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21.思い思われて
a.
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3月も下旬に差し掛かったがまだまだ寒い日は続いていた。
真春は地元の駅にそわそわしながら立っていた。
6時15分。
辺りが少しずつ明るくなり始めている。
真春は雲ひとつないクリーム色と水色が混ざった透き通った空を見上げた。
最低気温が0度を下回ったこの日は異常なほど寒く、指先が痛いくらいにかじかんでいる。
レンガ色のコートにニット帽、マフラーをぐるぐる巻きにして、顔のパーツは目がかろうじて見えているのみだ。
「真春さーん!」
声のする方を向くと、ベージュのロングコートに白いマフラーを巻いた香枝が白い息を吐きながら手を振っていた。
「おはよ。寒いねー!」
「まじやばーい。寒すぎです」
駅のホームに向かいながら、他愛のない会話をする。
まだ出勤ラッシュとまではいかないが、スーツ姿の人がちらほら電車を待っている。
「真春さんと電車乗るの初めてですね」
香枝はニコニコ笑って次の駅から乗車してくる未央と約束している3両目の乗り場まで歩きながら言った。
「だね。未央、ちゃんと電車乗ってくるかなー?」
「乗ってこなかったら、そのまま置いていきましょー!」
電車の到着を告げる音楽が鳴る。
真春と香枝は4両編成の電車に乗り込み、空いている席に腰掛けた。
久しぶりに早起きしたせいで眠い。
車内の温かさに、自然と瞼が重くなった。
電車が走り始めると、その揺れすら心地よくて真春は睡魔に負けてしまった。
それからどれくらい経っただろうか。
騒がしい声で真春は目を覚ました。
「あ、真春さん起きたー!気付いたら寝てるからびっくりしましたよ。お疲れですか?」
「おはようございまーす」
未央が香枝の隣からひょっこりと顔を出した。
「あ、ごめん。おはよ。未央、寝坊してなくてよかった」
「失礼な!あたし寝坊とかしたことないですよー。真春さんのが寝坊しそうですよね。こんなんだし」
早朝とは思えないほど完璧な顔面で未央は笑った。
「そうそう、どこから行きます?全然プラン決めてないっすよね」
「行き先と泊まる所だけ決めて何も決めてなかったね」
香枝は苦笑いして「ズボラだー」と言った。
「でもみんなこんな感じだから楽ですよね」
「あはは、確かに。のんびり行こう。あ、これ持ってきたからみんなで見よ」
真春は真ん中に座っている香枝に「はい」と旅行雑誌を手渡した。
未央の家で色々決めた後購入して少し目を通していたのだ。
「えー!真春さん準備いいっすね!」
「さすが真春さん!こういうところだよねー」
「ホント、ホントー。脱ズボラのはずが…。やっぱ根が違うんだろうね」
未央と香枝はズボラな自分達についてああでもないこうでもないと罵った。
「真春さんどこか気になる所ありました?」
「うーん。チラッとしか見てないけど、湖のクルージングとかいいなーって思った」
真春は香枝が開いた雑誌のページをめくった。
自然と距離が近くなり、胸がトクンと鳴る。
雑誌を見たりバイトの話や近況報告をしているうちにあっという間に1時間半が経ち、乗り換えの駅に着いた。
電車を降りた頃には、外はすっかり太陽が昇っていた。
日差しは暖かいが冷たい風が吹くこの冬の晴天が、真春は好きだった。
3人は駅構内を歩き、登山鉄道に乗り換えた。
「こういうのテンション上がる!」
急な坂道を登る電車の先頭に立ち、窓からの景色を眺めながら真春は言った。
「真春さん子供みたーい」
「香枝に言われたくないし」
「あたし子供じゃないもん」
香枝は下唇を出すと、さりげなく真春の隣に来てぴったりとくっついた。
ぎょっとした顔を2人に悟られないように、真春は横の窓を見た。
その瞬間、トンネルに入り、未央とバッチリ目が合ってしまった。
驚きのあまりまた変な顔をしてしてしまい、未央は何を悟ったのか、含み笑いをして右手で口元を覆った。
やってしまった…と思うと同時に頬の外側が熱くなるのが分かった。
ゆっくりと進む登山鉄道で20分のところにある目的の駅に着くまで、香枝は真春にぴったりとくっついたままで、さりげなく接触してくる香枝に真春は終始ドキドキしっぱなしだった。
駅を出ると、周囲には舗装されていない道路や古い建物が多く見られ、一昔前にタイムスリップしたような気分になった。
「写真撮ろ!」
香枝がスマホを取り出してインカメラにするが、上手く全員が入らない。
「未央もっとこっち!…あ、しゃがんで!もうちょい!」
「え?こんな感じ?いや、全然写ってないし」
真春も上手いこと入ろうとするが、全員変な風に切れてしまっている。
「てかあたしが撮ればいいんじゃない?」
未央は思いついた!というように香枝からスマホを受け取った。
「確かに!未央腕長いもんね」
未央が腕を伸ばすと、驚くほどベストポジションに全員が収まったが未央は「真春さんもっと左!」と言い、香枝の方に真春を寄せさせた。
悪意を感じたが、この際…と思い、真春は香枝に頬をくっつけてポーズをとった。
「あは!いいね、いいね!撮るよー」
シャッター音がして3人で写真を確認する。
「香枝、後で送ってね」
