飛馬に負けていない。走る速度とジャンプ力が拮抗している。長い脚をフルに生かしていらっしゃる。
時々ピュイッピュイッと文句を言う赤ちゃんをからかって遊んでいる。嘴でオルフェくんをつつこうとするがヒョイヒョイと避けられている。赤ちゃんがヒートアップし、オルフェくんは木の棒をどこかから持ち出してきて戦いごっこに発展する。その間僕は休めるが、なんて大人気ないんだ君は。
でも赤ちゃんもさほど不機嫌にならず、本気になって遊べている。良かったね。僕の腕はとても良くないことになっているけどね。
「カイくーん! オルフェくーん! お疲れ様ー! 休憩しましょー!」
──天の助けだ。オネエの神様が厩から降臨なされた。
僕はその場にぐでぇと座り込み、オルフェくんが『大丈夫かー?』と走ってきた。もうちょっと早めに心配してほしかった。あとまだ走る体力あるんだ。凄いね君。
スペーク号は欲しがっていたポリンとフレーフの実をガツガツと食べていた。赤ちゃんもそのご相伴に預かっている。食べ終わったらブラッシングをしてあげようと思っていたが、スペーク号と赤ちゃんは食べたらすぐ横になって安らかに眠っていた。
赤ちゃんと遊んで砂だらけになっているオルフェくんと、グダグダになっている僕を見て、コーバスさんがニャッと笑い『今日はもう上がっていいぞ』と言ってくれた。優しい。神はここにもいらっしゃった。
──────
まだ昼の三時くらいだったがお風呂に入り、お茶を飲んでお菓子をいただき、歯磨きをして横になった。修行中だが半分お客様扱いなので、ここはお茶とおやつが食べ放題だ。素敵な福利厚生である。
「ん…………、待ちなさい。今日は本気の本気で疲れてるから」
「わかってる。我慢する」
唇を勝手に奪ってきたオルフェくんにころんとうつ伏せにされた。本当に我慢できるのかと疑っていたが、彼はまだジンジンしていた僕の腕や肩甲骨の辺りをマッサージしてくれた。
「うわあ、気持ちいい。天国。オルフェくん上手いね」
「母さんによく頼まれてたから。人使い荒いんだよな」
「その体力は大いに労働に活かせるからね…。暴れ出さないよう適度に疲れさせてたんだよ…」
「なんだよ。俺はあの赤ちゃんと一緒か」
「赤ちゃんは変なことしないけどね…」
それからはもうぐっすりだった。そのまま昏々と眠り続け、自然と日が昇る前に起きてしまった。約束を守った偉いオルフェくんは隣でまだぐうぐうと眠っていた。
────────────────────
© 2023 清田いい鳥
全身が白く、背中にはグレーのうり坊みたいなシマシマ模様。全てが羽毛で包まれていて、まだ翼の羽根や尾羽根は生えていないようだ。今はお母さんに構ってほしいのか、凄い音量で鳴いている。
『お母さん疲れたからちょっと…ちょっと横にならせて…頼むわ…あーあ、ひとりでゆっくり飛びたいわあ…めちゃくちゃポリンとか食べたい…ポリン…フレーフの実でも可』
「お母さん、ひとりで空飛びたいって言ってます…あと、ポリンかフレーフの実? が食べたいって」
「あら、大分お疲れのようねー。ちょっとひとっ走り調達してくるわ! もしお母さんがいいって言うなら赤ちゃんと遊んであげて! 遊び道具はこっちの小屋に入ってるから! じゃね!」
『ちょっと小一時間眠らせて…この子超元気…いやさ、元気なのはいいけどさ、元気すぎるんだって…ピーロちゃんの子はもっと大人しい子だったのにさあ、父親のせいかしらねえー』
『ままー! ままー! あしょぼー!』
──あ、子供の声も聞こえる。随分退屈しているようだ。
「スペークさん、あのー、僕が連れ出すから、…うん、わかるよ、じゃあちょっと連れて行くね。ポリンとフレーフの実はあとで届けるから、大丈夫だよ、うん」
「…大丈夫か? 俺、鳥の世話ってしたことないから自信ないな」
「鳥の遊びは僕が大体わかるけど、馬の遊びが楽しいかもしれないよね。とにかく脱走だけには気を付けなきゃ」
