上 下
1 / 2
第1章

無能力者

しおりを挟む


閉ざされたカーテンの隙間から、
昇ってきた朝日の木漏れ日が
男の頬を照らす。

それに眉をひそめた男は
殻にこもるように毛布を
頭にかぶった。

部屋にはもう一人男がいるが、
もう一年は話していないだろう。

最後に相手から一方的に
浴びせられた言葉は
「無能力って言うのが能力だな」
だった気がする。

まあ、もうどうでもいい。

それより、今日も朝日が昇るのを
阻止することができなかった。

やはり俺には能力がない。

朝なんて来なきゃいいのに。


携帯に表示された時刻を見ると、
あと10分程度でいつもの
1日が始まろうとしていた。

仕方なしにのそりと起き上がると
洗面所に向かう。

皆は洗面所なんて使わないで
勝手に水を浮かべて顔を
洗ったりしているのに、
無能力の俺だけが洗面所を
使っている。

そして着替え。

自分でクローゼットを開けて
のそのそと着替える。

こんなことするのも俺だけ。

皆は一言二言魔法単語を
口に出せば勝手に服が
装着されるのに、俺だけが
毎日クローゼットを開けている。


何もかも、全部俺だけ。

昔の能力も何もないただの人間
のような俺には、昔から
間抜け、ゴミ、クズ、などと
たくさんの罵声が発せられた。

そんな昔の人間だって、
今俺がいる「養成学校」を
作ったし、洗面所もクローゼットも作った。

今俺たちが発している言語だって
元々は昔の人間が作ったんだ。

それに、何を恥じることがある。

と、考えてから早23年。

いい加減、こうやって自分に
言い聞かせるのにも限界がきた。

俺は、無能力者だ。

戦闘も出来なきゃ魔法で
治癒や大道芸も出来ない。

そりゃあ皆も俺を馬鹿に
するに決まってる。

親だって、俺を恥だと
罵るさ。

至極、当然なことだ。

だけど、だけど…

社会人にもなってまだ
認められたいと思う俺は、
もう手遅れだろうか。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話

赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

処理中です...