未央がスマホを渡すと、香枝は「うん。あー、なんか暑い」と言って手で顔を扇ぐ仕草をした。
暑いのはこっちだって一緒だ。
真春は地元の駅にそわそわしながら立っていた。
6時15分。
辺りが少しずつ明るくなり始めている。
真春は雲ひとつないクリーム色と水色が混ざった透き通った空を見上げた。
最低気温が0度を下回ったこの日は異常なほど寒く、指先が痛いくらいにかじかんでいる。
レンガ色のコートにニット帽、マフラーをぐるぐる巻きにして、顔のパーツは目がかろうじて見えているのみだ。
「真春さーん!」
声のする方を向くと、ベージュのロングコートに白いマフラーを巻いた香枝が白い息を吐きながら手を振っていた。
「おはよ。寒いねー!」
「まじやばーい。寒すぎです」
駅のホームに向かいながら、他愛のない会話をする。
まだ出勤ラッシュとまではいかないが、スーツ姿の人がちらほら電車を待っている。
「真春さんと電車乗るの初めてですね」
香枝はニコニコ笑って次の駅から乗車してくる未央と約束している3両目の乗り場まで歩きながら言った。
「だね。未央、ちゃんと電車乗ってくるかなー?」
「乗ってこなかったら、そのまま置いていきましょー!」
電車の到着を告げる音楽が鳴る。
真春と香枝は4両編成の電車に乗り込み、空いている席に腰掛けた。
久しぶりに早起きしたせいで眠い。
車内の温かさに、自然と瞼が重くなった。
電車が走り始めると、その揺れすら心地よくて真春は睡魔に負けてしまった。
それからどれくらい経っただろうか。
騒がしい声で真春は目を覚ました。
「あ、真春さん起きたー!気付いたら寝てるからびっくりしましたよ。お疲れですか?」
「おはようございまーす」
未央が香枝の隣からひょっこりと顔を出した。
「あ、ごめん。おはよ。未央、寝坊してなくてよかった」
「失礼な!あたし寝坊とかしたことないですよー。真春さんのが寝坊しそうですよね。こんなんだし」
早朝とは思えないほど完璧な顔面で未央は笑った。
「そうそう、どこから行きます?全然プラン決めてないっすよね」
「行き先と泊まる所だけ決めて何も決めてなかったね」
香枝は苦笑いして「ズボラだー」と言った。
「でもみんなこんな感じだから楽ですよね」
「あはは、確かに。のんびり行こう。あ、これ持ってきたからみんなで見よ」
真春は真ん中に座っている香枝に「はい」と旅行雑誌を手渡した。
未央の家で色々決めた後購入して少し目を通していたのだ。
「えー!真春さん準備いいっすね!」
「さすが真春さん!こういうところだよねー」
「ホント、ホントー。脱ズボラのはずが…。やっぱ根が違うんだろうね」
未央と香枝はズボラな自分達についてああでもないこうでもないと罵った。
「真春さんどこか気になる所ありました?」
「うーん。チラッとしか見てないけど、湖のクルージングとかいいなーって思った」
真春は香枝が開いた雑誌のページをめくった。
自然と距離が近くなり、胸がトクンと鳴る。
雑誌を見たりバイトの話や近況報告をしているうちにあっという間に1時間半が経ち、乗り換えの駅に着いた。
電車を降りた頃には、外はすっかり太陽が昇っていた。
日差しは暖かいが冷たい風が吹くこの冬の晴天が、真春は好きだった。
3人は駅構内を歩き、登山鉄道に乗り換えた。
「こういうのテンション上がる!」
急な坂道を登る電車の先頭に立ち、窓からの景色を眺めながら真春は言った。
「真春さん子供みたーい」
「香枝に言われたくないし」
「あたし子供じゃないもん」
香枝は下唇を出すと、さりげなく真春の隣に来てぴったりとくっついた。
ぎょっとした顔を2人に悟られないように、真春は横の窓を見た。
その瞬間、トンネルに入り、未央とバッチリ目が合ってしまった。
驚きのあまりまた変な顔をしてしてしまい、未央は何を悟ったのか、含み笑いをして右手で口元を覆った。
やってしまった…と思うと同時に頬の外側が熱くなるのが分かった。
ゆっくりと進む登山鉄道で20分のところにある目的の駅に着くまで、香枝は真春にぴったりとくっついたままで、さりげなく接触してくる香枝に真春は終始ドキドキしっぱなしだった。
駅を出ると、周囲には舗装されていない道路や古い建物が多く見られ、一昔前にタイムスリップしたような気分になった。
「写真撮ろ!」
香枝がスマホを取り出してインカメラにするが、上手く全員が入らない。
「未央もっとこっち!…あ、しゃがんで!もうちょい!」
「え?こんな感じ?いや、全然写ってないし」
真春も上手いこと入ろうとするが、全員変な風に切れてしまっている。
「てかあたしが撮ればいいんじゃない?」
未央は思いついた!というように香枝からスマホを受け取った。
「確かに!未央腕長いもんね」
未央が腕を伸ばすと、驚くほどベストポジションに全員が収まったが未央は「真春さんもっと左!」と言い、香枝の方に真春を寄せさせた。
悪意を感じたが、この際…と思い、真春は香枝に頬をくっつけてポーズをとった。
「あは!いいね、いいね!撮るよー」
シャッター音がして3人で写真を確認する。
「香枝、後で送ってね」
未央がスマホを渡すと、香枝は「うん。あー、なんか暑い」と言って手で顔を扇ぐ仕草をした。
暑いのはこっちだって一緒だ。
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