しかし鳥の遊びといってもこのサイズである。子馬サイズはそこそこでかい。体高が1mを超えているのだ。指を渡らせるなんて到底できない。撫でて宥めながら子供用の手綱を着けて、素直に遊び道具のある小屋を覗いてみることにした。
「このぶっとい縄ってなんだろう。引っ張り合いっこするのかなあ。それはちょっと無理だから……あ、フライングキャッチャーらしきもの」
「なんだそれ。餌皿か?」
『ぽーいしてー。ぽーいしよー』
「いいよ、じゃあこれにしよっか」
これにしよっか、と軽くは言ったものの、ミニ飛馬の体力は半端なかった。大人の飛馬がへばるのだ、相当なものである。体力メーターが大人飛馬の倍近くあるんじゃないか。
もう何度投げたことだろう。腕が上がらなくなってきた。ちょっとでいいから横になりたい。あのお母さん飛馬の気持ちが今ならとってもよくわかる。しかし僕は絶賛休憩中のスペーク号と約束したのだ。あと三十分は頑張ってみせる。
あと何故かオルフェくんがキャッチする側として参戦している。なぜだ。君はこっちだろうに。一応人間側だろう。楽しく駆け回りながら、まだ飛べない赤ちゃんとキャッチの高さを競っている。
オルフェくんのお馬さんっぷりは耳だけではなかった。ラグーさんに攻撃したときの華麗な回し蹴りを思い出す。脚力が半端ないのだ。赤ちゃんとはいえ飛馬に負けていない。走る速度とジャンプ力が拮抗している。長い脚をフルに生かしていらっしゃる。
時々ピュイッピュイッと文句を言う赤ちゃんをからかって遊んでいる。嘴でオルフェくんをつつこうとするがヒョイヒョイと避けられている。赤ちゃんがヒートアップし、オルフェくんは木の棒をどこかから持ち出してきて戦いごっこに発展する。その間僕は休めるが、なんて大人気ないんだ君は。
でも赤ちゃんもさほど不機嫌にならず、本気になって遊べている。良かったね。僕の腕はとても良くないことになっているけどね。
「カイくーん! オルフェくーん! お疲れ様ー! 休憩しましょー!」
──天の助けだ。オネエの神様が厩から降臨なされた。
僕はその場にぐでぇと座り込み、オルフェくんが『大丈夫かー?』と走ってきた。もうちょっと早めに心配してほしかった。あとまだ走る体力あるんだ。凄いね君。
スペーク号は欲しがっていたポリンとフレーフの実をガツガツと食べていた。赤ちゃんもそのご相伴に預かっている。食べ終わったらブラッシングをしてあげようと思っていたが、スペーク号と赤ちゃんは食べたらすぐ横になって安らかに眠っていた。
赤ちゃんと遊んで砂だらけになっているオルフェくんと、グダグダになっている僕を見て、コーバスさんがニャッと笑い『今日はもう上がっていいぞ』と言ってくれた。優しい。神はここにもいらっしゃった。
──────
まだ昼の三時くらいだったがお風呂に入り、お茶を飲んでお菓子をいただき、歯磨きをして横になった。修行中だが半分お客様扱いなので、ここはお茶とおやつが食べ放題だ。素敵な福利厚生である。
「ん…………、待ちなさい。今日は本気の本気で疲れてるから」
「わかってる。我慢する」
唇を勝手に奪ってきたオルフェくんにころんとうつ伏せにされた。本当に我慢できるのかと疑っていたが、彼はまだジンジンしていた僕の腕や肩甲骨の辺りをマッサージしてくれた。
「うわあ、気持ちいい。天国。オルフェくん上手いね」
「母さんによく頼まれてたから。人使い荒いんだよな」
「その体力は大いに労働に活かせるからね…。暴れ出さないよう適度に疲れさせてたんだよ…」
「なんだよ。俺はあの赤ちゃんと一緒か」
「赤ちゃんは変なことしないけどね…」
それからはもうぐっすりだった。そのまま昏々と眠り続け、自然と日が昇る前に起きてしまった。約束を守った偉いオルフェくんは隣でまだぐうぐうと眠っていた。
────────────────────
© 2023 清田いい鳥
10
お気に入りに追加
1,522
あなたにおすすめの小説
