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20.告白
a.
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新年会から1ヶ月が過ぎた。
結局、香枝とはあれからあまり話していない。
完全に無視されていたのはほんの数日で、しばらく経つとバイトで一緒になった時はなんとか挨拶を交わしてくれるようになった。
しかしそれでも、以前のように他愛のない話をすることはなく、真春は香枝とシフトが被るたびに今までの胸の高鳴りとは違う気持ちの悪い動悸を感じるようになっていた。
どうしてこんな風になってしまったのだろう。
そんなことしか考えられない日々が何日も続いた。
律は相変わらずのテンションでみんなの笑いを誘っていたが、日が経つにつれどことなく香枝が律の事を避けているような気がして、どういう経緯かは分からないがあの日の出来事が香枝の耳に入って自分たちを軽蔑しているのだろう、と真春は勝手に思っていた。
「真春さん、最近元気なくないですか?」
珍しくランチだけの出勤だった真春がサロンと帽子を外しながら事務所に戻ると、律と楽しそうに話していた休憩中の未央が心配そうな顔でこちらを見た。
「あ、彼氏と上手くいってないとかですか?」
「元気ないことないよ。連勤続いてたからちょっと疲れてるのかも」
真春はパイプ椅子に座って一点を見つめた後、テーブルに突っ伏した。
「疲れた…」
元気よく「お疲れ!」と帰って行った律を死んだ魚のような目で追い、真春はため息をついた。
「それとも、何かありました?香枝と」
「……」
「最近、あまり香枝と話してるの見ないような気がして。って言ってもそんなにシフト被ってないですけど…今日なんか全く口きいてないじゃないすか」
声のトーンで未央が本気で心配してくれているのが分かる。
しかし、たとえ未央でも律との間にあったことなど口が裂けても、火あぶりにされても言えない。
「そう?あんまり気にしてないから分かんない」
テーブルに突っ伏したまま心にもないことを口にしてその場をやり過ごそうと思ったが、未央は引き下がらなかった。
「またまた。あんなに香枝のこと好きって言ってた真春さんはどこ行っちゃったんですかー?」
「あんなにってどんなによ。もういいよ、忘れて」
「なんか急に投げやりになりましたね」
「もういいの」
真春は起き上がって更衣室に入ると、そそくさと着替えて扉を開けた。
すると、休憩に入ってきた香枝と鉢合わせてしまった。
久しぶりに香枝と目が合ったような気がした。
未央はどうなるんだ?といったような目で真春と香枝を交互に見た。
一瞬の沈黙の後、香枝は「まかない頼んで来よー」と言って逃げるように事務所から去って行った。
あからさまに真春を避ける香枝を見て、未央はどう思っただろうか。
苦笑いする未央に、真春は「お疲れ」と言って帰路についた。
翌日、真春は夕方に出勤してシフトを確認して愕然とした。
大幅なシフト変更があり、香枝と一緒にラストまでのシフトに変わっていたのだ。
しかしよく考えたら、逆に今まで被らなかったのが不思議だった。
その瞬間、真春は決心した。
今日、香枝と話そうと。
ずっとこのままでいるわけにはいかない。
そう決心してから、真春はずっとドキドキしていて仕事どころではなかった。
狂ったように心臓が暴れ回り、手汗が止まらないし喉がつかえる。
気持ちが焦れば焦るほど、時間が過ぎるのが遅く感じた。
忙しさも何も感じなかった。
22時以降は香枝とは業務的な会話だけで仕事をし、ほぼ無言のまま締め作業を終えた。
「おつかれさまでーす」
23時半、香枝はさっさと準備して先に帰ろうとバッグを持ってサロンを畳む真春の横を通り過ぎた。
「か、香枝。待って」
挨拶以外の言葉を交わしたのはいつぶりだろう。
なんでもない言葉なのに妙に緊張した。
真春は急いで帰る準備をして、何も言わない無表情の香枝と一緒に外に出た。
無言のまま、駐輪場まで歩く。
重苦しすぎる空気が漂っている。
その空気に押しつぶされそうになりながら、真春はどう切り出そうか考えた。
どうしよう。
避けてるよね?と聞いて「避けてない」と言われてしまったら、それはそれで終わりだ。
会話することすら拒まれそうで怖い。
どうしよう、何て言おう…。
呼び止めといて、何も思いつかない。
じれったい、うだうだする自分に嫌気がさす。
駐輪場に着く直前、先に口を開いたのは香枝だった。
何の偶然か、律にキスされた場所と全く同じ場所で立ち止まった。
「ねぇ、真春さん。…律さんのこと好きなんですか?」
優しい、やわらかい声が、駐車場に響いた。
「えっ?」
予想もしていなかった問いに、好きじゃない、と瞬時に言えなかった。
なぜ突然、律の話題に…?
真春は混乱した。
「この間、見ちゃったんです」
鼓動が速すぎて、音が小さく聞こえる。
「真春さんと律さんがここでキスしてるとこ」
「え…あ、それは…」
まさか見られていたとは。
しかも一番見られたくない人に。
信じ難い事実に、真春は言葉が出なかった。
「あの日、お店に忘れ物しちゃったから取りに来たんですけど、そんな状況だったから急いで帰ったんです」
「……」
「真春さんはキスしたいくらい律さんのことが好きなんですか?」
「す、好きじゃない!」
反射的に言葉が飛び出し、語尾が強まった。
好きじゃない、律のことなんて。
「じゃあ、なんで…?」
香枝はやっと目を合わせてくれた。
でも、嬉しくなかった。
涙をポロポロ流していたから。
「あたしは律のことなんとも思ってない。キスは無理矢理されたの」
「無理矢理?なんで?わけわかんない!やだ!バカ!」
香枝は真春を突き飛ばした。
触れられた両肩がズキンと疼く。
なぜバカと言われているのか、なぜ香枝が泣いているのか、状況が理解できなかった。
何か言いたいけど、何も言えなくて、しばらく駐車場には香枝の鼻をすする音が響いていた。
結局、香枝とはあれからあまり話していない。
完全に無視されていたのはほんの数日で、しばらく経つとバイトで一緒になった時はなんとか挨拶を交わしてくれるようになった。
しかしそれでも、以前のように他愛のない話をすることはなく、真春は香枝とシフトが被るたびに今までの胸の高鳴りとは違う気持ちの悪い動悸を感じるようになっていた。
どうしてこんな風になってしまったのだろう。
そんなことしか考えられない日々が何日も続いた。
律は相変わらずのテンションでみんなの笑いを誘っていたが、日が経つにつれどことなく香枝が律の事を避けているような気がして、どういう経緯かは分からないがあの日の出来事が香枝の耳に入って自分たちを軽蔑しているのだろう、と真春は勝手に思っていた。
「真春さん、最近元気なくないですか?」
珍しくランチだけの出勤だった真春がサロンと帽子を外しながら事務所に戻ると、律と楽しそうに話していた休憩中の未央が心配そうな顔でこちらを見た。
「あ、彼氏と上手くいってないとかですか?」
「元気ないことないよ。連勤続いてたからちょっと疲れてるのかも」
真春はパイプ椅子に座って一点を見つめた後、テーブルに突っ伏した。
「疲れた…」
元気よく「お疲れ!」と帰って行った律を死んだ魚のような目で追い、真春はため息をついた。
「それとも、何かありました?香枝と」
「……」
「最近、あまり香枝と話してるの見ないような気がして。って言ってもそんなにシフト被ってないですけど…今日なんか全く口きいてないじゃないすか」
声のトーンで未央が本気で心配してくれているのが分かる。
しかし、たとえ未央でも律との間にあったことなど口が裂けても、火あぶりにされても言えない。
「そう?あんまり気にしてないから分かんない」
テーブルに突っ伏したまま心にもないことを口にしてその場をやり過ごそうと思ったが、未央は引き下がらなかった。
「またまた。あんなに香枝のこと好きって言ってた真春さんはどこ行っちゃったんですかー?」
「あんなにってどんなによ。もういいよ、忘れて」
「なんか急に投げやりになりましたね」
「もういいの」
真春は起き上がって更衣室に入ると、そそくさと着替えて扉を開けた。
すると、休憩に入ってきた香枝と鉢合わせてしまった。
久しぶりに香枝と目が合ったような気がした。
未央はどうなるんだ?といったような目で真春と香枝を交互に見た。
一瞬の沈黙の後、香枝は「まかない頼んで来よー」と言って逃げるように事務所から去って行った。
あからさまに真春を避ける香枝を見て、未央はどう思っただろうか。
苦笑いする未央に、真春は「お疲れ」と言って帰路についた。
翌日、真春は夕方に出勤してシフトを確認して愕然とした。
大幅なシフト変更があり、香枝と一緒にラストまでのシフトに変わっていたのだ。
しかしよく考えたら、逆に今まで被らなかったのが不思議だった。
その瞬間、真春は決心した。
今日、香枝と話そうと。
ずっとこのままでいるわけにはいかない。
そう決心してから、真春はずっとドキドキしていて仕事どころではなかった。
狂ったように心臓が暴れ回り、手汗が止まらないし喉がつかえる。
気持ちが焦れば焦るほど、時間が過ぎるのが遅く感じた。
忙しさも何も感じなかった。
22時以降は香枝とは業務的な会話だけで仕事をし、ほぼ無言のまま締め作業を終えた。
「おつかれさまでーす」
23時半、香枝はさっさと準備して先に帰ろうとバッグを持ってサロンを畳む真春の横を通り過ぎた。
「か、香枝。待って」
挨拶以外の言葉を交わしたのはいつぶりだろう。
なんでもない言葉なのに妙に緊張した。
真春は急いで帰る準備をして、何も言わない無表情の香枝と一緒に外に出た。
無言のまま、駐輪場まで歩く。
重苦しすぎる空気が漂っている。
その空気に押しつぶされそうになりながら、真春はどう切り出そうか考えた。
どうしよう。
避けてるよね?と聞いて「避けてない」と言われてしまったら、それはそれで終わりだ。
会話することすら拒まれそうで怖い。
どうしよう、何て言おう…。
呼び止めといて、何も思いつかない。
じれったい、うだうだする自分に嫌気がさす。
駐輪場に着く直前、先に口を開いたのは香枝だった。
何の偶然か、律にキスされた場所と全く同じ場所で立ち止まった。
「ねぇ、真春さん。…律さんのこと好きなんですか?」
優しい、やわらかい声が、駐車場に響いた。
「えっ?」
予想もしていなかった問いに、好きじゃない、と瞬時に言えなかった。
なぜ突然、律の話題に…?
真春は混乱した。
「この間、見ちゃったんです」
鼓動が速すぎて、音が小さく聞こえる。
「真春さんと律さんがここでキスしてるとこ」
「え…あ、それは…」
まさか見られていたとは。
しかも一番見られたくない人に。
信じ難い事実に、真春は言葉が出なかった。
「あの日、お店に忘れ物しちゃったから取りに来たんですけど、そんな状況だったから急いで帰ったんです」
「……」
「真春さんはキスしたいくらい律さんのことが好きなんですか?」
「す、好きじゃない!」
反射的に言葉が飛び出し、語尾が強まった。
好きじゃない、律のことなんて。
「じゃあ、なんで…?」
香枝はやっと目を合わせてくれた。
でも、嬉しくなかった。
涙をポロポロ流していたから。
「あたしは律のことなんとも思ってない。キスは無理矢理されたの」
「無理矢理?なんで?わけわかんない!やだ!バカ!」
香枝は真春を突き飛ばした。
触れられた両肩がズキンと疼く。
なぜバカと言われているのか、なぜ香枝が泣いているのか、状況が理解できなかった。
何か言いたいけど、何も言えなくて、しばらく駐車場には香枝の鼻をすする音が響いていた。
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