ガシャドクロの怪談

水雨杞憂

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稲荷様

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 帰ってきた一日の疲れからか僕は持っていたものを投げ捨てベッドに倒れこんだ。

「んー、どうしたんじゃ? 優希? 妙に今日はおとなしいのう。いつもなら妾に小言の一つ垂れようものなのに」
「僕を姑みたいに言わないでくれるかな。僕だってたまには学校の疲れをゆっくり癒したい時だってあるさ」

 テレビゲームに噛り付いているガーシャの言葉に、僕は枕に顔をうずめながら応える。

「最近、優希の帰りが遅いから妾は暇でしょうがないぞ。たまにはゲームを相手をせい」

 ガーシャはコントローラーを握りながら此方を振り向く。しかし、怪訝そうな表情を一瞬浮かべた。

「優希、そなたどこに行っておった?」
「え? どこって学校だよ」
「本当か? 他にいつもと違うところには行っておらぬのだな? そう、例えば神社などじゃ」
「本当に身に覚え無いって――――――あ、そう言えばきぃの家に少し寄ったな」

 僕は思い出したように付け足した。これが関係してくるとうは到底思えなかったが一応正直に話そうとは思う。

「そうか……。なぜじゃろうか。優希、そなたからは獣の匂いがする。微かだが狐の妖気だろうな」
「えっ? 狐っ? なんでまた」
「そんなこと、妾も知らぬわっ! 狐は執念深い故、そこらの誰か呪われていたのではないか?」
 
 ガーシャは少々あきれ顔で再びゲーム画面に視線を戻す。
 ゲームの腕は僕以上となっていて白骨化した手とは思えないコントローラー捌きである。まぁ、僕がいない間ずっとやっているのだから当然の結果だろう。
  
「もしかして、狐に呪われたりすると体調とか悪くなるかな?」
「んー、そりゃ種類によってはなるだろうなぁ。狐の呪いは多種多様じゃからな、病の呪いもあるじゃろうて」
「もしかしたら……」
「おぉ、心当たりでも見つけたか」
 
 僕には紀糸の体調不良ことが頭をよぎったが、ガーシャはたいして興味なさそうに相槌をうつ。

「きぃの様子が最近少しおかしくてさ、体調がひどく悪そうなんだよ」
「誰じゃ? そやつは?」
「ああ、うちの隣に住んでる女の子だよ。隣におおきな家あるでしょ?」
「そうか、興味ないから知らんかった」
「なにか調べる手段ないのかな?」
「んー、そなたに匂いが着いたと言うことは狐がそこにいたか。狐の呪術に接近したかだろう」
「そう言えばきぃの家の屋根裏部屋から爪の音みたいなひっかく音が聞こえたかもしれない」
「狐が上にいたか。その手の物がいたかか。どちらにせよ、二度とそこに行くでないぞ」
「なんでさ?」

 最後にガーシャがボソッと言ったことに驚き声を荒げる。

「前も言ったように。こういうのには関わらぬほうが賢明だ。それに狐はたちが悪いのが多い。この間の有象無象どもと一緒にするな」
「そんなこと言っても僕の友達が危ないかもしれないんだよ」
「そなたの交友関係など、妾には関係あるまいて。それに、狐がそやつに憑いていると決まったわけではなかろう?」
「そうだけど。あのさ、ちょっと調べて来てくれないかな」
「嫌じゃ」

 初めから知っていたかのように即答されてしまった。

「そこを何とか」
「あのな、まだ妾を便利屋と勘違いしておるのではないか? あと、屋根裏部屋は汚そうで嫌じゃ。それに、本人はまだ元気にしとるのだろう? あんまり気を詰めてもロクなことないぞ」
「うう……」

 取り付く島もないようすである。

 ヴー ヴー

 倒れこむとき枕元に投げた携帯が音をたててメッセージを受信したことを伝える。
 僕はその携帯を掴むと何気なくメッセージを確認した。

『明日、放課後暇か?』

 紀糸からのメッセージだ。僕はすぐさま返信をする。

『大丈夫だけどどうしたの?』

 なにかあったのか? 返信を待っている間僕は気が気がじゃなかった。

『あたし、学校結構休んじゃっただろ。だから勉強教えてほしくて』

 なんだそんなことか。もしかしたら、今日聞いた正体が何か調べるいい機会かもしれない。

『大丈夫だよ。放課後なるべく早く行ってあげる』
『助かるよ! サンキュ』

 僕はそのメッセージを見てから携帯を元の位置に投げ捨てた。

「明日、またきぃの家に行ってみるよ」
「はぁ?」

 ガーシャは珍しくゲームでミスをする。

「明日、その正体が何か確認してくるから僕の勘違いだったらガーシャにお詫びするよ。でも、もし何かあったら助言だけでも欲しい。お礼ももちろんするよ」
「その勝手な性格は死んでも治らんのか。気が向いたらなぁ」
「期待してるよ」

 僕のその言葉にガーシャはわざと聞こえる様に溜息をついて見せたので、今のお詫びとばかりに重い体を起こし開いているコントローラを手に取った。











 邸宅に住む皺を少し蓄えた細身の中年男性は自宅の目立たぬ位置にあるドアを開けた。
 そこには日本の一般住宅には珍しい地下に続く階段が静に佇んでいる。
 男は静に微笑みながらその階段を下って行った。
 少し下るとすぐにまた地下室のドアが立ちふさがる。男はいつもの通りとばかりにその扉を開けた。
 そこには檻に入れられた鶏が三羽ほど声を荒げて騒いでいる。
 他にあるのは大きな肉切り包丁と血の匂いが染みつく作業台。
 男は檻を少し開けると手慣れた手つきで鶏を一羽救い上げ抱き上げる。
 そして、作業台に下すと素早く顔を押さえつけそのまま空いた手で肉切り包丁を掴み振り下ろした。
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