石女を理由に離縁されましたが、実家に出戻って幸せになりました
お好み焼き
恋愛
ゼネラル侯爵家に嫁いで三年、私は子が出来ないことを理由に冷遇されていて、とうとう離縁されてしまいました。なのにその後、ゼネラル家に嫁として戻って来いと手紙と書類が届きました。息子は種無しだったと、だから石女として私に叩き付けた離縁状は無効だと。
その他にも色々ありましたが、今となっては心は落ち着いています。私には優しい弟がいて、頼れるお祖父様がいて、可愛い妹もいるのですから。
異世界転生しすぎたコイツと初めての俺のアルファレードぐだぐだ冒険記
トウジョウトシキ
BL
前世の記憶を思い出した。
「これ、まさか異世界転生ってやつ……本当にこんなことがあるなんて!」
「あー、今回は捨て子か。王子ルートだな」
「……え、お前隣の席の葉山勇樹?」
「今気づいたんだ。お前は夏村蓮だろ? 平凡な少年ポジか、いいところだな」
「え、何? 詳しいの?」
「あ、なんだ。お前始めてか。じゃ、教えてやるよ。異世界転生ライフのキホン」
異世界転生1000回目のユウキと異世界転生初心者の俺レンの平和な異世界ぐだぐだ冒険記。
弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!
灯璃
BL
「あなたは弱すぎる! お荷物なのよ! よって、一刻も早くこのパーティーを抜けてちょうだい!」
そう言われ、勇者パーティーから追放された冒険者のメルク。
リーダーの勇者アレスが戻る前に、元仲間たちに追い立てられるようにパーティーを抜けた。
だが数日後、何故か勇者がメルクを探しているという噂を酒場で聞く、が、既に故郷に帰ってスローライフを送ろうとしていたメルクは、絶対に見つからないと決意した。
みたいな追放ものの皮を被った、頭おかしい執着攻めもの。
追いかけてくるまで説明ハイリマァス
※完結致しました!お読みいただきありがとうございました!
五年目の浮気、七年目の破局。その後のわたし。
あとさん♪
恋愛
大恋愛での結婚後、まるまる七年経った某日。
夫は愛人を連れて帰宅した。(その愛人は妊娠中)
笑顔で愛人をわたしに紹介する夫。
え。この人、こんな人だったの(愕然)
やだやだ、気持ち悪い。離婚一択!
※全15話。完結保証。
※『愚かな夫とそれを見限る妻』というコンセプトで書いた第四弾。
今回の夫婦は子無し。騎士爵(ほぼ平民)。
第一弾『妻の死を人伝てに聞きました。』
第二弾『そういうとこだぞ』
第三弾『妻の死で思い知らされました。』
それぞれ因果関係のない独立したお話です。合わせてお楽しみくださると一興かと。
※この話は小説家になろうにも投稿しています。
※2024.03.28 15話冒頭部分を加筆修正しました。
婚約破棄は十年前になされたでしょう?
こうやさい
恋愛
王太子殿下は最愛の婚約者に向かい、求婚をした。
婚約者の返事は……。
「殿下ざまぁを書きたかったのにだんだんとかわいそうになってくる現象に名前をつけたい」「同情」「(ぽん)」的な話です(謎)。
ツンデレって冷静に考えるとうっとうしいだけって話かつまり。
本編以外はセルフパロディです。本編のイメージ及び設定を著しく損なう可能性があります。ご了承ください。
ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
(完結)私の夫を奪う姉
青空一夏
恋愛
私(ポージ)は爵位はないが、王宮に勤める文官(セオドア)の妻だ。姉(メイヴ)は老男爵に嫁ぎ最近、未亡人になったばかりだ。暇な姉は度々、私を呼び出すが、私の夫を一人で寄越すように言ったことから不倫が始まる。私は・・・・・・
すっきり?ざまぁあり。短いゆるふわ設定なお話のつもりです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる